【勝田班月報:6706:ハムスター胎児細胞の培養内自然悪性化】

《勝田報告》

  1. “なぎさ”→DAB処理により生じた変異株MのホモジネートのDAB代謝の測定:

     ラッテ肝由来の変異株MはDAB代謝能が異常に高いので、その代謝酵素を分離すべく、Cell homogenateのレベルでの代謝能をしらべているが、今回はJBC.176:535,1948に記載されたMueller,G.C. & Miller,J.A.の反応液を試用してみた。(組成表を呈示)

     原法では肝組織のhomogenateなので、10%にできるが、こちらは培養細胞なので、500万個/2mlにsuspendしてhomogenizeし、これを約200万個/0.8mlで用いた。添加量は0.8mlである。

    37℃ for 30〜60min.加温というのが原法であるが、我々は2.5時間37℃で加温、20%TCA in aceton-EtOH(1:1) 3mlを加えて反応を止め、発色させ、520mμのO.D.を測った。結果は稍減少が認められたが、原法の1/10〜1/100の細胞数なので、もっと減少をはっきり掴むためには反応時間を延長させるか、細胞数をふやす(きわめて困難であるが)ほかはないことが判った。

  2. 4NQOによる培養内発癌実験

    1. TD-40瓶による実験

       Exp#CQ16:1967-3-18 ラッテ皮下センイ芽細胞の培養、TD-40・2本の培地に4NQOを10-6乗Mに添加、24時間加温後通常の培地にかえた。細胞の変性壊死が目立ったが、その内の一本に4月20日に新細胞集落を発見。集落は一コの独立集落ではなく、比較的小さな、いくつかの塊の集合であった。細胞は比較的小型で、無方向性に多層性に配列していた。5-21継代し、ラッテに復元接種を試みるべく、目下細胞を増殖させているところである。(顕微鏡写真を呈示)

       Exp#CQ17:同じくラッテ皮下センイ芽細胞の継代第2代(CQ16は第5代)のTD-40瓶・2本に1967-4-14、4NQOを3x10-6乗M、1時間加温の処理を加えたところ、5-1にその内の1本に新細胞集落を発見した。やや小型で顆粒の多い細胞から成り、十字状にきわめて多層に増殖していた(写真を呈示)。5-21継代。復元接種準備中である。

    2. 顕微鏡映画撮影による長期観察(Exp#CQ13)

       ラッテ皮下センイ芽細胞の培養、平型回転管(coverslip入り)1本を1967-2-10、4NQO 10-6乗Mで24hr処理したが、添加直後より撮影を開始し、毎2分1コマの間隔で34日間連続撮影した。培地交新の都度、同一視野あるいは別視野を撮した。第0日より第1日まで4NQO処理、第2〜3日に死ぬ細胞が多く、第3〜10日には視野内の細胞はほとんど死んでしまった。第10〜16日に分裂1コが見られ、第16〜22日には細胞の運動が目立ちはじめ、第22〜28日にはきわめてよく動き、小型細胞の分裂も3コ見られた。第28〜30日にも分裂3コ。第30〜34日に、できかけの集落と思われる部位の周辺を狙ったら、小型細胞の無数の分裂が認められた。その後この細胞を復元接種したが、ラッテに腫瘍は形成されなかった。


 

:質疑応答:

[黒木]形態的には自分のところの変異細胞ととてもよく似ていますね。

[堀川]処理後4週も経ってまだこわれる細胞のあるのは、まだ薬剤の効果が残っているのでしょうか。放射線の場合などは、もっと早く片がつくと思いますが・・・。

[勝田]Cell cycleのまわり方にすごいdelayが起って、あるところまで廻って死ぬのかも知れませんね。

[黒木]形態の変異よりおくれて悪性度が出てくることがありますから、映画の細胞ももう少しすると、つくかも知れません。

[奥村]変異細胞の出現頻度が低いというのは、むしろ変異の幅が狭いことを意味しているのではないでしょうか。また、分裂が関与しなくても、もっと分子レベルでの変化が先行することも考えられます。

[吉田]映画で核小体の大きいのが見える時期があって面白いですね。

[黒木]ハムスターでは、変異は1カ月で見られ、悪性化は2カ月で判ります。

[勝田]変異が先行するというのは、まだ変異の方向が一定していないで、その後培養内で淘汰されて行くのが悪性度の高い細胞だということでしょうかね。

[安藤]変異した時、悪性と良性の細胞が混っていて、それがしだいに選別されるのか、或は悪性まで行かなかったのが以後の培養期間中に悪性化するのか、沢山実験してみれば判る筈です。

[勝田]変異の時期で細胞をばらしてまいてcoloniesを作らせ、夫々のclonesをしらべればよいが、大変な仕事です。

[安藤]変異した細胞が全例悪性とは限らぬ−ということは確かですか。

[勝田]黒木班員の場合、1例takeされないのが出来たわけです。

[吉田]形態変異と、悪性化、という風に言葉を区別すべきでしょうね。映画の最後のカットで、分裂の多い時期、あのときは変異が一杯できているでしょうね。

[勝田]Leo Sachsたちの、放射線による変異細胞が、はじめはハムスターに腫瘤を作るが、やがてregressしてしまう。あんなのも悪性化といっていいんでしょうかね。

