時の法令1586号, 60-70,1999年1月30日発行
民主化の法理=医療の場合 51


欧州評議会の「人権と生物学・医学とに関する協約」

星野一正


まえがき

    フランスのストラスブルグ(Strasbourg)において一九九六年一一月に開催された欧州評議会(Council of Europe)の閣僚委員会(Committee of Ministers)において、一一月一九日に採択された「生物学と医学のヒトへの応用における人権と人間の尊厳の保護のための協約:人権とバイオメディシンに関する協約」(Convention for the Protection of Human Rights and Dignity of the Human Being with regard to the Application of Biology and Medicine: Convention on Human Rights and Biomedicine 以下「人権と生物学・医学とに関する協約」と称す)は、ヨーロッパ諸国にとって重要であるばかりでなく、広く全人類に対しても尊重されるべき協約であるが、日本では広く紹介されていないようなので、その内容を紹介する次第である。

    この協約と基本的には同一の目的で採択されている「ニュールンベルグ倫理綱領」「ジュネーブ宣言」「ヘルシンキ宣言」など主要な綱領や宣言については、すでに筆者自身も報告をしている(拙著『インフォームド・コンセント』丸善ライブラリー、一九九七年五月)。それら既報のものと本協約との内容を比較検討してみていただきたい。

欧州評議会「人権と生物学・医学とに関する協約」の全文

欧州評議会「人権と生物学・医学とに関する協約」(一九九六年一一月一九日採択)

前文

欧州評議会構成諸国、他の国々と欧州共同体調印国(European Community Signatory)は、

  • 一九四八年一二月一〇日に、国連総会において宣言された世界人権宣言を心にとどめて、

  • 一九五〇年一一月四日の、人権と基本的自由の保護のための協約(Convention for the protection of Human Rights and Fundamental Freedoms)を心にとどめて、

  • 一九六一年一〇月一八日の、欧州社会憲章(European Social Charter)を心にとどめて、

  • 一九六六年一二月一六日の、公民権並ぴに政治的権利に関する国際的同意(International Covenant on Civil and Political Rights)と経済的、社会的・文化的権利に関する国際的同意International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)を心にとどめて、

  • 一九八一年一月二八日の、個人的資料の自動的処理に関する個人の保護についての同意(Covenant for the Protection of Indeviduals with regard to Automatic Processing of Personal Data)を心にとどめて、

  • 一九八九年一一月二〇日の、児童の権利に関する協約(Covention on the Rights of the Child)を心にとどめて、

  • 欧州評議会の目的は、欧州評議会の構成諸国のより偉大な統一の達成であり、その目的を追求する方法の一つは人権と基本的自由の維持と実現であることを熟考して、

  • 生物学と医学における加速的な発展を自覚し、人間の尊厳を保証する必要性を認識し、人類の一員として、また、個人として人間を尊重する必要性を確認して、

  • 生物学や医学を誤用すると人間の尊厳を危うくする行為を引き起こすかもしれないことを自覚して、

  • 現在の世代と将来の世代に役に立つように生物学や医学の進歩を活用しなければならないことを確認して、

  • 全人類が生態学や医学の恩恵を享受するように国際的協力をする必要性を強調して、

  • 生物学や医学の応用をめぐる疑問について公開討論を促進させ、質疑応答を公表する重要性を認識Lて、

  • 社会の構成員全員に彼らの権利と責任に気づかせることを願いつつ、

  • バイオエシックスに関する協約の準備に関する勧告1160(1991) [Recommendation 1160(1991) on the preparation of a Convention on Bioethics]を含む本領域における国会議会の作業を考慮して、

  • 生物学や医学の応用に関して人間の尊厳と個人の基本的権利と自由を安全に守るのに必要な手段を講じるべく決定しながら、

    以下のように同意をした。

第一章 一般的な条項

    第一条

    〔目的と対象〕協約の当事者は、生物学と医学の応用に関して、全人類の尊厳と各個人のアイデンティティを守り、すべての人を差別することなく、各人のあるがままを尊重し、他の権利や基本的自由を保障する。

    協約の各当事者は、協約の条項に効力を与えるために自国の国内法に必要な措置をとるべきである。

    第二条

    〔人間の至上権〕人間の利益と幸福は、社会や科学の独占的な利益よりも勝っている。

    第三条

    〔ヘルス・ケアヘの機会均等〕健康上の必要性や提供可能な医療資源について考慮するべき当事者は、自己の管轄権内で、適切な質のヘルス・ケアが機会均等に受けられるようにする見地から、必要な措置をとるべきである。

