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TITLE ■◇■  JCRB 研究資源バンク メールマガジン                 
◆    【第33号 2009/8/3】                             
◆ ===== 医薬基盤研究所・生物資源研究部
◆          http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank.html
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メルマガバックナンバーは細胞バンクのホームページに掲載しております。
( http://cellbank.nibio.go.jp/information/magjcrb/ )

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●!★★ヒトiPS細胞分譲中★★!●
   
  ▼=分譲依頼手続きを行った方には培養指導を行っております=▼

http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/deposit/ips/ips_list.html

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◆ インデックス ◆
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I  JCRB細胞バンク

 1.事業紹介   
   =JCRB細胞バンクからのお知らせ= 
   =研究倫理に関する活動=
 2.新規細胞のご案内 

II  実験動物バンク事業
 1.事業紹介

 2.新規マウスの分譲情報

 3.疾患モデルマウスの紹介
   【Col11a2-Smad6マウス】

III あとがき
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◆I◆  ★★ 細胞バンク事業 ★★
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7月にバルセロナで開かれた国際幹細胞研究会に、今年も参加してきました。
例年だと、雨の降らない時期なのですが、今年は何日か土砂降りの雨が降り
ました。世界中、異常気象なんでしょうね。さて、昨年ヒトiPS細胞が発表
されて、今年はどんなことになっているのかと思っていたのですが、それほ
ど発表が多いわけではありませんでした。もちろん、着実に研究や技術の発
展は進んでいるようでした。ですが、さらに実際にヒトES細胞研究者達に聞
いてみると、そのほとんどが独自の方法でiPS細胞の作製に取りかかってい
ると話していました。ヒトES細胞とよく似ているヒトiPS細胞を彼らが培養
することは簡単なことです。おそらくは、ヒトES細胞により近いヒトiPS細
胞を作り出すことに成功しているのではないでしょうか。ヒトES細胞研究を
これまでほとんど行ってなかった日本は相当に不利だと思われます。カナダ
におけるヒトES細胞研究は、各研究室が連携して研究テーマと予算を配分し、
同じ研究内容や予算を複数の研究室が取り合うようなことがなく、とても効
率的に研究が進められていると聞いています。日本国内においても、連携を
組み効率的な研究が進むことを願っています。
ヒトES細胞やヒトiPS細胞は、従来の細胞とはかなり異なります。独自に細
胞を培養しようとしても、経験者なしで培養することはかなり難しいようで
す。当バンクからヒトiPS細胞を分配する際には、希望者には培養指導を行
っております。実習された方々は、実際に培養されてみると従来との違いに
驚かれています。さらに同じドナー細胞からの株であっても、その特徴も異
なり、樹立機関が異なればさらに異なってきます。その株に合わせた培養方
法が必要です。ですが、実は従来の細胞であっても同じだったはずです。
培養がいつの間にかマニュアル化してしまい、技術の伝承が失われた結果、
ヒトiPS細胞の培養を難しくしています。その基本的な内容を簡単にあげて
みますと、
1. 培地はボトルごと温めず、必要量だけ分取し、使わない培地はできるだ
け冷蔵庫内に保管する。室温放置は絶対に行わない。期限を守って使用する。
2. 細胞分散液による処理時間は、時間ではなく、その細胞に合わせて行う。
3. 培地交換を行う際は、細胞の様子を必ず見て、細胞が健康に育っている
かを判断する。
4. 身近に培養のことをよく熟知している指導者を見つける。
ヒトiPS細胞だけでなく、血管内皮細胞や癌細胞も、たとえ、HeLaであっても、
これらを守ることにより、安定した実験結果が得られるようになると思います。
ご一考頂ければ、幸いです。
(古江−楠田美保)

** JCRB細胞バンクからのお知らせ **

<=ヒトiPS細胞分譲中=>
   
  分譲依頼手続きを行った方には培養指導を行っております

http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/deposit/ips/ips_list.html


<=受託業務=> @ 細胞検査業務マイコプラズマ汚染検査

        A STR分析による細胞のクロスコンタミ検査

B 細胞保護預かり (セーフデポジット)

有料ですが、皆様が利用しておられる培養細胞の品質に関するデータを
取得しておくことは科学的にも重要なポイントとなりますので、是非ご
検討ください。

http://cellbank.nibio.go.jp/information/jutaku/index.html
  
                                         
** 研究倫理に関する活動 **

● 人体由来組織・細胞と情報の研究利用をめぐる最近の動き(33)

