時の法令1642号, 47-56,2001年5月30日発行
民主化の法理=医療の場合 76


米国国家バイオエシックス諮問委員会のヒト幹細胞研究における倫理的論点

星野一正


まえがき

    一九八一年に発表されたマウスの多能性胚性幹細胞(pluripotential embryonic stem cell)の研究から発展して、ヒトの多能性幹細胞の研究が可能となり注目されるようになった。アメリカでは、ヒトの多能性幹細胞の研究が倫理的に実施されるための指針の草案が、一九九九年中に、三つの機関から発表された。そのうちの一つ国立衛生研究所(NIH)の草案は前回(本誌一六四〇号)紹介した。

    今回は、一九九九年九月に国立バイオエシックス諮問委員会(NBAC National Bioethics Advisory Commission)の「ヒト幹細胞研究における倫理的問題点(Ethical Issues in Human Stem Cell Research)の執行上の摘要」を要約して紹介したい。

ヒト幹細胞研究における倫理的問題点の執行上の摘要

    国立バイオエシックス諮問委員会(以下NBACという)は、一九九五年一〇月三日にクリントン大統領によって署名された大統領行政命令(Executive Order)によって設置された。NBACの機能は、以下のように定められている。

    1. NBACは、次のことに関して、国立科学技術会議(National Science and Technology Council)並びに他の適切な政府機関に助言を与え、また、勧告を行う。

      1. ヒトの生物学や行動についての研究の際に起こるバイオエシックス的問題点に関連している部局、行政機関あるいは他の政府の綱領、政策、課題、使命、指針、並びに規則の妥当性、並びに

      2. 臨床応用を含む、研究の申請書。

    2. NBACは、ある原則を抽象的言葉ではなく特定の計画を引用して描写し、研究の倫理的遂行を管理する総括的な原則を同定する。

    3. NBACは、特定の計画について審査したり承認する責任を負わない。

    4. NBACは、国立科学技術会議からの勧告や推薦の要請にこたえるだけでなく、国会と公衆の両者からの考慮すべき論点についての提言を受けることがある。NBACはまた、国立科学技術会議の承認の下で、勧告や推薦を提供する目的で他のバイオエシックス的問題点を同定する。

執行上の適用

    【緒言】

    一九九八年一一月に、クリントン大統領は、NBACに、すべての倫理的並びに医学的な配慮の下に、ヒト幹細胞研究に関する問題点について徹底的な調査を行う任務を課した。大統領の要請は、幹細胞研究の胸を躍らせるような将来性のある科学的並びに臨床的な可能性を前面に打ち出しながら、一方では、この領域の科学的な探究への連邦政府の支援をめぐる一連の倫理的論争が起こっているという三つの別々の報告書に応じてなされたものである。特殊化されたこれらの細胞の分離並びに培養の成功の科学的報告は、致死的な病気に対してさえ新しい治癒をもたらす希望を与えたが、同時にヒト胚子や死んだような胎児の部分を使う研究の倫理に関する重要な国民の議論が復活した。

    【科学的並びに医学的な配慮】

    幹細胞は、動物で発見された独特な基本的な型の細胞である。体内には、多種類の細胞が見つかっており、ある細胞は他の細胞より、より特殊化されており、あるいは他とは異なる特殊な機能を行う。言い換えれば、幹細胞が分裂する時に、多くの幹細胞が幹細胞のままでいるのに、新たに生まれた細胞の中には、例えば、心臓、筋、血液、あるいは脳細胞のような特殊なタイプの細胞に成熟していき、我々の体内で毎日消耗され破壊されていく細胞の中のあるものを直ちに修復させる機能をもつものがある。これらの幹細胞は、持続的に自己再生することが可能であり、個人の一生を通じて、組織の再生のために働いている。例えば、腸壁表面の細胞層は、絶え間なく持続的に再生しており、皮膚は生気を復活し、血液中のすべての種類の血液細胞は産生されている。幹細胞という用語は、例えば血液中に見られる細胞の一種である造血幹細胞のような組織を再生する成人の生体内の細胞を意味するのが普通であるが、最も基礎的な並み外れた幹細胞は初期胚子に認められる。これら胚性幹細胞(embryonic stem cells ES細胞)は、より分化した成人幹細胞や他の細胞とは異なり、いかなる細胞にも発達する特殊の能力を保っている。

