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■◇■  JCRB 研究資源バンク メールマガジン                 
◆    【第16号 2007/11/22】                             
◆ ===== 医薬基盤研究所・生物資源研究部
◆          http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank.html
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トピックス

1.「バイオ研究の舞台裏」(裳華房ポピュラーサイエンスシリーズ)発行。
2.培養細胞におけるウイルスDNA検査の開始。
3.培養細胞のクロスコンタミネーションが世界的に問題に!

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◆ インデックス ◆
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I 細胞バンク事業
1.事業紹介
2.新規細胞情報
3.細胞バンクが出来た頃
(第15回:新刊書籍『バイオ研究の舞台裏』の紹介)
II 実験動物バンク事業
1.事業紹介
2.新規マウス分譲情報
 3.疾患モデルマウスの紹介
III あとがき
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◆I◆  ★★ 細胞バンク事業の紹介(16)★★
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細胞バンクでの研究と研究倫理のお話。

**培養細胞におけるウイルス検査体制の確立**

JCRB細胞バンクでは培養細胞の利用環境を一層向上させることを目指して
新たにウイルスDNA検査の体制を確立いたしました。

ウイルス検査情報については、これまでに多くの研究者の方々からの希望
が寄せられていた課題ですが、ようやく実施にこぎつけることができまし
た。今年度におきましては、ヒト由来の細胞を中心に400種程度の細胞
に対して検査を実施しました。その結果およそ40種程度の細胞に何らか
のウイルスDNAの存在が確認されました。
(結果はホームページにて各細胞のデータシートに記載して公開しました。)

詳しい検査方法に関しては次回以降のメルマガでお知らせしたいと思いま
すが、現在の方法はリアルタイムPCRによりウイルスDNAを確認するものです。

この検査はウイルスDNAの断片を検出する方法ですので、結果が陽性でも、
細胞がウイルスを産生しているとは限りませんのでご留意下さい。

検査しているウイルス種はCMV, EBV, HHV6, HHV7, BKJ, JCV, ADV1,
parvoB19, HBV, HTLV1, HTLV2, HIV1, HIV2, HPV18の14種類です。
これらの情報提供により当細胞バンクの培養細胞を利用する際の安全な取
り扱いに資する情報提供が増えますので是非ご活用ください。

今後検査するウイルス種を増やしたり、精度の高い検査法へ発展させるよう
研究を進めますので、今後の情報の充実にもご期待ください。

                       (小原 有弘)

 ▼細胞培養基盤技術習得コースに関する情報:
http://jtca.umin.jp/(日本組織培養学会)
 
  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 ◎全国調査継続実施中(無償でマイコプラズマ汚染検査を行います)
  詳細はhttp://cellbank.nibio.go.jp/fieldtest/ 参照

 < ★PR★ =受託検査業務=>
   @ 細胞検査業務マイコプラズマ汚染検査

   A STR分析による細胞のクロスコンタミ検査

 受託検査は有料ですが、皆様が利用しておられる培養細胞の品質に関す
 る データを取得しておくことは科学的にも重要なポイントとなります
 ので、是非ご検討ください。

 ▼高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクション(京大放生研)

   発がんの遺伝的背景の解明に役立つ日本人における高発がん遺伝病
   患者とその家系に由来する細胞です。
   詳細は
http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/deposit/kurbsummary.html 参照

                             (小原 有弘)


 ▼クロスコンタミに関する情報

http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/qualitycontrol/crosscontami01.html

【クロスコンタミネーションや細胞の誤同定を防止する9ヶ条】

1. 培養作業者の疲労や細胞の不注意な扱いを抑制するために、細胞の培養作
業は可能な限り1日に1回に限定する。

2. 細胞培養でベンチ作業を行う『前』と『後』には、必ずクリーンベンチ内
とその周辺を界面活性剤などで十分に清拭する。

3. 培養細胞を扱う作業を行う場合、クリーンベンチの使用は1回につき1種
類の細胞又は1世代の細胞のみに限定する(使用前後は必ず清拭を励行す
る)。

4. 一つの細胞(株)の播種、継代操作、その他の操作を行った場合は、毎回
クリーンベンチを清拭する。

5. 複数の細胞が同じ組成の培地を使っていても、個々の細胞の播種、継代、
培地交換、トリプシン処理、などに使う試薬は全て各細胞専用とし、断じ
て他の細胞に使ってはならない。試薬を細胞間で共用してはならない。個
々の細胞(株)には、細胞(株)ごとに専用の培地、試薬、サプリメント
のセットを使用する。

6. 試薬や材料が十分に揃っているかどうかを十分に確認してから培養を開始
する。試薬は決して他の研究者や培養と共有してはならない!

