【勝田班月報:6808:発癌のSelection説の検討】

《勝田報告》

§4NQOno光力学的作用について:(各実験毎に増殖曲線図を呈示)

(1)光力学的作用の有無

     4NQOがmammalian cell levelでもphotodynamic actionを有するということは、前月報にのせた図からも明らかである。そして、4NQO処理のあと、365mμで処理するまでの時間が長くなるにつれて、光力学的作用の効果も低下していること、あらかじめ光で処理した4NQOはcytotoxicityが落ちるということが判った。

(2)Exp.#CQ41系細胞への光力学的効果

     この系はRLC-10(正常ラッテ肝)由来で、これまで4NQO(3.3x10-6乗M、30分)で3回処理された系である。4NQOによる変異細胞が光に対する感受性に変化をきたしていないかどうかをしらべるため、まず365mμ照射だけを与えてみた結果、原株のRLC-10がこの位の時間の照射では影響を示さないのに対し、この系では時間に比例して細胞障害が少し現われた。もう1回4NQO(同上条件で)で処理してから光を与えてみたところ、処理後24時間位までは少くとも光力学的感受性が変らずに(増殖曲線が平行している)残存していることが判った。
(3)RLC-10株(ラッテ肝)原株の光力学的感受性

     4NQOで未だ処理されたことのないRLC-10原株はどうかということをしらべた。4NQOは3.3x10-6乗M、30分、365mμは室温で120分照射である。RLC-10は光だけでは全く阻害されず、両者を組合せると著明に阻害が起った。それぞれの120分照射の曲線を比較してみると、CQ41系の細胞は明らかに原株より光に対する感受性が高くなっていることが判る。
(4)Exp.#CQ39系細胞の光力学的感受性

     CQ41系細胞が光に対し感受性が高いのは、4NQO変異細胞の特徴なのか、CQ41だけのものか、しらべるため別の4NQO処理系について同様の実験をこころみてみた。CQ39系は、もとは同じくRLC-10株で、4NQO処理を4回受け、増殖の早い細胞である。

     結果は、大変残念ながら、この系は原株に似て光に対する感受性は低く、120分の照射ではほとんど細胞障害をおこさなかった。4NQO或はそれと光照射との併合では、RLC-10原株やCQ41よりもむしろ細胞障害は大きいように思われる。

(5)Exp.#CQ40系細胞の光力学的感受性

     CQ40系は、由来はやはりRLC-10株で4NQO処理を1回だけ受けた系である。この系もCQ39系に似て、365mμだけではほとんど阻害されなかった。但し、4NQO或は4NQOと光照射の処理に対しては、CQ39系ほどひどく阻害されず、その度合はRLC-10原株によく似ていた。
(6)Exp.#CQ41系細胞の光力学的感受性

     そこで再び同一条件下でCQ41系細胞について光力学的感受性をしらべてみることにした。結果は、やはり光だけの照射でも明らかに阻害が起った。この照射は他系と同様に、室温で120分間の照射である。4NQO単独処理、或は4NQOと光照射の併合処理での阻害度はRLC-10株原株やCQ40系の細胞のresponseに大変似ている。

(7)Exp.#CQ42系細胞の光力学的感受性

     この系もRLC-10株由来で、4NQOで2回処理されている。365mμの照射のみの処理では、ほとんど細胞は障害を受けていない。しかし4NQOに対してはきわめてsensitiveで、急速に細胞がこわされている。これらの諸点でこの系はC39系(4NQO・4回処理)の細胞にきわめて似ている。

     以上の所見からみて、いまのところは、4NQOの変異細胞が光感受性が高いという結論にはとうてい持って行けない。しかし処理回数が最大4回であるので、完全に否定するわけにも行かない。今後はもっと処理回数をふやし、数多くの例にもあたってみる必要があろう。

(8)なぎさ培養で変異したラッテ肝細胞株RLH-4細胞の光力学的感受性

    4NQOで処理された歴史をもたない、しかも変異した株細胞RLH-4がどんな光力学的感受性を有するかをしらべた。結果はCQ39系細胞と非常によく似た反応を示し、光照射のみではほとんど影響されず、4NQO処理および4NQOと光の併合では強く阻害を受けた。しかしこの場合細胞数が他の例より1桁低いことを留意しなくてはならない。
(9)無蛋白無脂質合成培地内継代のL・P3細胞の光力学的感受性

     L・P3はマウスセンイ芽細胞由来であるが、上記の肝細胞系とは全くちがう反応を示し、4NQOには強い抵抗性を示し、しかも光照射のみの処理で顕著な障害を受けた。4NQOと光照射との併合処理とほとんど変らない位である。すでに報告したように、L・P3細胞は無蛋白・無脂質の完全合成培地のなかで8年以上増殖してきた細胞で、その細胞体内に必須脂肪酸を含まず、凍結保存もできないし、+4℃保存にもきわめて弱い。そのような構造上の特異性が、光照射に対する抵抗性と関係をもっているかも知れず、今後の色々な問題点を示唆している。
(10)顕微鏡写真展示

     RLC-10株細胞を用い、細胞のinoculum sizeの小さいほど、同濃度の4NQO添加でもいかに強く細胞がこわされるかを示した。これは2日間培養後、4NQOを3.3x10-6乗M、30分添加したものである。添加後2日で標本を作製し、Giemsa染色した。
(11)復元接種試験

     ラッテ肝由来RLC-10株より4NQO処理により生じた4亜株の内、とうに増殖が早くなったと映画で示唆された#CQ39及41両系の細胞について各2匹及3匹、対照としてRLC-10を2匹の、JAR系F32生後1日のratに500万/ratで腹腔内接種し、現在結果を観察中である。

:質疑応答:

[堀川]4NQOの光力学的作用を利用している理由は何ですか。

[勝田]がんセンターの永田氏の説によれば、光を照射することにより4NQOにfree radicalができ、それがDNAと結合してmutantsを作るという。それが本当かどうかは別として、生体内で、それではそのような光があたるかどうかということですが、私はこのごろ、生体内というのは案外明るいのではないかと思っています。

