【勝田班月報:6607:4HAQOによるmalignant transformationの成功】《勝田報告》今回は渡米のための準備に追われて、あまりお話できる材料がなくて申しわけありません。前に報告した“なぎさ”培養→DAB高濃度の実験の中のDABを異常に消費するMというsubstrainとDABに全然接していないRLC-10という正常肝由来の株細胞との相互作用を双子培養を使ってみてみました。DABの入っていない培地とDAB5μg/ml添加培地でしらべましたが、どちらの場合もRLC-10は双子の方が抑制をうけています。またMはDAB5μg/ml添加によって、増殖を殆ど抑制されないということも、この実験によってわかります。 現在“なぎさ”培養→DABによるsubstrainが11種、DEN高濃度添加約5ケ月経過のsubstrainが10種ありますが、そのそれぞれについて、正常肝細胞との相互作用をしらべてみたいと思っています。
:質疑応答:[吉田]DABの消費について、正常肝細胞は培養内でも消費するわけですね。[勝田]そうです。そして生体内での実験でDAB肝癌は全然消費しなくなるというデータがあります。 [田波]Mの形態は変っていますか。 [吉田]染色体が増えているそうだから、大きくなっているでしょう。 [高岡]細長く大きくなっているようです。 [螺良]肝癌細胞はDABを取り込まないからDABの害はうけないということはあるでしょうが、Mの場合こんなに消費してなお害をうけないのは何故でしょうか。 [勝田]分解酵素の働きが非常に強いのでしょうね。 [吉田]消費が+の場合は分解してもしきれなくて害をうける、−の場合は全然うけつけない、+++となると分解して更に平気で増殖するということですね。 [田波]HeLaやLなどにDABを加えると、どういう態度を示しますか。 [高岡]消費は少し±位です。20μg/mlの添加では増殖は非常におさえられます。 [勝田]私共の実験計画としては、この他に、純系ラッテでtumorを作ろうと思っています。JARは現在26Fになっています。19Fの時、藤井班員に皮膚移植をやって頂いて成功しています。
《佐藤報告》発癌実験(つづき)
:質疑応答:[勝田]4NQOで肝癌が出来ますか。[黒木]今までの報告にはないようですが、4NQO→4HAQOに働く酵素は肝臓に非常に多いので、肝癌の出来る可能性は充分あると思います。 別の質問ですが、DABを加えて肝癌になったものと、加えずになったものとの間に腹水肝癌としてみた時、違いがありますか。 [佐藤]DABを加えずに腹水癌になったものの方が継代がむつかしいようです。又、再培養すると、それぞれ形態に違いがあるように思います。 [吉田]染色体の面では、今までの腹水肝癌に比べてバリエーションが非常に多いですね。生体で発癌したものとちがって培養されていた各種の細胞が発癌しているような感じです。つまり生体でのセレクションがかかっていないように思われます。 [勝田]in vitroでセレクトされると、復元してもつかなくなっている可能性があるのですね。 [堀川]もとから生体内の癌細胞であったエールリッヒの場合でも培養すると染色体数のばらつきが非常に多くなって、それを又動物で継代するようになると、染色体数のピークがかなり集約されてきます。 [黒木]形態変異の場合、クロンとまでゆかなくても、コロニーをとってしらべると、もっと悪性度については、はっきりするのではないでしょうか。 [佐藤]私もそう考えて手をつけてはいますが、なかなかうまくゆきませんので、今先づ炭酸ガスに馴らしています。
《高木報告》前の班会議で御指摘をうけたCarcinogen添加の方法について今回は、これまでのMediumに加える方法にかえて皮フ表面からの添加を試みた。培養基には前報に同じハムスター胎児抽出物よりなるPlasma clotを、又、培養材料は生下2〜3日前と思われるハムスター胎児の皮フを用いた。今回の実験で異る点は新しく入った炭酸ガスフランキを用い5%炭酸ガス加Airを用いたことと、4NQOを添加する時は皮フ片をシャーレ上に置いてその上から4NQO含有Hanks液を一滴々下してclot上に移したこと、及び、DMBAはpowderを皮フ片の一部にふりかけたことである。実験群は夫々4NQO 10-4乗Mol.、10-5乗、10-6乗、DMBA、及び対照群をおき夫々、3日、6日目に固定、染色して観察した。
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培養前のものでは今回の材料は表皮は2〜3層で、基底細胞層の配列は規則的でなく、角質は認められず、Mitosisも殆んどみられない。 | |