    発生中の胎児の始原生殖細胞(primordial reproductive cell)に起源をもつEG細胞(embryonic germ cell)は、ES細胞に似た特性を持っている。科学的並びに治療面における異例な可能性を示している初期胚と死体状態の胎児組織のそれぞれに由来する細胞群は潜在的に珍しい多能性をもつ。事実、科学者たちは、以前から一層特殊化した細胞や組織を生じるためにこのような細胞を使う可能性を知っており、それによって新しい世代の細胞群を、アルツハイマー病、パーキンソン病、心臓病、及び機能失調の腎臓のような障害や病気の治療に使用が可能であろうと思っていた。同様に、科学者は、ヒトの初期発生を理解するために重要な、おそらく本質的な手段として、また、救命薬品の開発や初期の細胞死あるいは損傷による不調の治療のための細胞置換治療の重要な手段として考えている。

    これらの細胞を得る技術は標準化されただちに使える研究手段として十分に発達してはおらず、何らかの治療法の発達は、数年先のことである。それゆえ、ES細胞やEG細胞はまだ、主として強烈な興味のある研究の対象なのである。

    現時点において、ヒト幹細胞は、次に掲げる細胞から誘導することができる。

    • 人口流産後のヒト胎児組織(EG細胞)

    • 体外受精(IVF)によって生じたヒト胚子で、不妊治療を受けている夫婦にとって不必要となったヒト胚子(ES細胞)

    • 研究資料の提供を唯一の目的として提供された配偶子による体外受精で生じたヒト胚子(ES細胞)

    • 体細胞核移植により、あるいは成人の細胞の核が脱核されたヒトあるいは動物の卵子の中に挿入される類似のクローニング手技によって、無生殖(asexually)で生じた将来ヒトになる可能性のあるヒト胚子あるいは雑種胚子(ES細胞)

    それに加えて、多くの可能性のある研究が最近、成熟生物から得られた幹細胞で実施されているが、動物実験では、この研究方法は科学的にもまた技術的にも限界があると示唆されており、ある場合には、細胞の解剖学的起源によって容易かつ安全な手段があらかじめ排除されている。しかし、危険性や同意に関する通常の懸念以外には、成人の幹細胞についての研究に関する法的規制も新しい倫理的配慮もないので、この分野における重要な研究は推進することが可能であり、するべきである。さらに、胚子と成人の幹細胞との間に重要な生物学的相違が存在するので、幹細胞のこの起源をES細胞やEG細胞研究の代替え研究と考えるべきではないと思われる。

    【倫理的並びに政策上の配慮】

    ES細胞とEG細胞の分離培養の成功の科学的報告によって、ヒト胚子並びに胎児の死体組織を含む研究に関する倫理をめぐる長年の論争が更新された。この論争は、随意の妊娠中絶とか研究への胚子の使用とかの際立って異なる道徳観から生じている。この領域で起こる倫理的・法的、並びに医学的問題の真剣な論争は、国内並びに国際的に継続している。この論争は、挑戦と機会を意味している。生命の始まりをめぐり道徳的に論争される重要な問題点に関するゆえの挑戦であり、重要な倫理的問題についての大衆による真剣な論争への新たな機会を提供するからである。我々は、この対話による意見交換が、生物医学研究がヒトの福祉を向上させるために貢献する機会と、重要な倫理的義務によって課された限界との関係についての大衆の理解を育成することを希望している。

    多くの人が、ヒト胚子はヒトの命の姿として敬意を払われるべきことに同意するであろうと我々は信じてはいるが、どのような形で敬意が払われるべきか、どの程度の保護が胚子発生のそれぞれの段階で必要であるかに関して不同意が起こっている。それゆえ、治療目的でない胚子研究は真蟄な関心を引き起こすべきであり、病気を治癒させ、ヒトの生命を保護するという二つの重要な倫理的誓約間の緊張感を高めなければならない。受胎の瞬間から胚子はヒトとしての道徳的地位をもつと信じる人々にとっては、胚子を殺すであろう研究あるいは類似する他のいかなる行為も悪いことであると考えられており、実施するべきではないと考えている。このようには思わない人々にとっては、論争で倫理的に許容し得る方針に至るのに、多くの重要な倫理的な関心事の複雑な調和が含まれている。これらの関心事の多くは道徳的基盤で論争され続けるけれども、社会的政策が少なくとも部分的には構成された上で、広範囲の全体的な合意の中で共存する。