[堀川]4NQOが発癌性の形の4HAQOに変るのは、酵素によるものではなく、光によって還元されるから、と考えてよいのですか。

[吉田]4NQOが、光がなくても4HAQOになるかどうか、ということですね

[勝田]その件については、私自身は何も知りません。癌センターの杉村君の話でも、4HAQOに変るということと光力学的作用との関連は見出されていないそうです。

[堀川]4NQOが4HAQOより細胞毒性が強いということは云われていましたが・・・。

[永井]4NQOに光をあてると本当に動物の発癌率があがるのですか。

[勝田]それが動物レベルでは実験できない仕事なので困るわけです。そしてこちらに細胞レベルでの発癌系ができていれば検討できるのですが、それがない内は細胞レベルでも想像しかできません。

[堀川]in vitroでの発癌系でこれが確かめられると面白いでしょうね。

[永井]in vitroで、仮に光がないとしても、光と同じような作用で励起するということが発癌と関係をもつかも知れませんね。

[堀川]波長をいろいろと変えて、たとえばずっと長くするとどうなるか、ということもやってみると面白いと思いますね。



《佐藤報告》

◇前回の班会議で報告したExp-7株(ラッテ肝)細胞←4NQOの染色体分析(続き)

 月報NO.6806 13頁に記載した4NQOを投与されて培養細胞に現れる特異的なGroupが培養細胞中にどの程度の頻度に現れるかをまづdiploid rangeの合計44ケについてしらべた。異常染色体の4つをもったGroupが41/44(93.1%)の高率に存在することが判明した。(それぞれ表を呈示)残りの3ケの内、染色体数40のものではMarker1、2、3があり4を欠いていた。染色体数38のものではMaker1と2の異常染色体をふくんでいたが3と4を欠いていた。染色体数43のものはMaker1、2、3及び4いづれにも属さない異常染色体1つを有していた。同様の培養株のTetra乃至Triploid rangeのもののMaker Chromosomeを示す。この場合にもMaker1、2、3及び4の異常染色体が見られる。染色体数の増加と共に異常染色体の数が増加している。

 次に前記培養細胞を動物に復元してできたTumorを再培養して染色体をしらべた。この場合、前の班会議で説明した異常染色体を6つ含むものが66%に現われる。(diploid rangeにおいて)他のものはこの6つの異常染色体の内のいづれか1つ又は2つをかく合計25%のものと、6つの異常染色体の他に多種類の異常染色体を1ケ追加しているものであった。(その組み合わせ図を呈示)

 Tumorlineの内Tri〜Tetraploid rangeのものの異常染色体分布を示す。染色体数の多いものほど異常染色体が増加している。



:質疑応答:

[堀川]それぞれの染色体の組合せには、特別な傾向はみられないようですね。

[佐藤]培養細胞でこの4本のグループの染色体を持っているものは、前癌状態であり、更に2本加わって6本になると生体内で増殖出来る細胞なのだとも考えられます。

[吉田]「4本のグループを持ったものは培養にadaptしたものであり、6本のものは生体にadaptしたものかも知れない」ということは、復元して6本のグループをもつ系になった細胞を再培養すると、4本のグループにもどるかどうかということで確かめられると思います。又復元した細胞の染色体の経時的な変化をしらべてみる事も必要ではありませんか。

[佐藤]復元したin vivoの状態の方が染色体の数や型にバラツキがあるようです。

[吉田]そうですね。

[勝田]細胞は何ですか。

[佐藤]ラッテの肝細胞です。

[勝田]とにかくこの一系だけの結果から結論を出すのは感心しませんね。

[佐藤]現在、次の実験を進めつつあります。又、初代培養でクローニングして2倍体レンジの系をとり、それに4NQOを作用させて復元してみたいとも計画しています。しかし2倍体のクローンをとるのがむつかしいのです。培地によって大分成績が異るので、目下培地を検討中です。

[安村]in vitroで増えている6本の染色体グループの中の新たに加わる2本の染色体は、in vitroの系には全然無い染色体ですか。若し無かったとすれば、それはどこから現れたのでしょうか。組織培養していると染色体の変化が起るというのは、どういうことなのでしょうか。

[吉田]染色体の一部分が切れたり、又それが他の染色体にくっついてその一部になってしまったりすることから、染色体異常が起ると考えられています。

[安村]そうすると、例えば3本の染色体が1ツ切れて4本になるとします。その場合DNA量にまで変化が起ったりするのは何故ですか。

[吉田]それは一時に起ることでなく、数の変化、構造の変化、分裂異常といったことがくり返し行われて変異してゆくのです。DNA量の変化は不均等分裂から導かれます。

[安村]hybridizationも関係しているとは考えられませんか。又、復元するべき細胞をチャンバーに入れて動物の腹腔内へうめ込んでチェンバー内の細胞を経時的にしらべてみれば、もっとはっきり細胞の移行がわかると思いますが・・・。

[佐藤]培養内で4本のグループの染色体をもった細胞をクローニングして復元しても、必ず6本のグループに変るのかどうか、しらべてみたいと思います。

[勝田]何度も言いますが、1例報告はいけませんよ。いくら討論しても言葉のアソビになってしまいます。



《山田報告》

 前回の月報(No.6807)に書きました、培養ラット正常肝細胞RLC-10及び、なぎさ培養によるラット変異肝細胞株RLH-5、そして培養肝癌細胞AH-7974の電気泳動度について、先日の班会議で申しあげました。
 種々有益なSuggestionを戴き有難う御座居ました。そのうちで特に今後の仕事の参考とさせて戴きたいと思ひます点は

  1. )細胞の増殖のStageにおける電気泳動度の増加が悪性細胞の電気泳動度の増加の原因の一部ではないか?
  2. )細胞電気泳動値が見掛け上その核酸含有量と比例して居るように思われる。 になると思いました。

 1)に関しては現在L.WeissやMeyhew等が盛んに検討していますが、問題は個々の細胞の増殖のStageを生かしたままで知ることが出来ない所にあると思います。従ってどうしても同調培養条件での細胞の電気泳動度の検索が必要と思って居ります。

 2)については、これまで全く考えなかったことです。最近、細胞表面のphosphate基の一部がRNA由来であるとの報告もありますので、核酸量との関係、特にその生理的変動に伴う表面荷電量の変化との関係を検索したいと考えております。



:質疑応答:

