17:P3系細胞:染色体構成の推移

無蛋白培地(無血清)で長期間継代培養された哺乳動物細胞系(P3系細胞)の染色体構成の推移

高岡聰子

インデックス参 考
  • AH-7974・P3(JTC-16・P3)
  • [JCRB0714]
  • AH-601・P3(JTC-27・P3)
  • [JCRB0132.2]
  • RLC-10・P3
  • [JCRB0718]
  • M・P3
  • [JCRB0152.2]
  • LYM-1・P3
  • [JCRB0144.1]
  • RCR-1・P3
  • [JCRB0129]


    【AH-7974・P3(JTC-16・P3) [JCRB0714]】

    1952年:アゾ色素(DAB)によるラット腹水肝癌系の一つとして樹立される
    肝癌結節からの腹水系
    初期10年間、動物への移植率96.5%、生存日数は5〜76日で安定
    肝癌島を作る
    ナイトロミン・マスタード、X線に耐性
    1964年:初代培養開始(培地は20%CS+LD)(継代に酵素は使用せず)
    血清はCS(仔牛)が最良、馬血清、ラット血清は劣る
    イノシトール要求性
    ヘキソキナーゼの分子種は動物継代は3型+、培養系は−、復元すると+
    1969年:無蛋白系(P3)開始
    1970年代から毒性代謝産物についての研究に使用


    染色体m+(?)合計
    腹水(井坂)23149147
    培養系
    1968年311816.65
    322219.73
    313114.76
    47227.76
    302819.77
    322521.78
    342717.78
    303218.80
    362519.80
    452114.80
    343018.82
    432217.82
    1971年
    (クロン1)2069.35
    20813.41
    20814.42
    21813.42
    21813143
    22713143
    19716244
    24614.44
    (クロン2)341218165
    362316176
    (クロン3)322324.79
    293118381
    (クロン4)282421275
    321625376
    331726177
    341922277
    (クロン5)381721378
    362120481
    (クロン6)293123.83
    342721183
    1994年(P3)2910 18.57
    321118.61
    331121.65
    351317.65
    1997年(P3)301313.56
    281418.60
    311317.61
    301616.62



    T:テロセントリック、S:サブセントリック、M:メタセントリック、m+?:マイニュート、その他。?にはダイセントリック染色体や正常にはない大きなメタセントリック染色体などが含まれる。
    正常なラット染色体核型ではTは18本(X、Yを含む)、Sは10本、Mは14(小型のみ)で合計42本。培養細胞ではマーカー染色体の出現が問題になるがここでは触れない。


    【AH-601・P3(JTC-27・P3) [JCRB0132.2]】

    1952年:アゾ色素(O-aminoazotoluene)によるラット腹水肝癌系の一つとして樹立
    肝癌結節が移植源
    初期生存日数は6〜133日、移植率は85.7%
    ナイトロミン、X線感受性
    1971年:初代培養開始(培地は20%CS+LD)(継代は酵素を使わず)
    1972年:樹立発表→JTC-27、血清は馬より仔牛が良
    1972年:無蛋白系(P3)開始


    染色体m+(?)合計
    腹水(井坂)....67〜68
    培養系
    1972年261616.58
    221215.49
    221614.52
    201816.54
    231517.55
    231319.55
    1994年(P3)16159.40
    171310.40
    16169.41
    181311.42
    21129.42
    1997年(P3)161281+(1)38
    15128540
    15149240
    15148441
    16138441
    16168141
    17148241
    17137441



    T:テロセントリック、S:サブセントリック、M:メタセントリック、m+?:マイニュート、その他。?にはダイセントリック染色体や正常にはない大きなメタセントリック染色体などが含まれる。
    正常なラット染色体核型ではTは18本(X、Yを含む)、Sは10本、Mは14(小型のみ)で合計42本。培養細胞ではマーカー染色体の出現が問題になるがここでは触れない。



