【勝田班月報:6808:発癌のSelection説の検討】《勝田報告》§4NQOno光力学的作用について:(各実験毎に増殖曲線図を呈示)(1)光力学的作用の有無
(2)Exp.#CQ41系細胞への光力学的効果
結果は、大変残念ながら、この系は原株に似て光に対する感受性は低く、120分の照射ではほとんど細胞障害をおこさなかった。4NQO或はそれと光照射との併合では、RLC-10原株やCQ41よりもむしろ細胞障害は大きいように思われる。 (5)Exp.#CQ40系細胞の光力学的感受性
(7)Exp.#CQ42系細胞の光力学的感受性
以上の所見からみて、いまのところは、4NQOの変異細胞が光感受性が高いという結論にはとうてい持って行けない。しかし処理回数が最大4回であるので、完全に否定するわけにも行かない。今後はもっと処理回数をふやし、数多くの例にもあたってみる必要があろう。
:質疑応答:[堀川]4NQOの光力学的作用を利用している理由は何ですか。[勝田]がんセンターの永田氏の説によれば、光を照射することにより4NQOにfree radicalができ、それがDNAと結合してmutantsを作るという。それが本当かどうかは別として、生体内で、それではそのような光があたるかどうかということですが、私はこのごろ、生体内というのは案外明るいのではないかと思っています。 [堀川]4NQOが発癌性の形の4HAQOに変るのは、酵素によるものではなく、光によって還元されるから、と考えてよいのですか。 [吉田]4NQOが、光がなくても4HAQOになるかどうか、ということですね 。 [勝田]その件については、私自身は何も知りません。癌センターの杉村君の話でも、4HAQOに変るということと光力学的作用との関連は見出されていないそうです。 [堀川]4NQOが4HAQOより細胞毒性が強いということは云われていましたが・・・。 [永井]4NQOに光をあてると本当に動物の発癌率があがるのですか。 [勝田]それが動物レベルでは実験できない仕事なので困るわけです。そしてこちらに細胞レベルでの発癌系ができていれば検討できるのですが、それがない内は細胞レベルでも想像しかできません。 [堀川]in vitroでの発癌系でこれが確かめられると面白いでしょうね。 [永井]in vitroで、仮に光がないとしても、光と同じような作用で励起するということが発癌と関係をもつかも知れませんね。 [堀川]波長をいろいろと変えて、たとえばずっと長くするとどうなるか、ということもやってみると面白いと思いますね。
《佐藤報告》◇前回の班会議で報告したExp-7株(ラッテ肝)細胞←4NQOの染色体分析(続き)月報NO.6806 13頁に記載した4NQOを投与されて培養細胞に現れる特異的なGroupが培養細胞中にどの程度の頻度に現れるかをまづdiploid rangeの合計44ケについてしらべた。異常染色体の4つをもったGroupが41/44(93.1%)の高率に存在することが判明した。(それぞれ表を呈示)残りの3ケの内、染色体数40のものではMarker1、2、3があり4を欠いていた。染色体数38のものではMaker1と2の異常染色体をふくんでいたが3と4を欠いていた。染色体数43のものはMaker1、2、3及び4いづれにも属さない異常染色体1つを有していた。同様の培養株のTetra乃至Triploid rangeのもののMaker Chromosomeを示す。この場合にもMaker1、2、3及び4の異常染色体が見られる。染色体数の増加と共に異常染色体の数が増加している。 次に前記培養細胞を動物に復元してできたTumorを再培養して染色体をしらべた。この場合、前の班会議で説明した異常染色体を6つ含むものが66%に現われる。(diploid rangeにおいて)他のものはこの6つの異常染色体の内のいづれか1つ又は2つをかく合計25%のものと、6つの異常染色体の他に多種類の異常染色体を1ケ追加しているものであった。(その組み合わせ図を呈示) Tumorlineの内Tri〜Tetraploid rangeのものの異常染色体分布を示す。染色体数の多いものほど異常染色体が増加している。
:質疑応答:[堀川]それぞれの染色体の組合せには、特別な傾向はみられないようですね。[佐藤]培養細胞でこの4本のグループの染色体を持っているものは、前癌状態であり、更に2本加わって6本になると生体内で増殖出来る細胞なのだとも考えられます。 [吉田]「4本のグループを持ったものは培養にadaptしたものであり、6本のものは生体にadaptしたものかも知れない」ということは、復元して6本のグループをもつ系になった細胞を再培養すると、4本のグループにもどるかどうかということで確かめられると思います。又復元した細胞の染色体の経時的な変化をしらべてみる事も必要ではありませんか。 [佐藤]復元したin vivoの状態の方が染色体の数や型にバラツキがあるようです。 [吉田]そうですね。 [勝田]細胞は何ですか。 [佐藤]ラッテの肝細胞です。 [勝田]とにかくこの一系だけの結果から結論を出すのは感心しませんね。 [佐藤]現在、次の実験を進めつつあります。