[吉田]細胞の大きさは泳動度に関係しませんか。

[山田]水の粘度を上げると差が出ますが、塩類溶液程度の粘度で時間が短ければ大きさによる差はみられません。

[藤井]大きな細胞はチャージが多いということはありませんか。

[山田]泳動度はチャージの密度によります。

[梅田]トリプシンを作用させてcell suspentionを作るのですか。

山田]この実験ではトリプシンは使わずに物理的に剥してバラバラして用いました。

[梅田]suspension cultureを使うとよいのではないでしょうか。

[山田]よいでしょうね。

[堀川]癌と正常ということで、ちがいが出るのでしょうか。細胞の周期によるちがい、つまりcell stageに影響されませんか。

[山田]cell stageによるちがいもある、ということは実験ずみですが、この実験結果をみると、レンヂがまるでちがいますから、この場合は細胞系それぞれの泳動度がちがうと言って差支えないと思います。同調培養を使って測定すると分裂期に上るというデータを出している人はあります。

[堀川]この方法(電気泳動)を利用して分裂期の細胞を集めて同調培養にもってゆくということは出来ないでしょうか。

[勝田]何か工夫して泳動させたものを無菌的に集めることが出来るようになると、いろいろ面白いことが出来そうですね。又、同調培養をしなくてもコルヒチンをかけるとか、寺島法で分裂期のものを集めて測定できますね。

[吉田]染色体数と泳動度との間に何か関係がありそうに思えます。

[山田]それは考えてみませんでした。

[永井]癌細胞の分泌物によってチャージが異るということはないでしょうか。

[山田]細胞の膜構造そのものの違いか、或は分泌物の違いかということは考えてはいます。基礎実験では3回洗ってその前後の数値を比べてみましたが、3回洗った位では泳動度は変りませんでした。

[永井]シアルダーゼにプロテアーゼの混入はありませんか。

[山田]多少疑いはあります



《藤井報告》

 月報の前号で培養ラット肝細胞(RLC-10)、その変異種(RLH-3、4、5)、培養AH-130(JTC-1)、培養AH-7974の抗原についてImmune-adherence法による解析の結果を報告したが、この中、培養AH-130と培養AH-7974株は、ガラス面への附着が弱く、反応の操作中大部分の細胞がガラス面より遊離し、最後の人赤血球洗滌操作で洗い流されてしまった。今回はあらかじめガラス免疫より遊離させた細胞を小試にとり、小試内でIAをおこなった。

Ex.071268.

 細胞:
医科研癌細胞研究部で継代培養中のAH-130およびAH-7974。
ラット腹腔内接種にて継代されているAH-130とAH-7974。
何れもTC199液で3回洗滌(1,000rpm、10分)後、300万個/mlに合した。

 抗血清:

  1. 抗ラット肝ウサギ抗血清。1/5稀釋を用う。
  2. 抗AH-7974ウサギ抗血清、2回boosting後の血清。1/5稀釋。
 補体:
人赤血球は前回報告と同じ。
 反応方法:0.5mlのser.dil.(1/5)。0.2mlのCell susp.300万個/ml Rt.30min.。0.2mlのC'、1/20、37℃、20min.。0.1mlのHuE、4x10の8乗/ml、37℃、60min.。

 反応終了後、反応液1滴を(かるく振ってよく細胞を浮遊させて後)、スライドグラス上に落し、カバーグラスで掩って顕微鏡下に、癌細胞100ケ以上を数え、そのうちIAをおこしている細胞数の%を得る。

成績:

 
ウサギ抗血清抗原細胞抗ラット肝抗AH-130抗AH-7974抗ウサギ血清
AH-1300%33%27%2%
培養AH-130(JTC-1)19%68%43%2%
AH-79742%23%30%3%
培養AH-797411%48%56%1%

 これら癌細胞は、ラット新生児肝より出発したRLC-10、RLH-株と異なり、或ラット肝に対する抗体ともある程度反応するが、その程度は抗ラット肝癌抗体に対する場合よりかなり弱い。(厳密は比較は困難であるが)

 この成績は、以前沈降反応で、AH-130やAH-7974のPBS抽出物が上の抗ラット肝抗体に沈降線を1本しか示さなかったこと(肝組織抽出物が5本の沈降線を示しているので明らかに減少している)等と照して、癌細胞が肝組織の抗原数より少く、別に癌であることによって他の抗原を保持していることを示唆している(癌特異抗原かどうかはわからないが)。

 現在毎月1回の割で、AH-130、AH-7974、培養AH-7974、AH-109Aのboostingをウサギに施し、各時期の抗血清をつくっている。



:質疑応答:

[堀川]もともとなかった抗原が出てきたり、又高くなったりするのは、培養したことによるのでしょうか。

[藤井]そうかも知れません。

[勝田]IAはどこまで特異的ですか。

[藤井]補体を介するので、その点について一寸弱いです。

[高木]IAが強く起ると、細胞はこわれてしまうと思いますが、抗血清で細胞がこわされて、こわされたものへ赤血球が附くのでしょうか。

[藤井]細胞がこわれる前にも赤血球は附きますが、こわれることと附着することとは、別に考えてもよいと思います。

[高木]補体はモルモット血清だと思いますが、吸収はどうされていますか。

[藤井]補体を0℃に冷やしてRat赤血球、Rat肝細胞、人赤血球を添加して、30,000rpmで30分遠沈して上清を集めます。これを3回くり返して吸収して使いました。

[堀川]前号の月報に出されたデータは+と−で表現されていましたが、免疫反応も数値で表現しないとはっきりしませんね。

[藤井]前回のは培養細胞を使ってのIAとして初めての実験でしたので、判定がむつかしくて%が出せませんでした。%で出しても細胞に赤血球が1コ附いていても1、数個附いていても1とする所に少し問題があります。

[堀川]全細胞数:全血球数としたらどうですか。

[安村]100%までいかないのは、どういうことでしょうか。

[藤井]テクニカルな問題もあると思います。

[安村]附く細胞と附かない細胞が質的にちがうとすれば、クローンを拾えば100%附く細胞の系がとれると思いますが・・・。

[藤井]赤血球が附く細胞は、その反応のために死んでしまいますから、クローンは拾えないと思います。

[堀川]cell cycleの時期によるちがいによって、赤血球の附き方がちがってくるとは考えられませんか。

[藤井]免疫反応の場合、100%の反応はなかなかむつかしいと思います。celll cycleの時期によるちがいかどうかは、今の所何ともわかりません。



《三宅報告》

 前回の報告から日が浅いために予備的な報告にとどめたい。

 前回4NQOをL株細胞に作用させて、各Cycleのphaseのどこを抑制するのかをH3-TdRのuptakeから判断した。今回は4NQOを10-5乗Mを1時間作用させたのち、経時的にH3-TdR 1.5μc/mlを30分作用させて、その立ちなおりをしらべてみた。
 (図を呈示)24時間近くなって、M.I.とL.I.が対照のものに近づいてゆくことを知りえた。



