【勝田班月報:6811:軟寒天法】

《勝田報告》

  1. 純系ラッテ腫瘍

     前月号で報告したように、我々の研究部で作った純系ラッテJARにメチルコラントレンを注射し、肉腫を作った(のちにMyosarcomaと診断される)が、純系ラッテの腹水系化は大切なことなので、これに向って現在努力している。なお、これらの動物に発癌剤を与えて作ったtumorは、培養内で発癌させた細胞と区別するため、別の名称を与えることにし、且JAR系ラッテからの由来を明らかにするため、“Jar”としてそのあとに順位にしたがい、a、b、c・・・をつけることにした。だから前月号に報告した第1号の肉腫は“Jara”と呼び、以後Jarb、Jarc、Jardとなって行くわけである。現在Jardまで出来ている。

     

  2. 4NQO処理によるラッテ肝細胞の悪性化

     前月号の月報に記したように、正常ラッテ肝の細胞株RLC-10を用い、3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理を四種の実験系で行ない、Exp.#CQ-39(4回)、CQ-40(1回)、CQ-41(3回)、CQ-42(2回)と処理し、Newbornのラッテの腹腔内に復元接種したところ、約2月後にCQ-42の復元群の1/2匹に腫瘍の腹水貯溜を認め、この腫瘍細胞の数と塊の大きさは日と共に増大してきた。“take”されたことはほぼ確実と思われる。腫瘍死するまで観察を続ける予定である。

     

  3. 4NQOの光力学的作用(実験毎に図を呈示)

     4NQOそれ自身の吸光度をしらべたところ、特異吸収ピークは二つ現われた。ほぼ第2ピークに近い365mμの光を2時間照射すると、両ピークとも吸光度が低下した。

     4NQOを与えずに光で照射しただけではRLC-10株は増殖を阻害されないが、4NQOで処理してから照射すると、時間に比例して細胞がこわされる。

     処理する4NQOの濃度を3種類えらび、その光力学的効果への影響をしらべると、やはり濃度の高いほど細胞障害は強く現れた。

     第2日に4NQO処理し、あと日をおいてから光を照射してみると、細胞がふえなくても日をおくにつれて、光力学的効果は減少した。

     上記の実験はいずれも培地内に細胞が存在している状況で4NQOを投与し、或は365mμ照射しているので、細胞障害が直接的のものか培地その他を介してのものかを知るため、培地或は4NQOに照射してから細胞に与えてみると、培地だけに照射しても変化はなく、4NQOに照射して培地に添加すると、4NQOの細胞毒性が著しく減少することが判った。

     それではRLC-10株細胞以外の細胞に対しての4NQOの光力学的作用はどうか、ということをしらべた。細胞はなぎさ変異したラッテ肝細胞株RLH-4及び-5を用いた。これで判ったことは、RLH-4もRLH-5も、RLC-10と同様に365mμ照射だけに対してはほとんど感受性のないこと、4NQO及びその光力学的作用の影響については両株間に差があり、RLH-4株の方が障害が強いことなどである。

     次にラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の培養株に対する影響をしらべた。この株は4年近く培養されているが、いまだに強い腫瘍性を維持しているというのが大きな特徴である。そしてラッテ正常肝細胞との液相を通じての相互作用でも、強い毒性を示す。結果から判ることは、AH-7974TC株は、365mμ照射によって全然障害されないこと、4NQOによっては障害され、且それに照射を加えるとさらに強く障害されること、その度合はしかし正常肝やRLH-4ほどでなくRLH-5株の反応によく似ていることである。

     次にL株(原株)細胞に対する4NQOの光力学的作用をしらべた。L原株(929)も光照射に対してはほとんど感受性がない。そして面白いことに、4NQO或はそれと照射の合併処理によっても、他の細胞ほど強く障害されない。

     ではL細胞亜株L・P3細胞(合成培地継代)に対する4NQOの光力学的作用はどうか。この場合おどろくべきことは、L・P3細胞が4NQOに対してきわめて抵抗性のあることである。これは培地に蛋白を入れるとそれが間接的に4NQOの細胞毒性に関与するということかも知れない。また365mμ照射に対してきわめて感受性の高いのも、他の細胞と全く異なる特徴である。

  4. L・P3細胞その他に対する365mμ照射の影響

     上記のようにL・P3細胞が365mμ照射に対してきわめて感受性の高いことが判ったが、これが無蛋白という環境によるものか否かをしらべるため、培地に血清(10%CS)を添加して照射した場合の影響をしらべた。その結果、面白いのは照射直前に血清を加えれば、細胞障害を防げることが判った。直前に加えたのでは細胞内膜構造に必須脂肪酸が直ちに組込まれて防御したという風には考えにくい。それでは培地内に蛋白や脂肪酸の存在するかしないかが問題なのか、ということでL原株を無蛋白合成培地DM-120内において照射しても、L・P3のように細胞障害はおきなかったのである。この細胞の場合には血清があろうがなかろうが、全く増殖に影響を受けなかったのである。

