I 厚生科学の意義
- 21世紀に向け、疾病の成因の解明、革新的治療法の開発など厚生科学の一層の発達が人類の福祉と経済社会の発展に大きく貢献するものと期待されている。厚生科学は健康で自立と尊厳を持った生き方を支援する科学であり、その推進は、これまで経験したことのない新たな問題の可能性に配慮しつつ、人間と社会に対する広い視野、あたたかい心と高い倫理観、深い洞察に基づいて行われなければならない。
II 厚生科学研究のこれまでの推進状況
- 昭和61年に発足した厚生科学会議において昭和63年、平成5年に策定された厚生科学研究に関する中期的な研究計画に基づき、これまで研究が推進。また、平成8年には政府全体の「科学技術基本計画」も閣議決定。
III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化
- 21世紀に向け、厚生科学研究を取り巻く状況は、個体レベル、社会レベル、地球レベルのそれぞれにおいて大きく変化。
IV 新たな変化に対応して求められる研究領域
- 健康科学研究の推進
- 疾病の克服を視野に入れた基礎研究、基礎研究の成果を臨床応用につなぐための研究。
- 健康科学としての生命科学研究及び生活の質の維持向上の観点からの研究。
- 少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進
- 社会保障制度の構造改革に関する政策に資する研究及び高齢者、障害者の自立と社会参加促進のための研究。
- 老人医学の研究、女性の健康支援及び児童の健康育成対策に関する研究。
- 根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用
- 根拠に基づく医療(EBM)の基礎となる臨床疫学研究及び医療・技術の有効性、有用性の評価に関する研究。
- 疫学情報の蓄積・利用の推進とプライバシーの保護に関する研究及び保健医療、介護、福祉、健康危機管理等に関する情報システムの整備に関する研究。
- 健康への脅威の対応と生活の安全の確保
- 新興・再興感染症及び寄生虫疾患等に関する研究。
- 新技術を応用した食の安全に関する研究及びダイオキシン等新たな化学物質問題、環境問題等に対応するための研究。
- 画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保
- ゲノム情報に基づいた新作用機序医薬品等の研究や倫理性、有効性、安全性の検討の下での再生医学に関する研究及び医薬品等の安全性確保に関する研究。
- 厚生科学の国際的展開
- 厚生科学による国際貢献、研究者の国際交流及び制度・基準等の国際的調和の推進。
V 今後の厚生科学研究の推進方策
1 今後の厚生科学研究推進の基本的考え方
(1)健康科学研究の推進
基礎研究の成果をより安全かつ早期に医療現場に展開するため、基礎から臨床までを視野に入れた健康科学研究の推進及び両者の橋渡しを行う研究の推進が重要。
(2)根拠に基づく医療(EBM)等の推進
根拠に基づく医療(EBM)等の考え方に基づき、新技術及び既存技術について、客観的な評価を加えた上で医療現場への普及及び国民への情報提供を行うことが重要。また、このような実証的な考え方は他分野でもその活用が必須。
(3)厚生科学研究を総合的に推進するための法制面も含めたシステムの検討
厚生科学研究の基盤強化のためには、疾病等の個人情報や医療機関等からの情報の集積が必要。このため、個人情報を保護しつつ共同活用を図るために必要なシステムを検討。
(4)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備
生殖医療や遺伝子治療等の高度先端医療技術の進展に伴い、科学技術と社会との調和を図るため、社会的、倫理的観点からのガイドラインの検討など研究実施体制の整備が重要。
2 今後の厚生科学研究の推進方策
(1)研究企画・評価、研究費の配分及び研究組織
- 研究企画・評価の充実
戦略的研究分野の適切な設定など研究企画の充実及び計画に基づく定期的な評価の実施が重要。
- 研究目的等に応じたグラント型研究とプロジェクト型研究の活用
研究目的、行政ニーズ等に応じ、グラント型研究(研究者の応募による小規模研究)とプロジェクト型研究(大型の組織的な研究)をその特性を生かしつつ活用。研究費執行の柔軟な対応について検討。
- NIH等を参考とした国立研究機関等の改革強化及び他の研究機関との連携・交流の推進
大型・長期の研究分野においては、国立試験研究機関や国立高度専門医療センター等を拠点として位置づけ、厚生行政と一体となった役割を果たすべき。その際、米国のNIH(国立健康研究所)等を参考とし、他機関とも連携しつつ、集中的、集学的な研究が実施できるような組織強化が重要。
(2)新たな分野の人的資源の養成・確保
- 新分野の研究者及び研究支援者の養成確保
生命倫理学、生物統計学、臨床疫学及び医療経済学等の分野の専門家やリサーチ・ナース、リサーチ・ライブラリアン、臨床試験コーディネーター等の研究支援者及び実験動物の管理者などの人材の養成・確保が重要。
- 若手研究者の支援
若手研究者の任期付採用やポストドクターの活用による人材の流動性確保など研究者の経済的基盤の確保と資質向上を図ることが重要。
(3)研究支援体制の整備と研究資源の確保
- 疫学情報等の活用の在り方に関する制度的な検討と基盤の確立
EBMに基づく医療・介護サービス等の質の向上のためには、各種統計情報や研究者個人の蓄積した長期にわたる疫学研究情報等を公共財として共同利用していくことが重要であり、がん等の疾病登録システムの在り方、国立病院・療養所のネットワーク等の検討と活用が必要。
- 電子医学図書館機能の充実
我が国における過去の臨床研究の成果に関し、その集積と解析を行う電子医学図書館機能の充実について検討が必要。
- 研究資源の提供基盤の充実
ヒト由来遺伝子、細胞、病原体及び特殊実験動物等を収集、保存、提供するリサーチリソースバンク機能の充実など研究資源の提供基盤の充実が重要。
(4)研究成果の公開と知的所有権の保護
ホームページ等の活用による研究成果の公開推進及び研究者への啓発や研究評価における特許の位置づけの明確化など知的所有権保護を推進。
(5)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備
- 審査準則の制定と自主審査体制の充実
安全性等がある程度確立し普及した遺伝子治療臨床研究については、迅速な取組みが行えるよう、国において審査準則を制定し、審査事項等の標準化を図ることにより、現行の個別審査から自主審査の充実への切り替えを図ることが必要。その際、新規あるいは症例の少ない治療法の取扱い等について、引き続き本審議会で検討。##また、現在、枠組みが設けられていない生殖医療、クローニングなどの新技術の応用については、政府全体の立場からの検討の動向も踏まえつつ、引き続き本審議会で検討。
- インフォームド・コンセントの徹底と情報の公開等
遺伝子治療や生殖医療技術等の実施に当たっては、患者に対するインフォームド・コンセントの徹底と情報の適切な公開を進めていくことが重要であり、併せて研究者等に対する倫理観や法知識の教育・研修が必要。
- 被験者に対するインフォームド・コンセント、プライバシーの保護等
新しい診断・治療法の研究におけるランダム化比較対照試験等に関し、被験者に対するインフォームド・コンセント、プライバシーの保護等被験者が安心して協力できるような体制の整備が重要。
(6)健康危機管理の推進
国際的にも化学物質、微生物等によるテロリズム(バイオテロリズム等)に対する健康危機管理体制の整備の重要性が指摘されており、地域における体制の整備、国と関係機関との連携等について、技術面、法制面を合わせた検討が必要。
(7)厚生科学研究に対する理解と協力
研究成果の享受と研究のための情報提供は表裏一体であり、医療や科学技術の向上と透明性の確保の観点から、国民の厚生科学研究に対する理解の促進、啓発、情報発信等に努めることが重要。
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