:質疑応答:

[堀川]Lの培養にはどんな培地を使っておられますか。

[三宅]Eagle+CS 10%です。

[堀川]私の所は199+CS 10%ですが、TGは17時間です。三宅先生の方が長いですね。

[勝田]TGは培地だけでなく、継代の仕方がちがっても変ります。

[吉田]分裂指数は最初少し上っていますね。

[勝田]G2で止っているものがあったりすると、上るのではありませんか。

[堀川]この程度の上り方が意味をもつかどうかは一寸わかりませんね。

[吉田]ラベルの時間はどの位ですか。

[三宅]この実験では30分です。

[吉田]私の実験では動物の腹水へ入れたのですが、薬剤が利いているのは矢張り30分位で、24時間で分裂指数は回復しました。

[堀川]三宅先生のデータでは回復したよにみえていますが、私はL株を使って同じようなことをP.E.でみて24時間ではP.E.は回復しないというデータを持っています。

[佐藤]4NQOの添加時間を変えて、それぞれ24時間後に分裂指数をしらべてみますと、4NQOの添加時間が長い方が分裂指数は高く出るようです。

[吉田]それは4NQOを長く添加していると、G2でとまって、たまるからではないでしょうか。



《堀川報告》

培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(6)

  1. 培養細胞(L、Ehrlich、PS細胞)の生存率をindicationにして4NQOと4HAQOの細胞に対する作用を調べた結果はすでに前報で述べたが、4NQOは同一濃度の4HAQOの少くとも10〜100倍程度のtoxicityをもつことが分った。こうした4NQOと4HAQOのtoxicityと発癌能の関係を明らかにすることは、私達が従来やって来たこの種の一連の実験と関連して、非常に重要な問題である。

     今回は染色体異常という現象を4NQO、4HAQOのtoxicityの指標として、これら3種の細胞を用いて、各細胞のG2期に対する10-6乗M・4NQO・30分間処理という条件下でその影響を調べた結果は、対照区に比していづれの細胞種でも染色体レベルの有意な異常は観察されなかった。10-6乗M・4NQOで30分間の処理は生存率でみる範囲では相当のeffectがみられるにも拘はらず、染色体レベルで異常が認められないということは非常に興味がある。4NQOの作用時期はG2期以外にあるのか、それとも細胞の生死ということと染色体異常という問題は、まったく別の問題なのか、多くの疑問を残している。Cell cycleの各stageに対する4NQOと4HAQOの作用を追究することにより、これらの問題を明らかにするべく実験を進めている。

  2. 高線量のX線で照射された細胞のDNAがこまかく切断され、それが如何にして回復(rejoining)するか、その本体の究明は非常に重要である。われわれは培養Ehrlich細胞を用いて、10KR、5KR、2KR照射された後のDNAの切断とその回復を経時的に調べている。現在の段階では10KR、5KR、または2KR照射されたEhrlich DNAの切断はsingle strand levelでrejoiningし得る能力をもつことが分った。この様なDNA levelでの障害回復能が放射線感受性細胞と耐性細胞の間で異っているか、またCell cycleのうちの放射線感受性の差異をこうしたDNA rejoiningの過程で説明し得るか、またrejoiningしたDNAが正常なDNAであるかを究明すべく仕事を進めている。いづれも結論を出し得る段階に至っていないのでこれらは次号で報告したい。



:質疑応答:

[吉田]染色体異常は薬剤処理後第1回の分裂ではみられず、第2回の分裂から現れてくるものですから、もう少し長い期間観察してみないと、薬剤による異常がないとは言えませんね。

[勝田]40日培養した細胞を接種しても同じだと言われたが、何と同じなのか説明して下さい。

[堀川]マウスに900レントゲン照射すると造血系の細胞は死滅してしまい、そこへ造血細胞を接種することによって、脾臓にコロニー形成がみられます。700レントゲンの場合は造血細胞が少数生き残るので、何もしなくてもその被照射動物の造血細胞が自分の脾臓へコロニーを作ります。培養40日の細胞は、そのコロニー数を増やす効果はありませんが、動物の延命効果はあるのです。

[梅田]脾臓に出来たコロニーを形成している細胞は何ですか。

[堀川]まだ同定できていません。

[安藤]X線照射によってDNAが切られる、が或る時間たつと、切られた部分が修復されて又大きなDNAになるということは判っているのですが、その時DNA合成はどうなっていますか。

[堀川]しらべてみたいと思っています。H3TdRとC14TdRのラベル、又はBUdRを取り込ませておくという方法で追跡している人もあります。

[梅田]アメトプテリンとかBUdRを加えて修復されますか。

[堀川]それはこれからしらべなくてはならない問題です。



《高木報告》

  1. )NQ-6
     累積増殖曲線を出してみたところ、対照と有意の差はみられない。5x10-7乗M/ml作用せしめたものは現在殆ど増殖を示さない。2x10-7乗M/ml作用せしめたものは、細胞数を多目に継代しているが、継代した細胞数を維持する程度である。
    形態的に対照に比し、変化を認めない。

  2. )NQ-7
    累積増殖曲線は、4NQO 2x10-7乗M/mlおよび5x10-7乗M/ml作用せしめた後に約1ケ月間増殖が止り、その後対照と同じ程度の増殖を示した。

  3. NG-11
     累積増殖曲線をみると、NG1μg/ml作用後、約4週間増殖が止り、その後可成りの増殖を示して現在に至っている。これは対照が実験開始後約1ケ月頃より増殖が殆ど止ったのと対照的である。形態的に実験群の細胞は核小体が明瞭でやや異型性にとんでいる。

