【勝田班月報:6708:Leukemogenesisの試み】

A)4NQO実験:

     4NQO関係の実験では、これまでRLG-1株(ラッテ肺由来)、RSC-1〜5株(ラッテ皮下組織)を用い、19実験をおこなってみた。(この内RLG-1による1実験は4HAQOであるが) そして変異細胞らしいもののコロニーは約半数の培養に出現し、その内9系を継代培養している。しかしこれらはラッテに復元接種しても、不思議なことにどの系もtumorを作らない。変異集落の出現過程はいずれも似ていて、4NQO処理後ほとんどの細胞は変性壊死に陥ってしまい、その後新しくコロニーが生じてきた。その数は容器1コにつきコロニー1コ〜数コである。復元は50万個/ratで、乳児の皮下に接種した。

     その後これらの実験に用いた株細胞をしらべたところ、RLG-1は銀センイをわずか作っているが、RSC系の細胞の培養は鍍銀染色をしてもセンイが染まらない。若しセンイ芽細胞でないとすると、皮下組織からどんな細胞が得られたかということになる。またそれなら、いくら4NQOで処理しても肉腫にならないのは当然ともいえる。(復元は実験#CQ-4と13を夫々1匹入れたが4カ月(-)で殺した).

    そこで最近の株をいろいろ当ってみると、ラッテ膵由来の株、RPC-1が見事に好銀性センイを作っていることが判った。これならばセンイ芽細胞といえるから、これからの4NQO実験にはこのような株を使うことにした。現在使いはじめたところである。なお、RPC-1というのは、生後6月の♀の膵を1963-11-10から培養しはじめた株である。(RPC-1株細胞の鍍銀染色写真を呈示)

B)ラッテ胸腺細胞株の“なぎさ”培養:

     RTM-1、1A、2、3、4、5、6、7、8、10の10種の胸腺細胞株(何れも細網細胞)を平型回転管に入れ、1967-2-1から3-8んで“なぎさ”式に静置培養したところ、RTM-1A、2、8の3系に変異細胞が現われた。しかしこの内RTM-1Aと2とは母株にも自然変異が現われたように思われたので、対象から除き、RTM-8の変異株について検討した。

     これらの変異細胞は何れも増殖が早く、Contact inhibitionを示さず、pile upして増殖する。そして諸々の形態的特徴が“なぎさ”培養でラッテ肝細胞から生じた変異株RLH-1に似ている。その染色体数分布は(分布図を呈示)、59〜62本のHypotriploidyで、これならtakeされるのではないかと秘かにねがっている(顕微鏡写真を呈示)。

     復元試験は、JAR系x雑系ラッテのF1の生後2日仔にI.P.で50万個宛、2匹宛接種したがtakeされなかったので、2.5月後に再び接種した。その内RTM-8変異株を接種したラッテが、学会に出張中に死亡してしてしまった。即日診られなかったので断定はできないが、腹水はたまっていなかったようで、恐らく肺炎のための死亡かと思われた。これは細胞数をもっとふやしてわらに復元試験をおこなう予定である。

C)DAB代謝異常株:

     ラッテ肝細胞を“なぎさ”培養からDAB高濃度処理に移して作った変異株の内、M株はDABを高度に消費するが3'-Me-DABを与えると代謝しない。そこでDABの代わりに3'-Me-DABを20μg/mlに1月与えつづけ、その後培地をすてて(subcultureせずに)再びDAN 20μg/mlに戻したところ、はじめの8日間(その間に培地交新一回)はこんどはDABを代謝しなかった。しかし8日以後はまた高度に代謝するようになった。代謝酵素の機能の切換えがすぐにはできなかったわけである。

     Cell homogenateによるDAB代謝の仕事は培養細胞を使うと量的に大変なのでまずラッテの肝組織を使って見当をつけ、それに従って培養細胞の分劃に入りたいと考えている。

 :質疑応答:

    [黒木]銀で染まらなくてもHyproでかかってくれば良いでしょう。

    [勝田]Hyproの定量にかかる位ならば鍍銀法で染まると思います。

    [高木]Transformするとセンイを作らなくなる−というようなcheckingをなさるおつもりですか。

    [勝田]Collagen fiberを作っていないのではfibroblastsかどうか判らないから4NQOで処理しても肉腫になるまい、ということで、transformしたらfiberを作らなくなるかどうかは副次的な問題で、そのときどきで色々のができるだろうと思います。

