時の法令1692号 63-68頁 2003年6月30日発行
民法化の法理 医療の場合97

高齢出産と少子化問題

星野一正

まえがき

高齢出産の原因

高齢出産の社会的な原因として、女性の婚期の遅れが考えられる。その理由として、以下のようなことが挙げられるであろう。

  1. 女性の社会進出の増加

    女性の高学歴化、社会における男女の性差別の減少あるいは撤廃による、職場における女性の地位の向上、職域・職種の拡大などにより、従来は男性が占めていた役職や職務への女性の進出が考えられる。

  2. 女性の独身期間の長期化

    最近の傾向として、いわゆる結婚適齢期になっても結婚せず、職についても親元を離れず、経済的に安定した中で、娘時代の状態を満喫している女性が急増しているそうである。
    このような状況にいる男女を指して、「パラサイト・シングル(parasitesingle)」と呼ぶそうであるが、パラサイト・シングルの女性たちが急増している。
    また、結婚しなくても、その気になれば、男女関係の欲求を満たせるような自由な性行動を許容する社会的雰囲気もあって、不自由はない独身者もいるようである。
    女性の独身期間の長期化の結果、二八、九歳になってやっと結婚を考え始めるが、職場など男性との接点が多い社会生活で、男性を見る目が肥えてしまい、結婚相手の男性選びの目が厳しくなり、素直に結婚に飛び込めなくなっていることも多いようである。

  3. 男性の晩婚化も社会的には憂慮するべき現状になりつつある

    三○歳代のみならず四○歳代になっても未婚の男性が増加しており、これも少子化に影響を及ぼしている。
    女性の社会進出とともに、男性を部下として活躍している女性も増えている。実力主義の職場では、男女差は考慮するべき条件ではなくなりつつある。
    このような世相の変化が、男性優位の結婚を求める男性にとっては結婚をますます難しくしているのかもしれない。結婚後の共同生活の難しさを予想して、自由な独身生活から結婚に踏み切れない男性も多いに違いない。また、職場での働きを考える時、仕事の成績や実績を上げるには独身のほうがよいだろうと、結婚を躊躇する男性もいるであろう。
    また、最近は見合いという社会慣行も減少し、見合いを世話してくれる人も少なく、未婚の男女とも、知り合う機会がなくなってきた。仮に、見合いを勧めてくれる人がいても、女性から断られたら、と考えて躊躇してしまう男性も多いようである。筆者が、四○歳代初めの男性に見合いを勧めた時に、彼は写真をみて、「素晴らしい美人ですね。僕なんか断られるに決まっているから」と見合いを断られ、驚いたことがあった。

  4. 夫婦の年齢差の影響

    国立社会保障・人口問題研究所の「第十一回出生動向調査」では、結婚して五年目の夫婦についての五年ごとの比較の結果、次に表記する報告がされている。

    1982年1987年1992年1997年
    妻が年上
    (1〜3年)
    12.5%11.7%14.5%23.2%
    同い年11.5%13.8%15.2%16.5%
    同い年の夫婦は、一九九七年まで増えており、妻が年上の夫婦の数は、一九八七年以来増え続けている。
  5. 生涯未婚率の比較

    二〇〇一年に行われた厚生省人口動態調査によれば、日本における出生率は急速に低下して、現在の人口を将来維持するのに必要な合計特殊出生率(二・〇八)を大きく下回る一・三三となっている。合計特殊出生率の低下の原因は、平均初婚年齢の上昇いわゆる晩婚化と、生涯未婚率の上昇にある、と報告されている。

高齢出産の利点と危険性

高齢出産とダウン症

少子化対策

まとめ

(京都大学名誉教授・日本生命倫理学会初代会長・理事)

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