     今度はなぎさ培養で変異したラッテ肝細胞RLH-5株に対する光照射と血清の関係をしらべた。不思議なことには、この場合には合成培地だけで照射すると細胞障害があらわれてきている。仔牛血清添加培地では障害は認められない。もう一つ面白いのは、この細胞が合成培地DM-120だけでかなりの増殖を示しているということで、果してこれが長期にも続くものかどうか、これからテストしてみたいと思っている。

     正常ラッテ肝細胞株RLC-10の場合に、照射と血清との関係がどうなっているかをしらべてみた。結果は、RLH-5と似ていて、合成培地だけで照射するとやはり障害が起ってきている。またRLH-5ほどではないが、合成培地DM-120だけでも増殖が維持されていることは面白い。

     最後にラッテ腹水肝癌AH-7974よりの細胞株に対しての光照射と血清の関係をしらべた。この場合は仔牛血清添加培地では照射の影響は全く認められないが、DM-120におくと少し阻害が認められた。しかしこれが有意の差かどうかということは問題である。少くともRLC-10の細胞のようにははっきり阻害されていない。またこの細胞ではDM-120にいれると増殖しなくなるということは、この方法で同調を得ることができる可能性を暗示しているといえよう。



     

    :質疑応答:

    [永井]照射すると細胞のlysosomeがこわれるからと云われていますが、また、それはlysosome内の脂肪酸によると云われていますね。

    [勝田]365mμ照射する直前に仔牛血清を添加しても血清が照射障害を防御したということは、そんな短時間に脂肪酸がlysosomeの膜構造のなかにとり込まれるとは思えないので、lysosomeの破壊が主因と考えてよいかどうか未だ問題があると思います。

    [堀川]4NQO処理直後には照射によってひどく細胞がこわされるが、そのこわし方がだんだん減少して行くのは、とり込まれた4NQOが他のものに変って行くためですか、それとも薄められるためでしょうか。

    [勝田]それは、これからしらべてみたいと思っているところです。

    [堀川]BUdRの場合はブロームが切れて飛び出すとか、機構がはっきりしていますが、4NQOの場合はどういう機構なのでしょう。

    [勝田]永田氏のデータによると4HAQOは光力学的作用がないと云いますが、今後それも自分でためしてみたいし、発癌性のないderivativesについても光力学的効果をしらべてみたいと思っています。

    [堀川]光によって4NQOが4HAQOに変って発癌させるのかどうか、しらべてみるべきでしょうね。

    [勝田]永田氏は光によって4NQOにfree radicalができ、それがDNAに作用して発癌させると考えておられます。

    [安藤]既知の4NQOが照射によってどうかわるか吸光度をとってみる予定です。

    [藤井]ポルフィリンを与えると皮膚が日にやけたような色になるということと、関係がありますかね。

    [堀川]紫外線の場合は回復酵素をやられてしまうためでしょう。

    [永井]4NQO処理後、時間をおいて、照射してもこわされなくなった細胞を再処理して、また照射した場合にこわされるかどうかしらべてみたらと思います。

    [勝田]前に報告したように4NQOで何回も処理した実験群に、光だけ照射すると、こわれる群とこわれない群とがありました。

    [堀川]処理直後の照射でこわれるというのは、まだfreeの4NQOでも作用があるということでしょうかね。

    [勝田]4NQOで処理してから4日後に光を照射しても細胞がこわれるということは、この頃になるともうfreeの4NQOは少いでしょうから、むしろ添加すると4NQOがすぐに細胞成分に結合するということではないでしょうか。

    [佐藤]腫瘍を腹水系化するには、脳内接種が良いと思います。脳をすりつぶして腹腔内に入れると、腫瘍細胞だけが増えてくるのですから。



    《安藤報告》

     H3-4NQOの細胞成分との結合について。

     前月報(No.6806、6808)に書きましたが、H3-4NQOはL・P3細胞に37℃静置培養下、急速にとり込まれ、30分以内に結合すべき高分子(主に核酸、蛋白)には全て結合してしまう。核酸、蛋白の結合比は約25%対75%であった。今回は一たん結合した4NQO由来の放射活性が、4NQO除去後、蛋白、核酸分劃からどのような割合で放出されるかを、比較的短時間の動きとして調べた。