    [吉田]DABを消費するというのは、DABを分解しているのですか。

    [勝田]そうです。比色で特異吸収が4日間でほとんど零になってしまいます。

    [安藤]ラッテ肝のDAB代謝は、i)脱メチル化、ii)(N)のメチル化、iii)(ベンゼン核の)メチル化、iv)アゾ基の還元的分解、v)それらの生成物のNのアセチル化、等が知られている。この内、M株では培地内のDABの色が消失するのですから、アゾ基の分解の起っていることは間違いないでしょう。その他にどんな分解物ができているかは、詳しくしらべてみないと判りません。

     それからM株ではDABを高度に消費し、3'-Me-DABは消費しないと云われましたが、ラッテの肝組織が若し3'-Me-DABは消費しないとすれば、DAB分解酵素を追いやすいですが、するとなると分劃が厄介になってきますね。

    [永井]発癌物質相互間の関係が、そういうことで少し判ってくると面白いですね。

    [吉田]その分解能と発癌との関係は?

    [勝田]直接的関係は未だ判りませんが、DAB発癌による肝癌はDAB分解能が落ちていると報告されています。

    [黒木]抵抗性と代謝能とは平行的ですか。

    [勝田]代謝能がなくても抵抗性の高い場合はあります。

    [吉田]DABがないと増殖しないような株ができると面白いですね。

    [佐藤]自分のところでDAB消費をしらべたのは、肝細胞の同定のためです。つまり正常肝細胞と自然発癌の肝癌は消費するが、DAB肝癌は消費しない、培養内DAB処理による肝癌細胞も消費しない−という具合にです。

    [勝田]むかしDABを初代培養のはじめ4日間だけ与えて肝細胞の増殖を誘導しましたが、あの辺の変化はもう一回詳細にしらべてみる必要があると感じます。

    [佐藤]モルモットはDAB肝癌ができないとされていますので、モルモットの肝細胞を培養してDAB消費をしらべてみるのも面白いと思います。

    [吉田]DABを代謝してしまうということと、発癌との間の関係はどうもパラレルではないようですね。

    [勝田]他の発癌とは関係はない、或は少いでしょうが、DAB発癌の場合には間接的にせよ何らかの関係のある可能性がありますね。


《佐藤報告》

◇DAB吸収について

    吸収量(μg/ml)平均細胞数(10,000個/ml)DAB/cell(x10-6乗μg)
    対照0.32 6.2 5.1
    1μgP.対照0.374.4 8 4
    1μgP.上清0
    1μgP.沈渣0.354.18.5
    100μgP.上清0
    100μgP.沈渣0.151.2 12.5

     上の表はDABの吸収を示す。又DAB液に1μg及び100μgのPuromycinを添加して2日後に測定したmediumでは共にDABの消費はおさえていなかった。100μg Puromycin及び1μg Puromycin処理後、Trypsinで細胞を浮遊させて1,000rpm5分で上清と沈渣にわけてDAB消費を見た。上清ではどちらの場合もDAB吸収はなかった。Puromycin処理による細胞は100μgの場合も1μgの場合も細胞質核共に小型化し、100μgの場合には細胞質の中に顆粒が発生する。

    ◇4NQO発癌実験

      現在までに復元したラッテを記載する。

      動物番号接種日培養細胞培養日数細胞数接種場所4NQO処理
      15-16ラッテ肝 472500万個i.p.5x10-7乗M、25日(1)(2)
      27-1ラッテ肝488500万個i.p.5x10-7乗M、62日
      37-1ラッテ肝488500万個i.p.5x10-7乗M、62日
      47-1ラッテ全胎児93500万個s.c.5x10-7乗M、34日
      57-10ラッテ肝497500万個i.p.10-6乗M、8日
      67-10ラッテ肝497100万個i.p.5x10-7乗M、62日
      77-10ラッテ胎児肺39500万個s.c.10-6乗M、4回
      87-10ラッテ胎児肺39100万個s.c.10-6乗M、4回
      97-10ラッテ全胎児131500万個s.c.5x10-7乗M、33日
      107-10ラッテ全胎児131500万個s.c.5x10-7乗M、33日
      117-11ラッテ胎児肺64100万個s.c.10-6乗M、2回

