◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
■◇■  JCRB 研究資源バンク メールマガジン                 
◆    【第22号 2008/5/30】                             
◆ ===== 医薬基盤研究所・生物資源研究部
◆          http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank.html
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
メルマガバックナンバーは細胞バンクのホームページに掲載しております。
( http://cellbank.nibio.go.jp/information/magjcrb/ )
       
トピックス

 ○新しい事業展開にむけて
 ○培養細胞におけるウイルスDNA検査の開始。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ インデックス ◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
I JCRB細胞バンク
 1.事業の紹介
    −新しい事業展開にむけて−
 2.細胞バンクが出来た頃(第22回)
−創立30周年の変異遺伝部(変異原性部)に感謝−

II 実験動物バンク事業
 1.事業紹介
 2.新規マウス分譲情報
 3.疾患モデルマウスの紹介
   【NDRG1 KOマウス(Charcot-Marie-Tooth病4D型疾患モデル動物)】

III あとがき
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆I◆  ★★ 細胞バンク事業の紹介(22)★★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

**JCRB細胞バンクから研究と倫理のお話**

━新しい事業展開にむけて━

細胞バンクに異動してきたのは、まだ、雪の降る2月でした。3ヶ月が過
ぎて、ようやく細胞がすくすくと育つようになりました。転任して培養を
始めるというのは、結構大変なものです。細胞にトリプシンをかけてから、
あれがない、これがない、などに気がつき、あっという間に10分が過ぎ
ていきます。モノが準備できたときには、細胞がすっかり弱ってしまい、
継代もできない。結局、細胞をはじめからおこすことになってしまうので
す。場所が違うだけでも、自分のペースが狂ってしまい、コンタミしてし
まう、なんてこともあります。培養の技術というものは、案外デリケート
なものだと、思います。昨今は、研究者も、「異動してなんぼ」という欧
米スタイルを余儀なくされつつあります。「いざ出陣」というときのため
に、日頃から、培養のためのチェックリストを作っておくと良いかもしれ
ません。

1.日本組織培養学会大会のはなし

先日、筑波で、第81回日本組織培養学会が開催されました。培養学会は、
発足から51年目を迎えますが、今回の大会は理化学研究所バイオリソー
スセンターの中村幸夫先生が世話人をされました。マウスES細胞から赤
血球系前駆細胞株を樹立した、というホットな論文を2008年2月に出され
ています。それもあってか、大会の演題としては、主にES細胞や間葉系幹
細胞が取り上げられていました。あのiPS細胞の作成を実際に担当された
京大・山中研の高橋さんの特別講演もありました。ヒトES細胞やiPS細胞
は、神経や心筋などのあらゆる細胞に分化することができます。ですが、
分化制御が難しく、生体に移植後、癌化するという現象が頻繁に観察され
ることが問題となっています。これらの細胞を実際に臨床に利用するため
には、まだ多くの研究を進めていく必要があるようです。一方、間葉系幹
細胞は、分化能は限られているかもしれませんが、一番臨床応用の可能性
が高い細胞かもしれません。個人的には、さらに研究が進んで欲しいと、
思っています。細胞バンクには、間葉系幹細胞が、オンリストされています。
http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank.html から、左のJCRBオンライン
カタログの Mesenchymal Stem Cell Lines をクリックすると、リストが
でてきます。分化能は、その下のDifferentiation abilityに、あります。

2.ヒトES、iPS細胞の培養のはなし

先の学会では、ヒトES細胞シンポジウムや、テクニカルセミナーが開か
れ、ヒトES細胞の培養についての実際の話がありました。ヒトES細胞や
iPS細胞は、夢のある細胞ですが、培養維持は大変です。フィーダー細胞
を準備し、培地交換は毎日、継代のタイミングを間違えると、あっという
間に分化してしまい、赤ちゃんを育てるように面倒をみないと、育ってく
れません。継代の方法も、コラゲナーゼ、トリプシン、機械的継代法(コ
ロニーを小さく切断して移し替える方法)など、細胞株によって様々です。
夢と現実のギャップが大きい細胞です。細胞バンクは、先日、ヒトES細胞
使用計画の確認申請を行い、許可されました。今後、ヒトES細胞の培養法
標準化について、研究を行っていく予定です。
   (古江−楠田美保)