     Full sheetに生えたL・P3細胞にH3-4NQOを10-3乗Mとなるように加え2時間37℃静置培養したのち、一部はその時点でsampling、残りはH3-4NQO除去、塩類溶液洗滌後、新鮮培地中で更に5時間静置培養する。2時間、(2+5)時間目のサンプルについて各々aliquotsをとり、下表のような分劃に分け放射活性を測定した。なお核酸分劃、蛋白分劃については従来のSchmidt Thanhauser法によらず、Phenol法によって核酸をintactな形でとり出し、その残渣から蛋白分劃をAcetone沈殿により回収した。

     表にみられますように、核酸、蛋白いずれの分劃も同程度の減少がchaseの間に見られた。これは表面的に見るならべ、4NQO由来の結合物は、両者の間で同程度の可逆的結合をしているといえる。この結合、解離がどのような酵素的機構によるのかは今後の問題である。

    H3-4NQOとL・P3細胞の溶性蛋白及び核酸との可逆的結合について

    細胞劃分2時間ラベルラベル後5時間残量(5時間後)減少量(%)
    DPM/1,000万個cells
    全細胞158,50010,4006.694.4
    酸溶性分劃114,600(93.6)2,190(29.0)1.998.1
    酸不溶性分劃7,830(6.4)5,350(71.1)68.631.4
    核酸分劃2,382(23.8)1,137(28.8)47.752.3
    蛋白分劃7,740(76.2)2,810(71.2)36.363.7

    ( )内は%分布

     次にこの全蛋白の内、細胞内溶性蛋白(100,000g上清)にはどのくらいの放射活性が結合しているかを調べた。L・P3に2時間H3-4NQOを与えたもの、および更に洗滌後5時間chaseしたサンプル各TD-40、15本ずつから音波処理、遠心により100,000g上清をえた。これをセファデックスG100カラムにより分劃した。

     (分劃図を呈示)結果は、蛋白の溶出patternには変化はないが、放射活性はどのフラクションからも均一に失われている。この点を更に数量的に、各分劃についてOD280当りの放射活性を計算してみると(表を呈示)、各フラクションとも非活性は50〜60%減少していること、更にどのフラクションにもほぼ均一に結合していることがわかる。すなわち蛋白全体の動きは、個々の蛋白に分けてもなおあてはまる。

     今後の実験計画としては、先ず顆粒成分にある蛋白についても同様の事を調べること、より長期の観察をすることである。



     

    :質疑応答:

    [勝田]もっと長期間の追跡をするべきでしょうね。4NQO処理後5時間までのデータしかないのですから、4NQOが細胞内でどの蛋白とも結合するのだという結論を出すのは早すぎますね。

    [堀川]そうですね。この段階ではこの先何か特異蛋白と結合するかも知れないということを否定出来ませんね。

    [佐藤]4NQOと蛋白の可逆的結合ということは、蛋白に結びついた4NQOが簡単にはずれて、はずれたあとの蛋白は結合前と全く変りがないという意味ですか。

    [永井]本当の意味での可逆的というのは、佐藤班員の云われるように、離れたあとの蛋白が結合前と比べて異常がないということを証明しなくてはなりませんね。

    [安藤]そこまでしらべていないのです。今の所残された蛋白の変化をみるより、離れて出てきたカウントを調べる方が簡単なので、そちらから始めたのです。だんだんに、難しい蛋白の方へも仕事を進めてゆきます。

    [佐藤]細胞外でDNA蛋白に4NQOを作用させて培養細胞に添加しても、悪性化を起こさせることが出来るでしょうか。

    [勝田]生化学者のしらべ方は死にゆくものの方へ焦点を合わせたがるようですね。私達は生き残るものについての分析を早くして欲しいと思います。

    [永井]細胞内のカウントは何日位残っていますか。

    [安藤]これから調べる予定です。



    《永井報告》

     ラッテ腹水肝癌細胞AH-7974のToxic Metabolite

     正常肝細胞と肝癌細胞とを一緒にして培養したとき、両者の間に特異な相互作用のみられることが勝田、高岡らによって報告され、研究は種々の角度から引き続いておこなわれてきた。この相互作用において、一般に、正常細胞の増殖が阻害されるのと対照的に癌細胞の増殖が促進されるのが観察された。

    阻害効果は癌細胞より放出されるToxic Metaboliteによるものとされ、これは透析可能な低分子物質と透析されない高分子物質とに分けうることも報告された。ここでは、透析される低分子物質について、その性質をより明らかにするために分劃を試みたので、未だ得られた分劃についての阻害効果の検定結果は得られていないが、一応報告する。