      1. 5x10-7乗M 4NQO投与方法は、培地中に4NQOを5x10-7乗Mになるように溶かして連続して投与している。
      2. この動物は7/17日肺炎で死亡、剖見にて腫瘍(-)。
      3. 10-6乗M 4NQOの投与方法は4NQOがこの濃度で溶かされた培地で4〜6時間処理後正常培地にもどした。だいたい週2回処理した。
      4. それぞれの実験にはコントロール実験として4NQO未処置の細胞を500万個乃至100万個接種した。
      5. 実験に使用した動物は呑竜系ダイコクネズミである。
    :質疑応答:

      [安藤]沈渣と上清というのは?

      [佐藤]Puromycinでこわれかけた細胞そのものが沈渣です。intactな細胞も入っています。

      [安藤]その状態からもう少し分劃して、intactな細胞をなくすことができませんか。

      [勝田]Trypsin処理でこわして、DAB代謝活性が上るということは、trypsinが逆にinhibitorをこわしている為かも知れませんね。それからextractを作るとき、たいていsalineを入れてhomogenateを作りますが、我々の場合でもhomogenateにすると代謝活性が落ちるというのは、DABのような水に溶けない物質に対する酵素の場合は、それがlipidと結合したlipoproteinの形で、細胞内に存在している可能性も疑ってみる必要があると思いますね。

      [安藤]沈渣と上清に分けた意味はpuromycinで細胞がこわれているという前提ですね。

      [永井]そのあとtrypsin処理するのだと、puromycinを作用させる意味がないように思われますが・・・。

      [堀川]あとで結合の状態などを見るのなら、puromycinなどよりもむしろX線とか紫外線をかけてみた方がよいと思われますね。

      [永井・堀川」もう少し焦点を絞って、細胞の生きた状態でみたいのか、蛋白としてみたいのか、はっきりさせたら如何ですか。

      [佐藤]これは増殖しない状態の細胞で、一定した条件を設定して実験をはじめたいということからはじまった仕事です。

      [堀川]熱変性させた蛋白ではDABを吸着しますか。

      [佐藤]見ていません。

      [安藤]細胞が増殖しないという条件でみても、それではabnormalですから必ずしも増殖状態のときと同じように酵素が働いたとは云えないかも知れません。

      ☆☆☆これまでの記載分では、佐藤班員の説明不充分と他班員の誤解により、討論が完全に空廻りしてしまっている。科学的発表の場合には、自分の考えたこと、行なったことを、完全に誤解の生じないような表現で、他人に話すことが必要であることの、典型的な一例である。☆☆☆

      [佐藤]DABは血清ならば100μg/mlにとけますので、そのなかで肝細胞株を3日間培養しますと、細胞が沢山こわれてしまいます。そこで20μg/mlにかえて、そのあとまた100μg/mlのDABで3日間という具合に処理したところ、培養66日後に新しく細胞集落が出現してきました。

      [黒木]変異を起させるには細胞が完全にはやられないが、ほとんど全部やられてしまう、という条件が必要と思います。

      [高岡]DABを加えない全血清だけではどうなりますか。

      [佐藤]やってみていません。

      [藤井]皮膚移植の場合、とり出したskinを他種動物のDNAと一緒にしておいてからもう一度自分のskinに戻すと、takeされない、という報告があります。自分自身のDNA(同系)とならばtakeされます。処理は37℃1時間です。

      [勝田]私のところでも実はDNA-transformationの実験にかかっています。これはラッテ肝細胞を“なぎさ”培養しておいて、他種、つまりヒトのDNAをくわえるのです。まだはじめたばかりです。

      [吉田]取込ませる技術が難しいでしょう。

      [勝田]とり込ませるのはわけないのですが、消化されないようにすることが大切で、それで“なぎさ”培養を使うわけです。Criterionはヒトの蛋白合成です。

      [永井]Cell levelでのtransformationの仕事が沢山出ていますが、どの程度追試が成功しているのですか。真偽性などは・・・?