    第四条

    〔専門的水準〕研究を含む、医療分野でのいかなる介入も、適切な専門的責任と水準に従って実施されなければならない。

第二章同意

    第五条

    〔普遍的な法則〕医療の介入は、対象となる人が自由にインフォームド・コンセントを与えられた後でなければ実施してはいけない。

    医療の介入の目的並びに本質について適切な情報及ぴ介入後に起こりうることや危険性についても、事前に本人に開示されなければならない。

    対象となる本人は、いつでも自由に同意を取り消すことができる。

    第六条

    〔同意能力のない人たちの保護〕

    1. 下記の第一七条並びに第二〇条を条件として、同意能力のない人に対しては、その本人の直接の利益のためにのみ実施することができる。

    2. 法律の定めにより未成年者が医療の介入に同意する能力がない場合には、本人の代理人あるいは権限のある者あるいは法律により定められている者又は組織による認可によってのみ実施されうる。

      年齢や成熟度に比例して増加する決定能力として、未成年者の意見も考慮されるべきである。

    3. 精神障害・疾患あるいは類似の理由のために、法律の定めにより医療の介入に同意する能力がない場合には、本人の代理人あるいは権限のある者あるいは法律により定められている者又は組織による認可によってのみ実施されうる。

      対象となる本人は、認可する手続に可能な限り関与してよい。

    4. 本人の代理人、権限のある者あるいは上記の第二項及ぴ三項で述べた者又は組織には、同一の条件の下で、第五条で照会した情報が与えられるべきである。

    5. 上記の第二項及ぴ三項で述べた認可は、対象となる人の最善の利益のために、いつでも取り消すことができる。

    第七条

    〔精神障害のある人への保護〕監督、管理並びに訴えの手続を含む法律で定めた保護条件により、重症の精神障害者は、ある治療をせずには本人の健康が甚だしく損なわれる場合にのみ、本人の同意なくして、精神障害の治療目的で医療の介入を受けさせられる。

    第八条

    〔緊急の場合〕緊急の場合であるために適切な同意が得られない場合には、本人の健康の利益のために必要ないかなる医療の介入も直ちに実施することができる。

    第九条

    〔事前に表明してあった意思表示〕医療の介入時点で患者自身が意思表示ができる状態ではない場合、本人が、医療の介入に関して事前に表明してあった意思が考慮される。

第三章私生活と情報への権利

    第一〇条〔私生活と情報への権利〕

    1. 本人の健康についての情報に関する私生活を尊重する権利をすべての人がもっている。

    2. 本人の健康について収集されたいかなる情報についても本人は知る権利をもっている。

    3. 例外として、患者の利益のために、上記二項で述べられた権利の行使について、法律によって制限されることがある。

第四章ヒトの遺伝子

    第一一条

    〔差別のないこと〕遺伝的形質を根拠にして、いかなる形においても何人をも差別することを禁じる。

    第一二条

    〔予言的遺伝子診断〕遺伝子疾患の予言のために、あるいはある疾患の原因遺伝子の保有者として対象者を同定するか、疾患の遺伝的素因又は疾患への感受性を見いだすために役立たせるための検査は、健康上の目的のためか、健康上の目的につながる科学的研究のためであり、適切な遺伝相談という条件付きでのみ、実施されるべきである。

    第一三条

    〔ヒトの遺伝子への介入〕ヒトの遺伝子を改変するための介入は、予防的、診断的、あるいは治療目的のためだけで、子孫のだれの遺伝子にも改変を引き起こさない場合にのみ実施することができる。

    第一四条

    〔性別選択の禁止〕性別に関連した重い遺伝的疾患を避ける以外には、生まれでくる子供の性別を選ぶ目的で、生殖医療技術を使ってはならない。

第五章科学的研究

    第一五条

    〔一般的規則〕生物学及ぴ医学の領域における科学的研究は、人間の保護を保障する本協約の条項並ぴに他の法的条項を条件として、自由に行うことができる。

    第一六条

    〔研究の対象となる人の保護〕ヒトを対象とした研究は、次に掲げるすべての要件を満たす場合にのみ実施することができる。

    1. 人間について研究するのに効果的な、比較するべき代替法がない場合

    2. 被験者が被るであろう危険がその研究のもたらすであろう利益と不釣合いでない場合

    3. 研究目的の重要性の評価並びに倫理的許容性についての多角的検討を含む科学的価値についての権能のある組織による独自の検討の後に、その組織により研究計画が承認された場合

