【勝田班月報:6712:MSPC-1細胞の蛋白合成におよぼす染色体倍化の影響】

《勝田報告》

 今回はある程度でき上った仕事というより、むしろ進行中の仕事が多いので、それと且計画中の仕事についてお話することにする。

  1. “なぎさ”培養中の細胞の復元接種:

     なぎさ培養によって、さまざまな変異細胞が生れ、それをさらに培養しつづけることによって、培養環境に適した細胞だけを淘汰してしまうので、結果として得られた変異細胞が動物にtakeされないのではないか。むしろさまざまな変異細胞の生じつつある時期の内に動物に復元接種した方が、動物体内でのselectionがかかって、takeされるのが残り且proliferateするのではないか。こういう狙いで、なぎさ培養中の細胞をラッテに復元接種してみた。接種は1967年11月5日。細胞は正常肝由来でRLC-5、RLC-6、RLC-10、何れもなぎさ培養148日、約100万個/rat、生後1日皮下に接種した。

  2. DNA-transformationの実験:

     なぎさ培養によって消化機能の低下した細胞が、とり込んだDNAを分解できないで、そのまま遺伝物質中に組込むのではないか、という推論の上に立ち、ラッテ肝細胞をなぎさ培養しておき、そこにヒト由来のDNAを添加してみることを試みた。これはspecies-specificityを利用して、ヒトDNAが若し組込まれてそのまま生物活性を維持するものであるならば、当然そのラッテ細胞のなかにヒト系の蛋白も合成されているであろう。それを蛍光抗体でdetectできないか−というのが出発点である。

    1. HEp#2に対する抗血清

      ヒト細胞としてHEp#2をえらび、雑系ラッテ生後約2ケ月♂♀各1匹に、生きたままのHEp#2を約2,000万個/rat右大腿部に筋注した。第19日に略等量を再接種し、第71日に採血をおこなった。結果は、Controlの無処理のrat血清ではHEp#2細胞は凝集しないが、接種ラッテの血清では、稀釋x64で+、x128で±という成績であった。

    2. FITC-ラベル

      この抗HEp#2・ラッテ血清を硫安分劃し、1/2飽和の沈渣にFITCを標識した。この血清を用いて予備テストすると、HEp#2細胞はきわめて強く蛍光を発するが、無処理ratの肝の培養では非特異的と思われる蛍光も認められた(写真展示)。非特異蛍光をできるだけ減らすには抗血清の抗体分劃をできるだけ精製することが必要であるが、現在一応γglobulinに相当する硫安1/3飽和の分劃を精製中である。

  3. 今後の研究予定:

    1. 4NQO-transformantsの染色体分析:

       前月の月報に、ラッテ皮下fibroblastsを4NQO処理し、得られたtransformantsについて、その染色体数の分析結果を記載した。そして、処理後の培養日数の経過と共にmodeに変化が起るのではないか、ということを推論した。今後は、これらの変異株について、もう一回染色体数のmodeをしらべ、それが当たっているか否かを知りたいと思っている。

       またRat Pancreas由来のfibroblastsを用いての4NQO実験群では染色体分析が未だ行われていないので、これをしらべることと、Collagen fiberを作りつづけているか否か、復元成績などについてもしらべる予定である。

       

    2. 4NQOの作用Phase:

       L・P3細胞を合成培地内でsynchronous Cultureし、これに4NQOを作用させて、Cell Cycleのどの時期に4NQOが特異的に作用するのか、をしらべるべく目下L・P3細胞の同調培養の基礎条件の検討をはじめている。

       

    3. 復元接種試験:

       相不変Rat待ちであるが、Ratがふえはじめたら早速次の接種テストを行いたいと、細胞をふやしているところである。RLH-5(純系ラッテ肝細胞のなぎさ変異細胞)とRTM-8(純系ラッテ由来のなぎさ変異胸腺細網細胞を純系のJARラッテへ、RLH-1(非純系ラッテ肝由来のなぎさ変異細胞)とRLH-2(非純系ラッテ肝由来のなぎさ変異細胞)をJARx雑系F1へ復元する予定である。



:質疑応答:

[黒木]銀染色をしようとするときは、培地交換だけはやりながら、長くsubcultureしないでおくわけですね。

[勝田]そうです。少なくとも2週間以上、ときには数カ月おきます。
それから、永井班員が我々の使っている4NQOをthin layer chromatographyで上げてみたところ、spotが一つだけでなく、いくつか現われたというので、そのお話しをしてもらいましょう。



《永井報告》

 この前の第8回班会議の席上で4NQOno製品にばらつきがあり、効力のないものもあるということで、これが果して薬物側に原因があるのか、それともTest系の側、つまり生物側に原因があるのかということが問題になり、それで4NQOの純度検定をやろうということで、私がその役目を引受けたわけです。しらべた4NQOは勝田研究室のもの3種。即ち
  1. 旧い製品、高岡さんによると効き方がわるいように思われるもの。
  2. 最近使っている製品。
  3. H3-ラベル4NQO(2.7μc/μmol、遠藤研究室製)。

