培養細胞ムービーデータの作成
Last Update: 06/06/22
医薬基盤研究所・細胞バンク
水沢 博
JCRB細胞バンクでは1995年頃からムービーデータの作成とホームページを通じての公開を検討してきましたが、当時は速度に難点があり、参考資料として一部のデータの公開に止めてきました。しかし 2003年頃からインターネット環境が向上し、実用的に利用できるようになってきました。
以下、これまでのムービーデータの作成情況と、今後の新しい環境についての検討を紹介します。外部向けにデータを公開するという点では、改善される新しいムービーデータのフォーマットを採用するということと、回線速度の向上に期待をかけているという2点が重要なポイントになるようです。細胞バンク側の作業効率の向上という点では、ここ数年でコンピュータ自身の速度の向上や外部記憶装置の容量の増大に大きな改善が見られているので、市販のムービーデータ処理用のソフトウエアで十分に対応できるようになっています。
当バンクにおいては、ムービーデータを取り込むカメラ等をグレードアップし、16ビットグレースケールのデータを取り込むシステムとなっているのですが、市販ソフトウエアでは扱えない場合があったことに難点もありましたが、改善されつつあります。
1996年頃から1999年頃までに作成したムービーデータの利用
動画データの作成機器
細胞増殖の様子をムービーで撮影する装置には、定温チャンバーを取り付けたZeiss社の培養用倒立顕微鏡を使用しています。
画像データを取得するにはZeiss 3CCDビデオカメラで行い、カメラからの出力は画像キャプチャーインターフェースを介してパーソナルコンピュータへ入力します。このデータはムービー化されたデータではなく、一定間隔で連続して撮影した静止画画像データとなっています。サイズは 640x480ドットのモノクロ16階調データです。
画像キャプチャーインターフェースには miro社の miroVIDEO DC20 を使用.また、ビデオデータの転送には、ヨーロッパで普及している PAL 方式を用い、高い画像解像度として 720x540ドットが得られますが、国内標準のNTSCを使用して 640x480 ドットで画像データを取り込んでいます.
画像の取得には専用取り込みソフトウエア KS300 を使用しています.顕微鏡の光源はコンピュータで制御され、画像取り込みに同調して発光します。このシステムは、全てZeissで構築した仕様です.
原データの取得と保存
このシステムでは、細胞を定温チャンバー内で培養しながら一定時間ごとに撮影し、映像をディジタル画像ファイルとしてハードディスクに記録します(miroVIDEO DC20)。取得した画像の記録は、1こまを1ファイルとしてビットマップ形式(BMP,640x480ドット)でおこない、ファイル名は自動的に連続番号が付けられて一連のムービー(画像シークエンス)であることを識別できるようにします.
汎用ムービーデータへの変換
取り込んだ連続画像データは Ulead社の Video Editer(V6.5)を用いて汎用的なムービーファイルとします。ここで、どのような動画にするかが問題になります。インターネットで閲覧してもらうことを前提に考えていますので、ファイルサイズを可能な限り縮小し、読み込みが迅速に行えるフォーマットにすることにしました。現在採用しているのは MPEG 4 というフォーマットで、360ドットx240ドットとしています。これで残念な点はMpeg4は画質がかなり粗くなってしまうという点です。将来回線速度が向上してもう少し大きいファイルサイズにも耐えられるようになってきたら、フォーマットの変更を検討するつもりです。
培養細胞ムービー撮影の条件
上記に示した動画の撮影は少し古いものですがシステムのテストを兼ねて実施したものです。そのため、MOVのフォーマットとなっています。こちらのほうが映像は少しきれいになっているように思います。細胞は、JCRB0710, EJ-1 です。撮影は、5分間隔で 300分間おこない、60枚の画像データが発生しましたが、これを一本の動画ファイルに変換しました.