    4. 被験者が、法律によって定められている権利や保護規定について知らされている場合

    5. 第五条で規定されている必須の同意が、明瞭に特別に文書で述べられている場合

    第一七条

    〔研究に同意することができない人の保護〕

    1. 第六条で明記されているような同意をする能力のない人に対する研究は、次に掲げるすべての要件が整った場合にのみ実施することができる。

      1. 第一六条の①から④までに列記してある要件が満たされている場合

      2. 研究の結果が被験者の健康に真にそして直接に利益をもたらす可能性がある場合

      3. 同意を与える能力のある人では、匹敵する効果のある研究ができない場合

      4. 第六条で条件づけられている必要な認可が特別に文書で与えられている場合

      5. 本人が拒否しない場合

    2. 例外として、法律で定められている保護条例の下で、研究の結果が被験者の健康に直接に利益をもたらす可能性がない場合に、そのような研究が、上記の第一項の①、③、④及び⑤の要件及ぴ次に挙げる追加要件を条件として、認可される。

      1. その研究が、疾患あるいは異常に関する科学的理解に顕著な増進をもたらすことによって、被験者自身あるいは同年齢の他の人々あるいは同一疾患又は異常にかかっているか同一症状をもっている他の人々に利益をもたらす可能性のある結果を根本的に達成させることに貢献する場合

      2. 研究が、被験者に最小限の危険性と最小限の負担をもたらすだけの場合

    第一八条

    〔試験管内での胚子(エンブリオ)の研究〕

    1. 法律によって試験管内での胚子が許されている場合、胚子の適切な保護が確保されなければならない。

    2. 研究目的でヒト胚子を創造してはならない。

第六章移植目的での生体ドナーからの臓器並びに組織の摘出

    第一九条

    〔一般的規則〕

    1. 移植目的での生体ドナー(臓器提供者)からの臓器並びに組織の摘出は、レシピエント(臓器受容者)の治療的利益のためのみで、死体から得られる臓器あるいは組織には適合するものがなく、また移植で得られる効果に匹敵する治療法がない場合に実施される。

    2. 第五条で規定されている必須の同意が明瞭に、特別に、文書によりあるいは公的な人物の前でなされなければならない。

    第二〇条〔臓器摘出に同意する能力のない人の保護〕

    1. 第五条の定める同意をする能力のない人から、臓器あるいは組織の摘出をしてはならない。

    2. 例外として法律で定められている保護条例の下で、同意をする能力のない人からの再生可能な組織の摘出は、次に挙げる要件が満たされた場合には認可される。

      1. 同意能力のある妥当なドナーがいない場合

      2. レシピエントがドナーの兄弟、姉妹である場合

      3. 臓器提供がレシピエントを救命する可能性がある場合

      4. 第六条(一から三)で条件づけられた認可が、法律によりまた資格のある者の承認の下で、特別に、文書により与えられた場合

      5. ドナーの候補として考慮されている人が嫌がらない場合

第七章経済的利益並びに人体部分の処分の禁止

    第二一条

    〔経済的利益の禁止〕人体並びにその部分が、経済的利益をもたらしてはならない。

    第二二条

    〔人体から摘出した部分の処分〕医療の介入の過程において人体から摘出された部分はいずれも、適切な情報と同意の手続に従ってなされたならば、貯蔵しても差し支えなく、また摘出した時の目的以外のために使用してもよい。

第八章協約の規定の侵害

    第二三条

    〔権利あるいは原則への侵害〕協約参加国は、協約において示された権利や原則に対する違法な侵害を防ぐため、あるいはやめさせるために、適切な法的保護を規定するべきである。

    第二四条

    〔不適当な損害に対する賠償〕医療の介入による不適当な損害を受けた人は、法律によって定められた条件と手続によって正当な賠償を受ける資格がある。

    第二五条

    〔法令〕協約参加国は、協約の規定に違反した場合に適用されるべき適切な法令を定めなければならない。

第九章協約と他の規定との関係

    第二六条

    〔権利の行政における制限〕

    1. 犯罪防止、公衆衛生の保護、あるいは権利や自由を保護するために、法律で定められたり、公衆の安全のために民主的社会において必要であるものを除いて、協約に含まれている権利や保護規定の行使に制限は設けられていない。

    2. 前項で熟考された制限は、第一一条、第一三条、第一四条、第一六条、第一七条、第一九条、第二〇条及ぴ第二一条には置かれていない。

    第二七条

    〔より広範な保護〕協約に規定されている生物学や医学の応用に関する保護措置よりも広い措置を、協約参加国が認める可能性を制限したり、影響を与えるものとして、協約のいずれの規定も解釈されるべきではない。