    AH-7974の培養液のうち透析膜を通過した透析外液135mlを凍結乾燥すると1.28gの固形物が得られる。検定には普通透析外液0.45ml(固形分にして4.5mg)を1回分として使っている。培養液の組成からわかるように、透析外液の大部分はSaltから成るものと考えられる。その吸収パターン(図を呈示)は279mμと289mμにλmaxがみられた。

    分劃の最初の試みとして、試料を一応全部回収できることを目的としたために、先ず、Sephadex G-15による分劃を試みた。入手した外液固型分は蒸留水には一部不溶で、pHをアルカリ添加で10にしたが不溶のままであった。ただ、pHを酸性側(pH5附近)にもっていくと溶けるようになる。それで、固型分500mgを蒸留水にpH6で可溶化し、Sephadex G15カラムにかけ蒸留水で溶出した。クロマトパターンは(図を呈示)、230mμの吸収は、一応、ペプチド結合による吸収に相当するものとみて各溶出分劃のCheckに、280mμ吸収(aromatic residues)とともに併用した。勿論、有機物、無機物のうちで、この領域に吸収を示す物質は多いが、溶出液として蒸留水を使っているので、何が溶出されてくるかのcheckにはかなりusefulであり、sensitiveでもあるので、この230mμを使ったわけである。

    Gottschelkらは215mμを糖蛋白の分劃の際に用いて好結果を得ているし、割合Sephadex系では溶出物質のcheckには良い方法と思う。阻害効果の検出に際して厄介なSaltの溶出個所を知るために、Cl-イオンを滴定で測定した。その結果NaClにして352mg(約70%)が溶出されている部分がわかった。培養液中に占めるCl-イオンの割合からすれば、その大部分がここで出てしまうと考えてよいようである。従ってこれ以外の部分は脱塩することなしに検定に使ってよいように考えられる。なお、溶出はTUBE NOにして200(2000ml)までおこなわれた。



     

    :質疑応答:

    [佐藤]この阻害物質の生物学的な判定はどうしますか。

    [勝田]当面は正常肝由来の細胞を使って、増殖に対する阻害度をみてゆきます。もっと進めば対照としてセンイ芽細胞の培養での増殖阻害もしらべますし、肉腫の出す毒性物質も抽出しなくてはならないと思っています。その肉腫の毒性物質という仕事にいろいろ問題がありましたので、とうとう自分達で純系ラットの肉腫を作ろうということになり、Jaraが出来たわけです。

    [佐藤]正常肝細胞の増殖はおさえるが、AH-7974細胞の増殖はおさえないということを調べればよいのではありませんか。

    [堀川]AH-7974を培養した培地を、正常肝細胞の培養に添加した場合、双子培養の時より増殖阻害がはげしく出ますか。

    [高岡]AH-7974培養後の培地30%を添加した場合、双子培養での場合よりやや強く増殖を阻害します。

    [安藤]増殖の阻害だけでなく、無添加群と比べてウリジンで30%、チミジンで40%の取り込みの減少がみられました。

    [難波]AH-7974の培養へ、正常肝細胞の培養培地を加えるとどうなりますか。

    [勝田]双子培養のデータではAH-7974は増殖を促進されます。

    [藤井]AH-7974を接種した動物の腹水中にもこの種の阻害物質が出ているのでしょうか。生体内で感作した脾臓の細胞の培養にこの物質を入れてやると抗体産生能にどう影響するか調べてみたいですね。

    [勝田]免疫の実験は定量的という面に弱いことが問題ですが。

    [永井]生物学的、生化学的、酵素学的にいろいろ検討すべきですね。

    [勝田]始はなるべく綜合的なものとして増殖をみるつもりです。

    [堀川]阻害物質の検討は、先ず増殖に対する影響をみて、それから機構をしらべてゆくというのが普通のやり方ですね。それから、この物質は単一なものでなく、このピークの中にはむしろ増殖を促進するものもあるかも知れませんね。

    [永井]成長ホルモンの場合、分劃してみると、成長促進物質、成長阻害物質両方が出てきますから、このものが複合体だということも充分考えられます。

    [安村]ステロイド産生細胞にセンイ芽細胞の培養液を添加すると、ステロイド産生を促進しますが、ACTHを添加した時とちがうのは濃度に依存しないことです。



    《佐藤報告》

     ◇4NQO発癌実験まとめ

    現在までに、呑竜系ラッテ由来の培養細胞を用いて発癌実験に成功したものを表にまとめてみました。(表2枚を呈示)

     投与法を中心にまとめてみると、全胎児培養細胞、胎児肺培養細胞、肝培養細胞を併せて8例、培地は主にLD、時にはYLEを使いました。4NQOは10-6乗Mを培地にとかし、間歇的に処理する方法が中心になっておりますが、5x10-5乗M、5x10-7乗Mの処理方法でも発癌しております。全培養日数は135〜570日、それぞれの実験系で一番最初に4NQOを投与してから、動物復元で最初にtumor形成能を示す培養細胞の得られる日数は、現在のところ最低100日を要するようです。

