【勝田班月報:6610:アメリカ組織培養学会の話題】

《勝田報告》

 The Second Decennial Review Conference of Tissue Cultureに出席して

 “Waymouth”のは合成培地での培養ですが、すごくlagがあって、死んだ細胞の成分が使われているのではないか、と思われました。“Amos”のは細胞の分化を維持するのに、アミノ酸、ビタミン、ホルモンなどの他に、未知の物質が必要だという話でした。“Bell”の話は、主にchick embryoを使っての実験で、lens placodeのoptic cupの形成に阻害剤やC14uridineのとり込みなどから、普通のribosomeの他に、蛋白合成をする他の新しいribosomeを見付けたということでした。“Sutton”はLeighton tubeにAralditeを入れてそのまま包埋してしまい、60℃から0℃に急に冷やして合成樹脂を剥し、それからブロックを切り出して電顕用の標本を作っていました。Golgiでlysosomeの合成が盛であり、細胞膜からlysosome内のenzymesが外へdischargeされること、2核の細胞には核の間の細胞質に細胞膜が残っているのが認められたこともあるなどが面白いところでした。“Pitot”は細胞の色々な酵素活性、殊にtyrosine transaminaseやserine dehydoraseについて、RueberH-35を用い、in vivoとin vitroとの比較をしていました。

“Gartler”は色々な株18種(ヒト由来)についてG6Pdehydrogenaseその他の活性をしらべ、ニグロはstarch-gelで分けるとG6PDがslow bandとfast bandの2本に分れる、つまりtypeAはニグロにだけ見られるもので、HeLaはニグロ由来であるから(+)。ところがchangのliver、Detroit-6、HEp6その他、殊にHeLa樹立から以後5年間に作られた株は、しらべた18株すべてにtypeAがあって、HeLaのcontamiらしいと発表し、大変な反論を買いました。“Earnes”はHistochemistryで細胞の特性をしらべようとし、adult human tissue、主にbone marrowのprimary cultureを使い、Histochemistryで示せるものとして、AIK.P.、AcP.、Est(dNA)、Est(NANA)、β-gluc.(NASBI)、β-gluc.(8-HQ)、AtPase、AminoP.(β-LN)、Dehydrs:SD、LD、β-OHBD、G6PD.、GlutD.があるがmacrophage(monocytes)ではAIK.P.以外は全部存在すること、図のような(箒星状?)細胞にはAIK.P.が(+)、glycogenはfibroblastその他色々の細胞にみられるからmarkerにはならない、などと主張しました。“Westfall”はC3H由来で合成培地で継代している6clonesについて、その自然発癌について報告しました。“Grobstein”の仕事はやはりがっちりしていました。

Epithelio-Mesenchmal interactionを培養内でしらべOrganogenetic interactionのtime courseを追っていました。“Abercrombie”は相も変らずcontact inhibitionで、大分皆からやっつけられました。“Herrmann”はchick embryo muscle(leg)のcultureで、胎生日齢の進むにつれてin vitroの増殖は落ちるが、DNA当りのmyosin合成量はふえることなどを紹介しました。“DeMars”はヒトの細胞、とくにfibroblastsを用い、X染色体の行方を追い、G6PD.との関連にふれ、inactiveXもFeulgenでうすく染まり且replicateされること、静止核のheterochromatinはG2期の細胞にだけ見られたことなどを報告しました。“Hayflick”はspontaneous transformationの大部分はウィルス感染によるものであると力説し、“Sanford”は培地組成を重視、FCSよりHsSの方が細胞が変り易く、embryoではmouse>hamster>ratの順にtransformしやすいと述べました。



《佐藤報告》

 培養上の発癌を確認するためには種々の条件が必要である。従来解明できたことは培養肝細胞は長期培養になると発癌する(最近RLN-10株も癌性が現れた)。動物接種後、腫瘍発生迄には400日を越えるものがある。発癌剤にはTumor-producing capacityと所謂malignancyを増強する作用があるらしい。

 然し細胞のレベルで発癌を論ずるには正常(?)肝細胞のcloningを行って後、発癌剤を作用さす事が望ましい。

 最近まで炭酸ガスフランキを使用して肝細胞のpure cloneをつくるべく努力したが未だ成功していない。

     
  • RLN-10細胞は培養1501日と培養1529日でシャーレに培養した。dish当り100で培養を始めると6%位の細胞が増殖する。10個細胞で2から7程度である。

     

  • RLN-39細胞は培養1225日と培養1239日でシャーレに培養した。dish当り1,000個乃至100個で5%程度のコロニー増殖である。

     