7. ディッシュやボトルがたくさんあっても、1本のピペットは一回の操作に
限定すべきである。一回の操作とはピペットに一回試薬を吸い込んで一回
吐き出す操作のことである。一度培地を吸って吐き出したピペットは決し
て培地ビンに戻してはならない。

8. 培養をクリーンベンチに持ち込む場合は、必ず事前チェックをすること。
増殖状況、形態などをチェックする。

9. 細胞(株)を利用する場合は高度な品質管理を通じて細胞の性状を保証し
ている細胞保存機関(repository=細胞バンク)が提供する標準化された
細胞を使う。使用中も繰り返し細胞の評価を行い正しい細胞であることを
確認できるよう論理的なスケジュールを立てて実験に望むこと(シードロ
ット管理と細胞の評価)。十分な確認をしない限り細胞(株)を他の研究者
に提供してはならない。

クロスコンタミネーションの結果誤った細胞を使って研究をしてしまうことは、
研究費等大変な浪費となります。是非多くの方が気をつけて良い研究結果を出
されるよう願ってやみません。           
                             (水澤 博)

** 研究倫理に関する活動 **

● 人体由来組織・細胞と情報の研究利用をめぐる最近の動き(16) 

今回は前回お話をすると約束した予備実験という問題について考えてみます。
予備実験というのは、2つの形があると考えられます。

1. 大規模な実験を始めるに当たり、小規模な実験を行い、条件を振って検討す
ることで大規模な実験に必要な手法の開発などを行うもの。
2. 仮説に信頼が置けない(低い)ときに、いろいろと試して確からしい仮説を
選び抜くこと。実験が行き詰ったときに行う必要のある方策です。

1の場合には、仮説は明確であり、問題は規模であります。ただ、検討する条件
は広く理由の強いものだけでもありません。2では、仮説の確からしさが問題と
なります。どちらの場合も、理由のはっきりした方策、仮説だけにとらわれず、
かなり広い範囲、予想を超えた失敗を生かすという姿勢まで問われるほど、いろ
いろな条件を試す必要があります。しかし、人体由来の研究に関わる倫理指針は、
動物実験で充分に検討され、論理の面で十分な理由のある研究を行うことを求め
ています。ということは、どうしてもその基準を満たしえない「予備実験」は、
やってはいけないのでしょうか。予備実験なしに本当に確かな研究計画を作れな
いことは皆が認めるでしょう。しかし、そのために動物実験だけが許されるので
は不十分である場合があります。動物とヒトの生理は異なっており、その差に対
応できる研究計画を作るためには、どうしても人体由来の資源を使った予備実験
が必要なのです。

人体由来の研究資源を用いた研究倫理は、確かに大切なものです。しかし、それ
が研究の持つダイナミズム、特に未知の分野に踏み出すという行為が持つ不確か
さを受け入れる余地のないものとなるとするならば、果たして、その指針が支え
ようとしているものは科学研究なのでしょうか。

この疑問は多くの問題をもたらします。現在臨床研究指針が見直しの最中です。
その中で、予備実験の実施について検討して、予備実験をする余地を認めてくれ
るとありがたいのですが...。しかし、ある研究者が、現行の倫理指針の中でも
予備実験はいろいろなかたちで行われている。ただ、不十分な体制の中で、外に
出ないかたちで(闇で)行われている可能性もあるので、予備実験の問題を話題
にすること自体が、規制強化につながる危うさを持っているという発言をしてい
るのを聞きました。現実の予備実験はところによっては闇に属するかもしれませ
ん。とはいえ、予備実験の必要性を意識した体制の確保は、日本の医学・生物学
が成熟するために不可欠であることは否定できないのです。
                             (増井 徹)

研究倫理に関するページ (JCRB細胞バンクホームページ内)
http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/kiban01/index.html

ご質問やご意見があれば、是非 cell@nibio.go.jp へお寄せください。


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◆2◆  ★★    新規細胞    ★★
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● 新規分譲細胞のお知らせ ●
   
○ 絨毛癌由来細胞株
  
JCRB1201:GCH-nu-YS
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1201.htm (近日公開予定)


○ 子宮頸癌由来細胞株

JCRB1203:HCS-2
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1203.htm (近日公開予定)


○ マウスβガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウス由来繊維芽細胞
SV40遺伝子導入不死化細胞株

JCRB1207:SV
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1207.htm (近日公開予定)

♪☆=--=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-♪☆

● JCRB細胞バンクのホームページから細胞株の情報を入手できます。
   http://cellbank.nibio.go.jp/

                            (小原 有弘)

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◆3◆  ★★    細胞バンクが出来た頃(第16回)    ★★
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今回は、この度細胞バンクから出版させて頂いた書籍について紹介させて頂きます。

『バイオ研究の舞台裏 −細胞バンクと研究倫理− 
(水澤博、小原有弘、増井徹共著)』が11月5日に発行されました。
(裳華房・ポピュラーサイエンスシリーズで1600円です)。

          http://www.shokabo.co.jp/series/33_ps.html
  ◎                          ◎

細胞バンクが設立されておよそ20年余経過しました。お陰様で多くの研究者
の方々に利用していただける細胞バンクとなり、現在年間3000アンプル強
を分譲するところまでに成長することができました。ひとえに皆様のご支援の
賜物とバンク職員一同深く感謝しております。