[黒木]私はこのごろあれも悪性化と思うようになりました。少し甘くなった。最近DABの誘導体で皮下にうって肉腫を作ったのを見附けました。(Miller & Miller;Pharmacological Review,18(1):805-838,1966)。喰わせて発癌させるのでは、どういう分解産物が効くのかまで考えなくてはならないので、こういう直接的作用のあるものを使う方が良いですね。



《黒木報告》

今回は次の事項について報告します。

  1. hamster whole embryo cultureのcolony形成について、特にalbumin med.について
  2. treated cultureのcolony
  3. 3-methyl 4NQO、4HAQO及びsuspend contact with carcinogenのcumulative growth
  4. 4NQO、4HAQOのdoseをかえたときのcumulative growth curve
  5. 15分間処置のcumulative growth curve
  6. spontaneous transformation(Zen-4)について

1.hamster whole EmbryoのColony形成いついて

 前号の巻頭言の「変異か淘汰か」の問題にとりくむためにも、また、colonyの形態からtransformationを判定し、transformabilityをcountするためにも、正常細胞のcolony形成実験は重要な意味をもちます。

そこで、次の条件で“normal cells”のcolony形成実験にとりくみました。

  1. 細胞:4〜7日培養したhamster whole embryonic cells(初代pronase digestionによる)

  2. 培地:20%BS添加(orCS)albumin med.又はEagle MEM(albumin med.はbovine alb.fract.V 0.75% & Bacto-peptone 0.1%を含むものです)

  3. Petri皿:Falcon Plastics、60x15mm or 35mmx10

  4. Feeder cells:20日間程度培養したBALB/Cの胎児細胞をsuspendedの状態で5,000r(コバルト60)かけ、10万個/dishにまき、1〜2日後にhamster cellsをseedする

§Exp450§

 この実験ではalbumin med.を用いて、feeder layerの検討を行った。また、次に示すHA-8、NQ-5のcontrolでもある。(表を呈示)feeder layer(+)10,000個/dは数えきれないcolony(正確に云えば、colonyの間もcell sheetで、colonyであるとはっきり云えない)が生じたが、feeder(-)10,000個/dのcolony数はfeeder(+)1,000/dにほぼ匹敵し、それぞれ、1.0%、6.0%前後である。他の実験でもfeeder(+)1,000個/d≒feeder(-)10,000個/dの関係が認められた。これは後者ではcolonyを作り得ない細胞が丁度feeder lay.の如く働いていることを示すのかも知れない。 colonyの形は(スライド及びpetri dish供覧)比較的transformedの如く“dense”にみえる。しかし、実体顕微鏡等により詳しくみると、colonyの1/4は方向性をもったfibroblastのcolonyから成っていることが分る。残りの3/4はflatの細胞のcolonyであった。このセンイ芽細胞から成るcolonyは細胞の増殖が極めて活発であり、かつ方向性を保ったまま重るためにdenseにみえるのであろう。random orientationのcolonyは、total 434ケのうち、1例もみられなかった。

しかし、このように“dense”のcolonyが出現することは、transformationのかんさつを困難にすることが明らかである。

そこで、oriented fibroblastsはalbumin med.により特異的に選択されるのではないかという予想のもとにalbuminとStandard med.の比較をおこなった。

§Exp465§

 この実験ではfeeder layerを用いずalbuminとstandard med.の比較に限った。Falcon Plasticsの35mmφPetri dishを用いた。

(表を呈示)colonyの数はalb.でもstd.med.でも、また1,000個/dでも500個/dでも大差はないが、albuminの方がsizeは大きく、また形もそろっている。

fibroblasticのcolonyはalbumin med.では1/7に認められた。しかも、この細胞は増殖がよく、前回のExp.と同様にdenseにみえるものもある。std.のmed.では、fibroblastic colonyは少く、またgrowthもalbuminよりは低く“thin”である。

現在、さらに、feeder layer、albumin med.、standard med.の組合せで実験が進行中である。予備実験の結果からstandardになるようなcolony形成法をみつけ出し、cloningなどの実験に入りたく思っている。

2.発癌剤処置のコロニー

 前回のExp450と同時に行った。

 細胞はHA-8:発癌剤処置9日、終了直後。NQ-5:4NQO 10-5.5乗M4日、終了後5日。

(表を呈示)colony形成率、そのうちのoriented fibrobl.のしめる割合はcontrolと大差がない。しかしcontrolにはみられなかったrandom orientation colonyがみられた。

このcolonyの形は、Sachsらのいうtransformed colonyと同一のものか、あるいは、発癌と関係あるものかは、現在のところ不明であるが、一応transformed colonyとして扱うと、4HAQOでは10-4乗、4NQOでは10-5乗でtransf.していることになる。

これが正しいかどうかは、更にいくつかの実験により確かめる必要があろう。

 残されたもう一つの問題は、ここに示したrandom orientat.のcolonyが本当に悪性化に連るものかどうかである。というのは、HA-8が悪性化したときのcolonyはrandomというよりは、むしろ方向性のある配列を示しpile upしているdenseなcolonyだからである。

この問題は、このcolonyをひろってさらに継代する膨大な実験によって解決されるものと思はれる。(colonyの写真を呈示)