  • RLN-187(生後8日のラッテ♂)は培養124日で、シャーレに培養されたが10,000個ではコロニーを発生しない。

     

  • N-7(生後5日のラッテ♂)は、培養167日で前者同様10,000個細胞ではコロニーを作り難い。

     

  • RLN-163(生後6日のラッテ♂)は培養229日及び270日で10,000でいくらかのコロニーができる。

 今後、培養日数の比較的短いものからpure cloneをつくって発癌実験に用いる予定。



 

:質疑応答:

[黒木]コロニーの形態はどうですか。

[佐藤]丸い形をしています。顕微鏡でみると上皮性の細胞です。

[黒木]大きさはどの位ですか。

[佐藤]1〜2週で判定して1ミリ位です。

[勝田]コロニーを作らせる場合、まいた直後に位相差でしらべると1ケだけになっていない細胞がありますね。そういう事にもよく気をつけなくてはいけないと思います。

[佐藤]今までの実験経過からみても、どうしてもクロンを使って実験を始めたいと思っています。培養総日数の短い系の場合は1万個の細胞をまいて1ツ位はクロンがとれるだろうと思います。

[堀川]コロニーの中での染色体数のばらつきはどうですか。

[佐藤]まだしらべてみていません。

[黒木]前に奥村さんがしらべたと思いますが・・・。

[勝田]分離後初代は揃っているが、継代を重ねると、ばらついてくるということだったと思います。

[堀川]in vitro発癌の場合、ウィルスはいないのだという事はどうやって証明すればよいのですか。

[勝田]病原性のないウィルスや未知のウィルスとなると検出出来ないのではないかと思います。ウィルスと発癌剤が何かの形で組合わさって発癌することもあろうかと考えられますが、現在の段階では何とも云えませんね。

[永井]再現性をみることが、非常に大切なことだと思います。

[堀川]そうですね。条件を変えて再現性をみるのが大事ですね。

[黒木]in vivoでも、発癌が、作用させた発癌剤だけによるものだという確証はないですね。

[勝田]セレクションではないということと、再現性があるということが、きめてになるでしょうね。

[螺良]佐藤班員の実験で、自然悪性化と3'メチルDAB添加群の悪性化の間に差がありますか。

[佐藤]復元成績には差がみられます。けれどもセレクションではないという確証はありません。染色体数が42本の2倍体を保っている系の中にも悪性化したものがあるかどうか、しらべてみたいと思っています。

[堀川]DABを動物へ接種して、in vivoで蛋白と結合した形のものを抽出して、in vitroへ添加してみるというのはどうでしょうか。

[佐藤]今日お話したデータの他に、電子顕微鏡的にもしらべ始めていますが、今の所ウィルスは見つかっていません。又発癌前とあとでは細胞の微細構造に少し違いがあるようです。



《三宅報告》

 前回に述べたようにD.D.系マウスの成体皮膚の試験管内保持が、うまく参りませんでしたので、同系の新生仔(6匹)にかえて、従前からの方法に従って培養を始めました。もっとも感染の事を考えて、新生仔といっても、出産前1日目のもの、体長約2cmのものでした。この背の皮膚と、大脳を培養開始と同時にMCA-ミリポアフィルターを直接組織にのせ、24時間後にFilterを取り去り培養を続けました。別の一匹を正中線で縦断する面で組織標本を作りました。この組織検査で意外なことを知りました。

  1. )背の皮膚といっても、皮膚附属器の発育の様相によって、部位的に相違の大きいことが判りました。すなわち、附属器のない所では基底層細胞は美しく円柱状のものがならんで、その上に4〜5層の棘細胞層がならんでいますが、附属器が豊かに出来た部では基底層は密集した不整形の細胞から出来ていて菲薄な棘細胞層と、同じく薄い角化層がみられます。背の皮膚全体としては、後者の占める率が高く、培養に用いたのは後者の方が多いものと考えました。

  2. )同じD.D.の成体の皮膚は、この様な部位的な差がなくて一様に基底層の粗な層と、その上に、たかだか2層の棘細胞層と、うすい角化層から出来ています。前述の胎生のものの方が、Adultのものより、形態学的にはHyperplasicであるという感をうけたのです。

