SARSの場合、当初は新型インフルエンザ、クラミジア、メタニューモウイルスなどが発症原因の候補として調査されましたが証拠が得られませんでした。
このウイルスには、① VERO細胞やFRhk-4細胞に細胞変性効果を示す、② この細胞変性効果は回復期にあるSARS患者から得られる血清を加えることにより阻害される、③ 回復期SARS患者の血清を使ってSARSウイルス感染培養細胞が検出できる、という特徴がありました。こうした結果により、原因はコロナウイルスであろうということがより確かになってきたのですが、さらに電子顕微鏡によってコロナウイルスに酷似した形態の粒子の存在も確認されました。
その後、SARS患者の検体からウイルスが分離・精製され、遺伝子の配列が解析されました。しかし、この解析の結果では、これまで知られていた３種類のコロナウイルスのグループのどれとも異なる新しいグループになるということがわかりました。そこで、現在ではこの新しいウイルスはSARS関連ウイルスと呼ばれています。
未知のウイルスを検出しようという場合、ウイルスは独力では増殖しませんので、その増殖を助ける『細胞』という『場』が必要です。ところが、細胞自身がウイルスの侵入を検知してインターフェロンを作り、ウイルスの増殖を抑制してしまうという現象も見られます。この場合はウイルスが検出されませんので、そうした抑制効果を出さない細胞があれば、そのほうが未知のウイルスの検出には適切だということになります。
細胞変性効果というのはウイルスが感染して細胞内で増殖し細胞が破壊されるために培養中に細胞の形が崩れてくるという特徴を指しています。そのため細胞変性効果が細胞培養に見出されると、そこでウイルスが増殖したのであろうと推測できす。さらに、この変性効果が患者の血清を加えることによって阻害されたということは、SARS患者の血清の中にはSARSウイルスの増殖を阻害する因子が出来ていることを示していますが、通常抗体が出来ていると考えます。もちろん、SARSに感染していない人の血清にはこの抑制効果はありません。
最終的には精製したSARSウイルスと血清から精製した抗体を反応させて確認しますが、このような調査を通じて原因ウイルスが特定されてくるのです。このような実験でウイルスの存在が固まってくると電子顕微鏡などを使って直接ウイルス粒子を観察したり、ウイルスを精製することが可能になりますので、その遺伝子の配列などが調べられるようになります。
野生動物から直接人間が感染した例
サルの輸入によりアフリカの熱帯雨林に存在するウイルスが先進国に持ち込まれたマールブルグ病。これは、1967年、ドイツのマールブルグなどで起きました。
都市化、森林破壊などさまざまな形で人間は野生動物の生息地域に入っていくようになりました。そこで野生動物のウイルスに感染して起きたのがエボラ出血熱です。エボラウイルスは熱帯雨林に生息する野生動物が持っているものですが、その動物が何なのかはまだわかっていません。
1993年米国で発生したハンタウイルス肺症候群がこの例にあたります。エルニーニョのために大雨が続き、ネズミの餌となる木の実が大豊作になり、その結果ネズミがアメリカで大繁殖しました。その結果人間との接触の機会が増えてネズミのウイルスに人間が感染するようになったと推測されています。
ウイルスを保有するコウモリからブタが感染し、ブタの体内で増えたウイルスに人間が感染するという、これまでにない発生のしくみでした。養豚が盛んになり、コウモリの生息地域でブタが飼育されるようになったことが、ニパウイルス病の発生を招いたのです。
それまで人間に感染したことがないトリインフルエンザウイルスでしたが、インフルエンザウイルスは、時に大きな変異を起こしますので、人に感染するように変わったものと推測されています。幸い、この場合には、ニワトリやアヒル百数十万羽を殺処分したことで人の間での流行は起こさずに、発生はおさまりました。