3.4NQO、3-methyl 4NQO処置細胞について

 transformationであることの証明には、いくつかの事項が考えられますが、例えば、

  1. そのagentにより再現性をもってtransformationすること
  2. そのagentのmarker(例えばvirusにおけるT-抗原)を有すること
  3. agentのdoseとresponseの間に一定の関係のみられること
  4. Spontaneous transformationと、はっきり区別のつくだけ十分な時間の差異をもっていること
  5. cloneを用いた実験に成功すること
  6. clone分析により遺伝的に安定であることの証明
  7. 他のsystem(例えばin vivo)のdataとよく一致すること

ここで最後の項目は必ずしもtransformationの確証とはなりませんが、重要な所見となることは確かです。

 そこでin vivoで絶対に発癌性がないことが明らかであり、4NQOの対照としてふさわしいものを国立癌センターの川添豊氏に選んで頂き、またsampleも少量恵与して頂いた。10-5乗Mの濃度で5回処置を行ったが、transformationは得られなかった。(図を呈示)

この物質は全体に毒性も少く、10-5乗Mでもcytopathic effectはなく、また“early changes”もみられなかった。この実験から、4NQO及び4HAQOによるtransformationはその物質の発癌性によることが強く示唆された。

4.浮遊状態の細胞と発癌剤の接触

 ウィルスによるtransformationは、virusと細胞をmonolayerかあるいはsuspended stateのどちらかで接触感染させている。これはvirusのとりこみが細胞のpinocytosisによるため、両者の衝突の頻度(確立)が感染率を決定するというvirusの特異性によるのかも知れない。しかしchemicalでもsuspended stateの処置がいくようになれば、技術的には一つの進歩であると思はれるので、次の実験を行った。

logarithmicに増殖している細胞を0.025%pronaseで剥離し、培地中に10万個/ml〜50万個/mlにsuspend、種々の濃度の発癌剤を加え、37℃で2時間振盪した。2時間後、遠心により発癌剤を洗い、TD-40に培養した。結果は、4HAQOでは、細胞の変性、criss-crossなどのEarly changesさえも全くみられなかった。

細胞の変性のほとんどみられないのは、4HAQOが毒性の低いことの他に、不安定であるためであろう。(図、表を呈示)

結局、4NQOは非常に毒性が強く、ほとんどの細胞がやられてしまう。

この方法が全て失敗した理由としては、transformationに向う変化よりも、細胞の死に到る変化の方を強く起すことによるのであろう。

また、細胞からみても、damageを受けたうえに、さらにガラス壁に附着しなければならないことになり、selectionの機会が一つ増えることになる。

以上の理由から、4NQO、4HAQOは、suspension contactでtransformしなかったものと思はれるが、今後、処置時間を短かくするなどの方法ではtransformationにもっていけるかも知れないと思っている。

5.4HAQOのdose-responce-relation ship

 4HAQO 10-5.0乗M、10-6.0乗M,10-7.0乗Mの3段階、各5回9日間処置により、transformationの成否をみた。結果はcumulative growth curveで示すように、HA-8のみがtransformした。10-6.0乗M、10-7.0乗Mは、controlと同じようなgrowth curveを示した。なお、このHA-8は前号の月報に示したregression→growthの経過を示した培養細胞である。(図を呈示)

6.4NQOのdose-response relation shipについて

 4NQO、10-5.5乗M,10-6.5乗M、10-7.5乗Mで調べた。10-5.5乗Mは2回処置のとき、cell damageが強いので以後の処置を中止した。他は4HAQOと同様に5回9日間つづけた。(図を呈示)cumulation growth curveでは、10-5.5乗M処置のNQ-5のみがtransformした。興味あるのは、NQ-5が培養27日、発癌剤処置後23日で動物移植によりfibrosarcomaの像を示したがregressしたことである。

またNQ-5のcumulative growth curveに変曲点の認められることも、興味をひく。とくにhistologicalにmalig.featureを示しながらも、in vitroの増殖が次第に低下し、そのあとで“transformed focus”が出現して、growthが急速に上昇したこと、さらに、focus出現後も、動物に移植するとregressすることは、増殖能と悪性化は分離して考えるべきものであることを示唆しているように思はれます。今後、経験を重ねるに従って、種々のtransformationの様相が明らかにされ、そこから何らかの知見がひき出されるように思はれます。

また、以上の実験で、dose-responseがはっきりしないように(doseがcriticalに働くように)みえますが、これは、1/1、0/1の判定基準ですので、さらに多くの例を重ねる必要があると思っています。

7.15分間処置によるtransformation

 4HAQOはneutralで15min.で失活するという遠藤さんのdataから考えて、4HAQO 15分間処置でtransformが起るように思はれました。

そこで、短時間処置によるtransformationを、くり返し試みてみたところ、cumulative growth curveでみて、濃度を3倍上げた10-4.5乗M群にのみ、transformationがみられたのです。(図を呈示)

(なお10-4.5乗Mは24h.処理すると、細胞は強く傷害を受け、増殖不能になる。このことは、4HAQOが15min以上、少なくとも細胞にdamageを与えるという活性は保持していることを示している)

このHA-15はvacuolusをもったcellとfibroblastの共生状態がつづき、pile upの傾向も少いようです。まだmalignantにはなっていません。