    【RLC-10・P3 [JCRB0718]】

    1964年:JAR-1系ラット生後11日の肝より初代培養開始
    4NQOによる発癌実験に使用
    PAS、AFP、GGT陽性
    1975年:無蛋白系(P3)開始

    染色体m+(?)合計
    1971年171112.40
    181012.40
    21910.40
    23611.40
    191012.41
    191111.41
    20714.41
    21614.41
    20813(1)42
    20913.42
    20148.42
    21813.42
    22713.42
    1994年(P3)1389.30
    1597(1)32
    15107.32
    14108133
    14911.34
    15109.34
    13911 235
    1410 11.35
    1898.35
    1997年(P3)11811131
    101211.33
    111210.33
    111211.34
    121111.34
    121211.35
    121111135

    正常組織由来細胞らしく、終始近2倍体で、殊に無蛋白系としての近年では染色体の上でかなり揃った集団です。


    T:テロセントリック、S:サブセントリック、M:メタセントリック、m+?:マイニュート、その他。?にはダイセントリック染色体や正常にはない大きなメタセントリック染色体などが含まれる。
    正常なラット染色体核型ではTは18本(X、Yを含む)、Sは10本、Mは14(小型のみ)で合計42本。培養細胞ではマーカー染色体の出現が問題になるがここでは触れない。



    【M・P3】

    1963年:JAR-1ラット生後10日肝より初代培養(RLC-3)
    1964年:なぎさ培養+DAB添加
    DAB消費大、染色体数70〜84本に変異、培養内で繊維形成を確認
    繊維形成能は1977年ののぶどうエキスの実験に使用される
    1973年:無蛋白系(P3)開始


    染色体TSm+(?)合計
    1977年301315.58
    331017.60
    321416.62
    321417.63
    1979年17126.35
    171013.40
    21138.42
    171214.43
    19816(1)44
    221112(1)46
    25714.46
    201213(2)47
    221411.47
    231212.47
    241211.47
    241112.47
    25913.47
    25148.47
    211413.48
    211017.48
    221313.48
    24618.48
    241410.48
    25913(1)48
    25914.48
    261111.48
    26148.48
    211414.49
    221212(1)49
    221413.49
    251311.49
    201414(2)50
    221611(1)50
    231314.50
    241511.50
    251114.50
    1994年(P3)161112.39
    18148.40
    19129.40
    20911.40
    20119.40
    21811.40
    21118.40
    181212.42
    191211.42
    20148.42
    22911.42
    22128.42
    24914.47
    1997年(P3)20137.40
    20138.41
    20148.42
    20148.42
    20148.42
    20157.42
    22138.43
    1997年(P3)20136.39
    2013 6. 39
    20127.39
    23115.39
    2397.39
    17127.36

     この系では、最近、染色体数の減少が目立ちます。

    染色体数4倍体から始まって、現在は低2倍体ですが、核型では、正常と比べて小さいメタセントリックが少なくなっています。この細胞系にエトレチナートをほぼ10カ月加えたところ巨大細胞が出現し、染色体数分布は51〜500本まで広がりました。

    そして、500本もの染色体を抱えながらなお分裂増殖を継続していました。


    T:テロセントリック、S:サブセントリック、M:メタセントリック、m+?:マイニュート、その他。?にはダイセントリック染色体や正常にはない大きなメタセントリック染色体などが含まれる。
    正常なラット染色体核型ではTは18本(X、Yを含む)、Sは10本、Mは14(小型のみ)で合計42本。培養細胞ではマーカー染色体の出現が問題になるがここでは触れない。



    【LYM-1・P3 [JCRB0144.1]】

    1982年:JAR-2系ラット(生後14日)にMNUを週3回接種7週間
    3カ月後屠殺、大腸癌の発生
    その担癌ラットのリンパ節から培養開始
    培地はFBS2%+DM-170
    1992年:無蛋白系(P3)開始