  4. )NG-4(月報6711にかいたExp.NG-4)
     実験開始は昨年9月23日で、NGをpH6.3のHanksに10μg/mlにとかし、これを2時間作用せしめ、その後これに培地を追加して6日間培養し、その後はNGを除いて継代した。約2ケ月後にcris-crossを認めうるようになり、12月6日に生後3週間のWKAratに無処置のまま100万個の細胞を皮下接種したが、今日までtumorの形成はみない。細胞は5ケ月後より増殖が良好になり、また形態的にも変化を示した。即ち核小体が大きく、多核、巨細胞の出現が多く、pile upする傾向が強い。さらに培地がviscousになる。染色標本ににつき検討中である。



:質疑応答:

[堀川]胸腺を培養材料に選ばれた理由は何ですか。

[高木]私にとっては培養しやすいからです。

[堀川]私の所で最近、生後2日のマウスの胸腺を2ケ月培養したものをマウスへ復元しましたら、2週間でtakeされました。腹腔内接種、皮下接種、両方ともつくのです。生後2日位の胸腺は未分化細胞が多いのではないかと思っています。まだ1例なので、追試している所です。

[高木]私の所では1例もtakeされません。ウィスターキングAは癌が出来にくいからかも知れませんが。



《梅田報告》

 前回の班会議の時に報告した(No.6806) IIの方式にしたがい、ラット肝のprimary monolayer cultureを作成し、諸種の肝癌に関係する薬剤を投与した。即ち勝田先生の所より提供を受けたJAR-1或は-2の生後4〜5日の新生児ラット肝を細切し、トリプシン・スプラーゼ処理後メッシュ80-150を通し、遠心、沈渣を30万個cells/mlになるようにLD+20%CSのmediumに浮遊させ、タンザク培養を開始した。コントロールの目的で、同じラットより剔り出した腎を同様に処理して20〜15万個cells/mlで培養を開始した。培養2日後にmedium changeし、その明る日、即ち培養3日後に夫々の濃度の薬剤の入ったmediumでfluid changeを行った。2日、4日、時に6日後にタンザクをカルノア固定してHE or PAS staining、フォルマリン固定してSudanIII stainingを施した。尚2日毎に薬剤の入ったmediumで液がえをしている。DAB、3'-Methyl-DAB、AB、ルテオスカイリンはDMSOに溶解し、mediumで100倍以上に稀釋して用いた。含塩素ペプタイド(黄変米毒素として、ルテオスカイリンと共に発見された肝臓毒であり、肝癌を造る)は直接mediumで溶解した。

  1. )前回に報告したように、DABは100μg/ml(10-3.35乗M)で肝細胞の著明な空胞化が見られる。核は萎縮−濃縮し、6日後には肝細胞全体のeosinophilic necrosisを来す。中間系細胞は障害され易く、2日頃より既に見られなくなる。内皮細胞系(ホーキ星)は比較的奇麗で多数残存しているが、細胞・核が大小まちまちになり異型性は強い。脂肪染色では、肝細胞中の空胞にあたる部に、大小の脂肪滴が証明されたが、間葉系細胞は全く陰性である。32μg/ml(10-3.85乗M)でこの傾向は弱いが認められ、10μg/ml(10-4.35乗M)では見られない。

  2. )ルテオスカイリン1μg/ml処理で肝細胞は完全に変性を来し、eosinophilic necrosisとなり、中間系細胞は一部残存しているが、内皮系の細胞は核は綺麗に保たれて居り、数も相当数認められる。しかし脂肪染色を施すと、肝細胞部は全くの大脂肪滴がつまっているのみならず、内皮系細胞も中等度、或は小型の脂肪滴の出現が認められる。この傾向は0.3μg/mlでもある。

  3. )DAB 100μg/ml投与後2日目にcontrol mediumに戻してやった所、空胞のあった肝細胞部はrecoverし、多少の空胞は残すが綺麗な核、綺麗なeosinに濃染する細胞質を持つ様になる。しかし生長してくる肝細胞は全くの大小様々多様な細胞の集りである。

  4. )ルテオスカイリン0.32μg/ml投与後、control mediumに戻してやった培養では、まだ著明な脂肪滴を持つ肝細胞しか認められず恢復したとは思われない。

  5. )DABより更に発癌性の強い3'-Methyl-DAB、発癌性のないABを同じ様に投与してみた所、前者はDABと同じ位のモル数(10-3.5乗M〜10-4乗M)で空胞を生じ、脂肪滴は強陽性、核の萎縮〜濃縮が認められたが、ABは10-3.5乗Mで殆んど変化を生じない。

  6. )含塩素ペプタイド投与によると、32μg/ml、10μg/mlで完全な肝細胞の壊死が認められ、間葉系細胞もやや大型化し、細胞質内に針状結晶を認めた。3.2μg/mlでは肝細胞も残っていた。

  7. )腎培養に上記諸種薬剤を投与した時は、DAB、3'-Methyl-DAB、ABは最高濃度(10-3.5乗M以上)で軽度増殖阻害がある様であるが、脂肪染色は陰性である。ルテオスカイリン1μg/mlでは中等度の細胞障害作用があり、細胞中に脂肪滴を証明した。含塩素ペプタイドでは殆んど変化しなかった様である。



:質疑応答:

[勝田]何日培養してから、薬剤処理をしたのですか。

[梅田]生後4〜5日のRatを材料として、培養2日後に洗って培地を更新し、更に1日たって薬剤処理をしました。

[佐藤]ABはどうやって入手しましたか。

[梅田]今は第一化学から簡単に買えます。
今一番しらべてみたいことは、DNA合成、RNA合成、蛋白合成がそれぞれどういう風に阻害されるかということです。細胞が一種でなく色々な細胞が混っているので、オートラジトグラフを使ってみるより方法はないと思いますが。