 この胎生の背の皮膚出実験を続けました所、現在、培養10日目という結果しかないのですが(すべての組織片について連続切断を作らせるものですから、これがネックになっているようです)、この胎生(新生仔)の背の皮膚も長期の培養に適しない様です。棘細胞層も、角化層も、ヒト胎児(3〜4ケ月)にみられるような肥厚もなければ、基底層での爆発的なMitosisもないのです。24時間MCA-Piltwを作用せしめたものに、棘細胞層の僅かな核成分の増加があって、角質層の直下にまで及ぶとみられるものがあるのみです。H3-20-MCAはBenzolに溶解されていますので、この同位元素を用いて、皮膚細胞への取りこみを、しらべる考えでしたので、このD.D.マウスの背の皮膚へ、培養前にcoldのMCA-Benzolを滴下、よく洗って、後培養を始めたものでは、9日目で皮膚は全体がNecroseという非運にあいました。新生仔の皮膚を用いた間違いは、その組織像からも指摘出来ると思います。反省して、より幼若なD.D.、ハムスターへと一応仕事をすすめます。



 

:質疑応答:

[勝田]ケラチン層があると増殖が起こらないというのは面白いですね。 [三宅]成体皮膚の場合、セロテープをはっては剥がすということを40回くり返してケラチン層を剥がします。

[堀川]胎児皮膚に成体皮膚のケラチン層をはりつけるとどうなりますか。

[三宅]それはしたことがありませんが、胎児皮膚を培養して、出来たケラチン層を剥がそうとしてみましたが、どうしてもとれませんでした。

[永井]ケラチナーゼのような酵素を作用させてみたことはありますか。

[三宅]ありません。

[勝田]ネズミの年齢との関係もしらべてみると面白いでしょうね。この仕事では発癌実験よりケラチン層との相互作用をしらべる方が面白そうですね。

[永井]物質としてとっておいて、ないものにつけたり、どんどん剥がしたりしてみても面白いですね。

[堀川]メチルコラントレンの作用時間はどの位ですか。

[三宅]24時間です。

[堀川]もし、うまく発癌したら、どうやって復元するつもりですか。

[三宅]そのまま、つまりスポンジごと植え込むつもりです。

[勝田]スポンジに血漿を使って組織をはりつけ、培養液に浮かして培養すると、32℃では組織がスポンジへはいってゆかないが、37℃ではどんどんはいってゆくというデータがありますね。



《高木報告》

 現在進行中のハムスター全胎児よりの培養について報告します。

  1. )7月29日スタート

    Medium:90%199+10%CS+0.5mg/ml Pyruvate+0.3mg/ml Glutaminを用いて、Leo Sacksの方法に従い、胎生末期ハムスター全胎児よりTrypsin(N.B.C. 1:300 0.25%)消化により得た細胞を100万個/8ml宛TD-40Flaskにとり、初代のみアルミフォイルで覆って5%炭酸ガスAir、37℃の炭酸ガスフランキにて培養し、2代目継代後3日目より14日間に計5回に亙る4HAQOの添加を黒木氏(HA-2)の方法に従って行い、除去の際にはP.B.S.で3回洗って培養液に変えました。

     4HAQO添加群には翌日より細胞のdamageがみられ、日毎に強くなってFlask中央部の細胞は全く剥げ落ちて了います。14日目にも尚、周辺部に残った細胞はcarcinogen除去後1週間目頃より徐々に増殖が起り、10日目を過ぎる頃より、一部criss-cross.multilayerを思わせる像を呈してきました。17日目にやっと3代へ継代しましたが、細胞数が少く、10日目にやっとsheetを作ってきました。コントロールも殆んど同時期に継代していますが、1G、2G、3G共に著明な変化は認められません。目下継続培養中です。

  2. )9月8日スタート

     1)と全く同様な方法で得たものをMediumを変えて培養しています。Medium:0.5%Lactalbumin Earle90%+CS10%+0.5mg/ml Pyruvate+0.3mg/ml Glutamin。今回は対照として無処置コントロールと共に4HAQOの溶媒に用いた10%Ethanolを同量加えた群をおきました。2代目継代後、2日目に4HAQO及びE-OHsolnを夫々添加しましたが、添加後2日目に既に4HAQO群では中央部の細胞が剥離しますが、E-OH群でも4HAQO投与群と無処置群の中間程度の変化がみられました。目下carcinogen添加を続けています。

  3. )次に前報に記しました人胎児皮フの器官培養の写真を載せます。
 

:質疑応答:

[黒木]再増殖してきた細胞のシートは薄いですか。厚くなりますか。

[高木]厚くなります。黒木班員の実験で得られたものとよく似ていると思います。

[黒木]細胞の形は少し違うように思いますが・・・。

[高木]4HAQOの添加は何回位が効果的でしょうか。アルコールの影響についてはどう考えますか。

[黒木]アルコールだけの対照群をとってみていないので、わかりません。

[勝田]4HAQO溶液のたらし方について少し説明して下さい。

[黒木]今やっている方法は、培養液を全部すてて、4HAQO溶液をたらし、すぐ培地を添加しています。局所は矢張りひどくやられますね。



《黒木報告》

 Malignant Transformation of Hamster Embryonic Cells by 4-NQO and its derivatives in Tissue Culture

