『受精』から『胚盤胞』形成に至るヒト受精卵の初期発生
図は、人体発生学、ラングマン(安田峯生、沢野十蔵訳)第8版、2001年から引用。
図1:ヒト卵が受精から胚盤胞までに至るまでの位置関係
成熟に差しかかった卵は卵巣から放出されて卵管に入り、卵管の中で最後の成熟を行う。成熟しながら卵は卵管を下り、その途中で精子と出会って受精する。受精するとすぐに初期発生が始まる。初期発生は母親側(卵)の核と父親側(精子側)の核が融合し(染色体が 2n=46本)この分裂から始まる。1個の卵は分裂して2個の細胞(2細胞期)となり、以後4個(4細胞期)、8個(8細胞期)と分裂して細胞数が増してゆく。32細胞期までは数で表現するが、以後細胞数が多くなるので数では呼ばなくなり、桑実胚と呼ぶ。このころから卵の中の細胞は均等ではなくなり、場所に応じた性質の変化が現れ、細胞が分化し始める。最初の大きな分化が胚盤胞の形成となり、ここで子宮に着床する。
図2:受精
精子は膣から子宮へ入り卵管へと上昇を続ける。精子は尾の部分の鞭毛を激しく動かして進入するが、この時のエネルギーは鞭毛の付け根に存在するミトコンドリアによって生み出される。卵には多数の精子が付着するが、最も早く到達した精子のみが卵表面の膜と反応して卵の中に進入する。1個の精子が侵入すると他の精子は入らないよう卵膜の表面に変化が起こる。
図3:受精から最初の細胞分裂まで
卵の中に入った精子の核は卵の核と融合をし、すぐに細胞分裂が始まる。
図4:2細胞期から桑実胚まで
細胞分裂は4細胞期、8細胞期を経て桑実胚へと至る。
図5:胚盤胞の形成と子宮への着床
桑実胚はさらに細胞数を増しながら、細胞の分化が始まる。最初の細胞の分化は、卵組織の表面を構成する1層の細胞層と内部に位置する細胞の塊である。表面を構成する一層の細胞を『栄養膜』と呼び、内部の細胞の塊を『内部細胞塊』と呼ぶ。栄養膜は子宮内膜表面と接触して、子宮内膜の中に入り込みながら胎盤を形成し、これから始まる発生を包んで保護する働きをする。内部細胞塊がこれ以後さらなる分裂を繰り返しながら胎児となるのである。したがって、内部細胞塊にはヒトの体を構成するあらゆる細胞となりうる能力を持っていると考えられている。
この内部細胞塊を取り出して人工的に培養したものが『胚性幹細胞=ES細胞』と呼ばれるものである。ES細胞は長期間継代できるという特徴と、様々な臓器に分化する能力(多能性)を保持しているだろうということが予想される。