     動物復元成績を中心にまとめてみると、全胎児培養細胞と胎児肺培養細胞は皮下接種し60〜80日で殆どが+、肝培養細胞は腹腔内接種121〜333日でやはり殆ど+です。現在のところコントロール細胞には発癌はみられておりません。組織像は胎児肺細胞からの発癌例では肉腫像です。肝細胞からのものは、上皮性の腫瘍を示すものが多いが、しかし一部の腫瘍では、肉腫様の形態を示すものがあります。



     

    :質疑応答:

    [安村]胎児を培養材料にした場合、復元した動物の腫瘍死が早いのですね。

    [佐藤]復元にはいろいろ問題があります。例えば、接種部位は皮下が良いか腹腔が良いか脳内が良いか、接種する細胞によってそれぞれちがうのです。それから接種した細胞が肝癌と肉腫を混合して形成している場合と、同じ混合しているようでも接種細胞が肝癌を形成しているまわりに宿主側の細胞が肉腫化して肝癌をかこんでいる場合があります。

    [勝田]それは本当ですか。もし移植した物がまわりに肉腫を作るとしたら問題です。

    [佐藤]癌を植えついでいて肉腫になったという例の場合、そういう解釈をしている人があります。

    [三宅]形態的に癌だったものが、植えついでいるうちに肉腫になったといっても、形態的な見かけ上だけの変異ではないでしょうか。

    [佐藤]培養細胞が生体内で異物として取り入れられるとまわりに肉腫が出来るとも考えられます。しかしもとのpopulationに色々な細胞が居たのかも知れません。

    [安村]復元する細胞をクローニングして、出来る腫瘍が何かという結論を出してから討議するべき問題だと思います。

    [佐藤]もとのpopulationが一種類の細胞でないことはわかっていますが、クローニングしてみてもfibroblastのコロニーは出て来ないのです。それで接種細胞が肉腫を作ったとは思えないのです。

    [藤井]正常組織を動物に植え込んだ場合、その組織がtakeされてもまわりが肉腫化したりしませんね。それから4NQOによる発癌過程の動物へ4NQO処理の細胞を接種すると早くtakeされるのではないでしょうか。4NQOを接種した動物には4NQOに対する抗体が産生されない場合がありますから。

    [佐藤]4NQOの悪性化の機構についてですが、4NQOはヒットのあとgradualに悪性へ変化してゆくように思われます。ヒットのあと何回か分裂をくり返すことが悪性化への必要な条件のようです。DABの場合にはヒットした所で安定してしまう所が4NQOとちがうと思うのです。

    [勝田]それはそうかも知れませんが、今日のデータからだけで、ヒットをうけた細胞がgradualに悪性化すると結論するのはジャンプがありすぎますね。

    [山田]又復元の問題ですが、乳児に接種してい乍ら、takeされる動物の%が100%でないということは、どういうことでしょうか。

    [勝田]動物に発癌させた肝癌の場合にも、移植は100%とはゆきませんね。動物の系の純度も問題でしょうし、培養細胞の場合いろんなpopulationが混っていて均一に接種されないということも考えられます。



    《山田報告》

     先月に引続き、岡大癌研病理より肝細胞を送って戴きましたので、その結果を追加します。

     長期培養により自然に悪性化したと云う肝細胞の細胞電気泳動度のパターンが、悪性化する以前のそれと全く変らないと云う結果を前回報告しました。

     今回はこの株がラットに復元されて出来た腫瘤から再培養した細胞株について、しらべて見た所、(ヒストグラムを呈示)シアリダーゼ処理により明らかにその細胞電気泳動度が低下して居ます。これは悪性腫瘍の型です。

     この結果は、この株には悪性化した細胞の密度は少く、従ってそのまま測定したのでは、悪性細胞が測定対象にならないが、生体へ復元し腫瘤を形成する過程で悪性細胞がより増殖し淘汰されるために、再培養の細胞電気泳動が悪性細胞のパターンを示すと云う推論が出来ると思います。しかし、この株の復元後の腫瘤形成に要した期間はかなり長かったとの事ですので、その間に何が起ったのか、即断は出来ません。

