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■◇■  JCRB 研究資源バンク メールマガジン                 
◆    【第11号 2007/ 6/21】                             
◆ ===== 医薬基盤研究所・生物資源研究部
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◆♪∽高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクション(京大放生研)♪∽◆

京都大学放射線生物研究センターは、厚生労働省細胞バンク事業開始以来、
提携機関として事業に協力頂いてきましたが、当該研究所で1970年代から
収集してきたコレクションは、発がんの遺伝的背景の解明に役立つ日本人
における高発がん遺伝病患者とその家系に由来する細胞です。
このたびこれらの細胞を広く公開して、疾患の解明ならびに治療法の確立
などの研究に役立てていただくことを目的に、医薬基盤研究所・JCRB細胞
バンクに寄託されることになりました。

現在細胞は、概要のリストを公開し、分譲の希望が出てきた細胞から順に
作業を開始しております。ご興味のある細胞がございましたらJCRB細胞バ
ンクまでご相談ください。あまりに希望者が多い場合には必ずしも御希望
に添えないことも生じるかもしれませんが、出来るだけご希望に添えるよ
う努力したいと考えております。

お問合せはFAX又はメールでお願いいたします。
医薬基盤研究所、生物資源研究部、細胞資源研究室
〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ 7-6-8
FAX:072-641-9851, e-mail:cell@nibio.go.jp 
         
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◆ インデックス ◆
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I 細胞バンク事業
1.事業紹介
2.新規細胞情報
3.細胞バンクが出来た頃
(第11回:バンク運営には何が必要か)

II 実験動物バンク事業
1.事業紹介
2.疾患モデルマウスの紹介

III あとがき
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◆T◆  ★★ 細胞バンク事業の紹介(11)★★
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細胞バンクでの研究と研究倫理のお話。

** 細胞バンクでの研究 **

細胞バンクにおいても日々研究活動を行っています。我々のような細胞バ
ンクが研究を行う目的は細胞バンクの発展ならびに利用者へのサービスの
向上を目指したものです。現在積極的に取り組んでいる研究テーマは細胞
のキャラクタライズ研究です。我々が保有する細胞資源の染色体詳細解析、
遺伝子発現解析により細胞のキャラクタライズ情報を取得し、データベー
ス化を行い情報提供しています。これらのキャラクタライズ情報は研究者
が細胞を用いた研究を行う際に有用なデータとなる上、細胞バンクが保有
している資源のリファレンスとなる重要なデータだと考えています。将来
的には一つ一つの細胞のキャラクタライズ情報を研究者に利用していただ
けるよう整備を行っていく予定です。
  

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   A STR分析による細胞のクロスコンタミ検査

 受託検査は有料ですが、皆様が利用しておられる培養細胞の品質に関す
 る データを取得しておくことは科学的にも重要なポイントとなります
 ので、是非ご検討ください。


** 研究倫理に関する活動 **

 ● 人体由来組織・細胞と情報の研究利用をめぐる最近の動き(11)
 
今回は、連結可能匿名化の状態で研究資源が使われる様にするための、保
護施策について考えます。

匿名化とは、ある「もの」を取り扱う時に、誰に由来するものであるのか
がわからないようにするために、番号や記号を付けることを言います。臨
床の場においては、匿名化は用いません、それは個人の取り違えが医療事
故につながるからです。うっかりミスもおこさないように、個人を識別で
きる情報を2重3重に利用します。ある病院では診察券に写真を入れて、同
姓同名の個人の識別精度を上げています。

匿名化が重要なのは、研究の場においてです。例えば、臨床と研究で
同じ検査をする場合に、臨床の場では匿名化することを考えることはタブー
です。そのため、臨床検査会社は多額の投資をして取り間違いのないシス
テムを工夫しています。そして、名前とカルテ番号、バーコードなど重複
した個人識別情報での管理が重要だと言われているのです。