又、初代培養でクローニングして2倍体レンジの系をとり、それに4NQOを作用させて復元してみたいとも計画しています。しかし2倍体のクローンをとるのがむつかしいのです。培地によって大分成績が異るので、目下培地を検討中です。 [安村]in vitroで増えている6本の染色体グループの中の新たに加わる2本の染色体は、in vitroの系には全然無い染色体ですか。若し無かったとすれば、それはどこから現れたのでしょうか。組織培養していると染色体の変化が起るというのは、どういうことなのでしょうか。 [吉田]染色体の一部分が切れたり、又それが他の染色体にくっついてその一部になってしまったりすることから、染色体異常が起ると考えられています。 [安村]そうすると、例えば3本の染色体が1ツ切れて4本になるとします。その場合DNA量にまで変化が起ったりするのは何故ですか。 [吉田]それは一時に起ることでなく、数の変化、構造の変化、分裂異常といったことがくり返し行われて変異してゆくのです。DNA量の変化は不均等分裂から導かれます。 [安村]hybridizationも関係しているとは考えられませんか。又、復元するべき細胞をチャンバーに入れて動物の腹腔内へうめ込んでチェンバー内の細胞を経時的にしらべてみれば、もっとはっきり細胞の移行がわかると思いますが・・・。 [佐藤]培養内で4本のグループの染色体をもった細胞をクローニングして復元しても、必ず6本のグループに変るのかどうか、しらべてみたいと思います。 [勝田]何度も言いますが、1例報告はいけませんよ。いくら討論しても言葉のアソビになってしまいます。
《山田報告》前回の月報(No.6807)に書きました、培養ラット正常肝細胞RLC-10及び、なぎさ培養によるラット変異肝細胞株RLH-5、そして培養肝癌細胞AH-7974の電気泳動度について、先日の班会議で申しあげました。種々有益なSuggestionを戴き有難う御座居ました。そのうちで特に今後の仕事の参考とさせて戴きたいと思ひます点は
1)に関しては現在L.WeissやMeyhew等が盛んに検討していますが、問題は個々の細胞の増殖のStageを生かしたままで知ることが出来ない所にあると思います。従ってどうしても同調培養条件での細胞の電気泳動度の検索が必要と思って居ります。 2)については、これまで全く考えなかったことです。最近、細胞表面のphosphate基の一部がRNA由来であるとの報告もありますので、核酸量との関係、特にその生理的変動に伴う表面荷電量の変化との関係を検索したいと考えております。
:質疑応答:[吉田]細胞の大きさは泳動度に関係しませんか。[山田]水の粘度を上げると差が出ますが、塩類溶液程度の粘度で時間が短ければ大きさによる差はみられません。 [藤井]大きな細胞はチャージが多いということはありませんか。 [山田]泳動度はチャージの密度によります。 [梅田]トリプシンを作用させてcell suspentionを作るのですか。 山田]この実験ではトリプシンは使わずに物理的に剥してバラバラして用いました。 [梅田]suspension cultureを使うとよいのではないでしょうか。 [山田]よいでしょうね。 [堀川]癌と正常ということで、ちがいが出るのでしょうか。細胞の周期によるちがい、つまりcell stageに影響されませんか。 [山田]cell stageによるちがいもある、ということは実験ずみですが、この実験結果をみると、レンヂがまるでちがいますから、この場合は細胞系それぞれの泳動度がちがうと言って差支えないと思います。同調培養を使って測定すると分裂期に上るというデータを出している人はあります。 [堀川]この方法(電気泳動)を利用して分裂期の細胞を集めて同調培養にもってゆくということは出来ないでしょうか。 [勝田]何か工夫して泳動させたものを無菌的に集めることが出来るようになると、いろいろ面白いことが出来そうですね。又、同調培養をしなくてもコルヒチンをかけるとか、寺島法で分裂期のものを集めて測定できますね。 [吉田]染色体数と泳動度との間に何か関係がありそうに思えます。 [山田]それは考えてみませんでした。 [永井]癌細胞の分泌物によってチャージが異るということはないでしょうか。 [山田]細胞の膜構造そのものの違いか、或は分泌物の違いかということは考えてはいます。基礎実験では3回洗ってその前後の数値を比べてみましたが、3回洗った位では泳動度は変りませんでした。 [永井]シアルダーゼにプロテアーゼの混入はありませんか。 [山田]多少疑いはあります
《藤井報告》月報の前号で培養ラット肝細胞(RLC-10)、その変異種(RLH-3、4、5)、培養AH-130(JTC-1)、培養AH-7974の抗原についてImmune-adherence法による解析の結果を報告したが、この中、培養AH-130と培養AH-7974株は、ガラス面への附着が弱く、反応の操作中大部分の細胞がガラス面より遊離し、最後の人赤血球洗滌操作で洗い流されてしまった。今回はあらかじめガラス免疫より遊離させた細胞を小試にとり、小試内でIAをおこなった。Ex.071268.