 ▼細胞培養基盤技術習得コースに関する情報

 次回開催予定(募集人員10名前後)平成20年8月28日-29日 
   
       詳細は http://jtca.umin.jp/(日本組織培養学会)参照
  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 ◎全国調査継続実施中(無償でマイコプラズマ汚染検査を行います)
 
        詳細はhttp://cellbank.nibio.go.jp/fieldtest/ 参照
  
 < ★PR★ =受託検査業務=>
   
   @ 細胞検査業務マイコプラズマ汚染検査

   A STR分析による細胞のクロスコンタミ検査

 受託検査は有料ですが、皆様が利用しておられる培養細胞の品質に関す
 る データを取得しておくことは科学的にも重要なポイントとなります
 ので、是非ご検討ください。

 ▼高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクション(京大放生研)

   発がんの遺伝的背景の解明に役立つ日本人における高発がん遺伝病
   患者とその家系に由来する細胞です。詳細は

http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/deposit/kurbsummary.html 参照
                          
                         
** 研究倫理に関する活動 **

● 人体由来組織・細胞と情報の研究利用をめぐる最近の動き(22)

先の回の続きとして、英国の人由来試料と情報のコレクションの利用に
ついての報告書について解説を続けていきます。

報告書は「複数の『人の試料とデータのコレクション』を医学研究に利
用するために― 医学研究評議会とウエルカム財団への報告書 ―」:
“ACCESS TO COLLECTIONS OF DATA AND MATERIALS FOR HEALTH
RESEARCH: A report to the Medical Research Council and the
Wellcome Trust”By William W. Lowrance, March 2006, です。
このレポートは研究助成機関の依頼と協力の下に行われた調査を基にし
ています。丁度2005年にロレンス博士を日本に招聘したときに、そのレ
ポートの取りまとめの最終段階だと聞きました。実際に書かれてから、
依頼機関の承認を得るのに、8ヶ月近い時間がかかりました。このよう
に承認に時間がかかったのは、この報告書が取り扱っている問題が両刃
の剣として、研究規制と促進の両方への問題提起をしているからでしょ
う。

それでもよく読んでみると、依頼者への配慮と研究協力した研究者
に対する配慮が見られます。これから解説を始めますが、承諾について
の部分では、包括同意がどの範囲で認められているかに関しては、実態
よりも厳しい規制が見えます。それは、2004年の人組織法に配慮し、且
つ2005年から働き始めた人組織庁の規程が決っていく時期にあたった
2006年の春の時点での英国の全体の様相を好く示しているように思われ
ます。人組織法が示した、提供者(由来者)の承諾を重視することの意
味について、現在のまだ微調整が続いていると思うのですが、承諾重視
の姿勢がどの程度人組織の利用の範囲を限定するものかについての議論
は、重要な意味を持つのです。

この報告書をたどりながら、また論じますが、以下の部分は英国全体で
の重要な基本姿勢を示しています。それは、過去の同意の解釈に関する
問題です。

5.1.3
研究利用する際には、本報告書記載のものあるいは同様なコレクション
の大部分の保存管理者及び監視委員会が責任を持って同意の範囲を拡大
適用しているというものが、一般的であるようだ。
   (増井 徹)

研究倫理に関するページ (JCRB細胞バンクホームページ内)
http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/kiban01/index.html

ご質問やご意見があれば、是非 cell@nibio.go.jp へお寄せください。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆2◆  ★★    新規細胞    ★★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
● 新規分譲細胞のお知らせ ●
   
○ 網膜芽腫(片側性)由来
  
JCRB1214:NCC-RbC-67
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1214.htm

○ ヒト胎盤由来間葉系幹細胞(有限増殖)

JCRB1219:PL532
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1219.htm

○ 毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)患者由来細胞株
 ((独)医薬基盤研究所が提供する
高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクションの1つ)

JCRB3008:GM1526
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb3008.htm


♪☆=--=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-♪☆

● JCRB細胞バンクのホームページから細胞株の情報を入手できます。
   http://cellbank.nibio.go.jp/

                            (小原 有弘)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆3◆  ★★ 細胞バンクが出来た頃(第22回) ★★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