    ほとんどの発言者にとって、これらの倫理的かつ科学的問題の解決は、かなりの程度、幹細胞の出所次第であろう。EG細胞系が生じるための死んだ胎児組織の利用は、死体からの組織や器官の目的別利用のように、研究がすでに設置されている公衆安全政策や監視に従っているという条件の下で、おおかた一般的に受け入れられている。胚子及びES細胞が生じる胚子について、ある人々は、この二種類の胚子の、間に倫理的な区別をつけている。一方を、研究目的だけに配偶子を用いた体外受精によって生じた胚子は、研究用胚子と考える。クリントン大統領を含めて、多くの人は、研究用胚子をつくることを含む研究に連邦政府は研究費を出さないという見解を表明している。第二の型の胚子は、不妊症治療のために創造されたものであるが、治療には向いていないかあるいは治療にはもう必要がないために捨てられようとしている胚子を使うことに対しては、ほとんど倫理的な疑問は起こらない。なぜならばこれらの胚子の最終的な処分は変わらないからである。

    最後に、人間以外の動物におけるクローニングの手技(体細胞核移植)に関する最近の所見によれば、人間以外の動物の卵子内へのヒト体細胞核の移植によって、ES細胞の出所として用いられ得る胚子を創造し得るかもしれないという。この手技を使って、ヒトの生体を創造することは、体外受精を用いて研究用胚子を創造することに対して起こったのと同様な疑問が起こり、現時点においては、このような研究のためには、連邦政府の資金は使用できない。その上、もしヒト体細胞核と一緒にする脱核卵母細胞がヒト以外の動物からのものならば、創造された胚子の性状に関して別の問題が起こるであろう。それゆえ、各要素の出所が倫理的問題のみならず科学的医学的、さらに法的な疑問を引き起こす。良心的な人々は、幹細胞研究領域における公共政策並びに個人的行動の両方に関する異なった結論に達している。彼らの本質的な異なった見解の違いは、いかなるものといえど一つの公共政策によって容易にギャップを埋めることはできない。道徳的論争がある公共政策の発展は、米国合衆国に存在する多元的な民主主義にとって先例のない難問ではない。我々は、この報告書の問題点について強く主張される種々異なる見解について十分に知っており、この問題を討議した会議のそれぞれにおいて、これらの異なる見解と奮闘してきている。これらの議論を通じての我々の目的は、共有した見解を十分に反映する一連の勧告を策定することであり、社会にとっての最善の利益を提供することであった。

    ほとんどの州では、本報告書で述べているES細胞やEG細胞を創造する方法に関して何ら法的制限をしていない。さらに、連邦食品薬品局規則は、このような初期段階の研究には適用されない。それゆえ、米国合衆国におけるこれら活動をめぐる公衆の論争は、連邦政府がそのような研究を支援するのが適切であるかどうかであった。そこで本報告書は、本研究の科学的価値や実質的な臨床的成功の可能性が連邦政府の支援を正当化するかどうか、もしそうならば、どのような制限と安全策をつけるのか、という疑問に焦点を合わせた。

結論と勧告

    本報告書は、NBACが達した結論と、次の領域における勧告を示す。その領域は、ES細胞あるいはEG細胞の入手・研究のために連邦政府の資金提供の倫理的許容性:死亡胎児組織あるいは不妊治療後残っている胚子を提供した女性あるいは夫婦の適切な同意を保証する方法:これらのものの販売制限並びにこれらの利用から恩恵を受ける人々の選定の必要性:これらの研究の国家レベルと研究所レベルにおける倫理的監督及び研究と調査、及びこれら勧告のあるものについての私企業による任意の同意の適切さ。

    1. 資料の出所によるES細胞やEG細胞研究への連邦政府基金についての倫理的許容性

      ヒトのES細胞あるいはEG細胞を用いた研究の公共資金提供に対する主要な倫理的正当性は、この研究が、重症な致死的な疾患にかかっている個人に健康上の恩恵をもたらす可能性をもっていることである。ヒトのES細胞やEG細胞の出所は、究極的には研究や臨床的応用にとって重要である。なぜならば、細胞生物学における重要な違いの可能性のみならず、例えば異なる増殖能力、異なる増殖の可能性、異なる手に入り易さ、異なった操作される能力があることについて、我々は認めている。それゆえ、ここでNBACは、ES細胞とEG細胞の利用と誘導に対する連邦政府の投資は、不妊症治療後に残された死んだ胎児組織と胚子の二つの出所に限るべきであると信じている。特別の勧告とそれらの正当性の証明は以下に述べてある。

      〔勧告一胎児組織からのEG細胞〕

      死亡した胎児の組織からのヒトEG細胞の誘導と使用を含む研究は、連邦政府の基金の有資格であるように継続するべきである。関連の制定法や条例の倫理的安全装置はまた、研究目的のヒトEG細胞の誘導と使用にも適用するべく改正するべきである。