[永井]空胞化している細胞の細胞質構造はどうなっていますか。

[梅田]すっかりこわれてしまっているのでしょうね。

[勝田]系になった肝細胞の場合でも、こういう薬剤で、コワレれば肝細胞、コワレなければ肝実質細胞でないという具合に同定出来るでしょうか。

[佐藤]DABは何で溶かしましたか。

[梅田]DMSOです。

[永井]変性した細胞は死んでしまって、他の細胞が増殖するわけですか。

[梅田]今お見せしたスライドの程度の変性ですと、変性細胞も回復するようです。

[永井]今までの勝田班長等の実験では薬剤処理→コワレる→回復→処理とくり返していたわけですね。この実験はそれ以前のものというわけですか。

[勝田]私達がすっとばして来た所を、改めてじっくり調べて貰っているわけです。あの細胞の脂肪顆粒がどういうものか、調べてみられますか。

[梅田]そのうちに、いろいろな染色をしてみます。



《吉田報告》

 Marker染色体について

 勝田班長からmarker染色体について問合せがったので、この問題について2、3の研究を紹介したい。
 マウスのmarker染色体としてはT-6translocationが知られている。これは40個の染色体のうち1対が非常に小さいテロセントリック染色体となり、Ephrussi(1965)らが雑種細胞の染色体markerとして利用している。

 ドブネズミ(Rattus norvegicus)では第3染色体が系統によって形態に差がある。すなわちテロセントリックのものと先端に小さい染色体をもつサブセントリックの系統があり、両系の雑種はテロとサブテロセントリックに関しヘテロとなる(Yosidaら1965)。クマネズミ(Rattus rattus)は最大の染色体対が多型である(Yosidaら1965)。このような染色体多型をmarkerとして利用すれば両系の細胞が雑種を作った場合など見分けが非常に容易となる。

 Ohno氏(1966)らはアメリカ産Deer mouseで染色体多型をみている。彼らは染色体多型をmarkerとして、体細胞ではsomatic segregationをおこしているのではないかという興味ある研究を報告している。

 ミシガン大学のShow(1967)らは人間のD群の染色体に多型のあることをみている。この場合D群の1個がアクロセントリック(正常)、テロセントリック(切断型)、及びサブセントリック(転位)の3型がある。この様な異常なD-染色体は蒙古性痴呆症で高頻度にみられるが、正常な対照群でもしばしばみられた。



:質疑応答:

[佐藤]実中研から購入したドンリューRat、これは39代で純系のはずですが、3番目の染色体の先のあるものとないものと混ざっているのです。人工的に、あるものとないものをかけ合わせてみると、F1にはヘテロが出来ます。染色体のレベルではヘテロだと思うのですが、39代というのは純系のはずですし、どういう解釈をすればよいでしょうか。

[吉田]染色体レベルで現れたことと、遺伝形質とが平行していないこともあります。私はショウジョウバエで、そういう経験をしたことがあります。しかし、純系の定義は20代同腹の♂♀をかけ合わせるということになっていますし、20代かけ合わせると殆どの遺伝子が安定するはずですが。そして、又純系になると染色体の特徴も安定してほぼ均一になるはずなのですが。



《安藤報告》

H3-4NQOno細胞内溶性蛋白との結合:

 月報No.6806号に書きましたように、L・P3細胞の高分子分劃に結合したH3-4NQOの内、約75%が蛋白分劃に、25%が核酸分劃と結合していた。今回は蛋白分劃の内、100,000g遠心の上清の溶性蛋白を分離し、この中のいかなる種類の蛋白と結合しているかをsephadex G100 columnにより分劃し調べた。

  1. 実験方法

     L・P3がfull sheetとなるように生えたTD-40 10本にH3-4NQOを添加し、37℃2時間ラベルし、細胞を集め、洗滌した。この細胞(8300万個)を0.05M Na-PO4、pH7.8、0.05M NaCl 1.5mlにsuspendし、氷冷下、超音波破砕した。破砕液を直ちに100,000g 60分遠心し、溶性蛋白分劃をえた。この際全放射活性の80%はこの上清分劃に来た。次に予め上記bufferで平衡にしてあるsephadex column(2.5x30cm)の上に、sucroseで5%とした溶性蛋白分劃をapplyした。columnの展開は終始上記bufferで行った。展開終了後各fractionをOD280、OD260、の放射性及びG6P dehydrogenase活性を測定した。この酵素活性測定はmethode in Enzymology vol 1,p323によった。

  2. 実験結果

     (図を呈示)蛋白は第10から23fractionくらいに亙って溶出され、放射活性もほぼこれと平行して溶出されている。したがって比放射能をとるとほぼ一定値となった。G6P dehydrogenaseは蛋白の第一ピークにやや遅れてsymmetricなピークとして溶出された。第25fraction以下に溶出されるピークは低分子分劃である

  3. 考察

     DAB及びMCA発癌の場合には、生体内でこれ等の薬剤は溶性蛋白分劃にある特異的な単一蛋白と結合する事が示されている。しかしながら4NQOの場合には、そのような特異的な蛋白との結合は起らず、どの蛋白にもほぼ均一に結合するようである。

     なお、いかなる結合様式で4NQOが蛋白に結合するかについては癌センター杉村氏の報告があり、蛋白のcysteineに結合する。核酸分劃との結合については今後検討する予定である。



:質疑応答:

[梅田]蛋白は塩基性として分劃しているのですか。

[安藤]そうではありません。分子量のちがいで分劃しています。

[佐藤]L・P3は4NQOに抵抗性があるようですが、この実験に使った10-5乗Mという濃度は、細胞にどの程度の障害を与えますか。

[高岡]3日間添加しつづけると細胞がかなりこわれるという濃度です。

[堀川]不溶性分劃についての分析は出来ませんか。

[安藤]分劃法について考えている所です。材料はプールしてあります。

[堀川]不溶性分劃の方により興味がありますね。

[勝田]このデータから言えることは・・・。

[安藤]言いたいことは、特異的に或る蛋白に結びつくのでなく、どんな蛋白にでもつくのではないかということです。杉村氏のデータでは「チステインのSH基に結びつく」となっていますから、チステインのある蛋白なら何でもつくのではないかと思います。

[永井]どの蛋白にも一様に結びつくらしいことはわかりましたが、もう少し長期的、経時的に調べてみると面白いと思います。



《安村報告》

  1. 発ガンのSelection説の検討:

     Malignant transfomed cellが軟寒天中で増殖し、集落を形成する能力がある、この性質を利用することによって、主としてtumor virusによる細胞のtransformationrateの計算がなされてきた。
     化学物質による発ガン機構の一部に、もしあらかじめ生体内に存在していたかもしれないmalignantのきざしのある細胞をSelectionによってひろいあげたということがあると假定しよう。この假説の可能性の分析のために上記のSoft agar法を利用できないか?

