MC210にまつわる電子メール井戸端会議

JCRB細胞バンク(水沢)=ドイツ留学中の職員(田辺)=細胞バンクの協力者(秦野研究所、中川)

マイコプラズマの除去に役立つ情報なので紹介します。このやり取りは、JCRB細胞バンクで設置している管理者用掲示板の中でやりとりされた内容です。外部の方はアクセスできませんので、ここに紹介することにしました。マイコプラズマを除去する際には役にたつ情報だと思います。


発言者:水沢

    ドイツに留学中の田辺君からのメールを転載します(略)。田辺君がドイツの細胞バンク(DSMZ)を尋ねるために、ドレックスラーとの間でメールをやりとりした時に MC210 と MRA についての話しが出たそうです。ドレックスラーは私たちが日本で使っているMC210はよく効かないということを言ってました。日本で市販されているMC210は、MRAという名称で海外では市販されているようなので、後でメーカーに確かめます。細かなことは忘れましたが、「ドイツのマイコはMRAじゃ除去できないのかね」などというヨタ話しを今年のSIVBのミーティングでドレックスラーとしてきました。そのときに、Mynoxの話しも出たと思います。Mynoxのほうがいいというようなことを言っていたような気もします。

    それと、冗談も含めて日本から来た細胞にコンタミしているマイコプラズマは頑固だとも言ってました。なかなか落ちないということですが、彼のMRAの扱い方が悪いのではないかという気もしているのですが・・・。

    MRAはICNの製品だとすると私の記憶では、大日本製薬のMC210のはずです。田辺君の話しでは、私のところから送ってあげたMC210はドイツでもしっかり効いたということなので、MRAが同じものなら効かないのはおかしいですね。もし、このあたりのことご存知の方がおられたらお知らせください。

    水沢


発言者:田辺

    今朝、ドレクスラーからメールをもらいました。

    Drexlerの話しでは、MRAという製品らしいですが、日本のMC210と本当に同じ内容物なのか疑わしい気がしています(MC110だったりとか)。論より証拠で、是非、現物を試してもらってから、「日本のMC210」について話をした方がいいかもしれないですね。ドイツ人は議論好きなのでちょっとしたことでも延々と話が続いてしまいますから。

    それから、Mynoxについては彼らはすでに試したようなので、その様子も聞けると思います。何しろBiophysicalに除去しようという試薬なので、どこかでムリがあるのかもしれないのか、あるいは使い方が悪いという可能性もあります。


発言者:水沢

    海外でICNから市販されているMRAがMC210と同じものかという質問を大日本製薬宛てにしました。以下、大日本製薬からのメールを転載します。

    大日本製薬から

      国立医薬品食品衛生研究所
      細胞バンク
      水沢博先生

      いつもお世話になっております。MC-210についてご質問いただきありがとうございます。早速ですが、ご質問にお答えいたします。

      MC-210は、海外(欧州含む)では、ICN社を通じてMRAの商品名で販売されています。また、ICNの販売しているMRAは日本の当社工場で製造されたものを輸出していますので全く同じものと考えていただいて結構です。MC-210は、キノロン系合成抗菌剤ですので、光によって分解します。したがいまして遮光保存が鉄則です。

      熱には強く、オートクレーヴしても分解しません。したがいまして光以外でMC-210が失活することは今のところ認められておりません。現在、使用濃度を 0.5ug/ml で使用することを推奨していますが 1ug/ml まで濃度を上げていただいて一度ご使用ください。それでも効果がない場合には成分の失活が疑われます。耐性菌の出現も考えられますが、こちらも今のところ報告をうけておりません。以上手短ですがお答えいたします。

      マーケティンググループ
      バイオ試薬チーム


発言者:中川

    キノロンと聞いて出てきました。
    中川@食薬センタ

    MC210はジャイレースインヒビターで光に弱いという話だったので、多分、キノロンだろうとは思っていましたが、やっぱりそうでしたか。マルピー(大日本製薬のこと)さんは医薬でもキノロンを扱っていますね。

    本題ですが、光分解もさることながら、光毒性・光変異原性作用がありますので、そちらも注意が必要と思います。この作用は、本来のジャイレースインヒビター作用とは無関係に、光触媒作用によって周囲の水や酸素分子をラジカル化することによって生じます。蛍光灯程度なら大きな問題は無いと思いますが、なるべくならイエローライト等、紫外線が出ない光源下での作業が望ましいと思います。

    風邪なんかの場合でも、2次感染防止用によく出されるようですね。お医者さんも光毒性作用の事は知らないので、注意されることは無いのですが、キノロンを飲んで強い日光を浴びると、光刺激性で肌が真っ赤になったりします。

    キノロンは安定な物質ですが、重度のバクテリア汚染を退治する場合は、こまめに培地交換しないと、菌の増殖速度に負けてしまいます。濃度は100ug/ml あたりが溶解限界と思いますので(キノロン種によって異なりますが)、それ以上に上げても、析出するばかりで、意味が無いと思います。(この点、上記の記述にミスがあり、使用濃度は0.5ug/mlで、100ug/mlまで上げてみるというのは誤りでした、1ug/ml まで上げてみるということです。訂正してお詫びします)。

    最後に反則技ですが、ニューキノロン系抗菌剤のうち、エノキサシンやオフロキサシンなど、ややクラシックな物なら、シグマから安価に購入できます。この場合、粉末になりますので溶媒に0.1N NaOHを用います。中性だと、やや溶けにくいです。


捕捉(水沢)

    MC210をマイコ除去に使う場合は、メーカ指定濃度 0.5ug/ml より上げないほうが良い。中川さんが指摘しているような変異原性が出て来ることがその理由である。

    歴史的に言うと大日本製薬が培養細胞中のマイコ除去にMC110という試薬が使えるのでは無いかと持ち込んできた。1986年ごろだったと思う。それは朗報だと思い早速試してみたところ、結構染色体異常が出るので、ちょっと使えないのではないかとコメントした。すると、暫くしてMC210を持ってきてくれた。分子構造がちょっと違うが、効果濃度が約半分となって変異原性もほぼ半分に減少したということだった。そこで、我々が再度調べたところ染色体異常が出なくなっていた。その後、大日本製薬は正式にMC210をマイコプラズマ除去試薬として販売するに至った。

    JCRB細胞バンクでは、マイコプラズマ汚染が見つかると、0.5ug/mlで1継代だけMC210処理を実施して、マイコプラズマが検出されなくなることを確認します。ここで、まだ検出される場合は、もう1継代処理をします。その後すぐに、細胞は凍結保存しますが、一部は継代培養を継続して3ヶ月間培養しつづけます。そして、最後までマイコプラズマが検出できないことを確認した場合に、これを除去に成功したものとしています。ほとんどのものは、この手続きでマイコの除去に成功してきています。