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■◇■  JCRB 研究資源バンク メールマガジン                 
◆    【第31号 2009/3/31】                             
◆ ===== 医薬基盤研究所・生物資源研究部
◆          http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank.html
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メルマガバックナンバーは細胞バンクのホームページに掲載しております。
( http://cellbank.nibio.go.jp/information/magjcrb/ )

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●!★★4月1日 ヒトiPS細胞分譲受付開始★★!●

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●「研究用培養細胞の26%がマイコプラズマに汚染されている」という内容で、
3月2日の朝日新聞科学面でJCRB細胞バンクの調査が紹介されました。

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●退官のご挨拶●

医薬基盤研究所・生物資源研究部・部長
水澤 博

細胞バンクにかかわらせて頂いて25年。ようやくこの春退官のはこびと
なりました。これまで色々とありがとうございました御礼申し上げます。
さて、個人的には少々長すぎた細胞バンクとのかかわりでした。あまりに
長くリーダーとして君臨するとどんなに良いものでも制度疲労を起こして
腐るというのが民主主義の鉄則だとかつて習いましたが、少々腐らせてし
まったかもしれません。詫びいたします。

さて、大学院修了後がん研究所、NCI(NIH)と、発癌物質による遺
伝子の変化に興味をもって研究を10年ほどさせて頂いた後に、縁があっ
てこの細胞バンクに赴任いたしました。『事業(現業)』は研究者の仕事
ではないという批判も頂きながらの25年でしたが、研究経験が無ければ
やはりバンク事業を構築することは出来ないというの
が私の結論です。おりしも博士号取得者の大量生産と就職難という問題も
囁かれている昨今ですが、研究経験がなければ良いものが構築できない仕
事というものも世の中には結構あるのなら、研究経験者の役割をピュアな
『研究』活動に限定せず、幅広く考える柔軟さが必要だと思います。バン
ク事業へのかかわりを通じて、私も柔軟に考えられるようになったと思い
ます。

研究という活動から大量の論文が生み出されていますが、この論文の信憑
性ということにクローンES細胞の捏造事件は疑問を投げかけ、マスコミ
はこぞってその非を追求し、世の中が大騒ぎになったのはつい先日のこと
でした。勿論意図的な捏造は許されるものでは無いのですが、そもそも答
えの無い中から答えを探そうというのが科学の真骨頂なのですから、そこ
には自ずと大量の誤りが含まれているはずのものなのではないでしょうか。
科学というのはそういう構造だと思います。従って、それを前提に誤りを
正したり、誤りを早期に検出して訂正する仕組みというものを科学研究の
枠組みの中に構築することが重要なのではないかと思います。勿論、だか
らといって犯人を探して摘発するようなものであってはなりません。

そういう枠組みの中の1ユニットして細胞バンクを機能させることに面白
みを感じて25年続けてきました。今後とも我国の生命科学が世界をリー
ドできる形で発展することを祈念してやみません。
             

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◆ インデックス ◆
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I  JCRB細胞バンク

 1.事業紹介 
   =ヒトiPS細胞分譲受付開始=
   =JCRB細胞バンクからのお知らせ=
   =ヘルシンキ宣言2008年ソウル改正について(2)=
 
 2.新規細胞のご案内 

II  実験動物バンク事業
 1.事業紹介

 2.新規マウスの分譲情報

 3.疾患モデルマウスの紹介
   【AMPK-DNマウス】

III あとがき
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◆I◆  ★★ 細胞バンク事業 ★★
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** ヒトiPS細胞分譲受付開始 **

いよいよ4月1日よりヒトiPS細胞の分譲受付開始です。
目下、セルバンク一同、皆様にできるだけ早くお使いいただけるよう頑張
っております。iPS細胞分譲希望の方、また、なにかご質問がある場合には、
下記アドレスにアクセスをお願いいたします。

http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/deposit/ips/

(古江−楠田美保)