     いままでのところ、Macpherson & Stokerらの方法によってbase layer 8ml(Agar 0.5%)、top layer 1.5ml(Agar 0.35%)/plate、ハムスター胎児の初代細胞をつかい−胎児細胞をトリプシン消化してえられた細胞浮遊液をplatingする−2群にわけ、1群は10-6乗M 4NQOで10分処理、他群は無処理にした。結果は両群ともColony formationなし。接種細胞数は両群とも100万個、10万個/plateの2組、組あたりシャーレは5枚、炭酸ガスフランキで実験された。培養液はEagle MEM+10%コウシ血清。

  2. Mammalian cellのHybridization:

     ガン細胞と正常細胞とのhybridをつくることによって、ガン細胞の遺伝的性質をしらべるいとぐちがつかめるだろうし、発ガン機構の解析に役立つ。我々の細胞のBUdR耐性株をとることが、Hybridization実験の予備段階であるとして、まずWild typeのLcellのBUdR耐性度をしらべた。(増殖曲線の図を呈示)



:質疑応答:

[堀川]この実験は何をねらっているのですか。

[安村]培養以前に、生体内に変なヤツがいるかも知れないとして、その変なヤツを選び出そうというつもりです。

[堀川]培養に移したこと自体が変異につながると思いますが・・・。

[安村]ですから、生体からとり出してすぐクローニングをしようとしています。

[堀川]考え方として生体内にすでに悪性細胞があるのだということですか。

[安村]材料が胎児ですし、あらかじめ生体内に悪性とはいわなくても悪性化の傾向のある細胞がいるかも知れません。いたとしても生体内ではpopulationとして増えないでいることも考えられます。

[堀川]始に4NQOを作用させたことの意味は何ですか。

[安村]それは単にselectionに使いました。

[堀川]4NQOが細胞の変異を起すらしいことは判っているのですから、4NQOを単にselectionに使うのは不適当だと思います。癌細胞に特殊な条件を見つければ、selection出来るはずだと思います。

[安村]癌細胞に特殊な条件を見つけるということがなかなか難しい問題です。寒天を使うと悪性のコロニーが拾えると言われていますが、初代培養で悪性化の傾向のある細胞を、寒天を使って拾おうとしても何も拾えないのではないかという不安があります。それでconditioned mediumを使う方法を利用したのですが、これだと初代培養の無処置の細胞でも多分コロニーが出来てしまうのではないかと考えられるわけです。それで4NQOで或る程度の細胞を殺しておいてconditioned mediumを使った寒天でコロニーを拾おうとしたわけです。

[藤井]発癌剤を使わずに正常細胞に対する抗血清で選ぶという事は出来ませんか。

[堀川]正常と癌との根本的なちがいが判っていないのですから、非常に難しい問題ですね。

[藤井]抗ラット肝血清に対して、肝癌細胞は強く、正常の肝細胞はこわされ、勝田班長のなぎさ細胞はその中間位の反応を示すという、それぞれの特徴を免疫的につかまえられるのですから、selectionに使えると思います。

[勝田]そもそも何故こんなことを始めたかと言いますと、ゴットフリー・ストマスキーが普通に大量培養していると出て来ない悪性細胞が、培養初期に細胞をバラバラにしてクローニングすると悪性細胞のコロニーとして拾えるということを発表していますので、その確認から始めようとしたわけです。

[安村]とにかく変なヤツが初めからあるのか、無いのか、知りたい訳ですよ。

[梅田]技術的な問題としてですが、黒木氏の「4NQOとハムスター胎児の組合せでの発癌実験」と平行するかどうかみてゆけばよいと思います。

[勝田]Hybridizationの問題についてですが、Hybridizationに成功したら何に使うつもりですか。

[堀川]悪性を担う遺伝子は何かということがわかるでしょうね。

[安村]まぁそういうこともあります。

[永井]Hybridが出来る率はどの位ですか。

[安村]L株細胞で100万個に1コ位です。異種細胞の組合せであるにもかかわらず10,000コに1コという高い率のものもあります。



《永井報告》

 “細胞膜系の構造と機能”テーマでの一連の研究について。

 『膜モデルについて』細胞の原形質膜については、種々のモデルが提出されているが、まとめてみると、次の3つに代表されるようである。(それぞれにモデルを図示)

  1. Robertsonの単位膜モデル(サンドイッチ型)

     このモデルはDonielli & Davson(1935)のサンドイッチ型モデルの発展的修正モデルである。根拠は電顕観察(殊にnerveのmyelin)による。電顕像をうまく説明するが、物質の通過機構の説明に難点がある。

  2. Bensonモデル(1966)

     特徴:

    1. 膜構造が単位リポ蛋白構造体より成っている(リピド構造蛋白)。
    2. 蛋白の疎水基構造の重要性を強調。
    3. リピドの二次元的配列パターンを決定するのは、構造蛋白のアミノ酸 Sequenceであること。
    即ち、遺伝的に決定されるアミノ酸のsequenceに応じて、そこに結合するリピドの構成脂肪酸の二重結合構造が決まり、リピドの配列位置が決定される。

     遺伝子情報→膜蛋白のアミノ酸Sequence→脂肪酸の(二重結合)構造→リピド分子の配置→膜表面構造の決定。これによってリピドの多様な構成脂肪酸の存在意義が説明されうること。

  3. Kornモデル(1967)

     特徴:

    1. 内外が蛋白の穴を通じて接触している。
    2. リピドと蛋白は疎水性結合で結合する。
    3. 物質通過に際して、リピドに可溶な低分子Carrierを考えなくともよい。
      以上の3つのモデルのいずれもが、証拠は十分でなく、むしろ、どのモデルも膜構造の真実の姿を部分的に伝えているものとみられる。

     なお、膜の外側部分に存在すると考えられている糖構造が多糖類によるものか、或いは、糖脂質の糖残基によるものかは分っていない。次に特異な膜の一例として、受精膜の形成について述べる。