     次にDABを投与したラットの肝臓から得た肝細胞を培養した株のうちで、ラットに復元しても腫瘤を作らない株d-RLN60、腫瘤を作るがその組織学的型が分化型で腺腫を考へさせる細胞株d-RLA74、未分化な腺癌型を示す腫瘤を形成する細胞株d-RLH84の3種について検索しました。(ヒストグラムを呈示)d-RLNはその泳動値が最も低く、d-RLA74とd-RNH84はいづれもその泳動値が高く、シアリダーゼ処理により泳動値が低下します。しかしよくみると、その低下のパターンが違う様です。d-RLH84は全体の細胞が同じ程度に低下している感があります。この分析は今後の課題としたいと思ひます。

     尚ほ今月は、この他に、医科研癌細胞部より戴いたAH-7974を用い、細胞の増殖と泳動値の関係についても検索しましたが、来月まとめて書きます。



     

    :質疑応答:

    [堀川]シアリダーゼで処理してシアル酸を除くと泳動度がおちるということは、癌細胞にはシアル酸が多いのだということになりますか。

    [山田]そうは考えていません。シアリダーゼに作用されやすいシアル酸に包まれているのが癌細胞ではないかと考えています。

    [堀川]シアル酸の構造がちがうということですね。

    [山田]そうです。殊に細胞の外側を包んでいるシアル酸の問題です。

    [安藤]正常肝細胞をシアリダーゼ処理した場合にチャージが上るのはどう考えられますか。

    [山田]非荷電物質が細胞の外側を包んでいて、シアリダーゼ処理でその物質がはがされて、そのためにチャージが上ると考えていますが、永井班員はどう考えられますか。

    [永井]+のチャージがとれるのでなく、ほんの少し細胞表面の構造が変っただけでも泳動度は変るでしょうね。シアリダーゼをもっと純化して実験する必要があると思います。シアリダーゼにプロテアーゼが混入していた為に人によって実験結果がちがうということもありますから。

    [山田]それは私も気にしています。しかし今の所では材料にしている細胞の方が非常にグローブなものですから、シアリダーゼノ純度によって実験結果が左右されるとは考えられません。

    [勝田]肝細胞以外の細胞でシアリダーゼ処理によってチャージの上がるものはありますか。

    [山田]実験に使ったのは、肝細胞の他、リンパ球と脾臓の細胞ですが、その中では肝細胞だけがシアリダーゼ処理でチャージが上がりました。

    [安村]分裂期の細胞と静止期の細胞をより分けるということには使えないものでしょうか。この電気泳動装置を・・・。

    [山田]無菌的に泳動させるということを考えれば可能かも知れませんね。

    [堀川]分裂時にチャージが上るということは、分裂時に膜の構造が変ることが考えられますね。それからシアリダーゼ処理以外に何か物質を細胞膜にコートして泳動度をかえるという事は考えていませんか。

    [山田]カルシウムとか鉄をつけるという方法もあります。何かシアル酸に直接結合するような物質の開拓も考えています。



    《三宅報告》

     ヒト胎児、dd系マウス胎児を試験管内に培養して、発癌剤を作用せしめたものについての、その後の経過をここにまとめる。

     ヒト胎児:

     ヒト胎児の皮膚(時に全胎児を細切)、トリプシン処理後、培養を行うと、上皮性のものとfibroblast様の2種がみられるが、そのうちに上皮性のものは劣勢となりfibroblasticの細胞が勝ってくる(約4週間後)。こうしたものに第2代の培養(初代後3〜4日)にMethylcholanthren(20MCA-DMSO、5μg/b)を作用せしめたものにCriss-Crossingが見られたことは、月報のNo.6711に述べた。これは、その後不図したアクシデントのために失う破目になったが、新しくヒト胎児の皮膚を培養中(約4週間後)に、Criss Crossing様の構造をみつけることができた、しかし、この像を数回のMCAを作用せしめてえたCriss Crossingとくらべると、異っていて、前回のものが、細胞が形質にとんで核が大きかったのに較べて、今回のものは、Controlの瓶に発生したもので、細胞は美しい長い紡錘形を呈していることが異っていた。こころみに、そのKaryotypeをしらべると、Modeは46にあった。また別のヒト胎児の培養で2ケ月後(MCA-Benzol作用3回)のものにAtypicalな細胞が発生したものはregressionし始めた。

     ddマウス胎児:

     トリプシン処理後、植えついだ2代の培養にMCA-Benzol(1μg/ml)を作用せしめると、細胞に強い変性が生じて来る。これでも上皮性のものとfibroblasticな細胞が残るが、上皮性のものは劣勢となり、巨細胞が残って来る。このうちControlにした17日目のものに強いMitosisを顕現したコロニーが発生し、膨張的に増殖して、周囲へ拡大する傾向をみせた。これはその処の細胞を混じたままで、より増大するものと考えて継代したが、今の処1個のコロニーを作ったにすぎなかった。



     

    :質疑応答:

    [勝田]Fibroblastは正常のものでもお互いに重なり合って増殖するようですね。

    [三宅]そうですね。

    [山田]コンタクト・インヒビションの現象が発見されたのは、fibroblastではなかったのですか。

    [勝田]Fibroblastですよ。ですから少し変だと思うわけです。

    [安村]培養初期のごく短期間の現象ではないでしょうか。それから癌細胞の場合は積極的に乗ってゆくのですが、正常のfibroblastは居場所がなくなって重なるだけではないでしょうか。

    [勝田]そうではありませんよ。正常のfibroblastだって映画で観察していると乗っかってゆきますよ。

    [安村]そういう事になると映画は強いですね。

    [佐藤]コロニーレベルでみると、はっきりするのではないでしょうか。悪性細胞のコロニーは確かにオーバーラップしています。

    [山田]少数細胞でもということですね。

    [勝田]私達の研究の歴史をふり返ってみると、細胞の形態的な変化ばかり注目していましたが、今では変異が形態だけで見分けられないということが判ってきて難しくなりましたね。

    [堀川]細胞の種類のちがいからくる差異と、悪性か正常かということの差異とが、絡み合って、見分け方がむつかしくなるのですね。

    [勝田]まだデータが不足なのですよ。

    [高木]難波さんの実験では、4NQOによる形態的な初期変化は培養を継続しても持ちつづけていますか。

    [難波]Fibroblastの場合は持ちつづけています。肝細胞の場合は形態的な変異がはっきりしません。

    [佐藤]悪性化した細胞は、よくみれば見分けられると思います。

    [安村]それは病理屋の佐藤先生がぐっと見れば判るということでしょう。

    [佐藤]100%間違いなく見分けられるとは思いませんがね。大体判ると思います。なぎさ変異の細胞なんかは困りますね。

    [勝田]“なぎさ”は変りすぎたのだと今では思っています。抗原性まで変ってしまったので、形態的には悪性でもtakeされないのだと思います。

    [山田]病理的には正常か癌かクロマチンで見分けていますが、それも同じ条件で同じ染色でないと見分けられませんね。

    [佐藤]悪性化と動物にtakeされることとは平行していないと思います。悪性化だけに関してなら形態で見分けがつくと私は考えています。



    《高木報告》

     これまでの実験を総括する。

       
    1. 形態的変化、増殖率

         
      1. NQ-7(WKA rat胸腺細胞)

         T-1:10-6乗molを2時間ずつ2回作用後20日位してfociがあらわれ、さらに100日後にmorphological transformationに気付いた。

         T-2:5x10-7乗mol 2時間ずつ3回さらに1回96時間作用せしめたもので、特にfociは現われず、5ケ月後の現在、形態やや変化している感がある。

         T-3:2x10-7乗mol 2時間ずつ3回入れ、さらに2回192時間にわたり作用せしめたもので、作用後60日頃より細胞はpile upし形態的に変化が認められるに至った。

         T-4:T-3処理後5代目、約40日後にさらに10-6乗mol 2時間を2回作用せしめたものである。fociは認められず、作用後3週間位で細胞がpile upするのに気付き、形態的に変化を来した。

         T-5:2x10-7乗molを100時間3回にわたり作用せしめ、継代して2x10-7乗mol 2時間を4回、さらに2代後5x10-7乗molを1週間培地中に添加しつづけたものであるが、作用後約60日を経た今日、形態的に著明な変化は認められない。

         これら細胞の増殖率はT-1、T-3、T-4では7〜10倍/週、T-2、T-5で5倍/週、対照は3〜4倍/週で、薬剤を除いてからT-1、T-3では各160、50日頃より増殖がよくなり、またT-4では或程度増殖がよくなってからさらに4NQOを作用せしめたが、最後に作用せしめてから約30日後よりさらに増殖がよくなっている。

         

      2. NG-4(WKA rat胸腺細胞)

         10μg/ml1回2時間作用後60日でfociが現われ、さらに120日後からpile up、cris-crossを示し、形態的に変化を来した。

         

      3. NG-11(WKA rat胸腺細胞)

         1μg/mlを2時間単位で7回計14時間作用せしめ、そのまま培養をつづけているものと、さらに約60日後50μg/mlおよび500μg/mlを10分ずつ作用せしめた3群に分けて観察中であるが、最初に7回作用せしめて後、140日を経た今日形態的に変化を認めず、また増殖率も対照と変らず5〜7倍/週である。

         次に新しくスタートした実験として

         

      4. NG-14(Wistar rat肺)

         50μg/mlおよび500μg/mlをTris Maleic buffer(pH6.0)にとかして10分間作用せしめたが、90日後の現在殆ど変化なく、50μg/mlの方は対照と同程度の増殖を示すが、500μg/ml作用群は未だ増殖がよくない。