これをケイ酸薄層クロマトグラフィーで調べてみました。使用したケイ酸はSilicagel薄層でよく使われているMerckの薄層クロマト用Kieselgel G。溶媒系はいろいろ試してみましたが、今のところクロロホルム・メタノール(90:10v/v)がよいようです。薄層はガラス板に塗布後、120℃、2時間活性化をおこない、展開は原点より15cm程までおこないました。4NQOは黄色のスポットとして移動しますから、肉眼で移動がわかります。クロマトグラフィーの結果は、4NQOのスポット以外に何も見えませんが、暗中、長波長(3650)のマナスルライト下でみますと、原点とそのすぐ上に青白色の蛍光を発する箇所が検出されました。旧い製品(A)、H3ラベル(C)では特に蛍光が強いようです。他の有機物を検出するためにH2SO4で焼いてみましたが、他にスポットはあらわれませんでした。それらは量としては極くわずかのものと考えられます。これが効力云々に関係するかどうかはわかりません。ただ水に親和性をもった物質であると推測されます。薄層には500μg程度の多量を使いましたが30μgでも十分見れます。その物質は(C)製品のケイ酸カラムクロマトでもやはり検出されました。(C)製品の薄層ラヂオスキャニングでは、黄色のスポットにのみカウントが検出されるそうです(安藤先生)。全体の感じとしては4NQOは化学的には相当安定な物質との感が強いですが、生物検定の側に立てば、また問題は別ということになるのかもしれません。この次は全く効かなくなった4NQOをテストする予定です。



:質疑応答:

[堀川]4NQOのどこにH3がラベルされるのか、それが問題と思います。薄層クロマトで核酸はどこに出ますか。

[永井]原点です。

[吉田]私の所の、効かないという4NQOをしらべて頂くことになりましたが、私のところでは、効く、効かないは染色体の断裂を起すか否かで見ています。

[永井]化学的な意義と生物学的な意義の関連性について判っていないのですから、このデータはまあ御参考までに、のつもりです。

[吉田]Ratの交雑系を作るのに、JARに褐色ネズミの純系をかけ合わせると良いかも知れませんね。F1は色で一目で判りますし・・・。

[堀川]DNA-Transformationの仕事は面白いと思いますが、Transformantsを釣るのにマーカーが問題でしょう。

[勝田]変異株がとれれば申分ないですが、当分はそこまで行く前の、初期変化でDNAの組込みがあるか否かを見たいと狙っている訳です。

[安藤]堀川さんの云われるSelectionに、何か良い方法がありますか。

[堀川]Sybolskyのように、培地条件でselectするという方法がありますが、これはまあ、初期段階で見てから、次の段階のことですね。

[森脇]抗血清を作るとき、細胞をつぶさないで接種するのでは、細胞表面の抗原に対する抗血清だけ作ることになるでしょう。

[堀川]つぶした方が良いですね。私の処ではX線をぶっかけてこわしています。

[梅田]Sonicatorが良いですよ。

[堀川]低張処理も良いです。

[高木]抗血清の吸収はやっていますか。

[高岡]現段階ではやっていませんが、考えています。例えば染められる細胞の方を前処理しておくとか・・・。

[堀川]4NQOの良く効くものはどこから入手できますか。

[吉田]4NQOは第一化学が市販していますが、これは染色体の断裂を起こしませんね。

[勝田]昭和医大の森和雄先生が“自分が実験に使いはじめたころは、光にあてないとか、瓶中の気相をNでおきかえておけ、とか落合さんに云われたものでしたが、この頃は皆さん無頓着で、あれで良いんでしょうかね。”と先日云っておられました。



《佐藤報告》

 4NQO関係の復元動物表(動物No.69〜101まで)と、RE-5系の4NQO投与実験図を呈示。

 4NQOは10-6乗Mを4〜6時間、または5x10-7乗Mを日数単位で与えた。動物へ復元したものの中、動物番号47でtumorを形成、また75、76では小さなtumorが肉眼的にみられる。目下観察中である。

 発癌した培養細胞には10-6乗M(EtOHにとかしたもの)4NQOで1回の処理時間が4〜6時間で19回処理され、総処理時間は大体100時間、培養日数は135日3代のもので、500万個細胞を脳内に接種した。接種より発見に至るまでの日数は47日で大豆大であった。悪性化した細胞株の染色体数は培養日数211日でモード42本が32%であった(分布図を呈示)。

 出来たTumorは肉腫の様に思われる。5匹の動物継代はいづれも陽性であった。現在の増殖率は、悪性株は1週間で4.4倍、Controlは1.2倍であった。

 再培養では余り増殖率がよくない。
 今後色々の問題を解決したい。



:質疑応答:

[高木]4NQO添加の実験で悪性化したと思われる系についてですが、4NQO培地から除いて何日後に復元されましたか。

[佐藤]第1回の復元は4、5日後、第2回はそれ以上あとです。

[黒木]19回も添加すると、その系は4NQOに対する耐性を獲得しましたか。

[佐藤]耐性は出来ていないようです。

[吉田]悪性化した細胞は形態的に変化していますか。

[佐藤]形態的に変化しています。いわゆる病理学的にみて、悪性像のものは動物に復元するとtakeされることが多いようです。pile upするような所見はあまり見られません。ウィルスの検索はしていません。

[堀川]高木班員の質問のつづきですが、4NQOを除いてから動物へ復元するまでの日数が短かすぎませんか。培地中の4NQOがそのままの形で動物に作用するという心配があると思います。それから4NQOを添加する、除く、又添加するというその間隔が短かすぎるので、pile upする程細胞が増殖するひまがないのではないでしょうか。

[佐藤]そうかも知れません。

[黒木]悪性化への条件の一つに、何回か細胞が分裂せねばならないということがあると思うのですが、佐藤班員のやり方のように、細胞が充分増殖する時間を与えずに次々と4NQOを添加するより、1回に添加する量をもっと多くして、その代り添加回数を減らすようにして、添加から添加までの期間に細胞がどんどん増殖する時間を与えてやった方が、早く悪性化するのではないかと考えます。

[佐藤]そういうことも今後検討してみます。

[藤井]全胎児を使うと、もともといろんな細胞がいるのだから、変異をみるのに材料として不適当ではないでしょうか。

[佐藤]不適当だと思っています。今日はお話しませんでしたが、ratの肝からの系で1例悪性化したのがありますので、今後その方も力を入れるつもりです。

[梅田]Dr.Leightonの仕事で細胞の悪性化を早くつかまえるのに孵化鶏卵の静脈に細胞を接種すると悪性度の強いものは肝臓にtumorを作るということを言っていますが、利用すると面白いと思います。



《黒木報告》

§4NQO及びその誘導体のDNA、RNA、蛋白合成に及ぼす影響について

 4NQO及びそのproximate carcinogenの4HAQOは、核酸、蛋白のいづれとも反応することが知られている。これらのexp.はCalf thymusDNAとか、腹水腫瘍(AH-130)を材料として用いている。完全に発癌することの分っている細胞と発癌剤の組合せで、これらの問題にせまるのも有意義と思われる。そこで、ハムスター胎児細胞に4NQO、4HAQOなどを与えたとき細胞の高分子合成はどういう影響を受けるかを調べた。

実験方法:ハムスター胎児2〜4代の細胞

  1. 直径18mmのカバーグラスに、細胞浮遊液を0.25mlのせる(50,000/coverslip)炭酸ガスフランキでovernight。

  2. 培地を加える−一定量の細胞がカバーグラス上で増殖する。

  3. 1〜3日後、細胞がLogarithmic growth phaseに入ったとき、carcinogenを添加。
    4NQO、10-5.0乗〜10-7.0乗M、5min〜60min。4HAQO、10-5.0乗〜10-7.0乗M、48hrs.。4AQOと3-methyl 4NQO、10-5乗M、24hrs.。

  4. 反応をとめる30分間前にH3TdR、H3UR、H3Leuをそれぞれ0.5μc/ml、1.0μc/ml、1.0μc/ml加える。このときの培地は、H3-TdR・・normal med.、H3-UR・・plus 10-5.0乗Mcold TdR,H3-Leu・・minus Leucine。

  5. formalineを10%に加え、反応をstop、同時にcellをcover slip上にfixする。

  6. 水洗→cold PCA(4℃)10分間3回→水洗3回→アルコール→乾燥

  7. windowless gasflow counterで測定、cover slipあたり2,000〜4,000のcountがでる。

結果:

  1. 4NQOの作用:(図を呈示)

     4NQOはDNA、RNA、蛋白合成をすべて同じようにinhibitする。とくにDNAのみをおさえるという所見は得られなかった。これは細胞をかえても同じである(ハムスター胎児細胞、4HAQOでtransformした細胞、HeLa細胞)。さらにこの60分という短時間におこるこのようなDNA、RNA、蛋白のdenovo合成阻害の機構は不明です。呼吸、解糖あるいは膜に働くためかと思っています(4NQOがATPaseに働くという仕事はある)。今後、呼吸阻害剤などを用いて調べてみるつもりです。

  2. 4HAQOの作用:

     4HAQOは作用が緩慢であるので、24〜28hrs.にわたって経過を追う必要がある。反応をとめる48分〜3時間に発癌剤を加え、最後の30分にH3を加え、一挙に反応をとめ、無処置のとりこみと比較する方法をとった。(図を呈示)以上のexp.から分ることは

    1. 4HAQOはDNA合成を特異的に阻害する。
    2. RNA、蛋白合成阻害はDNA合成にひきつづく二次的なものか、あるいは細胞数減少によるものかは不明である(cpmはcover slipあたりででてくる)。
    3. 4NQOと4HAQOの細胞に対する作用はまったく異る機構によるであろう。

  3. 発癌性のない物質の作用:

     4NQO、4HAQOの薬物対照として、発癌性のない誘導体4AQO及び3-methyl 4NQOでH3-TdRのとりこみ阻害を調べた。結果として、このようなproximateな発癌剤にDNA合成阻害がみられることと、発癌がどのように結びつくかは、今後の検討に待たねばならない。それは結局、DNA合成阻害がどのような機構によるのかを知ることでもある。次の段階としてH3-ラベルした4HAQOを用いるexp.を考えている。


§4NQOと4HAQOの毒性の比較(図を呈示)

 とりこみexp.からも分るように、4HAQOに比すと4NQOははるかに強い細胞毒を有する。

両者の差をハムスター胎児のコロニー法により定量的に比較した。第二代のハムスター胎児細胞を1,000〜5,000個feederの上にまき、24hrs.後に4NQO、4HAQOを添加、13日間培養後、コロニーをcountした。4NQOは10-6.0乗Mでは、コロニーは全くみられない。無添加群とほぼ同じP.E.を示すのは、4NQOでは10-8乗M、4HAQOでは10-6乗Mであった。transformed colonyは4HAQO 10-5.0乗Mにのみみられた。feeder layerは4,000r照射マウス胎児細胞。


§BHK-21細胞の4HAQOによるtransformation、特にsoftagar中の増殖能について

 月報6710、6711にBHK-21細胞が4HAQOによってheritableな変化をすること、BHK-21細胞はBacto-peptoneの存在のときに、softagar中でコロニーを形成することを報告しました。その後、BHK-21のtransformed細胞を、softagar中で培養したところ、Bacto-peptoneが存在せずとも、コロニーを作ることが明らかになりました。すなわち、4HAQOによって生じたコロニー形態のheritableの変化は、寒天中のBact-peptone依存性からの脱出と形質をも同時に伴っていた訳です。

☆寒天培養はbase Layer 0.5%、Seed Layer 0.33%(Noble-Agar)

☆培地は20%C.S.を含むMEM(Ser.Pyruvate)

☆Bact-peptone(Difco)は0.1、0.03、0.01、0.003のhalf log dilution(seed layerの濃度)

☆10,000/60mm dishにまき、12日間前後培養、6xの実体顕微鏡でcount(クリスタル紫で染色)

conc.Bacto-peptone  BHK-21 cells(clone#22)  Transformed(clone#4)
   0.1%                                  22.6                         27.0
   0.03                                    25.8                         23.8
   0.01                                    15.0                         22.4
   0.003                                    3.74                       22.9
   0                                          0                           21.4

両者の差は明瞭である。今後、Bact-peptoneを含まない寒天培地により、transf.のassayができそうである。(コロニーの写真を呈示)



:質疑応答:

[堀川]細胞のかたまりはプロナーゼで簡単にばらばらになりますか。

[黒木]ばらばらになりにくいです。

[安村]ばらばらになりにくいか、なりやすいかは、寒天の濃度に関係がありますか。

[黒木]寒天の濃度は0.33%しかやっていないので、わかりません。

[安村]細胞浮遊液と寒天は混ぜてから、シャーレに流すのですか。或はそれぞれシャーレに流してから混ぜるのですか。

[黒木]混ぜてから流します。

[奥村]ハムスター胎児の変異細胞とBacto-peptonの関係はどうですか。

[黒木]変異前の細胞はBacto-peptonなしではコロニーを作りませんが、変異細胞はなくてもコロニーを作るようです。

[勝田]4NQOを10-6乗M以上添加すれば細胞はこわれてしまうのですから、UR、TdR等の取り込みがおさえられるのは、当然ではありませんか。

[堀川]4NQO処理で各合成系がもう立ち直れない程やられてしまうわけですね。

[永井]立ち直れる細胞と立ち直れない細胞のみわけはどうやってつけますか。

[堀川]集団としてのcountをみるだけでなく、パルスラベルをしてオートグラフィの方法を組合わせて動態をみなくてはいけませんね。

[吉田]吉田肉腫を使って堀川班員の言われたような実験はなされています。それによると、S期、G1期は変らず、G2期がのばされています。

[梅田]発癌剤添加後の時間を追って、H3UR、H3TdRを添加して、取り込みをみてみるべきでしょうね。技術的に、H3UR、H3TdRは長時間添加しておくと、こわれてしまいますから、パルスラベルにしか出来ませんね。

[永井]Countの数値は細胞当たりですか。

[黒木]カバーグラス当りの数値でそれも問題です。今は処理時間を少しづつ減らしてみています。4NQOで変異を起こさせることの出来る濃度と、又DNAをやっつける濃度との関係を知りたいと思っています。

[梅田]4NQO投与後1時間位の所で、映画を撮ってみると、運動性はどうなっていますか。ATPがなくなれば動かなくなると思いますが。

[勝田]動きがにぶくなるようですね。

[堀川]これからは矢張りアイソトープをラベルした4NQOを使ってあまり濃い濃度でなく添加して、その行方を追うべきでしょうね。

[勝田]しかし、濃い濃度で処理すると細胞が死んでこわれてしまうので行方が追えなくなり、又濃度を薄くすると変異を起こす濃度からはなれてしまうので、何をみているのかわからなくなるという問題が残ります。



