データ狂わせ研究にも支障,理化研・細胞銀行が調査
生命科学の研究に欠かせない培養細胞の収集、保存などにあたる理化学研究所の細胞銀行(茨城県つくば市)が全国の.大学や研究所から集めた培養細胞を調べたところ、半数にマイコプラズマという微生物が混入していることがわかった。このような汚染された培養細胞を実験に使うと、データが不正確になったり、無意味な研究を続けたりする恐れがあり、細胞銀行では各研究機関に対し、培養細胞の管理には十分気をつけるよう、呼びかけている。 培養細胞は、正常な組織や「がん」の組織などから一個だ分離した細胞をガラス答器の中で代々培養して増やしていくもので、医学や生物学の実験材料として広く使われている。 理化学研究所の細胞銀行は、大学や研究所がバラバラに保存している培養細胞を一カ所に集め、きちんと管理、保作するとともに、培養細胞を必要とする研究者に有料で提供するのが目的. がん細胞や、特許のために寄託する細胞などを対象とした細胞銀行はすでにオープンしているが、いろいろな細胞を収集して、だれにでも利用してもらおうというのは理化学研究所の細胞銀行が初めて。 ところが、各地の研究機関から集めた培養細胞をチエックしたところ、二百六十種類の細胞のうち四九%がマイコプラズマで汚染されていた。このため、汚染のないことが確実で、よく増殖する五十一種類の細胞をカタログに載せて、スタートした. マイコプラズマは、分類学的には細菌とウイルスの中間に位置する微生物で、ふだん口やのどにいる無害なものから、肺炎を起こす病原性のものまで数種類ある。細菌より小さいうえ、細胞壁がないので透明だ。このため、培養液一ミリリットル中に.一億個いても、液が濁らないので、汚染に気づかないという。 マイコプラズマで汚染された培養細胞は、遺伝子DNAの合成や細胞の増殖が抑えられたり、染色体異常を起こしたりする。また、培養細胞に感染させたウイルスの増殖にも影響を与えることがある。 汚染がひどいと、培養細胞のDNA合成を調べたつもりなのに、実際はマイコプうスマのDNA合成もプラスされていたということもありうる。このため、米国では、あとから汚染に気づき、二年間も棒に振った研究者がいるという。日本でも、培養細胞の表面たんばくに対する抗体を作ったと思っていたら、実はマイコプラズマに対する抗体だったという例がある。
理化学研究所の大野忠夫・副主任研究員は「十年間で一万種の細胞を収集する計画なので、汚染防止も含めて協力してほしい』と呼びかけている。
写真1:液体窒素に浸して細胞を凍結保存している理化学研究所の細胞銀行
写真2:マイコプラズマで汚染されたウシの腎臓細胞の電子顕微鏡写真 |