【培地のお話】

6:AH601.P3の場合(pH)

AH601.P3細胞株の増殖に対するpHの影響 = HeLa.P3, M.P3との比較で考える

高岡聰子

実験条件

実験A

HEPES 5mg/ml 添加した場合のHeLa.P3とAH601.P3細胞の増殖への影響を観察した。なお、重曹水は添加しない。 結果は培養4日目の写真で示した(写真A)。

写真A
細胞HEPES添加(5mg/ml)の有無所見
HeLa.P3① + ② -培養開始時のPHが安定しているほうが増殖は良好
AH601.P3③ + ④ -培養開始時のPHが安定していないほうが増殖は良好

HEPES 5mg/ml添加をすることによって、細胞数が少なくCO2ガスが添加されていないという本実験のような条件下でも、PHは上昇しない。同じ条件下でHEPESを添加しないと培養開始時にはpHが8.0近くまで上昇する。

写真Aの結果は、HeLa.P3ではHEPESを添加したほうが(培養開始時のPH上昇が抑制されている)増殖は良好である。他の多くの細胞系もこのような結果となることは既に確かめている。しかし、AH601.P3(JTC-27.P3)細胞は全く逆の結果を得た。


実験 B

HEPESは添加せず。AH601.P3の様子をM.P3と比較した。

写真B
細胞重曹水添加の有無所見
M.P3① +② -M.P3細胞は重曹水添加が増殖良好。
AH601.P3③ +④ -AH601.P3細胞は重曹水無添加が増殖良好。

重曹水をCO2源として利用した実験は既に多くの細胞で確かめているが、実験AのAH601.P3の結果が不思議だったのでHEPESを添加しない実験を行ってみた。

重曹水を添加した培地ではM.P3細胞のように重曹水無添加の場合より増殖が良好であるケースが一般的である。

しかし、AH601.P3細胞の場合は、やはり、重曹水無添加(培養初期にPHが上昇)のほうが増殖が良好だった。


結論

一般的には無蛋白培地でもHEPESを添加すればCO2が無くても培養開始時のPHは安定で、細胞の増殖も良好である。しかし、AH601.P3細胞のように培養開始時のPHが安定しないほうが良好な場合もある。

イスコフ培地はHEPESを添加した培地なので、培養開始時のPHは安定している、そのため、シャーレなどを開放して操作することや少数細胞でのPH安定には適していると言えるでしょう。しかし、グルコースの含有量が多い培地なので、細胞の増殖がさかんになるとpHの低下(酸性側へのシフト)が大きくなるようです(恐らく乳酸産生のため)。


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