細胞バンクは質の高い培養細胞という研究材料を提供する研究支援組織である
と同時に、ヒト由来試料にまつわる様々な問題を解決して研究資源の流通を良
くする潤滑剤となることも求められております。さらに、情報公開という課題
が国のあらゆる分野で求められるようになった現状を踏まえると、生命科学研
究に利用されるヒト由来の研究材料についての透明性を確保することも私達の
重要な役割となってきたところです。こうした問題についても、研究倫理に関
する課題の一環として私達は取組んでいるところです。

1950年代から始まった分子生物学に先導された近代生命科学研究は、膨大
な基礎研究の成果を利用していよいよ治療など、国民の役に立つような成果を
挙げることが重要な課題となってきております。そのような時代へ向けての細
胞バンクの役割を考えるために、細胞バンクの設立に至った歴史、わが国で細
胞バンクが設立されることになった経緯、現実に細胞バンクが行っている仕事、
培養細胞という研究材料に潜む大きな問題、材料の適正さということとヒト由
来の試料を扱うことにまつわる倫理的な問題などについて整理してみたのが本
書であります。是非多くの方に読んでいただければと期待しております。

ちょうど本書の校正がほぼ終わろうとしていた時に、米国のNardoneから細胞
のクロスコンタミネーションが深刻で、日本でも何か手を打って欲しいという
メールが入り、改めて培養細胞の危うさが世界的に問題なっていることを知ら
されたのですが、この課題は本書のテーマの一つでもありました。20年前に
細胞バンクが設立された当時、培養のエキスパートでおれた何人かの先生方か
らこの問題は必ず将来深刻な問題となるだろうという指摘を頂き、検査体制の
整備を図ってきたのですが、そのような指摘が現実の課題になってきたことに
驚くと同時に、検査体制を確立してきて良かったと思っているところです。


   (水澤 博)

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◆II◆  ★★ 実験動物バンク事業 ★★
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1.疾患モデルマウスバンクの事業
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○疾患モデルマウスの収集/収集したマウスの品質管理、凍結胚での保存

○疾患モデルマウスの分譲
   マウス胚50個/チューブを融解し、胚移植後、生まれた産仔すべてを
分譲します。 (97000円/1件)

○凍結胚・凍結精子の保護預かり業務(動物の情報は非公開で預かります)
   クライオチューブ4本保管で 11000円/1年
   ストロー16本/1年保管で 11000円/1年
        凍結胚・凍結精子作製サービスも行っています。

○疾患モデルマウス関連情報発信

2.新規マウスの分譲情報
  ――――――――――

 ▼次の5系統のマウスの分譲を開始しました。

 nbio054 RP58 KO マウス(脳異常)
 nbio055 Translin KOマウス(免疫異常)
 nbio056 ATF4 KO マウス(小眼球症)
 nbio057 SOCS1 KO (BALB/c congenic)マウス (免疫異常)
 nbio058 SOCS1 KO (C57BL/6J congenic)マウス (免疫異常)

3.疾患モデルマウスの紹介
  ―――――――――――

 【Translin KO マウス】

資源番号:nbio055
由来:国立感染症研究所免疫部
樹立者・寄託者:葛西正孝先生
分譲条件:共同研究に限る

Translinは、白血病や悪性リンパ腫などの染色体転座切断部位に結合する蛋
白質で、染色体分配機構を制御して、細胞分裂に深く関与していると考えら
れています。Translin の全てのエクソンを欠損させたKOマウスは、野生型マ
ウスと比較して体重が約2分の1と極めて小さく、幼年期に著しいリンパ球減
少症が認められ、免疫不全症モデルとして有用と思われます。一方、約8-10
ヶ月を経過したTranslin KOマウスは、骨髄中の幼若骨髄系細胞と赤芽球が減
少して重篤な骨髄不全に陥ります。更に、慢性骨髄性白血病や骨髄線維症で
見られるような髄外造血による巨大脾腫を呈します。本マウスは骨髄におけ
る造血機構の解明にも役立つものと思われます。  

  分譲をご希望の方は、larb@nibio.go.jpまでご連絡ください。
 
医薬基盤研究所 疾患モデルマウスバンクのホームページ
 http://animal.nibio.go.jp/
分譲可能な動物、サポートサービスの情報はこちらのホームページで公開
しています。

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III あとがき
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紅葉の季節らしくなってきました。彩都は風が大変強く寒いところです。
しかし、11月はライフサイエンスパ-クということもあり、科学イベントが
行なわれています。11月10日の一般公開には900人を超える多くの方々に来
場いただきました。毎年各部署で参加型のイベントも企画いたしますが、
整理券が必要なほど、盛況でした。毎年楽しみに参加してくれている地域
の子供達も多いです。11月25日(日)には彩都西小学校におきまして、
「彩都サンデ−サイエンス2007」という科学イベントが開催されます。
 詳細は http://www.saito.tv/event/saito_sunday_science_2007.html
また、近々マンションの入居も始まり、中学校もその姿を現しました。小
学校の隣には幼稚園が来春には出来るようです。あと、図書館と運動施設
、そして郵便局や交番の設置が地域では望まれています。次は何が出来る
でしょうか・・・・。