** JCRB細胞バンクからのお知らせ **

 ◎全国調査継続実施中(無償でマイコプラズマ汚染検査を行います)
 
          http://cellbank.nibio.go.jp/fieldtest/ 
  
 < ★PR★ =受託検査業務=>
   
   @ 細胞検査業務マイコプラズマ汚染検査

   A STR分析による細胞のクロスコンタミ検査

 受託検査は有料ですが、皆様が利用しておられる培養細胞の品質に関す
 るデータを取得しておくことは科学的にも重要なポイントとなりますの
で、是非ご検討ください。
                                         
** 研究倫理に関する活動 **

● 人体由来組織・細胞と情報の研究利用をめぐる最近の動き(31)

ヘルシンキ宣言2008年ソウル改正について(2)

先回に続いて、ヘルシンキ宣言の改正について紹介する。

http://www.med.or.jp/wma/helsinki08_j.html

先に紹介したことについて、3月30日の朝日新聞朝刊文化面に記事を出した。
先回解説したヘルシンキ宣言25条の問題について取り上げてもらったのであ
る。さらにいくつかの補足をしておきたい。

1.2000年版でshouldであったものが、2008年版ではmustとなっていること。

先回紹介した、第6条「人間を対象とする医学研究においては、個々の研究被
験者の福祉が他のすべての利益よりも優先されなければならない」の文章であ
るが、2000年版と日本語訳は異なっているが、英語はshouldがmustになっただ
けである。その変化は、しかし、日本語訳には現れていない。この2つの違い
はかなり大きく、例外がどのように存在しうるかについて考えると、shouldは
例外を許す姿勢が強いという。

2.2000年版でexperimentであった部分のいくつかが、2008年版ではresearch
或いはstudiesになっていること。
実験experimentという言葉は、試してみるという意味合いが強く、一つの結論
を得るための体系的な研究research或いはstudiesとは異なると考えられる。
そのために、人に対して行われる医学的な試みは研究というレベルまで高めら
れたものでなければいけないということを考える必要がある。ただ、その場合
にも、未知の分野において、一つの研究が成り立つまでの過程を考えると、実
験的な、或いは個発性の試行が必要である。この端緒が無ければ、研究にまで
の道のりは始まらない。何も無いところから、急に研究が始まるわけではない。
そのことを考えたときに、この改訂の持つ意味はバランサーとしての意味が強
いとも考えられる。すなわち、規制緩和に対する研究者や医師への重しである。
 ただ、例えば無能者の代理となる承諾が得られないような場合についての29
条の記述で、「かつ研究を遅延することができない場合には」という。この場
合の研究はresearchであって、experimentではない。それだけの準備が求めら
れるのである。

このように宣言は、大きな意味で外側を固めて、その上で内側の規制の考え方
を科学へと導くようにしていると私は考えている。 この宣言の変化は、1975
年の東京改訂で、人集団に対する研究がRandomized Clinical Trialという考
え方を入れて大きく改訂されたことと関係する。そのあたりの変化については、
またの機会に詳しく述べたいと思う。ヘルシンキ宣言はただのお題目だと考え
る研究者も多いだろう。しかし、それは医学研究の倫理原則ということが持つ
意味が私たちの生活全般に広がってきたことに対する認識を新たにする文章で
もあることを忘れてはならないだろう。人とは何なのかという根源的な疑問へ
連なる部分も持つのである。
   (増井 徹)

研究倫理に関するページ (JCRB細胞バンクホームページ内)
http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/kiban01/index.html

ご質問やご意見があれば、是非 cell@nibio.go.jp へお寄せください。

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◆2◆  ★★    新規細胞    ★★
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● 新規分譲細胞のお知らせ ●

○AR(アンドロジェン受容体)遺伝子とそのレポーター遺伝子を導入した
CHO細胞株、「化学物質のホルモン様作用を調べるOECDガイドライン」で推
奨される細胞株

JCRB1328:AR-EcoScreen

 http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1328.htm (近日公開予定)


♪☆=--=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-♪☆

● JCRB細胞バンクのホームページから細胞株の情報を入手できます。
   http://cellbank.nibio.go.jp/
                            (小原 有弘)