      〔勧告二不妊症治療後に残されている胚子からのES細胞〕

      不妊症治療後に残されている胚子からのES細胞の誘導並びに利用を含む研究は、連邦政府の基金に選ばれる資格があるべきである。胚子の研究に連邦政府の資金を使うことを禁じた現在の制定法に例外を作り、公衆の監視及び検閲を含む適切な規則の下で、この出所からのヒトES細胞の誘導を含む研究への資金提供を連邦政府機関に許すべきである(勧告五-九参照)。

      〔勧告三体外受精を用いて研究目的のためにのみ作られた胚子からのES細胞〕

      体外受精を用いて研究目的のためにのみ作られた胚子からのヒトES細胞の誘導あるいは使用を含む研究に資金を連邦政府機関は提供するべきではない。

      〔勧告四卵母細胞への体細胞核移植を用いて作った胚子からのES細胞〕

      卵母細胞への体細胞核移植を用いて作った胚子からのヒトES細胞の誘導あるいは使用を含む研究に連邦政府機関は資金を提供すべきではない。

      〔勧告五不妊症治療後に捨てられる胚子の幹細胞研究への提供のための必要条件〕

      不妊症治療後に残った胚子の提供を希望する人は、胚子の処分に関する十分な説明を受けた後の自発的な選択をするのに時宜にかなった要領がよい適切な情報を受けるべきである。胚子の研究用の使用について考慮する前に、提供候補者は、胚子の保存、他の女性への提供、あるいは破棄という選択肢を提供されるべきである。もし、胚子を廃棄することを選択したならば、研究のために胚子を提供する選択の自由が提供される。不妊症治療の後で残っている胚子が研究に利用される可能性についての質問を含む胚子提供候補者の質問には、嘘をつかずに、尋ねられた質問に関連のあることについてのすべての情報について答えなければならない。

      捨てられてしまうかもしれない胚子を研究に用いる可能性についての説明の間に、胚子の提供を望む人は、

      1. ES細胞の研究は、胚子提供者への医学的利益を提供する意図はないこと

      2. 研究への胚子の提供に同意しても拒否しても、胚子提供候補者に提供される将来のいかなるケアの質に影響はないこと

      3. 胚子を使って行われる研究の一般的な領域や特別の研究計画書がもしあれば、その説明

      4. 研究費の出所や、胚子を使っての研究による商業的利益

      5. 研究に使用される胚子はいかなる他の女性の子宮内に移植されることはないこと

      6. 研究では胚子の破壊が含まれること

      を明らかにする。

      〔勧告六胚子提供者に幹細胞が特定の患者に提供される約束はしないこと〕

      不妊症治療後に残されている胚子を含む連邦政府の資金が使われている研究において研究者は、胚子提供者によって特定された患者を治療するために彼らの胚子由来のES細胞を使うことを約束してはならない。

      〔勧告七胚子や死体胎児組織の商取引〕

      胚子や死体胎児組織は、売買してはならない。

    2. 国家による監督並びに調査の必要性

      〔勧告八監督並びに調査の審査員会の設置と義務〕

      NBACは、国家幹細胞監督調査審査員会(National Stem Cell Oversight and Review Panel)を設置するべきである。そして、ヒトES細胞あるいはEG細胞の誘導あるいは使用が、本報告書で決定されている倫理的原則や勧告に従って実施されていることを確認しなければならない。審査員会は、広くかつ多くの専門にわたる委員構成で、一般大衆からの委員たちを含み、

      1. ES細胞やEG細胞の由来のための実験計画記録を再調査し、本報告書記述の必要条件に適合していることを承認し、

      2. 承認済の計画書に基づいて存在するES細胞とEG細胞の系統を承認し、

      3. 承認された計画書と承認されたES細胞系とEG細胞系の公式登録簿を維持し、

      4. データベースを確立し—公式登録(public registry)とリンクさせ—、連邦研究保証人によって提出された情報からなるデータベースを確立し(また、任意に、個人的な保証人によって提出された情報、これらの人の所有者の情報は適切に保護されるべきであろう)、ES細胞あるいはEG細胞から由来するあるいはES細胞あるいはEG細胞を使ったすべての計画書(出版した論文を含む研究成果等すべてのデータを含む)、

      5. 政策の評価や政策形成の支援として、承認された細胞系の歴史や最終的活用の後をたどるためにデータベースや他の適当な資料を用いて、

      6. ES細胞あるいはEG細胞が由来したあるいは使用した研究の実験計画書の再調査で考慮されるべき社会的倫理的な問題について支援団体への指導のため、そして指導を提供するための必要事項を確立する。

      7. ヒトES細胞及びヒトEG細胞の出所及び使用の両方に対する最近の科学の現状の評価をつけたNBACへの少なくとも一年に一度の報告、幹細胞研究の広い範曙における最近の回顧、この研究に関連して表出してきた倫理的あるいは社会的懸念の要約と、本報告書の勧告の妥当性と持続的な適切さの分析。

