朝日新聞報道平成11年1月17日(日)(1面)

新薬開発にヒト組織利用,製薬企業の6割

厚生省と財団,パンク設立へ


肝臓の細胞や皮膚、血管などヒトのさまざまな組織が新薬の開発に必要、と製薬会社や化粧品メーカーの約八割が考えており、約六割がすでに利用していることが、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団の調査で明らかになった。手術時に摘出された組織の一部を、契約した病院から手に入れたり、海外から輸入したりしているという。人体組織を使うことは、動物実験ではわからない副作用や効能の予測につながる一方、取引、利用をめぐる倫理面の問題もはらむ。厚生省は、この問題で指針をすでに定め、一九九九年度から同財団と協力して、ヒトの組織を無償で収集、提供するパンクづくりに乗り出す方針だ。(3面に解脱)

調査は、医薬品や化涯品、食品メーカーなど百四十五杜を対象にした。同財団の賛助会員で、日本製薬工業協会に入っている国内の大手、中堅型薬会社の大半を含む。うち九十七杜から回答を得た。

この結果、回答企業の約六割にあたる五十五杜が、ヒトの組織を研究開発に使ったことがあった。うち約八割は国内でヒト組織を入手、海外の専門企業やヒト組織パンクから輸入している企業もあった。 厚生省によると、こうした大がかりな実態調査は初めて。ここ数年、製薬会社から同省にヒト組織の利用を求める声が相次ぐようになり、便用例も増える傾向にあるという。

また、回答企業の約八割、医薬品関連では約九割がヒトの組織の利用は「必要」と考え、肝・心・腎臓、肺、血管、脳、皮膚、小腸など、多くの器官、組織の利用を望んでいた。臓器から細胞、酵素にも及び、病気の組織、中絶した胎児や胎盤の利用を求める企業もあった。

利用の理由として、大半の企業が「人問と動物では薬物への反応が違い、動物実験だけでは、新薬の効果や毒性が予測できないから」「利用しないと、医薬品関発が国際的に遅れてしまう」などと答えている。

厚生省は昨年末、手術で摘出された臓騎の一部などを新薬開発に利用する際の指針をまとめ、提供者へのインフォームド・コンセント(十分な説明を受けた上での同意)の徹底▽倫理委員会の設置・審査▽提供は善意による無償▽個人情報の保護などを盛り込んだ。

九九年度からは約十六億円かけて、ヒューマンサイエンス振興財団の中にヒト組織を収集、提供する非営利のバンクを置く。同財団でも、ヒトの組織の利用が盛んな欧米の実態調査のほか、ヒトの組織の収集方法や安全管理、保存・輸送方法の検討を始めた。