      [堀川]細胞レベルではなかなか確実なものはないと云って良いでしょうね。班長の云われた、マーカーを何にするかという所に難点があるのです。昆虫細胞の仕事では少しできているようですが・・・。

      [勝田]さきほどの藤井班員の話ですが、逆の実験もやってみたらどうでしょう。つまり普通ならばtakeされない他系のskinを、同系のDNAで処理してtakeされるようにならないかどうか・・・。

    ☆このあと、藤井班員によるmicrodiffusion plateでのオクタロニー分析法の解説があり、実物も展示された。これは小さなplastic plateに小孔を明けて使うもので、結果は染色後顕微鏡で判定する。少数の細胞で沈降線があらわれるので、培養細胞の検査には好適である。その内データとしてまとまったら話して下さる由、その日を楽しみにしよう。


    《黒木報告》

    6月はpaper(Carcinogenesis in tissue culture VIII)を一つ書き、そのためexp.の方はお留守になってしまった。しかし、このpaperの中で、大体重要なことは網らし、云いたいことも云ったので、前の短いpaper(Proc.Japan Acad.及びTohoku J.)の欲求不満はいくらか解消できた。

     6月から7月にかけて、コロニーレベルのexp.に重点をおく積りであったが、7月18日によく調べなかった新しい血清により培地交換を行ったところ、すべてがcontamin.し、約1ケ月〜2ケ月損したことになった。今回はコロニーによるtransformationを、発癌剤の毒性への抵抗性に関するdata及び文献について報告する。

    (1)Plating後の4HAQO処置によるtransformation

       Berwold、Sachsらのpaperではplating後にBP(最近はX・ray)を加え10〜14日後にfixしてcolony levelのtransformationをみている。4NQOでも同様のExp.を試みた。

      Exp.#505

      feeder cells:C3H mouse embryonic cells・2G、5,000r照射(332r/min. Co60)10万個/d.にFalcon 60mm Petri dishに撒布、2日後、hamster cellsをseedした。

      hamster cells:1G 5days in vitro、1,000/d.にseed。

      medium:20%BS+Eagle MEM(GLU、PYR、SERはfilter、他は高圧滅菌)

      albumin med.はfibroblastic cellsのselectionを行うので、使用を中止した。

      carcinogen:4HAQO・HClをseeding第1日に10-5.0乗、10-5.5乗、10-6.0乗、10-6.5乗Mに加えた。

      incubation:14days 炭酸ガスフランキでcultureし、MtOH固定、Giemsa・stain、実体顕微鏡でcolonyかんさつ。

      §Results§

      Carcinogenは前述通り、各群のPEは対照9.6%、10-6.5乗9.9%、-6.0乗10.3%、-5.5乗7.75%、-5.0乗0.98%で、transformed comonyは10-5.0乗群にのみ1/49出現した。

      このうち10-5.0乗Mは5枚のdish故、seedしたcellsに対しては7/5000すなはち2x10-4乗のtransformation rateになる。この率は前回のHA-8のtransformatin rate 5x10-4乗とほぼ一致する。

      なお、Sachsらの場合は、10μgのBPでPE 0.9%、transformed colony 16.8%(denseのcolonyだけにとると4.3x10-4乗)、したがって1.61x10-3乗のrateになる(PRONAS.56-4,1123,1966.Huberman and Sachs)。

    (2)発癌剤4NQOに対するtransformed cellsの抵抗性

      上記のExp.を4NQOで行はずに4HAQOでtreatした理由は、4NQOが、特に、少数細胞レベルのときに、強い毒性を示すことが分っているからである。次表に示す(図を呈示)ように10-7乗Mの濃度でcolony形成率は0になる。このために、plating後のtreatmentによるtransformat.は4HAQOでないとできない。

      4NQOのcolony形成に及ぼす影響を調べてみたろころ(表を呈示)、transformed cells(CL-NQ-7、NQ-2、HA-1)にはnormal、Lcellsに比して4NQOに対する特異的な抵抗性は得られなかった。

      そしてplating法でみられた「抵抗性」の欠除はmass・cultureに4NQOを加え、growth curveをみたときにも得られた(図を呈示)。

      「抵抗性」の欠除は今までに得られた多くの成績とは一致しない。すなはち、1938のHaddowの仕事以来調べた範囲のすべての仕事は、chemicalで発癌した細胞はその物質に対して抵抗性を有している。しかしspecificityはない。すなはち、Methylcholanthreneで発癌した細胞はMCAだけでなく、DMBA、BPにも抵抗性を有する。これらの事実をもとに、Prehnは、発癌機構を発癌剤に対する抵抗性をもったpopulationのselectionと考える“clonal selection theory”を提出し、またVosilieuも、それにもとずく発癌機構の解析を行った。(発癌剤に対する抵抗性の文献を呈示)

