遺伝子の構造 ワトソン・クリックモデル

DNAが遺伝子の実体だろうと考えた研究者達はDNAの分析を進めました。その中で物理学を知っている研究者は直接構造を分析することを考えたのです。ワトソン、クリック、ウィルキンス、フランクリン達でした。彼らは別々の研究グループでした。糖鎖と燐酸の鎖が繋がって高分子構造を形成しているらしいことはすぐにわかり、塩基がそれに結合していることもわかりました。

問題は塩基が2本の[リン酸ー糖]n の鎖の内側に入っているのか外側に出ているのかを決めることでした。ワトソンとクリックのグループもそこを決めかねていたのです。そんな時にフランクリン達とディスカッションを行い、彼女のX線解析のデータを盗み見てしまったという逸話が残っていますが、これによりワトソンとクリックは塩基が2本の骨格の内側に配置されているという分子モデルに到達し、1953年にNatureに発表したのでした。1962年のノーベル賞はワトソン・クリック・ウイルキンスに与えられたのですが、フランクリンは不幸にもその時には既に亡くなっていたためその栄誉に預かることは出来ませんでした。しかし、ワトソン・クリックモデルの構築に最も貢献したのはロザリンド・フランクリンだったという人は今でも多いようです。

ワトソンとクリックの Molecular Structure of the Nucleic Acid (核酸の分子構造)と題された論文(pdf)は次の書き出しで始まります。

We wish to suggest a structure for the salt of deoxyribose nucleic acid (D.N.A.). This structure has novel features which are of considerable biological interest.
(訳)我々はDNA塩の構造を提示したい。この構造は非常に多くの生物学的興味を引く特徴を持っている。

この論文に提示されたのは、左の図でした。2本のリン酸-糖鎖が構成する二重螺旋(ダブルへリックス)の間に、はしごのように塩基が配置されています。注目すべきはダブルへリックスを構成している[リン酸-糖]の並ぶ向きに方向性があり、それが互いに逆方向になっているということなのです(小さな矢印に注目)。なお、この論文の末尾にはロザリンドフランクリンとディスカッションをして有益な助言を得た謝辞が記されています。



このDNAの構造から遺伝子という物質の特徴を読み取ることが出来るとワトソン・クリックは考え、多くの研究者達もその考えが正しいと考えました。だからこそこのモデルが有力なモデルとして受け入れられたのです。しかし、このモデルから新たな疑問がたくさん出てきたことも事実でした。従って、これ以後の研究は暫くの間、この分子構造から推定される遺伝子の働き、複製と発現が現実に起こっているのかどうか、起こっているとすればそれはどのような仕組みなのかに集中して進むことになりました。そして、この頃からそうした仕組みは分子のレベルで説明できなければならないという考え方が開花したのです。

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