    染色体m+?()合計
    1994年321918.69
    322320.75
    3616241+(1)78
    (P3)191010.39
    411412.67
    471011.68
    451015.70
    402112.73
    501415.79
    1997年(P3a)341216.62
    341216.62
    361016.62
    361215.63
    361216.64
    371116.64
    381215.65
    (P3b)311416.61
    321515.62
    311418.63
    321417.63
    361216.64
    341417.65
    401214.66
    (P3c)151112.38
    161111.38
    181012.40
    181012.40
    181012.40
    181111.40
    181210.40
    (P3d)18810(1)37
    141212.38
    171110.38
    18128.38
    171210.39
    181110.39
    181210.40
    (P3cよりのクロン)
    (クロン1)2098.37
    19127.38
    19911.39
    19119.39
    20810(1)39
    2199.39
    401222.74
    (クロン2)19108.37
    181210.40
    181210.40
    20128.40
    20119.40
    191210.41
    20138.41
    (クロン3)18109.37
    2198.38
    201010.40
    20119.40
    20128.40
    191210.41
    211010.41

    この系は、培養容器壁への接着の強い繊維芽細胞様の細胞集団と、接着性の弱い多角形の細胞集団との混合でした。

    そこで継代の度にピペッティングで剥がれてくる細胞を分離しました。繊維芽細胞様細胞集団はa、bとし、浮遊しやすい細胞集団はc、dとしました。染色体を調べてみると、このように繊維芽細胞様集団は低3倍体、浮遊しやすい細胞集団は低2倍体に分れていました。

    a、bは血清を加えても形態変化はおきませんが、cとdは血清添加により上皮形態に変化します。


    T:テロセントリック、S:サブセントリック、M:メタセントリック、m+?:マイニュート、その他。?にはダイセントリック染色体や正常にはない大きなメタセントリック染色体などが含まれる。
    正常なラット染色体核型ではTは18本(X、Yを含む)、Sは10本、Mは14(小型のみ)で合計42本。培養細胞ではマーカー染色体の出現が問題になるがここでは触れない。



    【RCR-1・P3 [JCRB0129]】

    1979年:JAR-2系ラット脳より初代培養開始(実験者は周徳程博士)
    1992年:無蛋白系(P3)開始


    染色体m+(?)合計
    1994年(P3)1893.30
    16113.30
    11154.30
    15106.31
    13126.31
    11146.31
    2166.33
    17133.33
    1997年(P3)10127.29
    12135.30
    12126.30
    12126.30
    12126.30
    12145.31
    13109.32
    13109.32
    1999年(P3)1497.30 x20
    1397.29 x5
    1498.31 x2
    1297.28
    1396.28
    1487.29
    13107.30
     この系は樹立者周博士によってアストログリアであることが同定されています。

    無蛋白培地内での増殖もかなり早く倍加時間はほぼ30時間です。テロメラーゼ活性は−ですが、テロメアは確認されています。染色体からみると、1999年の検索では調べた31分裂像の中、20個が全く同様の核型を持っていました。


    総括してみますと、培養細胞の染色体構成は、生体から培養に移した時に大きく変異しますが、無血清にしたことによる大きな変化は見られず、また無蛋白系として8〜30年間継代を重ねると、染色体数減少の傾向があり、また同型核型に収斂する傾向があります。

    1個からのクロンについて7974・P3とLYM-1・P3のデータをあげましたが、純培養の細胞集団であるにもかかわらず、どちらも染色体核型の上からは同質になったとは言えませんでした。

    今回調べたラットの培養細胞系では正常細胞に比べて小さいメタセントリックの減少が目立ちましたが、個々の染色体同定を行えば、培養によって何が起こったのかを追跡できるのではないかと思われました。


    T:テロセントリック、S:サブセントリック、M:メタセントリック、m+?:マイニュート、その他。?にはダイセントリック染色体や正常にはない大きなメタセントリック染色体などが含まれる。
    正常なラット染色体核型ではTは18本(X、Yを含む)、Sは10本、Mは14(小型のみ)で合計42本。培養細胞ではマーカー染色体の出現が問題になるがここでは触れない。


    css