匿名化が必要なのは、研究の成果が個人の尊厳や基本的人権を侵す可能性
が高いと考えられているからです。そこで、研究に関わる部分を個人から
切り離すためです。

この切り離し方には、2つの場合があります。もとの提供者へ戻るために番
号や記号と個人を識別できる情報(例えば名前、住所、生年月日など)との
対応表を残しておく方法を連結可能匿名化と言います。また、連結不可能匿
名化は、対応表を破棄する方法です。

この連結可能匿名化された個人に由来する組織や細胞は、対応表を介して潜
在的に個人情報との関係を持ちます。そこで、厳しい情報管理が必要となり
ます。

次回、「厳しい情報管理」が具体的に何を意味するのか、イギリスの報告
書から解説をしたいと思います。


研究倫理に関するページ (JCRB細胞バンクホームページ内)
  http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/kiban01/index.html

ご質問やご意見があれば、是非 cell@nibio.go.jp へお寄せください。


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◆2◆  ★★    新規細胞    ★★
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● 新規分譲細胞のお知らせ●

   
○ ヒト遺伝性色素異常症患者由来細胞株
  (高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクション
   http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/deposit/kurbsummary.html)
  
  JCRB3001:Dch2
  http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb3001.htm (近日公開予定)

  JCRB3002:Dch1
  http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb3002.htm (近日公開予定)

  

  
○ ヒト網膜芽細胞種由来細胞株

  JCRB1186:NCC-RbC-59
  http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1186.htm (近日公開予定)

♪☆=--=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-♪☆

● JCRB細胞バンクのホームページから細胞株の情報を入手できます。
   http://cellbank.nibio.go.jp/

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◆3◆  ★★    細胞バンクが出来た頃(第11回)    ★★
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*** バンク運営には何が必要か ***

私が、細胞培養の経験を持たないことは既に紹介しました。20年まえの
事業開始時には正規職員は私1名だけでしたから、どう考えてもこれで細
胞バンクの運営ができるはずはありません。何か仕掛けがあったに違いな
いと皆さんは考えることでしょう。

後日談ですが、私のような経歴の人間を採用してホントに真面目にバンク
事業をやれるのかどうか、ホントのところはだいぶ心配だったと、変異遺
伝部でバンク事業を発進する手助けをしてくださった祖父尼室長(当時)は
本音を語ってくださいました。

細胞バンクが細胞を『集めて』『培養して』『分譲する』という単純な図
式なら一人か二人技術者が居れば運営できるだろうということになります
ので、私のように培養も出来ない研究者を正規職員として採用するのは単
なるお荷物にしかなりません。いわゆる月給ドロボーです。正直なところ
そういうことも考えましたし、こんな私がこういう職場に来て良いのだろ
うかとも考えました。しかし、研究者として細胞バンクという仕事に興味
を抱いた私は、後ろ向きな悩み方はせずに『自分に出来ること』を問いま
した。

1982年までNIHに留学させていただきアメリカの底力を見ましたが、印象
は強烈でした。底力を支えるものがATCCであり、IMRであり、NIHの資源部
門であり、研究機器のバックアップ部門、図書館情報部門、プリゼン作成
セクション(アートセクション)などなどでした。要するに研究者を研究
に専念させる体制が整っていたのです。

翻って日本では支援部門を持つ大きな研究所もありましたが、公務員削減
という掛け声で、研究以外の部門は無駄だとばかりどんどん廃止される状
況にありました。そういう中で細胞バンクを構築するプロジェクトが立ち
上がったわけですから、バンク事業が機能して、多くの研究者がそれを使
って業績を伸ばせたという実績を作らなければ責任が問われると考えたも
のです。ともあれ、たった一人の職員に6000万円もの事業費ががん研
究振興財団から委託されたわけですから、そのプレッシャーは大きいもの
でした。

