「炭酸ガスフランキを使わないてマルチウェル・スクリーニングを行う方法」
私は株細胞は炭酸ガスフランキを使わずに密栓した培養びんで継代してきましたから小さな規模の培養室は普通のフランキだけで間に合うつもりでした。ところが、マルチウェルのような開放型の培養容器を使おうとするとやはり困るのです。昔から、デシケー夕ーの乾燥剤を入れる所に水を入れ、ドライアイスを少しばかり(このデシケー夕ーには何gと決めて)入れれば炭酸ガス培養器として使えることは知られていますが、ドライアイスをその都度買うのも面倒だし、デシケー夕ーもないし・・・
そこでお風呂に入れるパプではどうかと思いつきました。折よくバスクリンを頂いたので(パプとバスクリンは別物だということは後で知りました)これだこれだと思って試してみました。ところが溶かしてみると強い香料の匂いがして、これでは細胞もたまらないだろうとがっかりしながら、パスクリンの有効成分をみると、重曹が主成分です。何だ重曹を入れればいいのではないかと思いついて、早速、密閉出来る容器をデパートに探しに行きました。プラスチック製の大きなお弁当ぱこで留め金がついていて、きっちり密閉出来、中にすのこが入ったものがありました。マルチウェルなら4枚入ります。すのこの下に水を入れてみたら100mlくらいで適量でした。
この容器の中にまず5%の重曹水を100ml入れ、PR(Phenol Red) 入りの培地を分注したマルチウェルを収めて37℃のフランキへ入れておきました。約1時間たつとPRの色からpHを判定してほぼ7.4。1週間、密閉したままおきますとそのままのpHを維持出来ました。同じ条件で純水をいれた容器では1時間後にpH8くらいに高くなっていました。
それからこの方法でマルチウェル・スクリーニングに困らなくなりました。実験的には1700㎝3の容器で1%〜5%の重曹水100mlで炭酸ガス5%の条件に見合うようです。大量の実験には役に立たないでしょうが、炭酸ガス濃度を細かく設定して、細胞の増殖に及ぼす影響などしらべることには役に立つと思います。実際に重曹水の至適濃度(炭酸ガス濃度ともいえる)は細胞によってかなり異なるという結果がでています。
実は、私は頻繁にインドネシアや中国などへ出かけまて牛や綿羊の体外受精の研究指導を行っております。しかし、どこに行っても炭酸ガス培養装置は無く、知識はあっても体外受精による胚を作り出すことが出来ません。
そこで考え出したのが簡易炭酸ガス培養装置です。
私どもの炭酸ガス発生装置は小型のシャーレに5mlの水を入れ、炭酸ガスの粉末を入れてガスを発生させます。チャンバー内のガスは2〜5%程度になるように調整しておきます。この方法で私たちは沢山の試験官ベビーを誕生させました。
基本的な考え方は高岡様と同じであり、既にこのような考え方をされた研究者がおられたということに大変感慨深いものがあります。今後とも何か良いアイデアがありましたらご教示下さい。今回は大変貴重な資料を頂き大変有り難うございました。
山口大と医療機器会社
開発した培養器は、縦十五センチ、横十センチ、深さ四センチのプラスチック製。鈴木教授が海外での技術支援のため、手軽に運べ低価格の培養器の製造を計画。牛のような大型動物でも子宮の容積が小さいことに目を付け、簡単に密閉できる弁当箱のおかず入れを思い付いた。内部は仕切りを入れるなど改造してあるが、外見はおかず入れそのまま。
牛の卵子を培養する場合、容器の中に卵子を入れた培養液と、二酸化炭素を発生させるため、炭酸粉末と水を混ぜたシャーレを置いて密閉。小型の保湿器に移し約二十四時間、卵子を成熟させる。その後、精子を混ぜて受精させ、再度、二酸化炭素を満たし八日間、容器の中で培養すると移植可能な成熟した体外受精卵となる。
成功率は11%と、これまでの体外受精培養器と変わりなかった。二酸化炭素を使うのは酸素の少ない子宮と同じ条件にするためという。
鈴木教授は「これまでの体外受精培養器は二酸化炭素の犬型ボンベを使うため移動が困難だった。開発した容器は持ち運びが容易で、七月にはインドネシアに持って行き、牛の体外受精卵移植を試してみたい」と話している。