表皮は3〜4層になり幾分厚くなる。角質も表皮と同じ位の厚さに増生して錯角化を中等に認める。真皮にはかなりのPicnosisをみる。全体にmitosisは殆んどみられない。6日目のものもほぼ同様である。 | |
3〜6日とも対照群に比べて殆んど差がない。 | |
3日目のものは対照に比べて角質増生少く錯角化もほとんどなくてむしろ培養前の状態に近いが、6日目に至ると対照と同程度に角質層の増生を見、錯角化はこの群の方が強い。一部にMitosisを認め、特にPicnosisが強いとは云えない。 | |
3日目のものでは10-5乗群同様むしろ培養前のものに近い状態であるが6日目のものでは角質層の厚さは対照よりやや薄く全層に錯角化を認める。Mitosisはない。 | |
3日目の角質層の増生は全くなく、全層に亙りPicnosisの傾向あり。6日目表皮層は1〜2層と薄くなり、これと同じ位の厚さの錯角化を伴う角質層を生ずる。表皮の細胞も巨大な核を持った細胞が多くなり基底層の配列も乱れる。 |
:質疑応答:[吉田]4NQOはどういう方法で処理していますか。[高木]継代毎に組織片にたらして、しずくを切ってから、プラスマクロットの上にのせてやります。動物の皮膚に塗布するのと同じような感じにやっているわけです。 [黒木]4HAQOも使ってみられたらどうですか。 [堀川]どの位の期間培養できますか。 [高木]2〜3週位です。 [吉田]対照群はどう処理していますか。 [高木]対照群には4NQOの代りに溶媒としての塩類溶液をたらしてやります。 [堀川]培養できる期間を3週より長くできませんか。 [高木]それはむつかしいですね。 [勝田]梅田君からの手紙にあるのだが、器官培養→細胞培養というやり方を利用したらどうだろう。 [高木]それはいいですね。やってみましょう。 [堀川]要は3週後の問題ですね。
《三宅報告》ヒト胎児皮フ(Organ Culture)へのMethylcholantren Pelletの添加Organ cultureをした皮フへ試験管内でM.C.がどの様な作用を及すかをしらべてゆこうとする手始めに、(ハムスターはまだつかっていません)ヒトの胎生皮フを用いて、体外にうつした最初からM.C.のPelletを附着させて、短時日ですが、変化をしらべました。 PelletはMerckの組織用のパラフィンに5%の割に溶解させて滅菌、シャーレの中に薄く流しこんで、メスでゴバンジマに細切したものです。出来上ったPelletは1mm以下の厚さの1.5〜2.0mm平方のものになりました。Spongeの中へE.E.をしみこませて、さきにこのPelletを入れ、組織片をこの上にのせてclottingをしたものと、Pelletを皮フの上にのせてclottingをしたものの2通りを作りました。このたびは時間を長くかけたものを、しらべることが出来ませず、9日目に固定、組織標本をつくりました。 溶媒に用いたparaffinは、もちろん標本作製の途中でなくなりますが、M.C.の名残りと考えられるものは2通り像としてみられました。その1つはうすい褐色の色のついた標本の中での拡がりと、も1つはM.C.の結晶と考えられる構造が残っていました。結晶となったものが、もともと、この姿のままで、はじめからパラフィンの中にあったのか、標本作製の途中で再びこの像になったのかは判りません。組織所見としては、2年前にやった時と同じでNecrosisが強いことです。Organ cultureという方式の欠点は組織の中心がNecrosisになることが多いのは御承知の通りですが、M.C.の場合のNecrosisは拡がりが強いことです。上皮性細胞の乱れが強いということは、これからよく考える必要があります。間葉性のものは割合に抵抗が強く、殊に軟骨はそうでした。 これからも、もうしばらくこの様な実験を続ける所存ですが、M.C.を適切な培養時間に添加したり、又それから抜きとったりする必要があると思います。その様な、ためにはパラフィンのPelletでは都合が悪いので、Berwald,Y. et.al.(J.Nat.Cancer Inst.35,641,1965)の知恵にならってM.C.をミリポアフィルターにとかしこんで、適当な大きさに切りとって、Pelletの代用に用いることを試みています。