細胞:
抗血清:
人赤血球は前回報告と同じ。 反応方法:0.5mlのser.dil.(1/5)。0.2mlのCell susp.300万個/ml Rt.30min.。0.2mlのC'、1/20、37℃、20min.。0.1mlのHuE、4x10の8乗/ml、37℃、60min.。 反応終了後、反応液1滴を(かるく振ってよく細胞を浮遊させて後)、スライドグラス上に落し、カバーグラスで掩って顕微鏡下に、癌細胞100ケ以上を数え、そのうちIAをおこしている細胞数の%を得る。 成績:
これら癌細胞は、ラット新生児肝より出発したRLC-10、RLH-株と異なり、或ラット肝に対する抗体ともある程度反応するが、その程度は抗ラット肝癌抗体に対する場合よりかなり弱い。(厳密は比較は困難であるが) この成績は、以前沈降反応で、AH-130やAH-7974のPBS抽出物が上の抗ラット肝抗体に沈降線を1本しか示さなかったこと(肝組織抽出物が5本の沈降線を示しているので明らかに減少している)等と照して、癌細胞が肝組織の抗原数より少く、別に癌であることによって他の抗原を保持していることを示唆している(癌特異抗原かどうかはわからないが)。 現在毎月1回の割で、AH-130、AH-7974、培養AH-7974、AH-109Aのboostingをウサギに施し、各時期の抗血清をつくっている。
:質疑応答:[堀川]もともとなかった抗原が出てきたり、又高くなったりするのは、培養したことによるのでしょうか。[藤井]そうかも知れません。 [勝田]IAはどこまで特異的ですか。 [藤井]補体を介するので、その点について一寸弱いです。 [高木]IAが強く起ると、細胞はこわれてしまうと思いますが、抗血清で細胞がこわされて、こわされたものへ赤血球が附くのでしょうか。 [藤井]細胞がこわれる前にも赤血球は附きますが、こわれることと附着することとは、別に考えてもよいと思います。 [高木]補体はモルモット血清だと思いますが、吸収はどうされていますか。 [藤井]補体を0℃に冷やしてRat赤血球、Rat肝細胞、人赤血球を添加して、30,000rpmで30分遠沈して上清を集めます。これを3回くり返して吸収して使いました。 [堀川]前号の月報に出されたデータは+と−で表現されていましたが、免疫反応も数値で表現しないとはっきりしませんね。 [藤井]前回のは培養細胞を使ってのIAとして初めての実験でしたので、判定がむつかしくて%が出せませんでした。%で出しても細胞に赤血球が1コ附いていても1、数個附いていても1とする所に少し問題があります。 [堀川]全細胞数:全血球数としたらどうですか。 [安村]100%までいかないのは、どういうことでしょうか。 [藤井]テクニカルな問題もあると思います。 [安村]附く細胞と附かない細胞が質的にちがうとすれば、クローンを拾えば100%附く細胞の系がとれると思いますが・・・。 [藤井]赤血球が附く細胞は、その反応のために死んでしまいますから、クローンは拾えないと思います。 [堀川]cell cycleの時期によるちがいによって、赤血球の附き方がちがってくるとは考えられませんか。 [藤井]免疫反応の場合、100%の反応はなかなかむつかしいと思います。celll cycleの時期によるちがいかどうかは、今の所何ともわかりません。
《三宅報告》前回の報告から日が浅いために予備的な報告にとどめたい。
前回4NQOをL株細胞に作用させて、各Cycleのphaseのどこを抑制するのかをH3-TdRのuptakeから判断した。今回は4NQOを10-5乗Mを1時間作用させたのち、経時的にH3-TdR 1.5μc/mlを30分作用させて、その立ちなおりをしらべてみた。