さらに経過を追う必要がありそうです。

8.Spontaneous transformationについて

hamster whole embryoを培養すると、増殖はやがてとまり、fibre、meshwork arrangementなどの変化がおこること、また、このようなlimited life spanがtransformation(induced)のselectionに対して都合のよい条件であることは、すでにくり返しのべてきました。これに対して、一部では「establishできないような培養法」は、悪い条件の培養であるという考え方もあり、establishする培養法にきりかえるべきであるとの意見も聞かれた訳です。(この考え方には少し疑問があります。機能を維持する培養、あるいは目的に沿った培養法が、establishすることよりも重要なのではないでしょうか)

4NQO-transformationの対照細胞はすべてgrowthが止っても、定期的にmedium changeをつづけ、経過をかんさつしてきたところ、そのうちの一つZen-4が培養後311日にestablishしました。

この細胞のhistoryを少し詳しく記します。

1966.3.5  explant outgrowthで培養   3.10  liquid airに凍結保存   6.24 liquid airよりthawing、凍結106日(thawingのときの細胞生存率85%) 7.3 第3代 7.9 第4代 7.15 第5代 7.22 第6代、以後うえかえせずに1967.5まで維持(増殖はみられなかった) 1967.4.26 focusを発見、継代、以後denseなlayerを形成し、活発に増殖 5.4 染色体標本 5.4 移植→sarcoma 以上の結果から、hamster胎児細胞は300日以降にはSpontaneous transformationの起る可能性のあることが明らかになりました。

従って、induced transformationは100日以内に起させないとまずいようです。



 

:質疑応答:

[奥村]あのスライドのcoloniesの写真は培養何日位ですか。

[黒木]12日頃です。

[奥村]それであの大きさでは、初めが1コではなく100コ位づつかも知れませんね。

[勝田]映画をとっていて思うのですが、2〜3コの塊からはすぐどんどん増え出すのに、本当の1コからは仲々生え出してきませんね。

[吉田]Mutation rateは普通は10-6乗位のorderです。10-3乗位というのは4NQOが変異に有効に働いていると思いますね。

[安藤]細菌だと10-8乗位ですが、薬品を使うと10-2乗位にまで上げられます。

[奥村]一つのcolonyがいくつ位の細胞から出発しているかを考え、あの数値は1order上げておいた方が良いのではありませんか。

[黒木]3T3が変異の最高で60%位にもなります。

[勝田]Mouseのfeeder layerを使うと、それとのHybridができてしまうのでは・・・。

[黒木]Feederを使わないと細胞数を10倍位にしなくてはならないし、出発が1コでないという問題も起ります。

[奥村]Conditioned mediumを使うことを検討すべきでしょうね。

[勝田]復元したらtumorを作ったがregressし、その後は本当にtakeされたという、その2時期の間に細胞は何回位分裂した計算になりますか。

[黒木]10回位でしょう。

[堀川]はじめの頃は対照群が300日も保たなかったわけですね。若し300日保てば自然悪性化してしまうものかどうか・・・。

[黒木]この1例だけですが、とにかく300日たったら悪性化していたわけです。とすると実験は100日以内に勝負をつければよいと思います。

[奥村]100日でも長すぎるのではありませんか。

[堀川]4NQOが悪性化を促進しているだけですか。

[黒木]発癌剤というものは、そういう働きを持っているのではありませんか。

[佐藤]DABの実験からも思うのですが、発癌剤は発癌を促進またはselectするのだと思います。

[奥村]発癌のためにはどの遺伝子を何回どう叩けばよいかがはっきるするような実験法を用いるべきでしょう。

[黒木]現在の時点でそんなことができますか。実験法について色々検討したのですが、Rafajko,R.R.:JNCI,38:581-591,1967にHamster whole embryoにAdenoをかけるのに、5%炭酸ガスを使うと変異が非常に高率になるといいます。炭酸ガスフランキは癌化に何らかの役目を果たしているのではないでしょうか。

[奥村]自分の所で自然悪性化した例は、みな炭酸ガスフランキで培養したものです。

[黒木]できるできないではなく、頻度が上るのではないでしょうか。

[勝田]私のところで仲々癌化しないのは、炭酸ガスを使わないためですかね。

[吉田]炭酸ガスが変異の頻度を上げるということを蚕で実験している人があります。

[安藤]炭酸ガスで変異促進というのは、培地のpHを下げるという意味もあるかも知れません。他のmildな酸で酸性にしてみたらどうでしょう。

[奥村]pHを上げないようにすると自然悪性化の頻度を上げられると思います。

[堀川]こういう発癌とウィルス発癌とは同じ機構でしょうか。

[奥村]同じとは云えないが、似ていることもありますね。昔ウィルス発癌がうまく行かなかった頃の条件をしらべてみると、pHが高すぎたようです。

[堀川]変異のprimaryの変化は、duplicationの時のbaseの読みちがいですか。

[安藤]そうですね。たしかにbase changeでしょうね。

[吉田]4NQOは吉田肉腫に与えるとheterochromatinの部分を特異的にattackします。

[黒木]特異的といっても細胞質だってやられるでしょう。

[堀川]それは放射線でも同様です。

[奥村]Synchronous cultureでやってみると、もっとどういう時期にヒットするか判るでしょう。

[吉田]染色体レベルでみて、SでもG1でも染色体異常は起らず、G2期にあったものだけが異常を起すということを、私は発表しています。

[安藤]Double-strandのDNAにはよくつくが、Sinleではつかない。その考からだけ行けばG1、G2両方に効くように思えますが・・・。

[勝田]生化学者にしても染色体研究者にしても、或薬剤が効いたということのcriterionとして、DNAがきれたとか、染色体に異常が起ったとかを重視していますが、それで良いのでしょうかね。むしろそんな細胞は増えられずに死んでしまい、別のが増えるのではないでしょうか。