     『受精膜の形成』

     ウニなどでは受精直後に、卵の表面に膜が形成され、卵表面から離れていく。いわゆる受精膜形成と呼ばれるそのメカニズムはかなり複雑で、電顕観察の結果では、受精直後、精子突入部分から始って表層粒の崩壊がおこり、次々と卵表に沿って伝わっていく。表層粒内のゲル状物質は、粒子の崩壊と同時に、卵膜と原形質膜間に放出され、一部は卵膜に附着する。表層粒をつくっていた膜は、原形質膜と融合して、新しいモザイク状の原形質膜をつくる。表層粒内物質と反応した卵膜は、硬化して厚い受精膜をつくる。この反応にはCaイオンが必要である。我々はこの受精膜形成機構は、従来考えられてきたような、水素結合によるものでなく、酵素的なものであろうと考えている。実際、硬化現象に必要とされるCaイオンにしても、膜に取り込まれるものでないことがアイソトープ実験でわかっているし、Caイオンはむしろ酵素反応を促進させるものと考えるべきであろう。我々は最初、受精膜の形成は、細菌細胞壁の形成に似て、多糖類構造がペプチドのようなもので橋渡しされて硬い膜が出来るのではあるまいかと想定した。しかし、受精膜を精製単離して、その物質組成を調べてみると、その90%が蛋白であり、糖質は残り10%を占めるに過ぎない。細菌細胞壁とのアナロジーは、この点で望みがうすい。だが、強力なプロテアーゼ阻害剤であるleupeptine(Arg-Leu-Leu、トリペプチド)を作用させつつ受精させると、表層粒の崩壊は起きるが、膜の硬化作用は抑制されることを見出した。これをどのように考えるか、であるが、現在我々は、膜形成が酵素的過程でおこり、たとえば、トランスペプチダーゼのような作用で膜構成分子間の架橋がおこり、膜の硬化がおこるものと考えている。とすれば、受精の結果、表層粒から硬化作用を受持つ酵素系が放出されても、Leupeptineによってその作用が阻止されるというわけで、上記現象の説明がつくわけである。のみならずこのLeupeptineを使って、膜形成のメカニズムを追究できるのではないかと考えている。なお、Leupeptineの末端基を化学的に修飾したderivativesには、阻害作用がみられなくなる。

     『糖脂質について』

     細胞の最外層に存在すると予想されている糖構造が、多糖類によるものか、あるいは、糖脂質残基によるものか、については議論のあるところである。しかし、こうした一群の物質が、免疫学的特性といったような細胞のいわば“型”を決定している物質の基盤を構成しているのではないかとの可能性は、次第にその確からしさを増しつつあるようである。我々は、糖脂質の研究をこのような見地でとりあげ、ひとまず、生物学的対象を、こうした一面がかなりはっきりした姿であらわれているともみられるウニの初期発生という面においてきた。ところで、この数年間で、構造決定のおこなわれた糖脂質の数は、急速に増しつつある。また、最初に予想した以上の種類の糖脂質が存在し、細胞の種類による糖脂質パターンの違いも指摘されるようになった。しかし、そうはいっても糖脂質の生物学的意義は、まだ確定されたものはないといってよい段階である。しかし、大まかに概観すると、次のような点が指摘され、研究もこの方面に向って企てられつつあるようである。

    即ち:1)Blood group Actibity 2)Forssman Activity(Ceramide-Glc(4←β1)Gal(4←1)Gal(3←α1) 3)Organ-specific Occurence 4)Cerebral excitability:Transmission of impulses Tetanus toxin fixation 5)Serotonin receptor 6)Virus infection mechanism 7)Cell versus Cell interaction(Cell control,Cell migration etc) 8)Lipidosis  細胞表面の関与する生物現象を全てひっくるめてEktobiologyという名で呼ぶことが、HarvardのKalckarによって提唱されたが、上に述べた事項の大部分は、このEktobiologyに関係しているものと考えてよい。我々はCell間のinteractionを受精及び初期発生の場で、vividに捉えうる材料としてウニを取り上げてきた。

     また、研究対象物質としては、上記の糖脂質群にさしあたり焦点をおいてきた。こうしたEktobiological problemを研究していく上で、一つの方法として、まずこれからの研究のLeitfadenとなる糖脂質群の物質的特性を知ることが重要と考えたからである。糖脂質の存在量は微量であるから、まず、この物質を多量の材料から集め、抽出、精製し、それがどのような種類から成り、どのような化学構造をもっているかを見究めなければ、問題を生化学的に正確に扱えないのではないか、対象が漠としすぎていると感じられたからである。その結果、薄層クロマトグラムで、卵および精子との間に、また、ウニの種類によって、構成糖脂質の上にかなりの違いがみられることがはっきりしてきた。このうちML-5(AS)については:Ceramide-Glucose(6←2)Sialic Acid-Sialic Acid、ML-4(AE)については:Ceramide-Glucose-Glucose{1 Sialic Acid、の構造をもつことを明らかにし得た。

     またシアル酸は、新しい型のものであることもわかってきた。Spot 1から9までは、ひとつの基本構造から成っているもので、たとえば、ML-5(AS)からシアル酸が1分子はずれるとML-1(AS)に転換する。このように全てが、シアル酸と糖との結合体であり、一連の系列を成していると考えている。これらの糖脂質が、実際に細胞表面に存在するか?、精子の糖脂質パターンは胚発生の過程であらわれるかどうか?、あらわれるとすればどのstageでか?、形態形成運動とこれら糖脂質とは関連があるかどうか?、我々の目標とするところは、究極においては、分化という生物学の問題を、分子レベルで出来るだけはっきりさせていきたいという点にある。(クロマトグラフの結果図を呈示)



    :質疑応答:

    [堀川]細胞膜についてのこの三つの考え方、三つとも正しいとも言えるのではありませんか。ものによってそれぞれ違って、或るものは(i)、或るものは(ii)という風に。
    ミトコンドリアの膜と細胞膜はちがいますか。

    [永井]違います。

    [勝田]高等動物の細胞では菌の細胞膜に相当するものが核膜で、あとのものは核のまわりにだんだんくっついて今のような構造が出来たと言われていますね。高等動物の細胞膜を採ったという事をききましたが、本当ですか。

    [永井]WallachとかWarrenとかいう人達が膜を採ったと発表していますが、何をもって膜とするかが討論されています。膜の外側だけに附着するという色素が見つけられているので、それを利用して分劃している人もあります。

    [吉田]分裂の時、核膜は消えるのではなく紡錘体膜として残るという説がありますが、どうでしょうか。

    [永井]和田学説ですね。和田学説にはいろいろ異論があります。