:質疑応答:[堀川]Lの培養にはどんな培地を使っておられますか。[三宅]Eagle+CS 10%です。 [堀川]私の所は199+CS 10%ですが、TGは17時間です。三宅先生の方が長いですね。 [勝田]TGは培地だけでなく、継代の仕方がちがっても変ります。 [吉田]分裂指数は最初少し上っていますね。 [勝田]G2で止っているものがあったりすると、上るのではありませんか。 [堀川]この程度の上り方が意味をもつかどうかは一寸わかりませんね。 [吉田]ラベルの時間はどの位ですか。 [三宅]この実験では30分です。 [吉田]私の実験では動物の腹水へ入れたのですが、薬剤が利いているのは矢張り30分位で、24時間で分裂指数は回復しました。 [堀川]三宅先生のデータでは回復したよにみえていますが、私はL株を使って同じようなことをP.E.でみて24時間ではP.E.は回復しないというデータを持っています。 [佐藤]4NQOの添加時間を変えて、それぞれ24時間後に分裂指数をしらべてみますと、4NQOの添加時間が長い方が分裂指数は高く出るようです。 [吉田]それは4NQOを長く添加していると、G2でとまって、たまるからではないでしょうか。
《堀川報告》培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(6)
:質疑応答:[吉田]染色体異常は薬剤処理後第1回の分裂ではみられず、第2回の分裂から現れてくるものですから、もう少し長い期間観察してみないと、薬剤による異常がないとは言えませんね。[勝田]40日培養した細胞を接種しても同じだと言われたが、何と同じなのか説明して下さい。 [堀川]マウスに900レントゲン照射すると造血系の細胞は死滅してしまい、そこへ造血細胞を接種することによって、脾臓にコロニー形成がみられます。700レントゲンの場合は造血細胞が少数生き残るので、何もしなくてもその被照射動物の造血細胞が自分の脾臓へコロニーを作ります。培養40日の細胞は、そのコロニー数を増やす効果はありませんが、動物の延命効果はあるのです。 [梅田]脾臓に出来たコロニーを形成している細胞は何ですか。 [堀川]まだ同定できていません。 [安藤]X線照射によってDNAが切られる、が或る時間たつと、切られた部分が修復されて又大きなDNAになるということは判っているのですが、その時DNA合成はどうなっていますか。 [堀川]しらべてみたいと思っています。H3TdRとC14TdRのラベル、又はBUdRを取り込ませておくという方法で追跡している人もあります。 [梅田]アメトプテリンとかBUdRを加えて修復されますか。 [堀川]それはこれからしらべなくてはならない問題です。
《高木報告》
:質疑応答:[堀川]胸腺を培養材料に選ばれた理由は何ですか。[高木]私にとっては培養しやすいからです。 [堀川]私の所で最近、生後2日のマウスの胸腺を2ケ月培養したものをマウスへ復元しましたら、2週間でtakeされました。腹腔内接種、皮下接種、両方ともつくのです。生後2日位の胸腺は未分化細胞が多いのではないかと思っています。まだ1例なので、追試している所です。 [高木]私の所では1例もtakeされません。ウィスターキングAは癌が出来にくいからかも知れませんが。
《梅田報告》前回の班会議の時に報告した(No.6806) IIの方式にしたがい、ラット肝のprimary monolayer cultureを作成し、諸種の肝癌に関係する薬剤を投与した。即ち勝田先生の所より提供を受けたJAR-1或は-2の生後4〜5日の新生児ラット肝を細切し、トリプシン・スプラーゼ処理後メッシュ80-150を通し、遠心、沈渣を30万個cells/mlになるようにLD+20%CSのmediumに浮遊させ、タンザク培養を開始した。コントロールの目的で、同じラットより剔り出した腎を同様に処理して20〜15万個cells/mlで培養を開始した。培養2日後にmedium changeし、その明る日、即ち培養3日後に夫々の濃度の薬剤の入ったmediumでfluid changeを行った。2日、4日、時に6日後にタンザクをカルノア固定してHE or PAS staining、フォルマリン固定してSudanIII stainingを施した。尚2日毎に薬剤の入ったmediumで液がえをしている。DAB、3'-Methyl-DAB、AB、ルテオスカイリンはDMSOに溶解し、mediumで100倍以上に稀釋して用いた。含塩素ペプタイド(黄変米毒素として、ルテオスカイリンと共に発見された肝臓毒であり、肝癌を造る)は直接mediumで溶解した。