今回はヘルシンキ宣言の改訂を追う過程で明らかとなった、日本での規制
文書における表現の問題について論考する。

ヘルシンキ宣言では、助詞として主にshouldとmustが使われている。この
差は、英語を母国語としている人たちにとっては明確である。Shouldは「こ
のように在ることが重要ではあるが、例外はありえる」というものである。
Mustは「例外なく、こうあるべきである」とするものである。それらの違い
は、大きい。しかし、先に述べたことがあるように、日本語ではこの差は表
わされない。同じ表現となるのである。その例を示す。

[2004年度版]
5.ヒトを対象とする医学研究においては、被験者の福利に対する配慮が科
学的および社会的利益よりも優先されなければならない。
5.In medical research on human subjects, considerations related to
the well-being of the human subject should take precedence over the
interests of science and society
[2008年度版]
6.人間を対象とする医学研究においては、個々の研究被験者の福祉が他の
すべての利益よりも優先されなければならない。
6. In medical research involving human subjects, the well-being of
the individual research subject must take precedence over all other
interests.

2004年版と2008年版の日本語と英語を並べてみた。共に日本医師会訳である。
Should とMustの差はあるが、日本語には現れていない。この問題について考
えさせられたのは英国で世界的な倫理研究施設Nuffield Council on Bioethics
のH. Schmidt博士にインタビューしたときである。彼は、ヘイスティングス
レポート(米国ヘースティグ研究所の発行している雑誌、医療倫理の権威ある
国際誌である)に2008年の改訂について論文を書いている。また、現在書いて
いる論文はshouldとmustの変遷についてであるという。今年の末にはでるだろ
うと話していた。
重要な問題は、この助詞の意味の違いが日本人にはわからないことである。
日本では指針の文章は「しなければならない」となっている場合が多い。多く
の人たちは「must」であると考える。ところが、行政指針である研究倫理指針
は「should」が多いはずである。このあたりの誤解が大きな問題を生んでいる
部分もあるだろう。
というのは、刑法学者から聞いた面白い話がある。倫理委員会の判断が難しい
のは、素人がかかわることであるという。法律の世界は専門家だけから構成さ
れ、用語、表現、論理共に多くの時間を掛けて共有されている枠組みがある。
そして、法文の相互でも矛盾する場合があり、解釈が異なる場合があり、それ
らを立法趣旨や原則に省みてその重み付けを行うのである。すなわち、同じ
「しなければならない」とあってもその重さは異なるのである。そして、それ
が前提になっている世界が法律の世界だというのである。
振り返って考えると、指針の解説の中にそのような記述はない。規制を強化し
たい人たちは、この都合のよい素人の誤解を利用している部分がないとはいえ
ない。本当に指針が意味するところは何なのか、そして、それを議論の俎上に
載せる努力をしなければならないのだろう。
先にあげたヘルシンキ宣言の条文は、この倫理原則の「核」をなすものである。
これが、shouldからmustに変化したことは何を表すのか。ヘルシンキ宣言が、
倫理宣言であることを捨てたとも考えられるのである。規制の明確さを求める
人たちにとっては好いことかも知れない。しかし、倫理原則を現実に適応する
ことはやはりshouldの世界であり、mustの世界ではない。Shouldの枠組みに耐
えて、そのもどかしさに耐えて、倫理的世界が実現するという夢にヘルシンキ
宣言が絶望したというのであれば、この世界が倫理的でなくなるのは時間の問
題だろう。  以上

(増井 徹)

研究倫理に関するページ (JCRB細胞バンクホームページ内)
http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/kiban01/index.html

ご質問やご意見があれば、是非 cell@nibio.go.jp へお寄せください。

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◆2◆  ★★    新規細胞    ★★
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● 新規分譲細胞のお知らせ ●

○基底細胞母斑症候群患者由来不死化細胞
(高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクション)

○ヒト急性骨髄性白血病患者由来の巨核芽球様細胞株

JCRB1325: MKPL-1
     http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1325.htm

○ヒト胸腺がん由来細胞株

JCRB1330:Ty-82
     http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1330.htm 

○ヒト急性リンパ性白血病患者由来細胞株(EB virus (-),
T-cell markers (-), B-cell markers (-))

JCRB1332:NALL-1
http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb1332.htm 

♪☆=--=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-♪☆

● JCRB細胞バンクのホームページから細胞株の情報を入手できます。
   http://cellbank.nibio.go.jp/
                            (小原 有弘)

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◆II◆  ★★ 実験動物バンク事業 ★★
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●7月より新たに2系統のマウスが分譲可能となりました。現在、全部で
96系統が公開され、利用可能です。どうぞご利用下さい。また、現在、
疾患研究や創薬研究に有用な多くのモデルマウスを資源化中で、近々公開
予定ですので、ご期待下さい。また、有用なモデルマウスの収集も積極的
に行っていますので、是非、寄託を御願いします。