創立30周年の変異遺伝部(変異原性部)に感謝

既に書きましたが、JCRB細胞バンクは1985年に医薬品食品衛生研究所の変
異遺伝部(旧変異原性部)の中に一つの研究室として設置されました。この
部は日常生活の中で人々の口から体内にはいる物質の中から突然変異を引
き起こす物質を見つけ出そうという目的で設置された部でした。毒性部か
ら分離して設置された部ですが、豆腐に使われていた殺菌剤のAF2の変異
原性が話題になった1980年頃に作られました。この部では培養細胞や細菌
を指標として食品や薬品に含まれる化学物質が染色体や遺伝子に起こす変
異原性を調べることを目的としました。ちょうど、癌という病気が突然変
異で発生するということが明らかになり始めた時代で、変異原物質をモニ
ターして発がん物質を生活から排除するということを目的に設置されたの
です。

この変異原性部は培養細胞を日常的に使っていたので細胞バンクを引き受
けることになったのですが、思えば当時は培養細胞を使った研究の主役は
癌研究でした。今から思えばまだまだ培養細胞の利用は多くはなかったよ
うに思います。そのため、当時細胞バンクが癌研究の支援を目的に設置さ
れたのはリーズナブルだったように思います。癌という病気が徐々に明ら
かになってみると生物の基本的な営みの中に原因があるような気がして、
全ての生物学的研究は癌研究に通じるとして、どのような研究に対してで
も公平に提供することにしたのですが、良い判断だったように思います。

私も化学物質による遺伝子突然変異の生成機構の研究をしていたものです
から、変異遺伝部がどのような研究を行っているのかという点には興味津
々でした。そこで、つぶさに観察させて頂きましたが、感心したことは行
政と協力をしながら変異原物質の系統的な調査研究を良くやっているとい
う姿でした。そして、そうした変異原物質が何故変異原として働くのかと
かどのような仕組みで突然変異が出来るのかとか、微量の変異原物質をい
かにして迅速に検出できるのかなどなどの研究も積極的に進めていたこと
を思い出します。そんなこともあって、変異遺伝部は周囲からの信頼も厚
く海外からも研修生がたくさん来ておりましたし活況を呈していました。

昨今薬害等で国の責任が問われる事例が増えておりますが、問題が顕在化
した初期に研究部が迅速に設置され、問題を解決する強い意識を持って業
務と研究を進めている姿は大変好感が持てると思います。

そういう姿を見せていただきながら、私は細胞バンクが一研究室として実
施しなければならないミッションを業務と研究という側面から色々考えた
ものでした。勿論現在から遡る25年前のことですから今と事情はまったく
異なり、ES細胞もiPS細胞もありませんでした。そして、そのほんの少し
前には所謂HeLaコンタミという問題がATCCで一応の決着を見た時期でした
(1978年)。決着したといっても、時間をかけた丁寧な観察の結果と努力の
賜物であって、HeLaコンタミを迅速に検出できる方法が確立されたわけで
はありませんでしたので、他の細胞どおしのコンタミの有無についてはま
ったく検討もされておりませんでした。従って、この問題はいずれ細胞バ
ンクの中心的な課題になるだろうなとぼんやりと考えていたことを思い出
します。ともあれ、お世話になった変異遺伝部は今年で創立30周年を迎え
ます。6月に記念講演会を開くとの連絡を頂きました。是非出席して御礼を
述べてこようと思います。
                           (水澤 博)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆II◆  ★★ 実験動物バンク事業 ★★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.疾患モデルマウスバンクの事業
  ――――――――――――――

○疾患モデルマウスの収集/収集したマウスの品質管理、凍結胚での保存

◆★疾患モデルマウスの寄託をお願いします!★◆

○疾患モデルマウスの分譲
   マウス胚50個/チューブを融解し、胚移植後、生まれた産仔すべてを
分譲します。 (97000円/1件)

○凍結胚・凍結精子の保護預かり業務(動物の情報は非公開で預かります)
   クライオチューブ4本保管で 11000円/1年
   ストロー16本/1年保管で 11000円/1年
        凍結胚・凍結精子作製サービスも行っています。


