厚生科学会議中間報告
高齢化社会へ備え
医療技術の研究開発の未来戦略を検討している斎藤厚相の私的諮問機関、厚生科学会議(座長・山村雄一前大阪大学学長)は二十一日、ガンやエイズ(後天性免疫不全症候群)の撲滅研究、老化のメカニズム、臓器移植など八つの重点研究をプロジェクト方式で強力に推進すべきだ、とする中間報告を提出した。厚生省は今秋にも遺伝子治療のガイドライン検討委員会を設置し、人工臓器や臓器移植に関する大型研究プロジェクトを発足させる。高齢化時代の医療・福祉の戦略が、これで整うことになる。 厚生科学会議は山村座長、杉村隆国立がんセンター総長、森亘東大学長、評論家の柳田邦男氏ら九人のメンバーに斎藤厚相をまじえた懇談会。昨年末から、バイオテクノロジー(生命工学)など先端技術をどう医療に取り入れるか検討していた。 中間報告はまず今後五年間に重点的に進めるべき医療研究分野として①ガンの解明と治療②心臓病をはじめとする老化・成人病③アルツハイマー型老人痴呆(ほう)など精神・神経痛④エイズ、肝炎、ATL(成人T細胞白血病)など感染症⑤人工臓器と臓器移植⑥遺伝子治療⑰母性・小児病⑧コンピューターを利用した新薬開発技術、の八項目を示した。 特に生命倫理の問題が残っている臓器移植や遺伝子治療について積極的に研究を進めるべきだとしている。これらの問題に厚生省は従来中立的態度をとり続けて来たが、同会議の提言を受けて心臓移植や遺伝子治療の実施を前提とした研究開発に前向きに取り組む方針だ。 報告はさらに、それぞれの研究領域ごとに総合的研究休制を組織して国立研究所、大学、民間等の連携や基礎分野と臨床分野の結びつきを強め、機動力に富んだプロジェクト研究を実施すべきだと強調している。研究基盤の確立のため、厚生省関連の試験研究機関のスクラップ・アンド・ビルド、厚生科学審議組織の設置、研究予算の増額、厳しい研究評価体制の確立なども提誉している。 六十二年度の厚生省の科学研究費は三百九十八億円。通産省の四千二百五十二億円に比べ少なく、米国厚生省の研究予算(一九八七年度)約一兆円とはさらに大きな差がある。厚生省は同会議の提言を具体化するためにも六十三年度以降の厚生科学研究費の大幅アップを目指すとしている。
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