第一〇章公開討論

    第二八条

    〔公開討論〕生物学や医学の発達によって引き起こされる基本的な疑問は、医学的、社会的、経済的、倫理的そして法的な見地からなされる公開討論の主題であり、これらの可能と思われる応用は、適当な参考資料となると協約参加国は考えるべきである。

第一一章協約の解釈と追随

    第二九条

    〔協約の解釈〕欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)は、裁判所での未決定の特別な訴訟手続を直接に引用せずに、下記のいずれかの要求によって、現行の協約の解釈についての法的質問についての助言的意見を与える。

    1. ある協約参加国が他の国々に通知した後になされた、その協約参加国の政府の要求

    2. 第三二条により、選挙人の三分の二の多数で採択された決定により設置され、協約参加国の代表者に限定された委員で構成された「委員会」の要求

    第三〇条

    〔協約の適用についての報告〕欧州評議会の事務総長(Secrtary General)からの要請を受けたら、いずれの協約参加国も、自国の法律が、協約のいずれかの条項の内容の実施を保証している場合には、その様式についての説明をしなければならない。

第一二章議定書

    第三一条

    〔議定書〕協約に含まれている原則を、特別な分野において発展させる見地から、第三二条を履行して、議定書は終結される。 議定書は、協約の調印国による署名のために公開されるべきである。議定書は、批准、容認あるいは認可が必要である。調印国は、前もってあるいは同時に協約を批准、容認あるいは認可せずに、議定書を批准、容認あるいは裁可できない。

第一三章協約の改正

    第三二条

    〔協約の改正〕

    1. 第三二条及ぴ第二九条における「委員会」に与えられた職務は、「バイオエシックス運営委員会」(Steering Committee on Bioethics: CDBI)あるいは閣僚委員会によって任命された他の委員会のいずれかによって遂行されるべきである。

    2. 第二九条の特別の規定に偏見をもたずに、欧州評議会の各参加国及ぴ欧州評議会の参加国ではない協約の各参加国は、代表として「委員会」が本協約によって与えられた作業を遂行する時に一票の投票権をもつ。

    3. 第三三条で言及した国、あるいは第三四条の規定により本協約に参加するように招かれている国は、傍聴者として「委員会」に代理者を出席させることができる。

    4. 科学の発展を監視するために、協約は、その効力の開始から五年以内に「委員会」の中で調査され、その後は「委員会」が決定する間隔で調査されるべきである。

    5. 協約の調印国、「委員会」あるいは閣僚委員会によって提示された協約の改正のためのいかなる提案も、議定書あるいは議定書の改正についてのいかなる提案も、欧州評議会の事務総長に伝えられ、次いで事務総長によって欧州評議会の各参加国、欧州共同体、協約参加国、第三三条及ぴ第三四条に規定する国へ送られる。

    6. 前項五に従って事務総長から「委員会」に転送された提案を、受領後ニカ月を過ぎてから検討する。「委員会」は、三分の二以上の支持票によって採用された本文を、承認を得るために閣僚委員会に提出する。承認が得られた後に、その本文を、協約参加国に、批准、容認あるいは認可を得るために転送する。

    7. 少なくとも四つの欧州評議会参加国を含む五か国の協約参加国が事務総長に修正の承認の通知をした当日から一カ月後の月の第一日目に、修正を容認した協約参加国に関する修正は有効となる。

      後日その修正を容認したいずれの協約参加国についても、協約参加国が容認したことを事務総長に報告した日から一カ月後の月の第一日目に、修正は有効となる。

第一四章最終箇条

    第三三条

    〔署名、批准及ぴ効力の発生〕

    1. 本協約は、欧州評議会参加国、協約の作成に努力した非参加国並びに欧州共同体に、署名のための門戸は解放されている。

    2. 本協約は、批准、容認あるいは認可が必要である。協約の批准、容認あるいは認可のための方法は、欧州評議会の事務総長に供託されている。

    3. 本協約は、少なくとも四つの欧州評議会参加国を含む五か国の協約参加国が、前第二項の規定に従って協約を遵守する同意を表明した日から三カ月後の月の第一日目から効力を発生する。

    4. その後に協約を遵守する同意を表明した調印国については、批准、容認あるいは認可の証書を供託した日から三カ月間が経過した月の第一日目から、協約は効力を発生する。

    第三四条

    〔非参加国〕

    1. 本協約が発効後、欧州評議会の閣僚委員会は、協約参加国との協議の上で、欧州評議会の中の非参加国を本協約に参加するように勧誘することができる。もし、欧州評議会の法令第二〇条d項で規定されている過半数による決定と閣僚委員会への出席の権利がある契約国の代表者による全員一致の投票があれば。