《高木報告》

  1. 4NQO及び4HAQO添加実験

    1. 月報6707に於いて報告した実験は対照と比較して殆ど形態等に変異を認めないので中止した。

    2. 月報6708、6711で報告したRTcellsに対する4NQO(10-6乗M/ml)添加実験は、現在NQ処理細胞移植後7週、無処理の対照細胞移植後約4週となるが、いずれも腫瘤の発生は認められない。

    3. HA-1(月報6711、Wistar king A系rat Thymus cellに対する4HAQO添加実験):月報6711に引続き継代中で対照は現在7代目、処理群は処理後4代目である。
       現在実験群はfibroblasticな細胞のcriss-crossが著明で一部pile upした像をみとめ、morphological transformationはおこしているものと思われる。
      WKAratの出産をまって復元の予定である。

    4. HA-2:HA-1と同じ細胞の6代目(培養開始後64日目)の細胞を用いて、これにHA 10-5乗M/mlの2回添加と5回添加(間隔はいずれも2日おき)とにつき検討中であるが、5回添加では現在かなりcell damageがある。

  2. NG添加実験

    1. NG-3:月報6710に於いて報告したRT細胞に対するNG添加実験群で、NG25μg/ml添加後66日目の現在まで、fociも特にみとめず、形態的にも特に対照と比較して変化はみとめられない。
       ただ、NG添加群の方が対照に比しMediumが早くacidicに変化する。

    2. NG-4:NG 10μg/ml添加の結果を継代中であるが、fociは形成しないが、criss-crossを認める。transformしたのかも知れない。

    3. NG-5:一カ月間観察したが細胞がはえてこないので中止した。

    4. NG-6:途中事故のため中止。

    5. WKAratの胸腺及び胃をorgan cultureして、これにNG 25μg/ml 4日間作用せしめ、cell cultureにうつしたが、24日目の現在、細胞のoutgrowthをみない。

  3. 更に新たな実験のために、11月4日WKArat生後4日目のthymusを用い、前回と全く同様の方法を用いてprimary cultureを開始した。
     又WKA系rat胃を培養して分泌顆粒をもったepithelial cellのoutgrowthをみたので供覧する。(顕微鏡写真を呈示)



    :質疑応答:

    [黒木]Ratの細胞の場合、NGは何μg位添加するのが適当ですか。

    [高木]10μg/ml位がよいようです。

    [黒木]Hamsterでは1.47μg/ml〜4.4μg/mlがよいようです。

    [堀川]復元してみましたか。

    [高木]まだ復元してみていませんが、復元の準備はしています。私の所の実験では、胎児でなく新生児を使っている事がミソです。それから機能を維持している系を使って、機能と発癌がどう関係しているかも、知りたいと思っています。

    [堀川]分泌顆粒のように見えるものが一杯つまっている細胞、あれは崩壊寸前の細胞なのではありませんか。

    [高木]そうかも知れません。

    [吉田]材料として胸腺の細胞を使った理由は何ですか。又、出て来た細胞の同定はしていますか。

    [高木]胸腺を使った理由は、私の所で扱い慣れているからです。培養条件を一定にしておけば、たやすく培養出来ます。細胞の同定はしていません。

    [吉田]勝田班長の所でも胸腺を培養していましたね。

    [勝田]私の所のは細網細胞のようです。その系を使って、なぎさ培養で変異したものもありますが、胸腺由来の癌はあまり悪性ではないそうですから、今後はあまり使わないつもりです。



    《奥村報告》

    1. Trophoblastsの長期継代培養

       この細胞の継代培養の方法については既に報告ずみであるので略きますが、最近得られた知見について2、3報告致します。

       -その1-
      培養開始後約10ケ月を経過したTrophoblastsが、最近、急に増殖が悪くなりこのぶんですと今年いっぱい維持できるかどうか危うくなってきました。現在、血清その他培地成分の再検討をしていますが非常に悲観的状態です。

       -その2−
      新たに培養をはじめたTrophoblasts(7月下旬)を約2ケ月前から199とEagle(MEM)の培地で培養してきましたところ、最近になって気がついたことですが、Eagleではfibroblast-likeの細胞が殆んどを占め、199ではEpithelial-likeの細胞が優勢を示しています。しかし、不思議なことに、これら2群の細胞はいづれもHCGwo分泌していることです。ホルモンのTiterは199群の方が高く、Eagle群では約1/2〜1/3量ぐらいのようです。細胞の増殖度は199群がよく、Eagle群の約2倍程度。さらにこれらの実験群から、現在数個のsingle cell cloneを分離し、clone間でのホルモン産生の比較を試みております。

    2. TrophoblastsのSV-40によるCell transformation

       現在までの実験では、殆んどの実験例においてtransformationが起こり、少なくとも2〜4週(感染後)で細胞の増殖能の誘導が観察されます。それと前後して、核の異型性、P.E.(Plating Efficiency)の上昇も認められることが多く、細胞の配列もみだれてくるようです。(SV-40感染細胞と非感染細胞の累積増殖曲線の図とP.E.、HCG分泌の表を呈示)