[堀川]染色体レベルの変異をみるのならhybridのやり方を採用するのが良いと思いますね。

[奥村]黒木氏の今の目的は変異の機構を整理したいのか、悪性化させたいのか、どちらですか。前者ならSynchro.など、後者ならそれだけに攻め方をしぼるべきでしょう。

[勝田]過程としては処理後、変異→悪性化となる、その変異のところでcloningをやって悪性化への過程をしらべることも必要ですね。



《高木報告》

  1. 2つのハムスター培養皮フ片の移植実験について

     月報6704及び6705に報じた2つの実験群で相方とも同じ培養条件を用いた。即ち培地としてはC.E.E.2滴、chick plasma6滴からなるplasma clotを用い30℃可及的低湿にincubateした。用いた移植片は生直前と思われるハムスター胎児の背部及び側腹部より皮フ全層を取り、約10x10mm角に切り直接clot上に置いて培養した。carcinogenとして4NQO 10-5乗Mol.in Hanksを皮フ表面に1滴滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下してこの処置を培養開始時及び3日目の計2回行った。

     培養後7日目の皮フ片は非常に健常に保たれており、これらより7mm径の移植片を切り取って成熟ハムスターの背部に設けられた6mm径の移植床に移床した。

     第1回目のものでは4NQO群4匹、対照群3匹の全部に移植後4週目に移植部位に白毛を生じた。白毛を生じた部分の範囲は各個体により夫々径7mmから2〜3mmまでのばらつきがある。8週目頃より4NQO群では背部に毛代えと思われる脱毛がみられ、かなり高度の脱毛を呈したが、白毛の部分だけは脱毛は軽度であった。

     11週目にはこの脱毛も殆んど恢復し、現在14週を経過したが、対照、4NQO群とも白毛は充分維持されている。両群とも白毛部の皮フに腫瘤形成や、皮下との癒着などの変化はみられず、動物は元気である。

     第2回目のものも全く同様の方法で培養されたものを同様に移植したが生残った対照群4匹、4NQO群6匹のうち4週目には対照群3匹に白毛を生じ、4NQO群3匹に白毛、1匹に褐色毛を生じた。その後対照群の残る1匹に白毛を生じ対照群は全部発毛した。結局2回目の実験では10匹中8匹にtakeされた?ことになる。7週目を経過した現在、対照と4NQO群の間に著明な差はみられない。2回の実験を通じてみて現段階では培養皮フ片の移植成功率の高いことと、take?されたgraftが白毛を生ずるらしい点が興味深い。尚、今後は培養片の移植率に関する対照の意味で培養しない胎児皮フの移植、又適当な純系動物を用いての移植実験を是非行いたい。

  2. cell cultureによる発癌実験として、ハムスター胎児がなかなか生れないので、ratのthymusから分離したfibroblasticなcell lineに4NQOを作用させたが、10-6乗Mol以上の濃度では、24時間作用させただけで翌日から細胞の障害が強く現われ、1週間後には殆んど完全に細胞は無くなって了う。一方、10-8乗Mol以下では3日間作用させたのち、10日経っても何の変化もみられなかった。従って今後は10-7乗Molを中心に検討してみたいと思う。


 

:質疑応答:

[三宅]白い毛が生えたことについてですが、組織標本はありますか。

[梶山]まだありません。

[藤井]皮膚移植ではそういうことがあります。神経を切ってしまうためでしょうが、C57BLでも白毛が出てくることがあります。

[勝田]移植直前まで発癌剤を添加し放しでは、発癌剤のついたまま移植することになります。

[加納]Autoの動物に戻したらどうですか。

[藤井]この実験は、つきすぎる位よくついています。培養したためでしょうかね。技術的に云いますと、もっと大きなgraftを使った方が良いと思います。

[黒木]発癌実験をcell levelでなくorgan cultureでやる利点は何ですか。

[三宅]組織として、夫々の細胞集団での変化が見られます。

[勝田]組織レベルでの変化を見て、復元してまた組織学的に検討できます。その意味で、組織像をみていないのはうまくありませんね。

[藤井]培養したバラバラの皮膚の細胞を移植するという技術も開発されています。ハムスターは雑系ですから、マウスの純系を使って実験した方が良いと思いますね。



《三宅報告》

 試験管内での発癌が変異であるのか、それとも混在していた既存の悪性乃至は準悪性の細胞のSelectionによるものかという、前回の月報の巻頭にかかげられた言葉は私達、胎生のOrganを対象に用いるものにとっても、大切なsuggesionであると考えた。Organizeのpatternでの悪性腫瘍に馴れて来た私達が、良性の細胞のComponentから出来ていると信じきっていた胎生の組織の中に悪性か、それとも、まことに不安定(形態学的にも、機能的にも)な細胞を、それと名ざすことは、まことに困難であるが、皮膚という組織の構成成分について、そのどれが最も不安定な細胞であるかを、推察することぐらいのことはできそうである。

