韓国細胞株バンク、H-S Choi 博士滞在.1998年12月1日から14日
データベースについては、細胞や品質管理手法の進歩ならびにデータの発展に伴い比較的自由にデータベース構造の追加修正が可能であることが重要である点で相互の認識は一致し、同時にプログラム開発は、専門の開発メーカーに全面的に依存してしまうこと無く、かなりの自由度を持って内部でも開発が可能なコンパクトな言語を利用するメリットが大きいという認識は相互での一致を見ました. 特にKCLBで採用を決めた Borland 社の Delphi は、その扱いやすさと作成したプログラムの性能から他の言語より優れているという感触を得ました.JCRB細胞バンクのデータベース管理システムは、現在ではかなり古くなってしまっている dBASE 言語を使用しており、近々システムの改良を考えておりましたので、この情報は有意義なものでした. H-S Choi 博士の滞在中に、KCLBの簡単な歴史と活動状況およびKCLBが重視して取り組んでおられる、がん細胞株の樹立に関する紹介を簡単なセミナーでお願いしました.その際使われたスライドをお借りしてここに公開しておきます.スライドを見るだけでも内容の概略を理解して頂けると思います. なお、韓国で樹立された胃癌および大腸がん細胞5種類がこの機会を利用してExchangeベースでJCRB細胞バンクに寄託されました.
Choi博士には簡単なセミナーをして頂きました.その際のスライドをお借りして、スキャナーでディジタル化しましたので紹介させて頂きます.KCLBの事情と、KCLBで現在取り組んでいる研究課題の2点です (SNU = Seoul National University). 2000年5月 Choi博士からメールが入り、韓国細胞バンク(KCLB)では、新しい建物が落成し細胞バンクはそこに入って仕事を始めたという連絡を頂きました.Choi博士のメールと新しい細胞保存施設を紹介します.
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水沢 博、1998年6月28日から7月4日
1998年6月28日に韓国細胞バンクの朴 在甲(J.G. Park)教授の招きを頂き、JCRB細胞バンクの現状について紹介させて頂く機会を得ました.同時に、韓国細胞バンクの現状を見せて頂くこともできましたので紹介します.今回の会議は、「第1回韓国細胞株ワークショップ」(写真1:会場)、(写真2:オープニングリマークス、Dr.Park)と題して行われました(写真3:アブストラクト).内容は細胞の品質管理の話題(写真4:演題目次)と、韓国の有力な研究者が持っている細胞株の紹介の2つが中心的な課題でした.集まった研究者は最終的には650名を超え、活気に満ちたものでした.当初300名の参加を予定していたところに、これだけの参加希望者が出たということで、急遽会場を2ヶ所に拡張して、各演者は2回づつ講演をすることになってしまいました.特に若い研究者の方々が多かったことは今回のワークショップの特徴だったように思います.
話題は、(1)培養細胞の取り扱い方法、(2)韓国で入手できる細胞株の2つのセッションの2つから構成されいました. 培養細胞の取り扱い法に関するセッション(1)では、細胞の品質管理に関する話題が中心で、発表のほとんどは Park 先生の研究室の若手研究者からのものでした.マイコプラズマの汚染検査と除去に関する話題、DNAフィンガープリンティングによる細胞の同定、染色体の検査等に関する話題が中心でした.
細胞株のセッション(2)では、アメリカに留学された研究者の方が留学先で入手した細胞を中心に紹介がありました.
JCRB細胞バンクからは、時間の関係もあり細かな技術については触れずに、概略日本の細胞バンクで標準的に実施している品質管理法として、マイコプラズマの品質管理に染色法とPCR法を用いていること、アイソザイム検査、染色体検査、最近ではウイルス検査の導入に力を入れつつあることなどについて、いくつかの細胞の例を写真で紹介しながら話をしたあと、細胞株については、アブストラクトに一覧表を提供したので、インターネットで細胞を検索する方法を中心に紹介しました.
韓国では1992年ごろに細胞バンクを設立する努力が始まり、当時私もほんの少しだけ日本の現状を紹介しつつお手伝いをさせて頂いた後どのようになっているのかあまり情報が入っておりませんでした.インターネットの情報もあり、JCRB細胞バンクのWWWサーバーからリンクを張って紹介はしておりましたが、細胞の詳細な情報はまだ提供されていませんでした.
そこで、今回韓国細胞株バンクの現状がどのようなものか大変興味があったのですが、予想以上に機能しているとの紹介を頂きびっくりした次第です.
細胞バンクそのものは、Park先生の研究室、癌研究所(写真5)細胞学研究室(ソウル大学医学部)の中に設置されており、かならずしも規模は大きくはありませんが、Park先生が樹立した細胞を中心に欧米で樹立されたものを含めて 2−300 種の細胞を韓国内で頒布する体制が確立しておりました.頒布は有償ですが、韓国の経済事情に合わせて1株あたりの価格が20−30ドル程度に設定され、米国や日本に比べるとずいぶん安い設定でした. 細胞バンクはソウル大学医学部の中にありますが、長期的な視野で見た場合には大学から独立して財団法人化したほうが良いという発想で、Park先生が中心となって「細胞株研究財団」(写真6:財団のプレート)を設立しておられました.現在は原資が少ないため十分に機能しているとは言えないが、今後少しずつ寄付を募って少しでも充実されるよう努力したいとのことでした. Park先生が率いる細胞バンクは、人材の点で現在はまだ十分でなく、今後もすぐに職員を拡大できる情勢には無いとのことですが、Sumson財団からの多額の寄付を得ることに成功して新しい癌研究所を現在建設中でした(写真8:癌研究所完成予想図)、(写真9:工事現場)、 (写真10:工事現場のDr.Park と現場責任者).この建物の1フロアを細胞バンクに宛てる予定であるということを大変嬉しそうに語られた Park 先生は自信に満ちておられました.
しかし、私が驚いたのはPark先生の仕事ぶりでした.Park 先生はもともと外科の先生で今でも手術の執刀をされるとのことですが、がんの患者さんから切除した悪性組織を精力的に培養して細胞株として確立してきたとのことです(細胞株樹立に関する文献).そのため、多数の細胞をご自分で樹立し、それをバンクの主な研究資源として韓国の研究者に公開し研究の牽引役を勤めておられます.既に200種類を超える細胞の樹立をおこない、1992年から8年にかけて数本の論文にまとめられています.また大腸がんの原因遺伝子に関する研究も精力的にされており、大変なパワーの持ち主であるという印象を強く観じた次第です.
写真11は Park 先生と研究室の方々です.写真の人数は大変多いのですが、給与を貰っている正規職員はかなり少ないそうです.職員が増やせないのは日本と同じだということでした.このうち細胞バンクの運営に関与しているのは、2−3名ということでした. ここで使用したKCLBのロゴは Dr.Hyoseon Choi が作成したもので、博士は現在 KCLB を紹介するためのサーバーコンピュータを選定しWebサイトの改良を急いでいるところです.
なお、JCRB細胞バンクとソウル大学細胞株バンクとは、科学技術庁の日韓共同研究事業に登録し相互協力の体制をとっています.細胞バンク情報システム構築に関する相互協力、品質管理の相互協力、細胞の交換などを実施しております.