       以上のようにSV-40によってトロポブラストの増殖が活発になり、少くとも見かけ上はSV-40によって増殖が促進されたのではないかと推測される結果を得た。これら“transformed”細胞はその大部分がSV-40特異のT抗原を作っているらしいことが、Anti-SV-40T・Agを用いた蛍光抗体法でしらべられ、推論された。また、これらの細胞の増殖サイクルが短縮され、とくにG1相の短縮が顕著であった。



    :質疑応答:

    [梅田]SV-40による変異の場合ウィルス感染イコール変異となりますか。

    [奥村]それはわかりません。

    [勝田]増殖率が変ったということは、何でしらべていますか。

    [奥村]細胞数を計数しています。

    [堀川]SV-40による変異は、多くの研究者が手がけていると思いますが、この実験系でねらっているのは何ですか。

    [奥村]In vitroで悪性化したTrophoblastsのホルモン(HCG)産生と細胞増殖の関係がin vivoの同originの癌のそれと比較してどうかをみたいと思っています。それから、SV-40による変異は増殖を起こさせるのに短期間でよく、又一定期間であることを利用して、細胞増殖そのものもしらべたいと思っています。

    [堀川]悪性化を知る最後のきめ手としての復元実験が、人の細胞では不可能だということで困りませんか。

    [奥村]次にはマウスでやってみます。

    [黒木]アデノウィルスはかけてみましたか。変異は起りますか。

    [奥村]やってみていません。

    [堀川]材料をマウスにして、発癌剤と併用するという方向に持って行くと面白いと思いますが。

    [奥村]ウィルス発癌の実験でも、細胞の機能とむすびつけてみているものはないと思いますから、それだけでも面白いのではないでしょうか。HCGの分泌が細胞周期のどの時期でなされるかもみてみたいと思います。

    [高木]H3TdRの取り込みでみて増殖能のあるものと、ホルモンを分泌するものとが、生体では平行しないのですが、奥村班員の培養細胞はどちらの系ですか。

    [奥村]生体内でH3TdRを取り込まないということを増殖能がないとはいえませんね。細胞増殖と細胞の機能は平行しないと言われてきていましたが。

    [安村]In vitroの場合なら、増殖とホルモン産生は平行します。私の作った細胞の場合、その細胞はステロイドを産生するわけですが、細胞をバラバラにまいた場合と、部分的にcompactになるようにまいた場合とではステロイド産生量がちがいます。細胞間隙が密になると、同じ細胞数でも産生が大になるということがわかっています。

    [堀川]DNA合成と、特異蛋白の合成との時期がずれている、ということと関連しているのですね。



    《堀川報告》

    培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(3)。

     Cell renewal system(細胞再生系)としての骨髄細胞は細胞分化の過程を追求するのに非常にすぐれた材料であることは今更言うまでもない。われわれはこうした骨髄細胞をin vitroで培養することにより細胞分化ひいては化学薬剤処理によりLeukemogenesisの機構を明らかにしようとしてこれまでに種々の実験を行ってきた。現在はTill et.al.によって確立された脾臓コロニー形成法と培養骨髄細胞の移植によりX線照射マウスの生存率高上と云う2つの方向から基礎的実験を進めている。

     これはマウスの骨髄から得た骨髄細胞をin vitroでどの程度培養すると、その増殖能と機能を失うか、更にはどの様な細胞系にtransformして行くかなどの問題を知る上に非常に有力な方法である。そして最近ではこれらの実験から比較的面白い結果が得られているが、未だ実験例数が少ないのと技術的に検討を加えねばならない点があって現時点では明確な結果を報告する段階に至っていない。従って今回はこれらのうちの一部の結果、つまり骨髄細胞を培養した場合、培養時間と共にどの様にcell typeが変りしかもH3-thymidineの取り込みからみてlabeling indexが変るかを調べた基礎実験を報告する。

    マウスdd/YE strain(生後31日目の♀(2)と♂(5))から得た骨髄細胞は、形態学的さらにはHb染色、Peroxidase反応などから大きく次表のように分類される。(勿論これらについては将来さらに検討を要するが)

    細胞分類       0日目(%) 1日培養(%) 22日培養(%) Blast cells       2.3     2.2      0 Promyelocytes      4.8    10.5      0 Myelocytes       5.7     9.2 0 Metamyelocytes 6.2 10.0 0 Mature granulocytes 14.8 21.0 0 Lymphocyte like cells 31.0 16.7 0 Nucleated red cells 33.4 15.4 0 Unclassified cells 1.8 15.0 100