:質疑応答:[勝田]何日培養してから、薬剤処理をしたのですか。[梅田]生後4〜5日のRatを材料として、培養2日後に洗って培地を更新し、更に1日たって薬剤処理をしました。 [佐藤]ABはどうやって入手しましたか。
[梅田]今は第一化学から簡単に買えます。 [永井]空胞化している細胞の細胞質構造はどうなっていますか。 [梅田]すっかりこわれてしまっているのでしょうね。 [勝田]系になった肝細胞の場合でも、こういう薬剤で、コワレれば肝細胞、コワレなければ肝実質細胞でないという具合に同定出来るでしょうか。 [佐藤]DABは何で溶かしましたか。 [梅田]DMSOです。 [永井]変性した細胞は死んでしまって、他の細胞が増殖するわけですか。 [梅田]今お見せしたスライドの程度の変性ですと、変性細胞も回復するようです。 [永井]今までの勝田班長等の実験では薬剤処理→コワレる→回復→処理とくり返していたわけですね。この実験はそれ以前のものというわけですか。 [勝田]私達がすっとばして来た所を、改めてじっくり調べて貰っているわけです。あの細胞の脂肪顆粒がどういうものか、調べてみられますか。 [梅田]そのうちに、いろいろな染色をしてみます。
《吉田報告》Marker染色体について
勝田班長からmarker染色体について問合せがったので、この問題について2、3の研究を紹介したい。 ドブネズミ(Rattus norvegicus)では第3染色体が系統によって形態に差がある。すなわちテロセントリックのものと先端に小さい染色体をもつサブセントリックの系統があり、両系の雑種はテロとサブテロセントリックに関しヘテロとなる(Yosidaら1965)。クマネズミ(Rattus rattus)は最大の染色体対が多型である(Yosidaら1965)。このような染色体多型をmarkerとして利用すれば両系の細胞が雑種を作った場合など見分けが非常に容易となる。 Ohno氏(1966)らはアメリカ産Deer mouseで染色体多型をみている。彼らは染色体多型をmarkerとして、体細胞ではsomatic segregationをおこしているのではないかという興味ある研究を報告している。 ミシガン大学のShow(1967)らは人間のD群の染色体に多型のあることをみている。この場合D群の1個がアクロセントリック(正常)、テロセントリック(切断型)、及びサブセントリック(転位)の3型がある。この様な異常なD-染色体は蒙古性痴呆症で高頻度にみられるが、正常な対照群でもしばしばみられた。
:質疑応答:[佐藤]実中研から購入したドンリューRat、これは39代で純系のはずですが、3番目の染色体の先のあるものとないものと混ざっているのです。人工的に、あるものとないものをかけ合わせてみると、F1にはヘテロが出来ます。染色体のレベルではヘテロだと思うのですが、39代というのは純系のはずですし、どういう解釈をすればよいでしょうか。[吉田]染色体レベルで現れたことと、遺伝形質とが平行していないこともあります。私はショウジョウバエで、そういう経験をしたことがあります。しかし、純系の定義は20代同腹の♂♀をかけ合わせるということになっていますし、20代かけ合わせると殆どの遺伝子が安定するはずですが。そして、又純系になると染色体の特徴も安定してほぼ均一になるはずなのですが。
《安藤報告》H3-4NQOno細胞内溶性蛋白との結合:月報No.6806号に書きましたように、L・P3細胞の高分子分劃に結合したH3-4NQOの内、約75%が蛋白分劃に、25%が核酸分劃と結合していた。今回は蛋白分劃の内、100,000g遠心の上清の溶性蛋白を分離し、この中のいかなる種類の蛋白と結合しているかをsephadex G100 columnにより分劃し調べた。
