浮遊系細胞の一般的な培養手順

浮遊系培養細胞・維持増殖

JCRB細胞バンク:大西清方,岡戸 清,HSRRB:西村和子
E-mail: cellbank@nihs.go.jp


◆浮遊系細胞培養上の全般的注意

  • 培地は 10% 非働化血清を含む RPMI1640 培地を使用するケースが多いが,細胞ごとに添加試薬や量などに差があるので注意する.

  • 使用する培地は事前に室温に戻しておいてから使用する.

  • 培養開始時および継代培養時の細胞濃度は細胞ごとに異なる場合もあるので,各細胞ごとの資料を参考に決定する.

  • 凍結細胞を解凍して培養を開始する場合は,増殖速度のたちあがりが遅い場合もあるので,通常よりも濃い目にまくような注意も時に必要である(特に viability の低い時は重要).

  • 凍結細胞の解凍は出来るだけ短時間で終了するよう心掛ける(緩慢凍結急速解凍が原則).

  • 継代は細胞密度が1x10^6 細胞/ml 以上になったところでおこなう.3x10^6 以上の細胞濃度にならないように注意する.およそ,4〜5日ごとに継代培養するのが一般的である.また,細胞により増殖速度が異なるので,培地が黄色く変色する場合(pHの低下)はすみやかに培地交換をしてpHが大きく変化しないように注意する.

  • 凍結アンプルを液体窒素保存容器から取り出す際は常に爆発の恐れがあることを前提に注意して扱う.特に,顔面を保護するフェースプロテクターの使用は不可欠で,腕なども露出しないように保護しなければならない.

  • 培養に必要な器具類は全て事前に準備をしておくこと.

  • 参考書:日本組織培養学会編,組織培養の技術(第2版),朝倉書店など
    (現在,弟3版準備中)


◆凍結細胞の解凍と培養の開始

  1. 滅菌チューブに新鮮な培地を無菌的に取る(9ml).

  2. 液体窒素タンクから細胞のアンプルを取り出し,すぐに37℃の水浴に移し,強く振とうしながら一気に解凍し、完全に解ける直前に氷中へ移す.また,凍結培地にはDMSOが含まれているので,解凍後DMSOを除くまで低温に維持しておかないと viability が低下する.
    (重要:液体窒素からアンプルを取り出す際は爆発に注意し,フェースプロテクターを付け,手や腕の皮膚が露出しないようにすること).

  3. アルコール綿でアンプルの周囲を滅菌し、手を切らぬよう注意しながら,滅菌ガーゼで包んでアンプルを開封する.参照:アンプル開封法

  4. アンプル中の細胞縣濁液の全量をパスツールピペットで,あらかじめ準備した9mlの培地(1)に加えて懸濁させた後アンプル内の残存液を洗いこみ,手早く 4℃, 1000-1400rpm, 5min で遠心する.

  5. 上清を捨てて、細胞を10mlの新鮮培地に懸濁させた後再度 4℃, 1000-1400rpm, 5min で遠心.

  6. 上清を捨てて、細胞を正確な量(1.0ml)の新しい培地に懸濁させる.

  7. ピペットマンで20μlをサンプリングし、0.25%トリパンブルーを用いて正確に希釈して(5〜10倍程度の希釈が適当)血球計算盤を用い細胞数をカウントして viability と濃度を算出する.

  8. 細胞数とViabilityを考慮して、適切な量の培地を加えてから培養ディッシュにまく.
    (生細胞密度:1〜2x10^5 cells/ml 程度).

  9. ディッシュの蓋に日付、細胞名、継代数、細胞数を記入して、37℃の CO2 インキュベーターにて培養する.


◆培地交換

  1. 細胞を培地ごとピペットで遠心管に移す.この際,ディッシュには細胞が残るので軽いピペッティングにより十分浮遊させてから回収する.また,回収後のディッシュを顕微鏡下で観察し,細胞が残っていれば少量の培地を加えて洗い出す.

  2. 4℃, 800rpm, 5min 程度,死細胞を除くため低い回転数で遠心するなるべく上清を残さないように吸引する.

  3. 細胞を新鮮培地に懸濁させて、同じサイズのディッシュにまきなおす(必要であればセルカウントを行う).

  4. ディッシュの底面に付着しやすい細胞の場合や,増殖の悪い細胞の場合,培地の半分だけを交換することもある.この場合の操作は,細胞培養液の半分を遠沈して同量の新鮮培地に細胞を浮遊させた後に,遠心していない残りの半分の培養液に戻すという方法である.


◆継代培養

  1. 細胞を培地とともにピペットで遠心管に移す(ディッシュに残るので軽くピペッティングして十分に浮遊させて回収する).[培地交換の項(1)に準じる]

  2. 4℃, 1000-1400rpm, 5 min 遠心した後,上清をなるべく残さないように吸引して廃棄する.

  3. 細胞を正確な量(100m/m ディッシュ1枚あたり 5ml 程度)の培地に懸濁させる.

  4. ピペットマンで20μlをサンプリングし、0.25%トリパンブルーを用いて正確に希釈し,血球計算盤を用いセルカウントを行う.

  5. 細胞数とViabilityを考慮して適当に希釈し、新しいディッシュにまき(生細胞密度:1〜2x10^5cells/ml 程度),37℃のインキュベーターにて培養する.