    これらの結果から分かることは培養1日目の骨髄細胞は取り出した直後の骨髄細胞の組成と殆ど変りないが、22日間in vitroで培養したものでは、その組成は大きく変り、殆どのものがunclassifiedの新型細胞となることである。しかも、取り出した直後の骨髄細胞を1μc H3-thymidine/mlで24時間cultureした時のlabeling indexが28.9%であるのに対して、22日間invitroでcultureした骨髄細胞を同様にH3-thymidineで24時間処理するとlabeling indexが依然24.4%に保たれている事からこの培養22日目においてみられる新型の細胞は明らかにDNA合成を行っているliving cellsであると考えられる。

    現在はこれらの細胞をX線照射マウスに返して脾臓コロニー形成能およびマウス生存率を検定している。



    :質疑応答:

    [梅田]白血病の培養は培地がむつかしいのですが、培地は何を使っていますか。イーグルの培地はだめでフィッシャーの培地がよいようですが・・・。

    [堀川]YLHでは細胞がガラス壁につかないのです。pHは6.2位まで下げるのがよいようです。今使っている培地の組成はTC199 70%、TPB 10%、BS 20%です。

    [梅田]1日後の細胞所見は塗抹標本によるのですか。

    [堀川]1日後のものは塗抹です。22日のものはカバーグラスについたものです。

    [安村]細胞は何を採りたいのですか。

    [堀川]勿論stem cellです。今の所、培養で残ったものが何細胞でどんな機能があるのか、しらべているところですが、次には培養前に分劃してそれぞれの細胞がどうなってゆくのかみたいと思っています。

    [安村]私の実験では、マウスの脾臓をつぶしてメッシュにかけて、900レントゲン照射のマウスへ接種し、生き残りのマウスの脾臓をとってつぶして−ということを4回くり返すと、そのマウスの脾臓から培養にすぐなじんで増殖する細胞がとれます。この場合ガラス面にくっついている細胞には抗体産生能がないのですが、浮遊している細胞は羊血球を溶血します。

    [奥村]ガラス面では付かなくても ファルコンだと付くのではありませんか。

    [勝田]マウスへの照射量を700rにすると、細胞を入れてやらなくても、5ケのコロニーが出来るとすると、入れた細胞がコロニーを作るのではなく、入れた細胞のために自分の細胞のコロニー形成が促進されたのかも知れないということにもなるから、照射量を900rにして対照はコロニー0とした方がよいと思いますが・・・。

    [堀川]私もそうしたいと思いますが、実験的には大変です。培養していない脾臓の細胞1万個と培養後の細胞100万個とが同じ数のコロニーを作ることが出来ます。

    [藤井]コロニーを作る能力と抗体産生の問題はどうなっていますか。

    [堀川]これからしらべます。

    [吉田]この系に4NQOを処理して、どうなることを期待しているのですか。

    [堀川]無処理の細胞と比べて4NQO添加群の細胞の細胞分化がどう変ってゆくかをみたいと思っています。

    [安村]22日間培養した細胞は、レントゲン照射されたマウスを生存させることが出来るのですか。

    [堀川]それは次の班会議でお答えします。

    [森脇]分類出来ないとなっている細胞は、形態的にはわからないだけで、実際にはどの分類かにはいるはずだと思いますが。

    [堀川]そうかも知れませんが、今の所形態だけで分類していますから。



    《三宅報告》

     ヒトの胎児(体長約7cm)から皮膚を採取して、0.25%のトリプシン処理後4NQOを作用せしめる実験を続けて行った。Primary Culture3日間で広口瓶底にシートを作りあげる。その細胞は、いわゆる非上皮性の形態をとったもので、上皮性の細胞をうることは出来なかった。3日後に再びトリプシン(0.05〜0.1%)の処理を10分間おこなって、継代した。これに4NQO 10-6乗Mを作用、4日間作用させた所、細胞のシートは硝子面から剥脱され、細胞の変性が強いかに見えた。その中のNo.135に4NQO作用後30日目に細胞のコロニー様の残存を見つけることが出来た。その細胞はmonolayerを作り、束状をなさず、形質中に顆粒が豊富に認められる。これについては目下経過を観察中である。

     同じくヒトの胎児皮膚を用いて、前の実験と同様、Primary Culture4日後、うえ継いだもので実験を行った。その4日後に顆粒の多い細胞がMonolayerを作った。これに5x10-6乗M・4NQOを作用させたものは、すべての細胞は変性壊死した。2.5x10-6乗Mのものの作用中の細胞は同じく顆粒の形成が強い、が顆粒の少いものも混在し、単核で大型のものが散見された。これは作用後10日目に2個所に少し異型と考えられる細胞群を見つけることが出来た。いわゆるCriss-Crossの像をしのばせ、Piling upしたのでないかと考えられた。その配列はControlのものにくらべて明らかに異っていて、周辺の細胞(Criss Crossをしめした群の周辺の意)も、Controlの束状の紡錘形のものと形態学的に違っている。目下、これも追究中である。



    :質疑応答:

    [堀川]細胞はどうやって培養へ移されますか。

    [三宅]皮膚をはいで、小さく切って、0.25%のトリプシンに入れて1時間37℃に放置します。その後よく洗って培地を加えます。subcultureに使うトリプシンは0.05〜0.1%にしています。