 皮膚の表皮では解剖学的にはBasal layerのみでしか分裂をみることがないこと、これを培養に移すと、角化という現象は、素晴らしい勢でのびるがDowngrowthが無いこと、又この上皮性細胞はDedifferentiationという言葉で示される通りアメーバ様の性格を持って来るが、決して異型性を示さぬこと、またもっと大切なことはBasal layerの細胞が僅少であることなど、4NQO、MCAの添加によっても、こちらの目的通りには、動いて呉れない、と考えるようになった。所が表皮の下にあるdermis以下の細胞−それは神経もあり、血管もあるが、その主体となるfibroblast likeな細胞は、Andresen(J.N.C.I.,38,169,1967)によるC3H発癌実験でも知られる通り、すこぶるmultipotencyを持っていて、C3Hの前眼房の中に戻されると、骨や軟骨を作る性格をあらわして来る。私達の皮膚のOrgan cultureでも4NQO(10-6乗M/ml)を黒木氏の方法で作用させたものでも、表皮は極めて温順で角化を示す反面、fibroblast likeの細胞は核の大さが増し、Hyperchromatieになって、細胞の濃度も増して来るという具合いにAtypismを示して来るのである。もちろん、これだけで悪性云々の言葉を、さしひかえるべきであるが、今これにH3-TdR、H3-Ur.、H3-Conpundをtakeさせる、一方でHeidelbergerの方法に従って、platingをやるかたわら、動物に戻す実験を行いつつある。

 Fibroblast like cellという細胞系といっても、まことにアイマイな表現になることを、おそれるが、胎生のWharton's jellyを作る細胞というようなものに関連のふかいものと、お考えいただき度い。



 

:質疑応答:

[吉田]Epidermisの細胞がsponge内に入りこんでくるのはorientationを失った為ですか。またそういうものが悪性化とつながりますか。

[三宅]初期段階としてはそう考えたのですが・・・。

[勝田]Heidelbergerのように、あの変異したようなセンイ芽細胞をcell cultureに移してふやし、復元してみたら如何ですか。彼の場合は上皮性の変化があったのに肉腫になりましたが。

[三宅]今試みております。上皮性のものでも肉腫状所見を呈してもかまわないと私は思います。

[黒木]あのセンイ芽細胞はcell cultureすると、criss-crossを呈するんではないでしょうか。それから溶媒としてプロピレングリコールも良いと思いますが。

[吉田]あれは毒性がありますよ。新生児には無理でしょう。

[奥村]ホルモンの実験に使った限りでは、培地でうすめると細胞にあまり影響はないようです。

[勝田]Sponge中へactiveに入って行く細胞の方が、より悪性、ということはありませんか。

[三宅]今まであまりしらべてみて居ません。なお瓶は5%炭酸ガスを入れ、ゴム栓をしています。



《佐藤報告》

 ◇RLN-187細胞及びRLN-E7細胞を使用してPuromycinで細胞増殖をおさえた場合、DAB吸収(48時間1細胞)がどの様に変化するかを実験しました。

     
  1. Puromycinで増殖を阻止し破壊した場合にはDAB吸収は寧ろ増加する。  
  2. 0.2μg/ml、Puromycin2日後、Puromycinを除いて増殖を亢めてもDAB吸収には余り影響がない。
  3. 細胞崩解の方法をうまくやれば細胞増殖に関係なくDAB吸収をおこすことが出来そうである。

 ◇DAB発癌

 3'-Me-DABをdimethylsulfoxideに溶解して培養肝細胞に添加する方法で20μg/ml1ケ月位で形態学的な変化がおこるが未だ復元までいっていない。

 ◇4NQO→ラッテ

     
  • N-13:4NQO→生れる直前のラッテ胎児肺。

    トリプシン法でprimary cultureして2日目、7日目、12日目に4NQOを10-6乗Mの濃度で1時間、5時間、12時間投与した。ラッテ全胎児に4NQOを投与した場合に比して肺細胞は抵抗が強い。  

  • N-14:前号に続きRE-4、RE-5の2つの系で実験中です。

    1. RE-4、5x10-7乗Mのものでは、細胞の増殖が悪くなり、それ以後4NQOの投与を行っていません。
    2. RE-5、5x10-7乗Mのものでも17日間続けて投与後8日間正常培地にもどし、再び7日間4NQOを投与したところ、以後細胞の増殖が悪くなった。細胞の形態学的変化は少い。
    3. RE-5で10-6乗M、4〜6時間、時々4NQOを投与している系(現在まで7回)形態学的にかなり細胞が変化しており、また増殖もかなり保たれているようです。
     
  • N-15:動物復元でtumorを形成したものはまだ見当らない。

     

    :質疑応答:

    [奥村]炭酸ガス条件下では肺がいちばん自然発癌しやすいのですが、肺の細胞は炭酸ガスフランキで培養してみたら如何ですか。

    [勝田]私のところのラッテ肺由来の株に4HAQOをかけてみたら、以前報告したようにコロニーはできたのですが、ラッテにtakeされませんでした。炭酸ガスではありません。