:質疑応答:[梅田]蛋白は塩基性として分劃しているのですか。[安藤]そうではありません。分子量のちがいで分劃しています。 [佐藤]L・P3は4NQOに抵抗性があるようですが、この実験に使った10-5乗Mという濃度は、細胞にどの程度の障害を与えますか。 [高岡]3日間添加しつづけると細胞がかなりこわれるという濃度です。 [堀川]不溶性分劃についての分析は出来ませんか。 [安藤]分劃法について考えている所です。材料はプールしてあります。 [堀川]不溶性分劃の方により興味がありますね。 [勝田]このデータから言えることは・・・。 [安藤]言いたいことは、特異的に或る蛋白に結びつくのでなく、どんな蛋白にでもつくのではないかということです。杉村氏のデータでは「チステインのSH基に結びつく」となっていますから、チステインのある蛋白なら何でもつくのではないかと思います。 [永井]どの蛋白にも一様に結びつくらしいことはわかりましたが、もう少し長期的、経時的に調べてみると面白いと思います。
《安村報告》
:質疑応答:[堀川]この実験は何をねらっているのですか。[安村]培養以前に、生体内に変なヤツがいるかも知れないとして、その変なヤツを選び出そうというつもりです。 [堀川]培養に移したこと自体が変異につながると思いますが・・・。 [安村]ですから、生体からとり出してすぐクローニングをしようとしています。 [堀川]考え方として生体内にすでに悪性細胞があるのだということですか。 [安村]材料が胎児ですし、あらかじめ生体内に悪性とはいわなくても悪性化の傾向のある細胞がいるかも知れません。いたとしても生体内ではpopulationとして増えないでいることも考えられます。 [堀川]始に4NQOを作用させたことの意味は何ですか。 [安村]それは単にselectionに使いました。 [堀川]4NQOが細胞の変異を起すらしいことは判っているのですから、4NQOを単にselectionに使うのは不適当だと思います。癌細胞に特殊な条件を見つければ、selection出来るはずだと思います。 [安村]癌細胞に特殊な条件を見つけるということがなかなか難しい問題です。寒天を使うと悪性のコロニーが拾えると言われていますが、初代培養で悪性化の傾向のある細胞を、寒天を使って拾おうとしても何も拾えないのではないかという不安があります。それでconditioned mediumを使う方法を利用したのですが、これだと初代培養の無処置の細胞でも多分コロニーが出来てしまうのではないかと考えられるわけです。それで4NQOで或る程度の細胞を殺しておいてconditioned mediumを使った寒天でコロニーを拾おうとしたわけです。 [藤井]発癌剤を使わずに正常細胞に対する抗血清で選ぶという事は出来ませんか。 [堀川]正常と癌との根本的なちがいが判っていないのですから、非常に難しい問題ですね。 [藤井]抗ラット肝血清に対して、肝癌細胞は強く、正常の肝細胞はこわされ、勝田班長のなぎさ細胞はその中間位の反応を示すという、それぞれの特徴を免疫的につかまえられるのですから、selectionに使えると思います。 [勝田]そもそも何故こんなことを始めたかと言いますと、ゴットフリー・ストマスキーが普通に大量培養していると出て来ない悪性細胞が、培養初期に細胞をバラバラにしてクローニングすると悪性細胞のコロニーとして拾えるということを発表していますので、その確認から始めようとしたわけです。 [安村]とにかく変なヤツが初めからあるのか、無いのか、知りたい訳ですよ。 [梅田]技術的な問題としてですが、黒木氏の「4NQOとハムスター胎児の組合せでの発癌実験」と平行するかどうかみてゆけばよいと思います。 [勝田]Hybridizationの問題についてですが、Hybridizationに成功したら何に使うつもりですか。 [堀川]悪性を担う遺伝子は何かということがわかるでしょうね。 [安村]まぁそういうこともあります。 [永井]Hybridが出来る率はどの位ですか。 [安村]L株細胞で100万個に1コ位です。異種細胞の組合せであるにもかかわらず10,000コに1コという高い率のものもあります。
《永井報告》“細胞膜系の構造と機能”テーマでの一連の研究について。『膜モデルについて』細胞の原形質膜については、種々のモデルが提出されているが、まとめてみると、次の3つに代表されるようである。(それぞれにモデルを図示)
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