細胞の簡易凍結保存法

JCRB細胞バンク:大西清方
HS細胞バンク:西村和子
cell@nibio.go.jp

大阪HSRRBからの凍結に関するメモ
細胞バンクから入手した細胞は,継代歴が増大しないうちに保存用として凍結しておくことを推奨する.また,解凍培養直後の細胞は実験には使用しないで,安定に増殖することを確認した後,二継代目以降から使用したほうがよい.

  1. 対数増殖期の末期あるいは定常期直前の培養細胞のディッシュから細胞を採集する.

  2. 採集した細胞は正確な液量の培養液に浮遊させる(培養液の量が多すぎないよう継代時の細胞密度を考慮する).

  3. 極少量をとってトリパンブルー溶液などで正確に希釈し,血球計算板で生細胞数と死細胞数を計測する.

  4. 培養液を添加し、生細胞濃度を 0.1-1x10^7 cells/ml の濃度に調整する.(細胞密度が高い方が凍結中に viability が低下しない)

  5. Cryogenic vial(Corning 製,2ml)の表面に細胞名,凍結年月日,継代数,細胞数などを記入し,cryogenic vial racks に立てて氷冷しておく.BICELL(日本フリーザー製)もあらかじめ氷冷しておく.

    BICELL は、断熱効果を高めた簡易凍結用の容器であるが、手元に無い場合は、内径10-15cm程度の発泡スチロール製の容器を利用しても良い(急激な温度低下を避けるためにこのような容器を使う)。

  6. 細胞浮遊液を氷冷し,DMSO を最終濃度が 5% になるように撹はんしながら加える.その後、再度生細胞数と死細胞数を計測する.

  7. 細胞浮遊液を cryogenic vial に 0.5〜1.0ml(1x10^6 cells/vial 以上)ずつ分注する(常に氷冷しながら).また、無菌試験用に試料を約2ml 残しておく*.

  8. Cryogenic vial の蓋を固く閉めたのち,BICELL の中に収納する.BICELLがない場合には,発泡スチロールの小箱で代用できるが、この場合は vial を綿にくるんで入れ,ビニールテープ等で密閉する

  9. Cryogenic Vialを入れたBICELLまたは発泡スチロール製の小箱を-80℃のフリーザーに入れ、2時間以上放置し凍結する.

  10. 凍結が完了したら、なるべく早い時期に液体窒素タンクに移して保存する.

  • Nutrient broth,thioglycolate 培地に 0.5ml ずつ接種する.残りは,遠心洗浄してDMSOを除き,10日間再培養後,マイコプラズマ試験を実施する

    補:細胞バンクでは細胞の凍結と保存にはガラスアンプルを使用し,プログラムフリーザーにより凍結しているが,一般的には上記簡易凍結法で比較的良好な結果が得られる.

    補:BIOCELL は大西清方氏考案の簡易細胞凍結用の容器で,プラスチック製中空容器の中に熱伝導率の低い液体を封入し,クライオチューブなどに分注した細胞を10本ほど入れてディープフリーザーに放置することにより緩慢凍結を促すものです.日本フリーザーから市販されています.

    Nov. 9, 1995


  • 大阪HSRRBからの細胞凍結に関するメモ

    佐藤 元信
    HSバンク担当
    July 23.1999

    凍結培地の調製と注意点

      大阪(HSRRB)では細胞凍結時に DMSO の濃度を10%, FCSの濃度 を20%としている。 国立衛研(東京用賀)ではDMSOを 5% としているが、凍結時に細胞の生存率が低下するなどの問題が起こる場合はDMSO濃度を 10% にすると有効な場合がある。

      また血清の凍結時における保護効果は侮りがたく、濃度を20%にすると生存率が改善されることが多い。

      凍結培地は通常、培養培地にDMSOを加えるようになっているが、作業に先立って培地にDMSOを添加して、よく攪拌してから氷冷しておく。DMSOは水溶液に添加すると発熱するので、この熱を取り除いておくことがポイントとなる。

      細胞凍結に際しては、細胞を集め、遠心してペレットにした後、DMSOを含む凍結培地を加えて細胞を浮遊させて良く混合する。その後均一にクライオチューブ(アンプルなど)に分注する。

      分注後は氷冷しておく。細胞を培地に浮遊させてからDMSOを直接混合すると失敗する。

      注:各ステップでの温度上昇を避ける配慮が必須である。

    簡易凍結法

      分注したクライオチューブを、15 mlのディスポ遠心管梱包用の発泡スチロールラックに立て、そのまま-80℃のディープフリーザーに入れて静置する。

      このまま一晩静置して凍結する。

      凍結後は速やかに液化窒素タンクに移す。

      注:凍結後のクライオチューブの取りあつかについては上記同様温度上昇が起こらないよう注意することがポイントとなる。

      液化窒素タンクからの取り出し時や移動時の温度上昇が生存率に強いダメージを与える。

      多くの場合、ドライアイス上で行うのが妥当である。




    • 細胞の凍結については朝倉書店から、酒井 昭編で「細胞凍結」が出版されているので参考にされたい。培養細胞についても十分記載されている。培養細胞の凍結時のエッセンスは、急速凍結を避けることにある。

    • 細胞バンクでは大量に凍結を実施するため、温度低下を制御できるプログラムフリーザーを使用している。

    • 簡易凍結では、断熱効果の高い容器(発泡スチロール製やBICELL)を使用して温度低下がゆっくり進行するようにしている。凍結するアンプルの量が少ない場合は、簡易凍結で良い効果を期待することができる。

    • JCRB細胞バンク(国立医薬品食品衛生研究所)とHSRRBとで、凍結の方法など細かな点で取り扱い方が異なることがある。それぞれ細胞バンク業務の経験を豊富に持っているので、意見交換は良く行うが、最終的な方法については独自の判断に任せている。なお、カタログに記載している方法はJCRBの方法である。疑問があればホームページの掲示板等を利用して確認すること。