    [黒木]移植しなくても増殖度の一変したコロニーのできたことなどでcheckして、どんどんやれば良いのではありませんか。

    [吉田]動物はやはり純系をえらばないと、復元するのに不利だと思います。純系もあるのだから・・・。

    [佐藤]自分のところは呑竜を使っていますが、とくにbrother-sister-matingはやっていません。DAB肝癌が呑竜で継代できるからえらんだのです。

     ☆呑竜が純系か否かの議論しばらく続く☆

    [勝田]DAB消費の測定で、実際のO.D.としてはどちらの群の方が減っているのですか。

    [佐藤]Tube当りでみると同じ位です。

    [堀川]Puromycin処理した細胞は大きくなっていませんか。つまり蛋白当りの数値でみると、結果がまたちがってくるのではありませんか。

    [佐藤]私はこの場合、細胞のfragmentsなどが消費しているのではないかと考えています。細胞をこわすのに、凍結融解や超音波では、消費が0になってしまうのに、この場合のようなこわれ方では何故消費があるのか、いま考えています。

    [安藤]細胞をこわして細胞内のものを全部外へ出してしまうと、酵素が働かなくなるが、Puromycinを加えた場合は、細胞の増殖は止まっていても、生きていれば、酵素は活性の状態で外へ出されているのかも知れません。何時間incubateして見ているのですか。

    [佐藤]48時間です。

    [難波]Puromycinでやられる時までに貯えていた酵素が働いていると考えても良いわけでしょうか。

    [勝田]Cellを入れないcontrolにPuromycinを入れましたか。つまりPuromycinがDABと直接作用するという可能性はないのですか。

    [安藤]DABそのものにPuromycinを加えて対照をとる必要がありますね。

    [堀川]培地内だけでなく、細胞内のDAB量はしらべられないでしょうか。

    [佐藤]濃度の点で不可能ですね。Colchicineでcell cycleをとめてみるのも試みたいと思っています。

    [奥村]Colchicineよりコルセミドを使う方が良いでしょう。

    [勝田]いずれにしてもmetaphaseで止まってしまうから、どういうものでしょうね。



    《堀川報告》

     前号までに実験(1)から(4)までの経過を報告してきた。同様にしてこれまでに実験(7)まで逐次進めてきたが、いづれも御存知のようにマウスBone marrow cellsを用いたIn vitro cultureによるLeukemogenesisをねらったものである。これらの7つの実験系はいづれも使用するマウスstrainを変えたり、mediumの組成をかえたり、4NQOの濃度さらには処理する時間を変えたりしてきたわけである。順序から行けば実験(4)につづいて(5)(6)(7)と内容を紹介すべきだと思うが、すでに班会議でも述べたのでこれらは省略し、もう少し結果が動きだしてからまとめて整理してみたい。

     今は丁度これらの実験を進めてから結果まちの時期のようなので、今回はこれまでの実験系について反省してみたい。思うに発癌実験のような仕事は他の実験にはみられない(少なくともcell levelの仕事で)忍耐を要することがわかった。アイディアよりもむしろねばりである。勿論アイディアなくして仕事は出来っこない。私の云っているのは比重からみてである。とにかく出発した実験の結果まちには他の仕事にはみられない長い時間を要する。これには非常に緻密な排列と整理を必要とする。

     さて次に実験の系であるが、私の実験系は発癌実験の系としてどうしてもスッキリした系ではなさそうだ。しかし前号の月報の巻頭に述べられていた内容が強く私の心をうったように、それは時期的にみて非常に重要なものを意味すると思う。もし発癌だけをねらい、その機構を知ろうと思えば、色メガネをかけて最もシンプルな系をもくもくとまい進すべきであろう。いつかはその系についての機構も少しづつでも明らかにされてくるにちがいない。

     しかし癌には色々の種類のものがある。すべてを同じレベルで同じ機構で説明出来るものだろうか。ある場合にはウィルスの如き作用で・・・。ある場合には化学薬剤の如き作用で・・・。ある場合には両者の如き作用が組み合わさって作用し、種々の癌を誘起させるに違いない。とにかくあらゆる分野の人が、あらゆる角度から攻撃せねば、とうてい陥落出来そうもない。まことに癌は学問の上でも癌である。

     白血病もうわさにたがわず、その1つで正真正銘の癌だ。この癌は我々の如き放射線遺伝学屋にとり関係なきにしもあらずだし、加えて癌畑に素人なものの最もアタックし易い方向と思い一寸足をすべりこませてみたものの、とてもとても手ごわい相手のようだ。しかし色々の意味から一度喰いついたら、とてもあきらめて離すことの出来ない味のある癌のようでもある。さあこれからどのように喰いついた部分をかみ切ってやろうかと頭をひねっているのが現状である。



     

    :質疑応答:

    [安藤]UV照射して回復したなかに、dymerがどの位残っていますか。

    [堀川]まだしらべてありません。

    [奥村]復元接種部位はどこですか。

    [堀川]尾静脈です。

    [奥村]死ぬまでには行かなくても脾臓などの腫脹がみられるのではありませんか。

    [堀川]なるべく永く生かしておくつもりで、殺してしらべてはありません。

    [黒木]このマウスの系はレントゲン照射などで白血病ができませんか。

    [堀川]あまり出ない系です。

    [吉田]放射線をかけるのはspleenにcoloniesを作らせるためでしょうが、目的が4NQOで白血病になれば良いのなら、放射線をかけなくても良いのではありませんか。

    [堀川]両方をねらっていますから・・・。

    [吉田]胸腺は白血病を起す場として大切だということが、いま大分唱えられています。だからあまり色々ねらうと、何を見ているのか判らなくなるのではありませんか。脾臓のcoloniesを見る方にもっと力を入れたら如何でしょう。