変換は2段階で行い、最初に連続画像を縮小してMOVファイルへ変換し、その後MP4(MPEG4)に変換しました。2段階にした理由は、MP4フォーマットがまだ新しいため、ソフトウエアが対応していない場合があり、複数のソフトウエアを組み合わせたという理由によるものです。前者に Ulead の Media Editor 後者に Apple の Quick Time を使用しています。
上に示したサンプル動画では、細胞密度がかなり高くなったところで撮影しているので、細胞の分裂は捕らえられていませんが、動きはわかります.付着性の細胞が一度剥離して丸くなって分裂し、分裂後再度付着する様子がわかでしょうか。特に後半の倍率の高いところが見やすいでしょう。
培養細胞ムービーデータフォーマットの検討
利用者のインターネット環境が下の各フォーマットの再生の可否に影響を与えるので試してみてください。我々の希望としては、ファイルサイズの情況から最終的にはMP4ファイルを利用しています。また、どうしてもWebBrowserから直接再生するのが困難な場合は、一度各自のコンピュータにファイルをダウンロードしてからムービープレーヤーで再生するのが良いと思います。ダウンロードは『画像にリンクしている部分で右ボタンをクリックし、メニューから”リンク対象をダウンロードする”』という操作をすれば可能です。
mpg: 16,318 Kb MPEG format
顕微鏡で撮影した連続静止画のファイルを、上記の方法でムービーファイル化したもので 1996年に作成した。ファイルサイズはこれから変換して作成した他のムービーフォーマットと比べて中規模。
avi: 15,798 Kb Windows movie file
Quick Time Pro で上記mpeg形式のファイルを読み込んでAVIファイルに出力作成したもの。解像度が低下している。
mov: 59,059 Kb Quick time format
Quick Time Pro で上記mpeg形式のファイルを読み込んで mov フォーマットに出力作成したもの。QuickTime pro の基本フォーマットだがファイルサイズが極めて大きい。
mp4: 10,146 Kb MPEG 4 format(embed tag 使用)
wmv: Windows Media Video(embed tag 使用)
上記のMPEG-4(mp4)を元にMicrosoft社が開発した動画形式で、現在(2006年)の「Windows Media Player」が標準でサポートしている形式の一つである。MP4に準拠する高圧縮率を維持して、ストリーミング再生をサポートし画質の向上が図られている。当バンクでは、このフォーマットを標準とする(2005年から)。
動画処理の現状(2006年)
コンピュータの高速化、ネットワーク環境の整備も思えばここ10年ほどの間で整備が進んだ新しい分野で、当初の速度の遅いネットワークから現在の高速ネットへと急速に変化した。動画は、その仕組みから高速ネットワーク、高速コンピュータ、動画フォーマットの改良とそれぞれの技術レベルの向上によってようやく高画質の動画を誰もがストレス無く観察できるようコンピュータ環境が整ってきたところだと言える。
コンピュータ上で細胞の分裂、増殖の様子が観察できるようになると利便性が高まるだろうと考え、折に触れて動画配信が可能かどうかについて検討をし、未熟であっても公開できるものは公開してみようと作業を進めて現在に至っており、それぞれの時期によって作成した動画のフォーマットが異なっている。従って、公開している動画の全てが良質の動画とはなっていないことはお詫びします。私どもの試行錯誤がそのまま表現されていると御笑覧ください。
動画フォーマットもようやく安定してきたようだ。Windows標準のwmvが上記の理由で使いやすく、ここ暫くはこのフォーマットを使用する。撮影は顕微鏡に加温・CO2循環装置を装備した無菌箱を取り付けて24時間連続で5分ごとの間欠撮影を行って連続静止画を作成し、これを繋げて動画ファイルとする。撮影は640ドットで行うが、まだこのサイズは十分使いこなせないので、320ドットに縮小して、公開用動画とする。
動画ファイルの加工編集はUlead社の Media Editer(V8), Video Editer(V9) を使用している。
現在のムービーデータ作成の環境
ソフトウエア
QuickTime Pro, Video Studio, Mpeg Maker 等を検討。画面表示サイズを320ドット、ファイルサイズが十分に小さくなるように配慮しつつ画質の低下が起こらないものを選択する。画面表示サイズは640ドットとするのが理想ではあるが、現実的には困難なので320ドットで妥協する。今後複数のソフトウエアを比較検討して環境を整える。
補足
市販のビデオカメラはディジタル方式のものが主流になってきたが、最近は静止画を撮影するデジカメでビデオも撮影できるというものが出てきた。メモリー容量の増加と画像圧縮技術の発達によるものであるが、意外に便利なものになっている。難点は、まだ画像解像度が低い点であるが、今後の発展の仕方によっては十分に実用的なものとなる可能性を秘めている。デジカメによるムービーは撮影可能時間が短いが、十分利用価値がある。色々なものを比較したわけでは無いが私が使っているミノルタのデジカメでは、QuickTimeのMOVフォーマットでコンパクトフラッシュメモリーに記録するので、コンピュータに移すのは極めて容易である。一度コピーしてしまえば、上記のVideoStudioやQuickTimeで、フォーマット変換や編集を行い、そのままホームページ上に掲載することが出来るため時間も大幅に節約できる。
実際、アルバムのページに基盤研の建築の様子をこのようにして作成して掲載してあるので、ご覧下さい。現時点で難点は画像が粗いという点です。メモリーを節約しなければならないというカメラ側の制約と、mp4という圧縮フォーマットの2つの原因で粗くなっているものと思われます。
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