国立感染症研究所遺伝子資源室の今後の在り方について

 

1. JCRB遺伝子バンクの経緯

  1. 1984年に対がん10ケ年総合戦略事業の一環として発足した、がん研究振興財団によるJapanese Cancer Research Resources Bank(JCRB) の遺伝子DNA部門の業務は国立予防衛生研究所(ウイルス・リケッチア部)に主として委託され、JCRBに登録されたDNAクローンをすべて保管し、供給依頼など手続きの窓口にもなってきた。

  2. こうした業務を継承し発展させるために、平成4年度発足の新組織では遺伝子資源室として独立して運営されることとなった。その業務は「遺伝子の収集、保存、提供及び開発並びにこれらに必要な研究に関することをつかさどる」となっている。

  3. 対がん10ケ年総合戦略事業が終了し、 平成7年度から遺伝子バンク事業のうち、遺伝子の開発・収集、育成維持の事業費が 「疾病遺伝子解析DNAバンク事業費」として現国立感染症研究所に予算化され、当室はマスターバンクとしての機能を果たしていくこととなった。一方、 有料化にともなって、ヒューマンサイエンス財団による研究資源バンク(HSRRB)が 供給業務を担うことになった。マスターバンクとしてはひきつづきヒトゲノム解析にむけて、ヒト染色体特異的DNAマーカーの収集に努め、 5,000クローン以上を保管すると共に、数万の単位のEST(Expressed Sequence Tag) クローンの収集も開始した。 

  4. 有料化にあたっては品質管理を一層強化する必要があり、供給機関がその能力を持ち、育成・維持機関との連係でバンクとして一体のものとして運営されることが必須である。

    そのためにも厚生科学基盤技術開発研究所が構想されていたが、その具体化は当面、中止されることとなった。

 

2.遺伝子資源室の業務の将来展望

     厚生科学審議会答申「21世紀に向けた今後の厚生科学研究の在り方について」に研究資源の提供基盤の充実がいわれているように、厚生科学の推進のために厚生省としてリサーチリソースバンク機能の充実を図る必要があり、これまでの経緯からして少なくとも遺伝子研究材料については遺伝子資源室が国際的に通用するシステムの構築に向けて、携わらねばならないと考える。 

     ここ数年、ヒトゲノム全体のDNA配列決定プロジェクトとその一環として発現遺伝子部分(EST)のクローン化が大規模に進められ、21世紀初頭にはヒト全塩基配列決定が完了する勢いである。しかし、遺伝子の探索は並行して進められたとしても、全体としての遺伝子部分の確定とその機能解明は残された課題となると見られる。 したがって、今後厚生省遺伝子バンクとして収集、供給すべき遺伝子資材として、

    1. ヒトおよびモデル動物としてサル、マウス、ラットの各種臓器cDNAライブラリーから完全長cDNAクローンを選択し、細胞で発現できる形や、遺伝子破壊や飽和突然変異マウスの解析による遺伝子の機能解明に資するため、完全長cDNAクローンのセットを作り、供給することが考えられる。マイクロアレイ化するためには重複のない完全長cDNAセットも必要である。

    2. 多因子疾患の遺伝子同定にむけたDNA多型によるゲノム解析のため、健常人および各種疾患に対応する患者DNAを収集、保存していくことがバンクに期待されており、研究チームと連携した体制づくりも課題となる。

     そうした基盤的研究に基づく研究支援業務の遂行には国の研究機関としての関与が必要であり、今後とも 持続的に業務が遂行できるよう財政的、組織的基盤強化を図っていく。また、 有料化にともなって、HSRRBが 供給業務を担う形となっているが、運営が軌道に乗るようにひきつづき連携を深めていく。有料化されると品質管理を一層強化する必要があり、供給機関がそうした能力を持つことはもちろん、育成・維持機関との連係のため、基盤技術開発研究所のような組織の各部門として、両者が同一組織体の中で運営されることが必要であると考えられるので、その方向での発展をめざす。

      一方、遺伝子資源室が国立感染症研究所にひきつづき存続することをふまえて、研究所の資源をバンキングする事が望まれる。感染症の遺伝的素因の探求にも上記のようなゲノムDNAの収集・活用が考えられるが、感染症と直接結びついたDNA資材として、各種ウイルスゲノムクローン、ウイルスベクターなどについても本格的に取り扱うことが必要である。

    参考図