      4NQO-transformationにおいてtoxicityへの抵抗性のないことは、恐らく、4NQOがcarcinogenであると同時に強力なcarcinostatic agentでもある事実によるのであろう(Sakai,et al Gann 46,605-616,1955)。また、この抵抗性の欠除の事実は、「transformed cellsは4NQOのtoxicityに対してselectionされて生じたのではない」ことを示唆している。

      4NQOのproximateのcarcinogen 4HAQOでは、この抵抗性はどうなるか、これから試みるつもりである。(Normal cellsに対する4HAQOのtoxicityは、最初の表に示した)

    :質疑応答:
      [堀川]Synchronous cultureで実験を進めたい理由は?

      [黒木]Cell cycleのどのstepで発癌剤が働くのかを知りたいのです。

      [堀川]抵抗性をしらべるためgrowth curveを作るときは、もう少し長い日数みるべきでしょう。

      [黒木]発癌剤に耐性があるかどうかは、これまではcell levelやPlating efficiencyで見ている報告は少いですね。

      [勝田]耐性の問題は、実験的にわりだしたものですね。

      [黒木]これまでの化学発癌の場合も、その薬物だけへの耐性でなく、交叉耐性もできているようですね。

      [堀川・吉田]発癌と抵抗性とは関係ないようですね。

      ☆ここで吉田班員が、黒木班員の4NQO−ハムスターの実験の染色体分析の結果をスライドにより展示した。

      [堀川]染色体のgroupによって傾向があるように見えますね。

      [吉田]Trisomieの起り易いgroupなどあります。

      [黒木]最近の検索ではmodeが44本のが多いですね。

      [吉田]処理後早い時期をみているからでしょう。もっと進むと、或時期に染色体数が倍加して、それから不要なものが落ちて、Hypotetraploidになるのではないか、と思っています。Ratの白血病でも大きなtelocentricがtrisomieになるようです。Hamsterの場合仲々一定のものにならないのは、材料がembryoだからtarget cellsが多すぎるのだと思います。ヒトではモンゴリズムのとき21番目の染色体がtrisomieを作ります。白血病では21番に欠損のできる例があります。

      [堀川]吉田班員は染色体数が2倍になったとき、γglobulin産生に関与する染色体の数が倍になっていることを確めたかったわけですね。

      [黒木]染色体の数のresponse relationshipというようなことは、知られているのですか。

      [堀川]Ephrussiのhybridの仕事が沢山ありますが、markerによって全然ちがう結果が出ています。必ずしも1+1=2とならないようです。

      [黒木]私の場合、transformation rateが10-3乗〜10-4乗というのはどうでしょう。

      [吉田・堀川]その位で良いと思いますよ。自然発癌の場合が10-6乗だし・・・。

      [勝田]この場合は、まいた細胞数の何%というより、増殖可能細胞の何%という方が良いですね。

      [吉田]いまお話した私の結果から考えて、培養内の方が反って細胞がselectされ、動物の体内では変な細胞も受入れられて或程度ふえるようです。どうも今まで私の考えていたのとは反対のように思われます。

      [勝田]胎児組織を動物体内に移植して、それをさらに体内あちこちに移植し直していると悪性化したという古い報告をきいたことがあります。

      [吉田]形態での変異と悪性変異との間に、染色体レベルでどういう関係があるのかをもっとしらべたいと思います。また冷血動物では核の入れかえの実験がありますが、高等動物細胞でもそのような核あるいは染色体の入れかえなどが出来ると面白いと思います。

      [勝田]核の入れかえは堀川班員が以前に狙っていたね。

      [堀川]Transformationの問題の場合、入れたDNAを採る時期、入れられる細胞のcell cycleの時期によってrateがぐっと変るでしょう。

      [黒木]そこまで行かなくても、培養をはじめて何日目の細胞を使うか、cell sheetがどの位のとき発癌剤を作用させるか、pH、温度など条件を一定にしてやらなければと思うのですが、色々判らないことが多くて・・・。


    《高木報告》

    1)月報6707の2)に報じたrat thymus由来の株細胞に対する4NQO添加後の経過について、NQ I及びNQ IIIは27代継代後も殆ど形態的な変化はみられず、full sheetを作ったので培養を打切った。