:質疑応答:[高木]ネクローゼが起るというのは、物理的な、例えばパラフィンが重いためというようなことからでしょうか。[三宅]パラフィンを乗せた部分だけでなく広汎なネクローゼがみられるので、矢張り薬品のせいだと思われます。 [吉田]対照として、薬品を含まないパラフィンのかたまりだけをのせたものもやってみるとよいですね。 [三宅]発癌剤の%が高すぎるかも知れないということも考えています。発癌剤を作用させる時間も検討してみようと思っています。 [堀川]これだけの仕事をやられるなら、材料は矢張りハムスターとかマウスとかを使った方が復元に有利ではありませんか。それから高木班員と同様、器官培養→細胞培養というやり方がよいと思います。ミリポアフィルターは発癌剤をしませてのせることの利点は・・・。 [三宅]パラフィンは37℃でやわらかくなるので、取り除くのがむつかしいのですが、ミリポアフィルターは固型なので楽に動かせます。 [黒木]メチルコラントレンには発癌性のないものもあるが、発癌の作用機序はわかっているのでしょうか。 [勝田]はっきりしていないようですね。それからメチルコラントレンはロットによって発癌性がちがうそうですから、確かに発癌性が強いとわかっているものを貰って使う方がよいですよ。 [三宅]皮膚の場合、ベイサルレイヤーだけに分裂がみられます。ケラチン層はむしろその抑制に働くと想像して、10日目位から除くようにしています。成人の皮膚の場合もケラチン層を除いてやると培養しやすくなりますね。 [螺良]培養期間1ケ月では発癌させるのに短かすぎませんか。生体では2ケ月はかかると思いますが。 [三宅]勿論もっと長くしたいのですが、むつかしいですね。 [吉田]こういう実験の場合、材料の年齢ということも考慮に入れる必要がありませんか。私は年とった細胞のほ方が発癌しやすいのではないかと思いますが。 [堀川]発生学的にいえば、未分化の細胞の方がどの方向へも変異できるという意味で、発癌しやすいともいえませんか。 [勝田]さっきも螺良班員がいわれましたが、メチルコラントレンの場合、生体ではかなり長期間かかって発癌するのですから、培養1ケ月以上はつづけるようにするべきでしょうね。純系動物を使えば、培養後の皮膚を動物へ移植できるのではないでしょうか。 [藤井]皮膚は非常に強いものですから、培養したものでも移植できると思いますね。
《藤井報告》皮膚移植の技法について:別刷を配布。
《堀川報告》御存知のように過去2年6ケ月間、MadisonのDepartment of Geneticsに滞在してショウジョウバエを使って発生遺伝学的研究に従事してきました。こうしたショウジョウバエと云う発癌実験とはかなり縁遠い材料での仕事であるが故に、この月報にも投稿するような機会にめぐまれませんでしたが、この度帰国と共に再度班員の一人に加えていただきました事を嬉しく思っております。ただ現在の私の立場として直接発癌実験と取り組んで勝負することは不可能ですが、おかれた環境でこれから私がやろうとする仕事を通じて直接的にも皆様のやっておられるin vitroでの発癌実験の研究にお役に立つことを心から念じております。幸い4月以降研究室の再整備も一応完了し、以下に述べます2つの問題を中心に仕事を進めております。
Madisonでやったショウジョウバエでの仕事を更に発展させようとする系で、第1の問題は特定のenzyme合成に関与するm-RNAの抽出と、それをmediumに加えることによりenzyme activityをもたないembryonic cellsに合成をinduceさせようとする試みです。 第2の問題はin vitroで作ったCell agregatesを種々の組み合わせでもって幼虫体にtransplantし、出来てくる組織、ならびに器官の同定をやる。この問題を通じてcellのdifferentiationを追うつもりです。 幸いこれらの実験に使用するショウジョウバエの各strainsもMadisonからとどき、新しく出来上った飼育室で調子よく殖えております。
この問題は少しいじくりかけた所で日本を出発したと云う、中途半端になっている仕事です。今回もLcellsとEhrlich ascites tumor cellsを使用して、それぞれからXray,UVrayに対するresistant cellsを再度分離し、sensitive cellsとresistant cellsを比較検討しつつ回復の機序をSubcellular levelで見ようとするものです。 今回はむしろDNAまたはRNA levelに主眼をおくことなく、emzyme levelで回復の機構を調べたいと思っています。それぞれのOriginal cellsから少しづつ耐性の度合が増したCellsが分離されて来ているのが現状という所です。