そこで、仕掛けですが、当時がん研究振興財団はリサーチレジデント制を
作り、ポストドクを採用して研究機関に派遣する事業を開始しました。こ
れによって、培養のプロである研究者1名を確保することが出来ました。
そして事業委託費から技術職員2名を雇用しました。これがトリックの中
味ですが、拍子抜けするような内容かもしれません。ともかくバンク事業
を実施するチームが立ち上がったことはメデタイことでした。なお外国か
らの助っ人研究者も1名参加してくださいました。

そして私のアイデアと言えば、細胞バンクを担当する研究室は小さなもの
ですが、『単なる1研究室』では無く『システム』であると考えたことで
した。つまり、バンクというシステムに必須なセクションをリストアップ
し、自分はどこに納まるのかと考えたのです。要するに、ATCCやIMRを何
度か訪れて細胞バンクのスタッフと意見交換をしているうちに、細胞バン
クは単なる個人の学術的興味や趣味で運営されているのでは無いという点
に確信を持ったのです。

ご意見ご感想クレームなどは、cell@nibio.go.jp までお願いします。

             生物資源研究部(JCRB細胞バンク)水澤 博 


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◆V◆  ★★ 実験動物バンク事業 ★★
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**疾患モデルマウスバンクの事業**

○疾患モデルマウスの収集/収集したマウスの品質管理、凍結胚での保存

○疾患モデルマウスの分譲
   マウス胚50個/チューブを融解し、胚移植後、生まれた産仔すべてを
分譲します。 (97000円/1件)

○ 凍結胚・凍結精子の保護預かり業務(動物の情報は非公開で預かります)
   クライオチューブ4本保管で 11000円/1年
   ストロー16本/1年保管で 11000円/1年
        凍結胚・凍結精子作製サービスも行っています。

 ○疾患モデルマウス関連情報発信

**疾患モデルマウスの紹介**

 BKOマウス(GM1ガングリオシドーシスモデルマウス)
 資源番号:nbio016
 由来:医薬基盤研究所実験動物開発研究室
 分譲条件:無条件
 
 ライソゾーム病は、いわゆる難病(特定疾患)の一つであり、治療法が確
立していないものがほとんどです。とくにGM1ガングリオシドーシスは典
型的なライソゾーム性糖脂質蓄積症であり、中枢神経系にガングリオシド
GM1が蓄積する致命的な神経変性疾患です。適切な動物モデルの利用なし
には病態解明や治療法開発は非常に困難であることから、当研究室におい
て原因遺伝子であるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子をノックアウトしてGM1ガ
ングリオシドーシスモデルマウス(BKO)を作出しました。このマウスは歩
行障害や振戦、四肢麻痺などの神経症状を示し、10か月齢までに死亡しま
す。病理学的には神経細胞の膨化が見られ、生化学的には脳のガングリオ
シドGM1とアシアロGM1が著しく増加しており、臨床、病理、生化学からも
GM1ガングリオシドーシスの良いモデルと考えられます。

分譲をご希望の方は、larb@nibio.go.jpまでご連絡ください。

医薬基盤研究所 疾患モデルマウスバンクのホームページ
 http://animal.nibio.go.jp/
 分譲可能な動物、サポートサービスの情報はこちらのホームページで公開
しています。

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あとがき
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梅雨で新緑が映える季節になって参りました。研究室から望む里山の木々も
沢山の緑の葉を付け、PC作業で疲れた目を癒してくれます。冬季には垣間
見れるゴルフ場の風景もマスクされました。

大阪の天王寺で生まれ大阪で育った難波っ子の私は、自然な蛍を観る機会が
なく、千里ニュ−タウンの高町池の姫ボタルや万博の蛍の夕べなどを観に行
くくらいでした。が今年は、なんとなく観たくて兵庫県の西脇市の川畑に観
に出かけました。川にそって沢山の蛍が舞い感激いたしました。梅雨に入る
前に近所を流れる勝尾寺川に夜出かけると蛍が舞っていました。数日間毎晩
通いました。数は多くはありませんが、近くにそんな場所があってとてもう
れしく、満足でした。彩都は里山が近くにあり、自然に恵まれた立地です。
大切にしてほしいと思います。