      NQ IIは4NQO除去後、約3週間たった7月5日に生じたcell colony2ケの中cell densityの高い1ケを、機械的に剥がしてtrypsin・EDTAで処理後3本のCarrel瓶とP-3シャーレに植継ぎ(27代)炭酸ガスフランキに入れた。Carrel瓶に継代した3本は翌日培地が強くアルカリ性に傾いたので、その中の1本は炭酸ガスフランキに移した。現在炭酸ガスフランキ中のP-3 2枚とCarrel 1本とはcontrolとあまり形態の異ならない細胞が生存しているが、rubber stopperをほどこしたCarrel 2本は培地がアルカリ性に傾いたためか細胞はすべて変性したので培養を中止した。

      7月10日には7月5日に継代したfocusの残りの細胞をP-3 2枚に植継いだが、継代に失敗し、現在ごう少数のfibroblastic cellsが附着して残っている。継代した元のTD40にも少量の培地を加えて炭酸ガスフランキに入れた処、4〜5日して2〜3ケのcolonyの発生をみた。これらが7月10日に継代の際剥げ落ちて移動した細胞の作ったcolonyか、或いははじめからそこに残っていた細胞がtransformして生じたものかは分らない。

      NQ IVは生存した細胞数が多く、それらが次第に恢復して殆どsheetを作った。このsheetはcontrolの細胞と同様な形態のもの及び上皮様細胞で、細胞質に顆粒の多い細胞が入りまじっていた。このsheetはtrypsinizationにより7月10日、TD15とP-32枚に植つぎ、TD15はrubber stopperをほどこし、P-3は炭酸ガスフランキに入れたが、controlの細胞と似た形態の細胞が主で、その中に処々上皮様の上記の細胞が混在している。これらの細胞は適当な時期に復元してみる積りであるが、以上の実験ではNQ IIにみられたcolonyの発生が果して本当のtransformed fociかどうかやや疑問がある。更に次の実験を行った。

    2)6月20日27代目のrat thymus(RT)細胞を用いて実験を開始、今回ははじめから炭酸ガス インキュベータに入れて4NQO 10-6乗M/mlを28時間及び10-7乗M/mlを7日間夫々作用させた。

      10-6乗M/ml添加した培養では殆どの細胞がdamageをうけてガラス面より脱落して了ったが、その後約2週間たった7月14日、明らかにpile upした細胞のtransformed fociが2〜3ケあるのに気付いた。RTcellsは如何にcell densityがましてもpile upすることはなく、またcell sheetは透明感が強く培養瓶のガラス越しに肉眼的にこれをみることはきわめて困難である。生じたfocusは肉眼的に白っぽく認められ、細胞はpile upし又形態もcontrolの細胞とは異っている。これはtransformed fociと云って間違いないと思う。

      10-7乗M/ml添加した培養ではcontrolに比較して何等の変化も認められなかったので培養を中止した。(実験経過の図を呈示)

      上記の実験に用いたRTcellsは、今日迄約10ケ月間in vitroで継代培養されているものであるが、これらの細胞の10,000個及び100,000個を含む浮遊液0.2mlを、夫々2匹づつのhamsterのcheek pouchに移植したが、3週間を経た今日腫瘍形成などの変化は全くみられない。

    3)先報に記したautotransplantationの準備としてadult hamsterのauricular skinのorgan cultureを試みた。

      培養方法は大略Gilletteの方法に準じて行った。即ち耳介を水洗後ether及び70%ethanolで数回洗い、耳介の皮膚を剥ぎとって(10x10mm)これをNystatin200u/ml、SM 250ng/ml、PC 2,000u/mlに溶かしたHanks液に各90分、30分、30分と浸した後、皮膚表面の水分を吸取紙で吸いとり、P-1シャーレ内でEagle'sMEM+10%calf serum+hydrocortisone10mg/lにPC・SMを加えた約3mlの培地上に浮かせて37℃のincubatorで培養した。培養4日までは組織は可成りhealthyな状態に保たれている。なお今後培養条件を検討したいと思う。

    :質疑応答:

    [吉田]RTcellsは培養をはじめてからどの位たちましたか。

    [高木]約10カ月です。

    [黒木]Pile upするという性質は、継代してもそのまま続きますか。

    [高木]まだsubcultureしたばかりで判りません。

    [吉田]移植成績は? 対照の移植は?