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◆II◆  ★★ 実験動物バンク事業 ★★
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●新たに27系統のマウスが分譲可能となり、現在、全部で94系統が利
用可能です。今後、疾患研究や創薬研究に有用なモデルマウスをさらに収
集し、分譲しますので、どうぞご利用下さい。下記の新規マウスの分譲情
報をご覧下さい。

●分譲マウス一覧に、関与遺伝子別一覧を追加しました。遺伝子名から目
的のマウスを検索できるようになりました。次をご覧下さい。
            http://animal.nibio.go.jp/j_gene_mice.html

1.疾患モデルマウスバンクの事業
  ――――――――――――――

○疾患モデルマウスの収集/収集したマウスの品質管理、凍結胚での保存

◆★疾患モデルマウスの寄託をお願いします!★◆

○疾患モデルマウスの分譲
   マウス胚50個/チューブを融解し、胚移植後、生まれた産仔すべてを
分譲します。 (97000円/1件)

○凍結胚・凍結精子の保護預かり業務(動物の情報は非公開で預かります)
   クライオチューブ4本保管で 11000円/1年
   ストロー16本/1年保管で 11000円/1年
        凍結胚・凍結精子作製サービスも行っています。

○疾患モデルマウス関連情報発信

2.新規マウスの分譲情報
  ――――――――――

 次のマウスの分譲を開始しました。どうぞご利用下さい。
 ADAMTS13 KO (C57BL/6Cr congenic、血液凝固不全)
 GLUT4-ERE 1/D(糖尿病)
 GLUT4-ERE 2,3/A(糖尿病)
 GLUT4-NF1(4ライン、糖尿病)
 GLUT4-1K/A(糖尿病)
 GLUT4-506(2ライン、糖尿病)
 GLUT4-550(2ライン、糖尿病)
 GLUT4-582/B(糖尿病)
 GLUT4-700/A(糖尿病)
 GLUT4-Mut582(3ライン、糖尿病)
 GLUT4-Mut701(糖尿病)
 Liver-UCP2(2ライン、肥満・糖尿病)
 MUSCLE-UCP3(肥満・糖尿病)
 C3G KO(細胞接着異常)
 hC3G Tg(細胞接着異常)
 Meg1 Tg(4ライン、糖尿病)
 
3.疾患モデルマウスの紹介
  ―――――――――――
【AMPK-DNマウス】

 資源番号:nbio083〜088(A, B, C, D, E#1, E#4の6ライン)
 由来:(独)国立健康・栄養研究所 基礎栄養プログラム
 樹立者・寄託者:三浦進司先生
 分譲条件:提供承諾書が必要

骨格筋特異的にAMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)α1サブユニット
(ラット)の dominant negative form(優性抑制型)を過剰発現させた
トランスジェニックマウスです。AMPKは糖・脂質代謝系の酵素活性を調
節していることから,本マウスは肥満・糖尿病関連の研究に利用可能と
考えられます。このマウスは、ラットAMPKα1サブユニットの全長アミノ
酸をコードするcDNAにD157Aの変異を導入した遺伝子を,ヒトαアクチン
プロモーター(-2000bp)の制御下に発現しています。このマウスでは骨
格筋のAMPKα1サブユニットの活性は50%に低下し, α2サブユニットの
活性はほぼ完全に消失しました。 AMPKはAMPの存在下でタンパク質をリ
ン酸化する酵素であり, α,β,γの3つのサブユニットがヘテロ3量体
を構成しています。
                         (松田潤一郎)

分譲をご希望の方は、larb@nibio.go.jpまでご連絡ください。

医薬基盤研究所 疾患モデルマウスバンクのホームページ
 http://animal.nibio.go.jp/

分譲可能な動物、サポートサービスの情報はこちらのホームページで
公開しています。


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III あとがき

彩都は3月の最終日、お天気に恵まれました。異動の季節でもあります。
当研究室でも4名を送り出し、4月1日には3名の新しいスタッフが加わ
ります。時代とともに事業内容も変わって参りますが、研究者の方々や
細胞を用いられる方に安心して細胞を利用していただける様、細胞の品
質のみならず手技など情報を発信できますようスタッフ一同頑張りたい
と思いますので、よろしくお願い申し上げます。
                            (E.T.)