 (7)再現性について

 この種の実験においてまず第一に重要視されるのは再現性でしょう。再現性をみるべくいくつかの実験がstartしています。

 結論から先にいいますと前のHA-1 or -2の確実な再現性は得られていません。しかし、これらの実験からtransformationの起り方が少し訳ったような気がしますし、また、今後の培養状の問題点も掴めたように思はれます。

  • NQ-4はNQ-2 or NQ-1と同様の経過をたどり、現在は増殖も安定し、P.E.も15%前後、colonyの大きさもそろっている。細胞はP.E. である。しかし、再度にわたる移植にもかかわらず、悪性化の所見は得られていない。

  • HA-3はNQ-4と同時にスタート、しかし凍結保存したCarcinogensを使ったためか、初期の変化も(criss-cross and necrosis)もみられなかった。90日すぎに細胞の形はfibroblast様にそろってきたが、growthは悪く謂るtransformed cellとは明らかに異なる。(班会議から帰って来たらcontamination!!)この失敗にこりて、以後の実験はすべて使用のたびに4HAQOを新たにpreparationし、使用後、残りを光電比色計(auto-recording)にかけ、4HAQOであることをconfirmするようにした。

  • HA-4、-5、-6、-7。これは1x(2d.)2x(4d.)4x(8d.)8x(16d.)と4HAQO処理回数をかえたsiriesの実験である。これらのうちHA-4、HA-6、HA-7にtransformed fociが出現した。(HA-4は班会議から帰って来てfociを発見)(写真を呈示) transformed fociの出現まで要した日数は、HA-4=total 85d.(添加後76d.)ただしtransformed fociであるのがはっきりと確認できたのはそれより15日後。HA-6=total 59d.発癌剤後50日。HA-7=total 59d.発癌剤後50日。

    これらのtransformed fociの細胞はactiveに増殖している。polynucleated cellの多いこともその一つの特徴である。(HA-5にまだtransformed cellが出現しない)

    現在まで得られた所見をまとめてみるとtransformationの経過は次のようになりそうです。・・Carcinogensを2 or 3d.数回処理→Early Changesが起こる(1)cell necrosis(2)fusiformedcells criss-crossed arrangement→この間の時間は実験毎にまた発癌剤によって異るらしい→Transformed Foci出現(1)densefoci(2)active growth。



     

    :質疑応答:

    [勝田]動物に復元して出来たtumorを、培養に移した時の細胞はどんな形をしていますか。

    [黒木]大量培養では始の変異細胞にそっくりです。コロニーでは上皮様細胞はありません。それ以外は同じようなコロニーが出来ます。

    [勝田](1)Early Changesと(2)Transformの間の期間が一定でないということは、発癌剤を使っての実験では当然のことで心配する必要はないと思います。

    [高木]結果からみると、4HAQOは6〜8回加えた方がよいということのようですね。

    [黒木]なるべく作用回数をへらしたいと思ったのですが、結局は回数の多い方がよいようです。

    [勝田]この実験を発表すると、どういう異論が出ると思われますか。

    [黒木]4HAQOの方はよいと思うのですが、4NQOは変異までに長くかかりすぎるので、セレクションという事を指摘されるかも知れないと思っています。それから胎児の細胞を使うのは悪性化を知るのにはよい材料だと思いますが、コロニー法でセレクションか本当の変異かをしらべたりするのには、安定した株の方が材料として適していると思います。

    [佐藤]対照が増殖しないということは問題がありませんか。発癌剤が発癌因子として効く前に、急激な株化への誘導因子として効いたということは考えられませんか。

    [勝田]ポリオーマとPPLOだけは調べておく必要がありますね。

    [堀川]in vivoで発癌剤として知られている薬品が、皆、in vitroでもこのような変異を起こさせるのでしょうか。

    [奥村]in vivoでは発癌剤として知られているものであっても、in vitroでは発癌剤として効いたのか、変異因子としてだけ効いたのか、はっきりさせておく必要があると思います。

    [堀川]しかし、それは大変むつかしいことですね。発癌剤として効いたものでも第一段階では変異因子として作用しているのではないでしょうか。

    [黒木]化学発癌剤を使っての動物発癌の実験の経過も決して一定とはいえませんね。ということは何段階もかかって発癌するということだと思われます。そして矢張り第一段階は変異因子として作用しているのではないでしょうか。私の場合、培養細胞がin vivoでも増殖できる細胞へと変異するのは非常に短期間の間のような気がしています。

