培養液添加物と添加方法

JCRB細胞バンク:大西清方
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調製された培養液に,更に種々のアミノ酸,非必須アミノ酸,ビタミン類などを追加して使用する ことがある.これらの補助試薬は,自家調製するか,または一般に市販されている種々の製品を購入 して使用する.

1. 蛋白加水分解物

    培養細胞の栄養要求も基本的に微生物と類似しているので, 微生物用培地に古くから使用されてき た各種の蛋白加水分解物が,前述したように組織培養でも使用されてきた. 最もよく使用されるのは ラクトアルブミン加水分解物(lactoalbumin hydrolysate),カゼイン加水分解物(casein hydrolysate) である.細胞培養には普通酵素水解した製品が使用される. アミノ酸以外にかなりの量のペプチドを含み, またアミノ酸組成もロットによってかなり異なるのが普通である. したがってこれを使用して培養結果が一定になるとは限らない.アミノ酸源として 0.4-0.5% になるように培養液に添加し, 非常に多数の種類の細胞の培養に用いられている.

    非常に吸湿性の高い粉末なので, 手早く所定量を計り取り水に溶かし, 薬包紙に付着している分も 水で流し込む. 吸湿性の割には水に溶けにくく, 濃厚保存液としては 5% が限度である. グルタミンと同様に熱に不安定であり漉過滅菌が望ましい.

    GIBCO BRL の製品で,Cat. No. 320-1250AG, Earle's BSS に 0.65% に溶解した製品があるが,上記の 5% 保存液を自家調製した方良い.


2. 酵母エキス

    酵母エキス(yeast extract)はビタミン源としてよく培養液に添加される. これはやはり極めて吸 湿性である. 滅菌は1 気圧 10 分程度の高圧蒸気滅菌を行う. 培養液の添加量は最終濃度 1-0.05% であるが, それぞれの細胞の培養について至適濃度を検討する必要がある. 酵母エキスには,カルシウム塩も含まれているので細胞が凝集塊をつくりやすい. 接着性細胞を浮遊培養に適応させた培養法で,Joklik の培養液を使用するときは添加できない.

    大日本製薬株式会社は,Flow Laboratories の製品,Cat. No. 30-003-49, 25% イースト抽出 液として販売されている.


3. 35% ぶどう糖液

    試薬特級無水ぶどう糖を蒸留水に溶解して 35% 溶液を調製する. ぶどう糖液はオートクレーブ滅 菌してはいけない. 高熱でカラメル化し着色する. 0.02 ミクロンのメンブランフィルターで漉過滅 菌し, 約 20 ml づつ小分けして密栓保存する. 使用に際しては, High glucose と指定されている 培養液に 1 L 当り 10 ml 添加する.  

4. アミノ酸液

  1. Basal Medium, Eagle 用, グルタミン不含

    組織培養用添加物として 100 倍液,FLOW LABORATORIES の製品が大日本製薬株式会社(16-001-49, 100 ml), GIBCO の製品がライフテックオリエンタル株式会社(320-1051AG 100, ml)から市販されている.Earle, Hanks の塩類溶液に 1% に添加し(グルタミンを規定量添加しなければならない),後述するビタミン液を同様に 1% に添加すると Basalmedium, Eagle を調製できる.またアミノ酸総量を 2 倍にして使用する場合に既製の Basal Medium Eagle に添加して使用する.

  2. Minimal Essential Medium 用,グルタミン不含

    組織培養用添加物として 50 倍液,FLOW LABORATORIES の製品が大日本製薬株式会社(16-011-49, 100 ml), GIBCO の製品がライフテックオリエンタル株式会社(320-1130 AG, 100 ml)から市販されている.Earle, Hanks の塩類溶液に 2% に添加し (グルタミンを規定量添加しなければならない),後述するビタミン液を同様に 1% に添加すると Basal Medium, Eagle を調製できる.またアミノ酸総量を 2 倍にして使用する場合に既製の Minimal Essential Medium に添加して使用する.


5. 非必須アミノ酸 (non-essential amino acids)

    培養液に非必須アミノ酸を添加することがある.FLOW LABORATORIES の製品が大日本製薬株式会社(16-810-49, 100 ml), GIBCOの製品がライフテックオリエンタル株式会社(320-1140 AG, 100 ml), 三光純薬などから 100 倍濃度で,100 ml 容の製品が販売されている.

6. ビタミン類

  1. Basal Medium, Eagle 用

    100 倍液,FLOW LABORATORIES の製品が大日本製薬株式会(16-004-49, 100 ml), GIBCO 社の製品がライフテックオリエンタル株式会社(320-1040 AG, 100 ml), 三光純薬などから 100 ml 容の製品が販売されている.

  2. Minimal Essential Medium 用

    100 倍液, FLOW LABORATORIES の製品が大日本製薬株式会社(16-014-49, 100 ml),GIBCO 社の製品がライフテックオリエンタル株式会社(320-1120 AG, 100 ml)などから販売されている.


7. Na-pyruvate 液

    培養液に Na-pyruvate を添加することがある.100 倍液,FLOW LABORATORIESの製品が大日本 製薬株式会社(16-820-49, 100 mM, 11.00 mg/ml, 100 ml), GIBCO RBL 社の製品がライフテック オリエンタル株式会社(320-1360 AG, 100 mM, 11.004 mg/ml, 100 ml)三光純薬などから 100 倍 濃度で,100 ml 容の製品が販売されている.


8. Tryptose Phosphate Broth(TPB)

    (DIFCO, Bacto Tryptose 20 g, Bacto Dextrose 2g, NaCl 5 g, Na2HPO4 2.5g)

    一般的な使用法は培養液に 10% に添加するが, これは粉末として 10% に添加するのではなく, 粉末の Tryptose phosphat broth を 29.5 g を 1 L に溶解し,121 ℃ 15 分滅菌した溶液を調 製し培養液に指定された量を添加する.


9. 1 M-HEPES 液 (HEPES)

    (2-Hydroxyethypiperazine N-2-ethansulfonic acid. M.W = 238.3). 大日本製薬株式会社より,Cat. No. 16-884-49, 1Mヘペス緩衝液,GIBCO RBL 社の製品がライ フテックオリエンタル株式会社より,Cat. No. 380-5630AG, 100 ml, HEPES バッファー液として 販売されている.20〜50 mM で使用する.

    自家調製をするときは,2.38 g の HEPES を秤量して水に溶解して 100 ml とし,高圧蒸気滅菌 する.

Last update: Nov.1 1995