      〔勧告九幹細胞を得る実験計画書の施設内調査〕

      ヒトES細胞とEG細胞の由来を含む実験計画書は、施設内審査委員会(IRB)あるいは他の適正に組織され召集された施設内の審査会によって、国家幹細胞監督調査審査員会(勧告八参照)によって調査審査される前に調査され承認を受けるべきである。国家幹細胞監督調査審査員会による必要条件に従って胚子あるいは死亡した胎児組織を供給した米国内あるいは海外の個人あるいは組織体を確認することを含めて、この調査は国家幹細胞監督調査審査員会によって確立されたいかなる必要条件にも従っていることを確認するべきである。

      〔勧告一〇幹細胞の研究上の使用についての保証機関調査(Sponsoring Agency Review)〕

      すべての連邦政府の機関は、ヒトES細胞あるいはヒトEG細胞を使用する実験計画書についての審査方法が、国家幹細胞監督調査審査委員会によって確立されたいかなる必要条件にも従っていることを確認するべきである。そして、このような細胞系の使用を正当化する妥当性に特に注意を払うべきである。

      〔勧告一一連邦政府の資金供給を受ける有資格者である個人による研究支援の自発的行為〕

      連邦政府の資金供給を受ける資格があるであろうES細胞あるいはEG細胞を含む個人的に投資された研究課題のために、研究支援者及び研究者たちは、本報告書の中の適応する勧告を自発的に採用するように奨励されている。これには、ES細胞あるいはEG細胞の由来のための実験計画書の検査と細胞系証明書のための国家幹細胞監督調査審査員会への実験計画書の提出が含まれている。

      〔勧告一二連邦政府の資金供給を受ける資格がないであろう個人による研究支援による自発的行為〕

      研究目的にのみ創造された胚子からのES細胞を含む個人的に資金を供給され、連邦政府の資金を得る資格のない個人的な研究課題のために、

      1. 専門的学会や商業組合は、本報告書に根底のある根本方針に一致した倫理的安全策並びに基準を開発し公表しなければならない。

      2. このような研究に関与する支援者並びに研究者たちはこれらの安全策と基準に自発的に従わなければならない。

      〔勧告一三〕

      勧告八で述べた国家幹細胞監督調査審査員会は、五年を超えない期間、連邦政府と契約しなければならない。この期間が満了する前に、DHHS(Department of Health and Human Services)は、国家幹細胞監督調査審査員会が十分にその機能をはたしているか、同審査員会を存続させるべきかについて決定するべく、その活動を独立して評価することをNBACに委任した。

要約

    ヒト幹細胞研究における最近の発達は、新しい治療法が可能となり、人々の苦痛や苦悩を和らげるために役立つという希望を高めた。これらの発達は、また、ヒト胚子や死んだ胎児の組織を使う研究に関する深い道徳的な配慮について、社会的関心を喚起させるのに役立っている。これらの問題に関して、真剣な倫理的な議論が継続するであろうし、継続するべきであろう。しかし、公衆の意見や専門家の忠告、並びに出版された論文に徴してわれわれは、ヒト胚子や胎児はヒトの生命の形態として尊重されなければならないが、幹細胞の研究の科学的並びに臨床的な恩恵を忘れてはならないという実質的な同意を見いだした。連邦政府の後援の下で、ヒト幹細胞研究が遂行されることは重要であると認識した。もしそれが倫理的に責任のある方法で実行される限りにおいて。広範な審議の後に、NBACは、広く共有した見解の上で、許容し得る公共政策を前進し得ると信じた。本報告を通じて、われわれは、連邦政府の研究費支給並びに幹細胞研究の監督に関する勧告を提供したのみならず、この潜在的に有益な研究に関する深遠な倫理的問題についての重要な公開討論が更に助長されることを希望している。

まとめ

    米国連邦政府が幹細胞の研究のみならず、臨床応用による国民の福祉向上に、いかに熱心に真剣に取り組んでいるか、お分かりいただけたのではないか。

    わが国においても、ヒト幹細胞の基礎的研究が本格的に始動し、筆者もその活動に参加している。そして、その倫理面について真剣に研究をしており、今回はその研究の一部の情報を提供させていただいた。


星野一正
(京都大学名誉教授・日本生命倫理学会初代会長)