:質疑応答:[奥村]酵素レベルのものをどうやってしらべる計画ですか。[堀川]硫安分劃→カラムという手法でしらべようと思っています。 [吉田]染色体数の減少と耐性獲得とは平行していますか。 [堀川]平行しているとははっきりいえません。 [黒木]耐性の測定にはどういう方法を使っていますか。 [堀川]いろいろな線量をかけて、生存細胞数を数える方法です。 [勝田]細胞のホモジネイトを使う時は、生きているのが残らないように、よほど注意する必要がありますね。 [堀川]今度は、分劃して使おうと思っています。 [黒木]2,000r1回で残った細胞と、500r4回で残った細胞とでは、耐性の点で違いますか。 [堀川]しらべたいと思っていますが、まだ手がつけられていません。 [吉田]ちがうだろうと思いますね。それから染色体が変らないうちは耐性ができていないように思います。
《螺良報告》培養乳癌の戻し移植現在MCと称しているDD系マウス乳癌の組織培養は、1963年6月12日にF20代の5819♀マウスから培養を初めたものである。原発は腺癌であった(写真を呈示)。今日まで3年余りYLH培地に継代しているが、培養或は形態上では変化はない。巨細胞が多いが、その間にある敷石状にならぶ細胞が主体をなしているものである(写真を呈示)。ただ核型分析は行う余裕がなかったので、専ら戻し移植によって培養細胞をチェックしてきた。原発が腺癌であったので、培養後の戻し移植でどの様な形が再現されるのかということとともに、乳癌はウィルス腫瘍であるので、培養及び戻し移植でウィルス粒子がどうなるかを電顕的に調べている。 原発と同系のDD系マウスは乳因子をもっているので、之のないものとして(C57BL♀XDD♂)F1も用いた。培養の戻しをDDからF1へ再移植して電顕的にウィルス様粒子がどうなるかを見ている。 (復元成績の表を呈示)移植の成績を要約すると、DD系及びそのF1には100%移植性があるが、C57BLにはつかない。即ち3年前後も培養してもHistocompatibilityは不変であった。(但しDD系はF1へ戻し移植したものからの再移植による)。 さて之等の戻し移植及び再移植について、電顕的にウィルス様粒子がみられるかどうかを現在追求中であるが、少くとも原発にみるようにもりもり粒子が出る所見は乳因子のあるDD系に戻しても見られなかった。しかしそれらしい粒子も少数みられることもあるので、形態的にはっきりした形でたしかめてみたい。それと共に戻し移植では未分化な中に腺腔を作る部分がある(写真を呈示)。粒子の産生もこの様な形態に関連があるかも知れず、今後その点に留意して電顕をみてゆくことにしている。
:質疑応答:[勝田]L株で培地から蛋白を除くと、コラーゲン産生を復活するという報告がありますが、この細胞でも生活条件をかえると、又ウィルスのインダクションがみられるようになるということは考えられないでしょうか。[堀川]紫外線によるインダクションなども試みられると、面白いのではないかと思います。
《黒木報告》Hamster Whole Embryoの細胞への4NQO・4HAQOの作用(4)
Hamster Whole Embryoの無処置(control)細胞(Zen-1・1、Zen1・2、Zen1・3、Zen1・4)及び4NQO・4HAQOによるtransformed cellは順調に継代されています。 Transformationであることは次の二点から確かです。
移植には生後24時間以内のnewbornハムスターの皮下、及び体重80〜100gのadultハムスターcheek pouch及び皮下を用いました。(詳細は表で示す)
組織学的にはfibrosarcoma、浸潤性増殖の傾向は少く、ch.-p.の筋層を破る程度のようです。転移の有無はまだ調べてありません。特徴的なことは、腫瘍組織の中に沢山のeosino、plasma、Langhans巨細胞のみつかることです。
腫瘍の継代移植は容易です。現在3代目に達しています。 この事実は、4NQO→4HAQOの変化が、用いた細胞では起りにくいことを示唆しているものと思はれます。4NQO→4HAQOの酵素の測定も必要のようです。 また、このようなmorphological transformat.とmalignant transformationの間のgapは、それぞれが別なgeneの変化によることを、又は(morpholog.transformation+α)=malignantを示唆しているようでもあります。
今後、4NQOの細胞の移植性はしっこくくり返すつもりです。
以上のごとく4HAQOによるmalignant transformationに成功しました。目下、その再現性を確認中です。詳しくは次号にでますが、4HAQOは1回の接触(有効時間10分)でもtransformationをおこすようです。現在のところExp.の系列は19系統、培地交換と継代におはれて大変です。