    [黒木]白血病ができたとすると、Virusの心配も起ってきますね。



    《奥村報告》

    1. In vitroにおけるcell transformationの実験系に関する一考察

       日頃、私は哺乳動物の扱い方のむづかしさを痛感しております。しかも、バクテリヤ←→ファージの実験系でみられるようなclearな実験結果、さらにそれから導き出されるさまざまな現象解析に比べると、哺乳動物細胞が極めてやっかいなものであることを痛感します。しかし、そのむづかしいことにより一層の魅力を感じていることも云えます。私の興味がcell transformationにあるだけにbacteria-phageの実験系は色々な意味で刺戟となります。今迄も幾人かの人から親切な助言をもらいましたし、さらには私自身も多少微生物遺伝のことを勉強しましたが、その都度考えさせられることは、哺乳動物細胞には、それなりの独自の実験方法論がなければならないということです。ある一部の実験を除いては、簡単にbacteriaを扱うときの手法をそのままもってくることは出来ないように思います。

       しかし、さまざまな従来のin vitro cell transformationの報告をみますと、結論的にはbacteriaでみられる結果、あるいは方法論にうまくツヂツマを合せようとしているものが多いようです。中には相当無理な筋道を立て、いくつもの飛躍した考えをつなぎ合せているものがあるようです。私は、今までに約30種のcell lineを得て(cell lineをつくることが目的の場合もありましたし、他の実験の副産物としてcell lineが出来てしまった場合もありました)。その都度、哺乳動物細胞の不思議さに接し、いつも空しい感じが、心の片隅から消すことの出来ない経験をしてきました。その最も代表的なものがspontaneous cell transformationです。そこでこれらの細胞を中心に(文献にみられるものを加えて)、色々とデータの整理を試み、あな埋め実験をして、縦軸に染色体のmeta-submetacentric chrom.数を取り、横軸にAcrocentric chrom.数を取った図を作成してみました。細胞はハムスターです(図を呈示)。さらに、cell transformationを解析していく一つの手がかりとして(spontaneouslyの場合にも、experimentallyの場合にも)コロニーレベルの解析方法をいろいろと試みてきましたが、最近はどうやらうまく行くようになりました。つまり細胞の増殖能を指標にした実験系です。ここしばらくは、人為的なcell transformationもこのシステムにしたがって進行させてみたいと考えております。つまり、初期の培養がコロニー単位で増殖の速いものおそいものを分離し、それらの細胞を追っていく方法、現在までに得た結果からみますと、一つの傾向として、small colonyの中からでてくるlarge colonyのcellがかなり大きく質的変化を示しているように思います。又、large colonyからのsmall colonyは非増殖性になることが多い。

    2. ヒトtrophblastsのSV・40によるtransformation

       m.o.i. 100~300ぐらいでinfect.させると約3〜5週後にstransformationがみられることが判りました。詳細は次報でします。


     

    :質疑応答:

    [黒木]Cloningされる場合の、シャーレのサイズと培地は何ですか。

    [奥村]サイズは4mm〜90mm、液量に注意する必要があります。0.1ml〜。培地は10%〜50%Calf serumとM・199、Eagleです。血清はよくえらぶ必要があります。私は北海道から取寄せていますが、それでも何割のロットしか使えません。

    [勝田]増殖の早いコロニーを拾ってまくと、次の代は全部早いのですか。

    [奥村]100%ではありません。小さいのも少し宛出るので意識的にそういうのも拾ってみました。

    [黒木]Coloniesの大きさだけでなく、性質はみてありますか。

    [奥村]今は見ていません。

    [吉田]Plating efficiencyはどの位ですか。

    [奥村]1/100%のレベルです。1〜2カ月経つと数%になってきます。

    [難波]4mmシャーレでは最後まで0.2ml位でつづけるのですか。

    [奥村]そうです。

    [黒木]Hamsterの場合、flatなcoloniesもfibroblastsというのですか。

    [奥村]形態については余り断言しないことにしています。

    [加納]TakeされたということのCriterionは何ですか。また部位や量は?

    [奥村]1,000〜10,000皮下か脳内に入れます。脳内の方がよくつきます。病理で組織学的所見で診断を下してもらっています。

    [勝田]人間材料を発癌実験に使うそうですが、悪性化をどうやってcheckするつもりなのですか。

    [奥村]培養内の形態や、ホルモン産生能、増殖などが、mole(竒胎)の培養のそれらに似ているか否かで判定したいと思っています。

    [堀川]それだけでは決定的でないでしょう。

    [黒木]チークポーチなども良いのではありませんか。それより、ウィルスと化学物質の組合せの場合、発癌性のないウィルスとの組合せをみるべきではないでしょうか。

    [奥村]SV40などは癌化に40〜100日かかります。それに化学物質を加えてどうヒットするかを見たいのです。

    [堀川]4NQO発癌の場合も、ウィルスが何の関与もしていないという証拠は今のところありません。という意味で、しらべてみる価値はありますね。

    [黒木]ウィルスの発癌の場合はVirus genomが組込まれることが判っているし、4NQOなどの場合はDNAのbase changeのあることが判っています。この二つが組合わさると、実際にどういうことが起ったのか判らなくなってしまうと思います。

    [吉田]両方とも発癌性のないものを組合せて、それで発癌するような系を見附けられれば、それは大変意味があると思いますね。

    [勝田]私もかねてからそれを主張しているのですが・・・。