高岡聰子
この実験法は細胞の『増殖率』を得る方法で、定量的な増殖曲線を描くことができます。全培養を同型とみなして、その一部を代表として細胞数あるいは細胞核数を数えるわけですから、細胞浮遊液の作り方、その分注法、細胞数あるいは細胞核数の計数の精度が定量実験としての精度に関わってきます。実験者はそれぞれ自分の実験精度を検定しておく必要があります。
この方法は細胞浮遊液をつくることができる培養細胞であれば、初代、不死化にかかわらず使えます。しかし、初代培養では同型であっても、その内容は純培養ではありませんから、長期間の実験では内容が質的に変化する可能性もあります。例えば細胞を分別しない骨髄の初代培養では、培養開始時には血球細胞が計数され、培養後期には繊維芽細胞が優勢になるという経験もありました。
とはいってもコロニー法では、細胞がそれぞれ1個ずつに分散されていること、培養開始時に1個ずつが孤立していることを確認しておくことが必要です。1個釣りの場合と異なりコロニアルクローニングは3回繰り返さないと純培養とはいわないという意見もありました。産生される物質に価値をおくモノクローナル抗体産生クローンの分離は、稀釋法で各ウェルに1個宛細胞を分注するマルチウェル法が有効に使われています。
クローンの拾い方も、色々と工夫されたものでした。1974年代の勝田グループの仕事を振り返ってみますと、細菌培養でのコロニーレプリカ法に習って、寒天上に作らせた培養細胞のコロニーのレプリカを作り、栄養要求性の異なるもの、放射線や化学発癌剤による変異系を拾うことに全力を挙げていたようです。
L・P3はほぼ24時間周期で分裂していましたから、見当をつけて何時間か毎にサンプルを取り細胞核数を数える日々でした。毎日々々、昼も夜もけじめがつかないような実験でした。今思うと幼稚な情ないような実験ですが、莫大な実験の中では、2時間の間に細胞数が倍加したものが幾つかあってどうやら論文にまとめられました。多分シングルセルクローンL株なればこその成功であったと思います。
その後、組織培養学会で寺島先生の目の覚めるような実験結果を見せて頂きました。それはHeLa細胞の塗抹標本の顕微鏡写真でした。視野一面のHeLa細胞は全部分裂期でした。雑誌・組織培養の1990年16巻8号「同調培養と私」寺島東洋三の項を読むと先生のご苦労がよくわかります。今も世界的に有名な「寺島法」です。分裂期の細胞が球形化して剥がれやすくなる性質を利用して、一切人工的な操作を加えずに、生理的条件に近い分裂期の細胞が集められる方法という利点がある一方、大量細胞の同調や浮遊系細胞には適していません。
現在では、細胞周期の研究が進んで、各期に適応した阻害剤(DNAポリメラーゼ阻害のアフィジコリン、G1G2両期に作用するトリコスタチン、レプトマイシン、分裂期でとどめるコルヒチンなど)を使ってのG1/S期やM期同調が可能です。
またエルトリエーターやセルソーターといった装置を使えば、各時期の細胞の大きさや質量の違いによって分劃することもできるようになりました。この方法は浮遊系の細胞でも使えることが強味です。
「同調培養」の項をもつ組織培養技法の教科書が多いことをみても、同調培養は細胞培養技法なればこその技法だと思われます。