:質疑応答:[吉田]生体へ4HAQOを作用させると、どの位の期間で発癌するのですか。この実験では大変早い時期に変異しているようですが。[黒木]生体では120日位です。 [堀川]対照の復元実験が少し弱いのではないでしょうか。 [黒木]対照は増殖しないので、復元実験を沢山やるだけ細胞数を集めることがむづかしいのです。 [吉田]細胞が組織培養の条件に馴応しないうちに変異が起ったとも考えられますが、その点が大変面白いですね。 [黒木]4HAQOをかけて非常に早い時期に変異したかどうかの見当がつく所も利点です。 [堀川]対照群の問題ですが、細胞数が集められないなら、対照群2群、実験群1群の割合で出発してでも、対照群の復元例を増すべきだと思います。 [奥村]もっと初期に変異を起こしているかも知れないわけですし、早い時期にコロニーを作らせて、コロニー単位の解析をするべきではないでしょうか。対照群が長期継代困難とすると、コロニーレベルでの変異の特徴はつかめていないわけですね。ハムスター新生児の肺の場合、早いのは3ケ月位で動物につくことがありますから、自然悪性化をどの程度考慮するか問題ですね。 増殖性の獲得と悪性化の関係はどうなっているのでしょうか。 [黒木]私にとっては、対照群は増殖しない方が都合がよいと思いましたので、対照の増殖をよくすることには熱を入れないできました。Leo Sacksの場合も対照群は増殖がとまっています。 [勝田]奥村君の所では対照群の増殖度は安定していますか。 [奥村]2、3代まではよく増殖します。それから少しおちて、又増え出して安定するという順をたどります。そして大体4ケ月で動物にtumorを作るものが出来てしまうことがあります。 [勝田]問題はハムスターの場合、自然悪性化の条件がわかっていないことだと思います。黒木君の仕事の場合も、この自然悪性化を4HAQOが助けたのだということかも知れませんね。 [黒木]発癌性のない、同じ様な薬剤を添加する群を、対照にとってみたいと思っています。 [堀川]数を多くして、統計的に処理すればよいと思いますが。 [黒木]それも考えていますが、なかなかむづかしいですね。 [佐藤]増殖しない状態のものが、こういう風に増え出すということは4HAQOに増殖誘導という働きがあるとも考えられます。 [勝田]対照に増殖系のものを使ってみたらよいのではないでしょうか。 [奥村]199+CS10%〜20%という培地を使えば、完全に増殖させられます。勿論CSの質的検討が必要ですが。 [勝田]これから先の解析のために、4HAQOに本当の発癌因子としての作用があったかどうかを確かめておくべきですね。 [奥村]対照が増えなくなった時に、実験群が増殖して変異を起すということは差ではなく、有と無の違いだと思います。対照というものは、先々にもちゃんと取っておいて実験群との差をみなくてはいけないと思います。 [堀川]せっかく、うまくゆきそうなのですから、ここでぐっとおさえるべき所はおさえておくべきですね。増殖系でどうかということもみておく必要があると思います。 [藤井]動物に復元したものは継代できますか。 [黒木]出来ます。 [藤井]生体内で発癌したtumorには癌特異抗原ができるといわれていますが、組織培養で変異した場合ももとの組織との共通抗原を失って、癌の特異抗原をもつようになっているということはありませんか。そういう問題が復元実験にひっかかってきませんか。 [黒木]この系が確立すれば免疫学的にも、いろいろ探求出来ると思いますが、今の所はまだ・・・。 [勝田]そこを藤井君にやって貰うんですね。 [吉田]株化しない前にこういう変異が起ったという所がとても面白いと思います。他の発癌剤との併用も考えてみるとよいと思います。 [黒木]総括しておさえるべき点としては、対照群をもっと多角的にということですね。今の増殖しない系で長くおくと実験群と同じようなフォーカスが出来るかどうか、増殖系の対照でどういう変化が起るか、発癌性のない同種の薬品でどういう変化が起るか等、早速しらべてゆきたいと思います。ただ対照が株化する条件におくと対照が4ケ月で自然悪性化するということになり、なお解析がむつかしくなると思います。 [勝田]とにかく、この実験は非常に有望そうで楽しみですね。薬剤としても日本で開発したものでもありますし。班としては、発癌の研究ではなくて、発癌機構の研究なのですから、何とかして早く機構の方へはいりたいものですね。そいう点からみても増殖系の細胞を使う時はクローニングをして使う方がいいですね。
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