    [勝田]そうでしょうか。

    [藤井]復元してから長い期間がたってつくものには、宿主側に何か反応細胞、浸潤細胞といったものが、沢山出てきていますか。

    [黒木]そういう所はまだみていません。今度の実験で感じたのですが、復元してtumorが出来たら、2ツあれば1ツは途中で採取して、組織像をみておくことが、悪性度を知るのに確実な方法ですね。

    [勝田]話が少し変りますが、イノシトールを凍結保存に用いると、凍結された細胞の抗原性が変わらないという仕事が出ています。なかなか面白い仕事だと思います。

    [藤井]ラッテのtumorを凍結しておいたら、マウスにもtumorを作る細胞に変わったという仕事が出ていましたね。

    [勝田]細胞を凍結すると、抗原性が減るということになるわけですね。



    《螺良報告》

     戻し移植の再培養

     乳癌及び睾丸間細胞腫の組織培養は、戻し移植によってその生物学的特性をチェックして来たが、それから更に再培養することによって、もとの培養細胞が再現されるかを調べた。

    1. 乳癌

       DDF30.10104♀に培養乳癌細胞MC10582と10590を7月16日に皮下移植し、41日後の8月26日に摘出して再培養した。培養方法は最初と同様にトリプシン処理し、10%コウシ血清加YLH培地を用いた。移植癌はかなりもとの培養細胞に似た未分化癌で大部分を培養に使った為になお1部に腺管状の構造があるかどうかは確かめられなかった。

       再培養とともに、その腫瘍の一部から同系のDD系への移植を行ったが現在ほぼ1月で何れも移植されている。ただし動物はすべて生存中である。(復元成績の表と顕微鏡写真を呈示)

      <目標>

      再培養でもほぼもとの培養細胞と類似した敷石状の配列がみられる。しかし多方向に突起を出す細胞も再培養でみられた。

      再培養のねらいは、戻し移植によって電顕的にB粒子がみられないか、そうして再培養によってこれがどれ位維持されるかを見ること、戻し移植を再び行ってなお腺癌様構造をとる能力があるかどうかを調べてみることにある。

    2. 睾丸間細胞腫

       睾丸間細胞腫はその移植性に関してホルモン依存性があるが、培養によって依存性は消失して雌雄を問わず移植しうる様になり、しかもこれをマウスからマウスへ継代することによって腫瘍増殖の潜伏期がかなり短かくなった。  この移植腫瘍の特性が再培養によってどう変るかを見るために再培養を試みた。

      <目標>

      再培養から再び戻し移植をして、ホルモン依存性の如何及び形態の如何を、もとの戻し移植と比較する。おそらく同様であろうと思われる。

       はじめの戻し移植では乳癌ウィルスのB粒子がみられたが、再培養でこれがどれ位維持されるか、そうしてたとえB粒子が消失しても再び戻し移植をするとまた出てくるかどうかを調べたい。既にKFマウスの正常睾丸にも電顕的にB粒子を見出して居り、乳癌ウィルスは乳腺ばかりでなく正常の睾丸にも産生されている証拠があがっている。


    《永井報告》

    次のシーズンまで、しばらく受精卵の化学分析を続けています。(アミノ酸分析結果と化学組成の表を呈示) 表からわかるように蛋白が90%近くで、蛋白部分は酸性基に富んでいる。残りの10%が何に由来するかは、まだはっきりつかめていません。Hexose+Hexosamineで1.7%にしかなりませんから。Sugarのgas chromatogramは、mannoseとglucoseが検出された。

    受精卵の外側にあるjelly coatの糖はfucoseであるが、これは検出出来ず、jellyのcontaminationがないことがここでも云えると思います。但しφ-OH-H2SO4法でtestすると、3N-HCl、100゜水解物について試みた場合、7hr.以上の水解ではλmaxが485μmから480μmに移り、その他の(mannose、glucose以外の)Sugar-like substanceの存在が予想されます。これについては、reducing value及びφ-OH-H2SO4法でhydrolysisのtime courseをとってみると、20hrs.以降に、何か新しくSugar-like Substanceが遊離されてくるように思われる。普通Sugarは、3N-HCl、12hrs.の水解で殆どつぶれて、反応が消失するのが殆どである。赤外吸収図では受精膜は所謂蛋白の吸収図を呈し、SO4``1もSugarも少ないことを示しましたが、Jelly coatはSO4``1もSugarのOH吸収も強く出しており、主要部がSulfated Polysaccharideであることがよくわかります。