    [高木]Controlはhamster cheek pouchで未だ腫瘍を作っていません。

    [吉田]材料がラッテだからラッテへ復元する方が良いと思いますか・・・。細胞の種類は何ですか?

    [高木]まだ同定できていません。勝田班長のところの細網細胞とは違うようです。


    《三宅報告》

    d.d.系マウスの胎生15日目の皮膚について、器官培養の直後から、4NQO、MCA-Benzol(その対照及びethanolのみによる対照を含めて)を作用せしめ、1週間の後、H3TdRを1μc/ml、2時間、37℃のもとに取りこませ、Radioautographyを検索した。その結果、labeling indexを皮膚の各部についてしらべた所、次のようなバラついた結果をえた。

    MCA-Benz.EthanolCotrolControl4NQO
    Basal layer31.0%26.029.730.00
    Hair follicles11.76.326.38.80
    Dermis5.27.915.315.00

    このAutoradiographyは、同時に同じ感光材料を用いて、行われたものである。4NQOを作用させた皮膚に、Grainが全く見られなかったというのが、ethanolのためでないのは、ethanolのみを用いた対照に豊かに入っていることで、判明する。4NQOを作用させた皮膚のepidermisやdermisの皮膚に核の濃縮や、形質の中での空胞形成がみられる所からみると、3回の4NQOの作用に誤りがあったのか、それとも1週間という培養時間に、組織の退行性病変からの立ち上りのためには、不足したのか、いろいろのことが考えられる。

    対照例についても、この3ツの皮膚の部分のL.I.にバラツキがみられるのは、この実験が2系のsiblingの皮膚について行われたためかも知れない。即ち、胎生発育の微妙な差が、この系の間に生れたものかも知れない。今後、この実験をくりかえして、誤差を少くするように努力したいと考える。

    :質疑応答:

      [藤井]Rat embryoのskinですか。毛の生える時期との関係はどうでしょう。

      [三宅]マウスの15日胎児です。但し1日2日は誤差があるかも知れません。

      [吉田]Hair-lessのマウスを使ったらどうでしょう。必要なら差上げますよ。

      [堀川]Thymidineの加え方はどうしていますか?

      [三宅]培地に加え、一定時間後すぐに組織切片を作ります。Cold-TdRは使いません。4NQOは10-6乗M与えましたが、organ cultureでは一般に薬剤の高濃度に耐える筈なのですが、4NQOでは毒性が強すぎるようです。


    《堀川報告》

    培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(2)

    前報で報告した(実験6)につき詳細が得られましたので、それを追加します。大筋は前報をみていただくとわかるように

    1. 500R照射しただけのControlマウスは8匹中4匹、つまり半数が死亡し

    2. Cultured normal bone marrow cellsを移植したものでは全数(3匹)生存。

    3. 4NQO処理bone marrow cellsをもどしたマウスでは6匹中3匹つまり半数が死亡。

    これらの結果から少くとも2)のcultureされたnormal bone marrow cellsがX線照射されたマウス内で機能的に働き、死亡から防護している可能性を示すと前報で結論したが、今回は特に3)の系につき重点的に追ってみた。すなわち、4NQO処理細胞をマウスにもどしてから47日目にそれぞれのマウスの末梢血をとり白血球数をしらべると、「Mice transplanted 4NQO-treated bone marrow cells」群は、「Mice trasplanted normal bone marrow cells」群や「Control mice(X-irradiated and non-transplanted mice)」群ではみられないような白血球数の異常増加があるマウスにみられた。(勿論どれもX線がかかっているので正常値5000〜7000立法mm白血球数より幾分増えてはいるようだが)

    また同時にこの際、末梢血の白血球を分類してみると(表を呈示)、正常マウスでは全白血球中の50~60%をもしめるリンパ球が、4NQO処理細胞をもどしたマウスでは極減し、そのリンパ球は10〜20%しか存在しない。 とにかくここまでの段階では4NQO処理したbone marrow cellsをマウスにもどすことによって何かが変ってきたとは言えるようである。

    ただその後9日目に生存マウスについて再検するとほとんど正常白血球数および組成(分類した結果にもとずく)にもどっていることから、どうも何かがおこりつつあるようであるが、それはLeukemiaという段階にまでは達していない。