    2. 参加しようとしているいずれの国についても、協約は、欧州評議会の事務総長に加入証書を供託した日から三カ月後の月の第一日目に効力を発する。

    第三五条

    〔地域(territories)〕

    1. いずれの調印国も、調印時に、あるいは批准、容認又は認可の証書を供託した時に、協約が適用される地域あるいは地域群を特定できる。他のいずれの国も加入証書を供託する際に同様の宣言を表明できる。

    2. いずれの協約参加国も、その後のいかなる時点においても、欧州評議会の事務総長へ提出した宣言によって、宣言で明記されている他のどの地域にも、それらの地域の国際関係のためにも責任があり、保証を与えることが認可されている地域にも、協約への参加を勧誘できる。それらの地域について、協約は、事務総長が宣言を受領した日から三カ月後の月の第一日目に効力が発生する。

    3. 上記の二つの項でなされたいずれの宣言も、この宣言で特定された地域のいずれについても、事務総長にあてた通知によって取り下げられる。この取下げは、事務総長がこのような通知を受領した日から三カ月後の月の第一日目に有効となる。

    第三六条

    〔保留〕

    1. いずれの国も欧州共同体も、本協約の調印時あるいは批准書を供託する際に、本協約のある特定の規定について、国内法が整備されていない範囲で、保留ができる。一般的な内容についての保留は本条項の下では許されない。

    2. 本条の下での保留はいずれも、関連した法律の簡潔な陳述が含まれているべきである。

    3. 第三五条の二項で言及した宣言で記載した地域の本協約への申込みを支援する協約参加国のいずれも、対象となる地域を配慮して、前述の項の規定に従って保留する。

      四本条で述べた保留をした協約参加国はいずれも、欧州評議会の事務総長あての宣言によって、保留を取り下げることができる。この取下げは、事務総長が宣言を受領した日から一か月後の第一日に有効となる。

    第三七条

    〔公然の非難〕

    1. 協約参加国はいずれも、欧州評議会事務総長あての通告によって、いつでも協約を公然と非難できる。

    2. かかる公然の非難は、事務総長がその通告を受領した日から三カ月後の月の第一日目に有効となる。

    第三八条

      〔通告〕欧州評議会事務総長は、欧州評議会参加国、欧州共同体及びいずれの調印国や協約に参加するべく招待されたあらゆる国に、①あらゆる署名、②批准、容認あるいは認可の証書の供託、③第三三条あるいは第三四条に従って協約が発行する年月日、④第三二条に従って適合させた修正あるいは議定書、⑤第三五条の規定に下になされた宣言、⑥第三六条の規定に従ってなされた保留あるいは保留の取下げ、⑦協約に関するあらゆる行為、通達あるいは通信を、通知する。

      証人の下で、正当に認可された署名者が、本協約に署名した。

      ________________________は*、英語とフランス語とで書かれた両者とも等しく真正な本文は、欧州評議会の公文書保存所に供託される単一文書で_________________________において作成された。

      欧州評議会の事務総長が、証明付きの複写文書を、欧州評議会参加国、欧州共同体、本協約の作成に努力した非参加国並びに本協約に参加するべく勧誘された国々のいずれへも送付する。

      *本協約の署名のための開始年月日は、閣僚委員会によって後日決定されるであろう。

あとがき

    次に列記するカッコ内の英語の用語について、日本国内の何らかの機関が日本語訳を発表している可能性が考えられるが、入手していないので、本論文での日本語訳の責任は、一切筆者にあることをお断りしておく。適訳があれが、ご教授いただければ感謝に堪えない。

[訳語]

協約Convention
欧州評議会Council of Europe
閣僚委員会Committee of Ministers
欧州共同体調印国European Community Signatory
欧州社会憲章European Social Charter
公民権並びに政治的権利に関する国際的同意International Covenant on Civil and Pokitical Rights
経済的、社会的・文化的権利に関する国際的同意International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights
個人的資料の自動的処理に関する個人の保護についての同意Covenant for the Protection of Individuals with regard to Automatic Processing of Personal Data
児童の権利に関する協約Convention on the Rights of the Child
バイオエシックスに関する協約の準備に関する勧告1160(1991)〔Recommendation 1160(1991) on the preparation of a Convention on Bioethics〕
欧州人権裁判所European Court of Human Rights
事務総長Secretary General
地域territories
バイオエシックス運営委員会Steering Committee on Bioethics: CDBI第三二条及ぴ第二九条における「委員会」には、特に括弧をつけて区別した


星野一正
(京都大学名誉教授・日本生命倫理学会初代会長)