●分譲マウス一覧に、関与遺伝子別一覧を追加しました。遺伝子名から目
的のマウスを検索できるようになりました。次をご覧下さい。
http://animal.nibio.go.jp/j_gene_mice.html

1.疾患モデルマウスバンクの事業
  ――――――――――――――

○疾患モデルマウスの収集/収集したマウスの品質管理、凍結胚での保存

◆★疾患モデルマウスの寄託をお願いします!★◆

○疾患モデルマウスの分譲
   マウス胚50個/チューブを融解し、胚移植後、生まれた産仔すべてを
分譲します。 (97000円/1件)

○凍結胚・凍結精子の保護預かり業務(動物の情報は非公開で預かります)
   クライオチューブ4本保管で 11000円/1年
   ストロー16本/1年保管で 11000円/1年
        凍結胚・凍結精子作製サービスも行っています。

○疾患モデルマウス関連情報発信

2.新規マウスの分譲情報
  ――――――――――

今年7月より次のマウスの分譲を開始しました。どうぞご利用下さい。

○Col11a2-LacZflox-Smad7マウス(骨・軟骨疾患関連)

○Col11a2-Smad6マウス(骨・軟骨疾患関連、小人症)
 
3.疾患モデルマウスの紹介
  ―――――――――――

【Col11a2-Smad6マウス】
資源番号:nbio130
由来:大阪大学大学院医学系研究科,骨・軟骨形成制御学
樹立者・寄託者:妻木範行先生
分譲条件:提供承諾書が必要

軟骨細胞特異的にSmad6を発現させたトランスジェニックマウスであり,
骨減少症を伴う小人症を呈します。 Col11a2(XI型コラーゲンα2鎖遺
伝子)のpromoter/enhancerを用いることで軟骨細胞特異的に発現が制
御されています。このマウスでは,内軟骨性骨化において,軟骨細胞の
増殖はほぼ正常ですが,軟骨細胞の肥大化が遅延していることが示され
ており,このことが骨の成長・形成の障害と関連しているものと考えら
れています。
骨・軟骨形成に重要な骨形成因子(bone morphogenetic protein, BMP)
のシグナル伝達におけるSmad6の生体での役割解明に有用なマウスであり,
整形外科運動器疾患の治療に向けた基礎研究に貢献することが期待され
ています。なお,SmadはTGF-βスーパーファミリーの増殖分化因子の細
胞内シグナルを伝達する蛋白質で,その機能から特異型Smad, 共有型
Smad及び抑制型Smadに分類されており,Smad6は抑制型Smadです。

参考文献
Horiki M, Imamura T, Okamoto M, Hayashi M, Murai J, Myoui A,
Ochi T, Miyazono K, Yoshikawa H, Tsumaki N. (2004)
Smad6/Smurf1 overexpression in cartilage delays chondrocyte
hypertrophy and causes dwarfism with osteopenia. J Cell Biol.
May 10;165(3):433-45. [PMID: 15123739]
                         (松田潤一郎)

分譲をご希望の方は、larb@nibio.go.jpまでご連絡ください。

医薬基盤研究所 疾患モデルマウスバンクのホームページ
 http://animal.nibio.go.jp/

分譲可能な動物、サポートサービスの情報はこちらのホームページで
公開しています。


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III あとがき

皆様は7月22日の日食ご覧になられましたか?あいにくのお天気でしたが、
研究所の屋上から雲の向こうに薄っすら欠けた太陽を観ることが出来まし
た。日食と言えば私事ですが、社会人になってしばらくして始めて行った
海外旅行がインドネシア、ボロブドゥール遺跡近辺での皆既日食でした。
快晴でしたので、ダイヤモンドリングや美しいコロナを観る事が出来まし
た。この神秘的な現象を観ると日食ハンタ−になってしまう方も多いよう
です。私も後年金環日食を観に沖縄へ行きました。この時初めて海外に出
た私ですが、日食以外に印象に残っているのは、熱帯地方特有のスコ−ル
で乗っているバスの前がまったく見えないのにバスが走っていたこと、ま
た暑いので露店でファンタを頼むと冷たいものを頂くのに付加料金が必要
で且つ当時はカキ氷みつのように甘くびっくりした記憶があります。ジャ
ワ地震の影響がどの程度のものかわかりませんが8世紀後半、シャイレンド
ラ王朝によって建設されたものと言われている丘の上の巨大なボロブドゥ
ール寺院遺跡のストゥーパや壁面の仏教説話の浮き彫りが精巧でその数
5000ともいわれており、畏敬の念を懐いたものです。
さて夏休みに入り、プ-ルバックを持って学校へ行く子供たちの姿が見ら
れる季節となりました。梅雨もようやく明け夏本番ですね。皆様も夏バテ
されませんように。                  (E.T.)