細胞送付方法の詳細
細胞の輸送方法
榑松美治
細胞バンクでは特に問題が指摘されていない限り、細胞の輸送は原則として凍結アンプルをドライアイスで梱包して実施する。凍結が不可能な場合は、事前に連絡を取り調整する。
細胞の輸送には、生きたままフラスコなどで送る場合と、凍結細胞を送る場合がある。
生きたまま送る方法は簡便なためよく用いられるが、0℃以下や40℃以上になると細胞が死ぬので注意が必要である。暖かい時期には細胞の過増殖、寒い時期にはコールドショックによる傷害を招くなどの点に十分注意しなければならない。生かした状態で細胞を送付した場合、細胞を受け取る側は、すぐに培養を開始しなければいけないので、受け取る側の事前準備が必要となる。
JCRB細胞バンクでは、寄託等細胞の送付には可能な限り凍結で送付するようお願いしている。凍結細胞の輸送方法については次の方法を参考にすること。
準備するもの
- 細胞、寄託の場合は凍結細胞を3本以上
- 発泡スチロール箱(注1)と包装材(注2)新聞紙や厚紙の筒(注3)
- ドライアイス(国内で輸送期間が1-2日の場合ドライアイス3-5kg以上を目安とする
注1)輸送期間1日の場合は、手付きで薬品会社等が良く使用している発泡スチロールの箱(16x26x18cm)を使えば、ドライアイス3kgが必要。2日かかる場合はそれより大きな箱を使いドライアイス5Kg以上入れる。
注2)アンプルの破損防止に紙製の箱や筒で保護してドライアイスに埋めてもかまわないが、エアクッション(俗称プチプチ)で出来た袋やプラスチックの遠心管では熱伝導率が低く、細胞のViabilityを下げることが多いので使用しないこと。
注3)厚紙の筒(紙製クライオスリーブ、トーワラボ株)を使う場合は、片方の端をホッチキスで閉じる。
凍結細胞の輸送(期間1日の場合)
- 小型発泡スチロール箱にドライアイス(箱に一杯入れて約3kg)を大きめに砕いて(注1)入れる。 ↓
- アンプルは破損防止のため紙で2-3重に巻くか、厚紙で出来た筒に入れる。エアパッキンなどは生細胞率低下の原因となるので避ける。アンプルはドライアイスの底又は真中に埋めるように梱包する。ドライアイスの上に置いた場合は充分に冷やされないので注意(下記検討表参照)。 ↓
- 発泡スチロール箱を封じる。宅配業者の冷凍便(注2)などを利用して輸送する。季節により遅れが見込まれる時には注意(注3)。 ↓
- JCRB細胞バンクでは凍結細胞を受け取ったら、アンプルの破損やドライアイス量を調べ(注4)、直ちに液体窒素式保存容器等に移し、その後、解凍培養(後述)する。
注1)大きな塊のままだとドライアイスが減少した時、アンプルとドライアイスの距離が離れて、十分冷やされなくなる恐れがある。また、輸送中の衝撃でアンプルの破損を招く場合がある。
注2)大量にドライアイスを入れた場合は冷凍宅急便でなくてもかまわない。また冷凍便で送る場合も、集荷・積み替えなどの際は常温で扱われる可能性が高いのでドライアイスの量は減らさないこと。
注3)中元や歳暮の時期、また冬の降雪期などは場所によって1日以上の遅れが見込まれる場合がある。
注4)到着した時の細胞の状態良し悪しで、解凍培養の成績がかなり左右される。
ドライアイスの減少に関する検討表
解凍培養操作(細胞受領後のバンクでの処理)
細胞は37℃のウォーターバスで解凍する。凍結細胞は凍結中の温度変化が生存率に与える要因が大きい、また、解凍・遠心洗浄・播種・培養のプロセスを手早く行わなければならない。受領後液体窒素中に保存しておいたアンプルを容器から取り出した後、培養室まではドライアイスなどにより冷凍して運ぶ。
- 培養室に持ち込んだら、アンプルを37℃のウォーターバスで1分から1分半ほど良く振りながら解凍して氷水に移す。
セラムチューブが使われている場合は、キャップのねじ口部分が水に漬からないように気をつける。
↓
- セラムチューブ又はアンプルの外側を消毒用アルコールで清拭して、クリーンベンチ内で無菌的に開封する。 ↓
- 新鮮培地10mlを入れた15mlの遠心管をあらかじめ冷却しておき、そこに細胞の浮遊液を移す。これを 1,000rpm 5分間で2回遠心洗浄する。 ↓
- 色素排除法を用いて細胞の生細胞率及び細胞数を確認し、継代培養の2-10倍で播種する。
接着培養系細胞の場合は生細胞を2×104-1×105 cells/cm²とする。
浮遊培養系細胞の場合は生細胞を2×105-1×106 cells/mlとする。
この濃度を目安に細胞の大きさやViabilityを考慮して播種数を決める。
↓
- 新しい培養用培地を加えて培養容器に移し、インキュベータで培養を開始する。 ↓
- 翌日細胞の状態を形態や生着率(接着培養系細胞)、Viability(浮遊培養系細胞)などで確認し、必要に応じて培養液の交換などを行い培養を継続する。
参考
Vero 細胞を4℃に置いた場合(1晩又は2日間)の細胞の形態。どちらも、低温下に置いた後に37度で培養してみた。このような条件では細胞が生存しないことは良く知られているが、細胞の形態も丸くなっていることが良くわかる。Vero細胞は付着性の細胞で、丸い形態になっているということは細胞がディッシュから外れて浮遊してきていることを示している。