    しかも4NQO処理細胞群をもどしたマウスがControlマウス(500Rされたもの)と同様に半数死ぬことから、これが単に機能的な細胞を与え得なかったために現象的にはControlマウスと同じ機構で死んで行ったのだと考えるのが正しいのか否かについては未だ決定的なデータを得ていない。

    :質疑応答:

      [藤井]復元接種をする実験のときは、動物材料は純系を使うべきだと思います。

      [吉田]そうですね。X線をかけているから良いようなものの、それでも500rでは回復しますからね。純系があるのだから、良い純系をえらんで使うべきですよ。

      [堀川]4NQOのかけ方ですが、無処理の細胞でColoniesを作らせたところで、4NQOをかけた方が良いか、とも思っています。

      [黒木]無処理ではColoniesができるわけですね。そして4NQOを作用させるとColoniesができなくて、浮遊状態で少し宛増えているわけですね。生体での白血病の場合も余りふえないが、分化しないので幼若がたまって行くということがありますが、それと同じような現象かどうかは、4NQOを作用させた細胞の形態をしらべてみると判るのではないでしょうか。

      [堀川]いましらべているところです。

      [勝田]培養細胞が機能を維持しているかどうかを、動物のrecoveryを目途にして見るというのは良い方法だと思いますが、それだけ大切な実験にしては動物の数が少なすぎますね。

      [藤井]X線の照射量をもっと増やして、対照が全部死ぬいうdoseにした方が良いのではありませんか。

      [永井]4NQO処理細胞が正常な骨髄細胞の機能を有していないのか或は処理細胞が白血病に変っているのかを知るのに、正常骨髄細胞と半々にして接種してみたら如何ですか。

      [吉田]入れた細胞が増えたほか、hostの細胞がふえたのか、どちらですか。

      [勝田]入れる細胞と、recipientと性をかえれば良いでしょう。

    《奥村報告》

    奥村班員の抄録が提出されなかったので班長のメモによって概略で記す。

     ウィルス発癌の実験はまだ予備実験の段階であり、化学発癌には着手していないので、現在行なっている仕事について報告する。

    1. trophoblastsの培養にSV40をかけると、100%transformationが起る。増殖度は数倍〜数十倍上昇、ホルモン産生量も上昇する。

    2. ハムスター新生児細胞を種類別にisolateして、武田薬品のtest薬剤を加えると、臓器の種類によりeffective doseに差が見られた。

    3. Rabbitのmorula(桑実胚)は数千個の細胞から成るが、これをtrypsinizeして静置培養すると、急増殖を示した。その内シートの一部が盛上り、beatingを示した。5〜6日からはじめて3週間以上beatingは続き、最高毎分140搏位であった。胚の受精膜のみを培養すると、塊をあちこちに作ったが、その中にも高く盛上った塊が見られた。これらは心を作っていくものと思われる。

    :質疑応答:

      [堀川]はじめの薬剤の話は、細胞と薬剤の関係が一定でない、ということですね。つまり、たとえばCHSだと腎上皮は完全にやられてしまうが、心センイ芽細胞は影響を受けない。だが他の薬品だとまた違う結果が出る、ということですね。

      [奥村]そうです。

      [吉田]1コの卵から1コの心ができるのですか。

      [奥村]大体そうです。

      [堀川]材料にした胚はまだ心など判らない時期のものでしょうから、心の原基のようなものが分化して行くわけですね。

      [吉田]どのstageになると分化が起るか、ということが大切ですね。

      [奥村]Trophoblastsを別にわけると、一緒においた時よりも、心のでき方が悪いようです。

      [永井]beatingしている細胞塊の内部構造は?

      [奥村]いましらべています。

      [永井]Inductionが起きていると考えますか。

      [吉田]もちろん起っている筈ですね。

    ☆☆☆癌学会に提出予定の題名(仮題)☆☆☆

    第15報:4NQO類による培養内transformation(黒木)

    第16報:4NQO類発癌ハムスター細胞の染色体分析(吉田)

    第17報:培養内4NQO処理ラッテセンイ芽細胞の顕微鏡映画観察(勝田)

    第18報:4NQO類発癌剤の毒性に対する抵抗性(示説)(黒木)

    第19報:培養内自然発癌のラッテ肝細胞について(2)(佐藤)