    [藤井]皮膚は全層ですか。

    [三宅]そうです。

    [藤井]私も皮膚の表皮を培養したいと思って、濃いトリプシン液ではがして培養してみましたが、ちっとも増殖しませんでした。

    [三宅]表皮だけにすると、培養で維持出来ないようです。

    [勝田]増殖しているのはfibroblastsではありませんか。

    [三宅]そのようですが、まだ同定していません。

    [黒木]ファルコンのシャーレを使ってコロニーレベルでも調べてみるとよいですね。

    [三宅]今は炭酸ガスフランキがありませんので。

    [梅田]デシケータを使って炭酸ガスを送り込めば、炭酸ガスフランキの代りになりますよ。

    [勝田]染色体についてしらべましたか。

    [三宅]まだしらべていませんが、染色体、銀センイを作っているか、などしらべるつもりにしています。

    ☆ファルコンシャーレについての議論はじまる・・コーティングに何を使っているのか? 大阪の川原氏の推薦されたコーティングをしてみたら、細胞がみんな死んでしまったそうだ。 何とか三光純薬など通さずに、アメリカから安く購入出来ないものか。等々。



    《吉田報告》

    マウスプラズマ細胞腫瘍(MSPC-1)における蛋白合成におよぼす染色体倍加の影響

     マウスのプラズマ細胞腫瘍28系統について観察した結果、これらの腫瘍には染色体倍加をおこし易い傾向が認められた。1966年に三島でFreund adjuvant処理によって誘発したMSPC-1においても同様の傾向がみられ、移植2代目に4倍性細胞の割合がかなり高くなった。このときに2倍性細胞を撰抜して作ったMSPC-1-D系およびさらに倍加が進んで最終的に低4倍性で安定したMSPC-1-T系について、全蛋白合成、プラズマ細胞特異のミエローマ蛋白合成、細胞容積、蛋白含有量等を比較した。

     低4倍性細胞においては、染色体数が2倍系細胞の1.83倍になっているにもかかわらず、全蛋白合成は1.40倍、蛋白含有量は1.50倍、細胞容積は1.26倍にしか増加しない。これらの結果は、染色体の倍加によって増加した遺伝子が必ずしも全て発現されるのではないことを示唆している。両腫瘍系のミエローマ蛋白合成を比較してみると、やはり同様の傾向が認められる。すなわちミエローマ蛋白合成/全蛋白合成の比は2倍性細胞で0.0107、低4倍性細胞で0.0073となり、倍加したグロブリン合成遺伝子の半数は働いていないと考えることも可能である。

     これらの結果にみられるような、染色体倍加に伴う遺伝子量効果の抑制のおこる機構を明らかにするために、2倍性細胞の倍加がすすみつつあるいくつかの段階で上と同じような比較をおこなった。(図を呈示)倍加細胞の含まれる割合に比例して細胞あたりの全蛋白合成は増加していくが、この割合が約40%に達した後は増加しなくなる。

     一方、倍加をおこしている腫瘍細胞を位相差顕微鏡でよく観察すると2核細胞が含まれており、その頻度は(図を呈示)倍加細胞がほぼ40%含まれる段階で最も高くなる。縦軸に倍加細胞あたりの2核の頻度をとると、倍加細胞がごく少数現れたときに最も高く、倍加が進むにつれて低下する。2核細胞の頻度が下るのは2核の融合によって単核の4倍性細胞ができるためと考えられる。

     以上の観察結果を綜合すると、プラズマ細胞腫瘍においては、細胞質分裂の失敗による2核細胞の出現とそれに続く2核の融合によって染色体の倍加がかなり高い頻度でおこり、その際の蛋白合成は2核融合前には遺伝子量に比例して増加するが、2核融合後の単核4倍性細胞では遺伝子量の増加に比例せずある程度抑制された値を示すと考えることができそうである。

     2倍性および4倍性の吉田肉腫細胞において調べたところ、全蛋白合成は遺伝子量に比例して増加する傾向がみられた。上に述べたような遺伝子効果の抑制という現象は腫瘍細胞に共通した特性ではなく、むしろプラズマ細胞の特徴ではないかと思われる。



    :質疑応答:

    [勝田]細胞の体積はどうやって計算しましたか。

    [森脇]写真にとって、焼き付けて、切り抜いて、1ケづつ目方を計りました。1万個位計りました。

    [勝田]目的論的に言えば、住む人が倍になったからといって、倍の広さが要るわけではないということですね。

    [吉田]このplasma cell tumorの場合はこうですが、吉田肉腫の場合には4倍体の系では蛋白量も倍になります。

    [森脇]抗体産生細胞の特性ではないでしょうか。

    [勝田]抗体によらず特種機能をもった細胞に通じての特性かも知れませんね。

    [黒木]細胞周期は長くなりますか。

    [森脇]一世代が長くなります。

    [藤井]抗体産生細胞の産生する抗体量は細胞1ケ当りの量が決まっていますが、この系の細胞でもそうですか。

    [森脇]はっきりしていません。