○疾患モデルマウス関連情報発信

2.新規マウスの分譲情報
  ――――――――――

▼今年2月と3月に、次の合計20系統のマウスの分譲を開始しました。
当バンクのホームページhttp://animal.nibio.go.jp/ に解説があります。
どうぞご覧下さい。

 nbio023 FOXO1マウス(廃用性筋萎縮モデル)
 nbio060 TAK1floxマウス (コンディショナルKO、免疫異常など)
 nbio061 ADAMTS13 KOマウス(血液凝固系異常)
 nbio062 NDRG1 KOマウス(末梢神経変性)
 nbio063 Ubc13floxマウス (コンディショナルKO、免疫異常など)
 nbio025 Lck-Cre(T細胞特異的Cre酵素発現)
 nbio034 GLUT4-2K/C(生活習慣病関連)
 nbio035 GLUT4-423/A(生活習慣病関連)
 nbio036 GLUT4-423/B(生活習慣病関連)
 nbio037 GLUT4-442/C(生活習慣病関連)
 nbio038 GLUT4-442/E(生活習慣病関連)
 nbio043 GLUT4-MEF2/B(生活習慣病関連)
 nbio044 GLUT4-MEF2/D(生活習慣病関連)
 nbio047 FAT-CDO(生活習慣病関連)
 nbio059 MEF2A(生活習慣病関連)
 nbio064 Cmah Tg VH-G(免疫系異常)
 nbio065 Cmah Tg VH-H(免疫系異常)
 nbio066 Cmah Tg VH-JA(免疫系異常)
 nbio069 C57BL/6-ypc/ypc(貧毛)
 nbio070 SLW(軟骨形成不全、消化管機能異常)
 

3.疾患モデルマウスの紹介
  ―――――――――――

【NDRG1 KOマウス(Charcot-Marie-Tooth病4D型疾患モデル動物)】

 資源番号:nbio062
由来:国立循環器病センター研究所 病因部
樹立者・寄託者 :宮田敏行先生
分譲条件:提供承諾書が必要

小胞体ストレス応答遺伝子であるNDRG1遺伝子のノックアウトマウスであり、
遺伝性末梢神経変性疾患のCharcot-Marie-Tooth病4D型の疾患モデル動物で
す。ノックアウトマウスは生後3か月頃から後肢に運動機能障害が見られ、
坐骨神経の病理組織学的解析では脱ミエリン化を伴う神経変性が認められ
ます。 NDRG1タンパク質はシュワン細胞に強発現していることから、ノッ
クアウトマウスではシュワン細胞の機能低下による脱髄が起こり、運動機
能が低下するものと考えられています。なお、ノックアウトマウスは雌雄
ともに繁殖は可能ですが繁殖効率が悪く、ホモマウス誕生の比率が若干低
くなっています。

参考文献
Okuda T, Higashi Y, Kokame K, Tanaka C, Kondoh H, Miyata T.
Ndrg1-deficient mice exhibit a progressive demyelinating disorder
of peripheral nerves. Mol Cell Biol. 2004 May;24(9):3949-56.

分譲をご希望の方は、larb@nibio.go.jpまでご連絡ください。
 
医薬基盤研究所 疾患モデルマウスバンクのホームページ
 http://animal.nibio.go.jp/
分譲可能な動物、サポートサービスの情報はこちらのホームページで公開
しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
III あとがき
初夏を迎え、来月からは衣替えのシ−ズンです。しかし、お天気は変わり
易く、もうすぐ梅雨入りかも、なんて思ってしまいますね。。
新年度に入り、異動や新人さんの配属で皆さんの職場でもニュ−フェ−ス
の方がいらっしゃると思います。ここ彩都でも、企業さんの研究所がサイ
エンスパ−クに開所され、待望の茨木市立彩都西中学校が開校、民間の幼
稚園が開園しました。そして現在保育園がもう一つ出来ているようです。
それでも、毎朝幼稚園バスが多数巡回しておりますし、小学校はとてもに
ぎやかな様子です。彩都内の学校は本当に新しく、見学すると驚くことが
いっぱいあります。中学校では24時間換気のシステムが各教室に整備され
ていますし、調理室では後ろの席でもよく見えるように上に鏡が設置され
ています。また黒板が見やすいように照明がついています。いまどきの学
校の設備はすごい!と感じるのは私だけでしょうか・・・・。
                             (E.T.)