         

      5. NG-15(Wistar rat胸腺)

         500μg/mlを10分間作用せしめたもので、未だ変化をみとめない。増殖は作用後15日頃からよくなり4〜5倍/週を示す。

       
    2. 移植実験

       上記morphological transformationをおこした細胞につき、薬剤処理後40〜300日にわたり復元をこころみたが、今日まで腫瘤の発生をみない。

       生後2ケ月のWKA ratを450γ、Cortisone 5mg3日注射で処理して、それに400万個腹腔内に接種した。  NG-4:対照細胞1匹、実験群細胞2匹。NQ-7:対照 1匹、T-3 1匹、T-4 2匹に接種したが、それぞれ21日、7日をへた今日、変化はみとめられない。

       

    3. 薬剤抵抗性

       4NQOおよびNG処理によりtransformした細胞の、4NQOに対する抵抗性を観察した。

       NQ-7:対照では10-6乗molまで増殖の抑制がみられるのに対して、実験群のT-1、T-3、T-4ではすべて10-5乗molにおいて抑制を認めた。

       NG-4:対照では10-6乗molにおいてやや抑制がみられるのに、実験群では10-5乗molにおいてはじめて強い抑制がみられた。(表を呈示)

       すなわちここにえられた結果よりみれば、4NQO、NGによりtransformした細胞はいずれも4NQOに対して抵抗性をうるようである。

       

    4. 染色体

       NQ-7、NG-4について、染色体をそれぞれの対照と比較した。

       NQの対照では染色体数が幅広い分布を示し、42本、79本を中心にして低いpeakが認められるのに対し、作用群では80本を中心としてかなりsharpなpeakがみられた。

       一方NGの対照細胞ではnear diploid rangeに大きなpeakがあり、実験群ではこれが70本附近にshiftしている。

       countした細胞数は各群30ないし50ケで、今後さらに検討をつづける予定である。



     

    :質疑応答:

    [山田]復元した動物は新生児ですか。

    [高木]そうです。生後24時間以内に接種しました。

    [堀川]胸腺の培養法を教えて下さい。初代はトリプシンを使われますか。

    [高木]初代はメスで細切しています。

    [難波]肺の培養で上皮性の細胞は出てきませんか。

    [高木]初代には上皮性の細胞が出てきますが、だんだんとfibroblastばかりになりました。

    [佐藤]悪性化と染色体の変異の関係もむつかしいことですね。2倍体といっても培養細胞の場合正2倍体でないことが多いと思います。そして2倍体でもtakeされる細胞系も出てくるのではないでしょうか。



    《梅田報告》

       
    1. ラット新生児肝培養細胞にDAB、3'methyl DAB、luteoskyrinを投与すると、肝細胞に特異的な細胞障害像を惹起するが、AB投与ではその様な変化の見られないことは前回の班会議で報告した。その後、hepatocarcinogenである黄変米の別の毒素の含塩素ペプタイドとかacetylaminofluorene、aflatoxinを投与したところすべて肝細胞をより強く障害することがわかった。特にaflatoxin投与では核質の微細化、核小体の微小化が特異的であり、含塩素ペプタイドでも肝細胞壊死を起す濃度で、間葉系細胞の変化は見られるが核分裂像が散見された。赤カビFusarium nivaleの産生する毒素Nivalenolは非特異的に増殖細胞の蛋白、DNA合成を障害すると云われているので、hepatocarcinogenのcontrolとして投与してみた。Nivalenolでは肝細胞の核小体が異常に巨大化するが、間葉系細胞も多核化等の変化が強く認められた。同じ様に培養し投与実験を行った腎細胞と、又HeLa細胞への之等物質の障害度を同一濃度で比較したのが下表である。Hepatocarcinogenは肝細胞を特異的に強く障害することがわかる。

      [肝細胞間葉系]腎培養細胞HeLa細胞
      DAB・10-4乗M++±
      3'Methl・DAB・10-4乗++±
      AB・10-4乗M
      AAF・10-4乗M±
      Lt.・1μg/ml++±
      Pt.・10μg/ml++±
      Aflatoxin・10μg/ml++±±
      Nivalenol・1μg/ml±±

       

    2. DABを10-4.5乗M continuousに又、10-3.5乗M、10-4.0乗M intermittentlyに投与しながら培養を続けている細胞の中間報告をする。最初の実験は7月6日に培養を開始し、7月13日にDABを投与し始めた。培養1ケ月後にどのcultureもきちんと並んだ上皮様細胞におおいかぶさる様に小型の細胞の増生を見出した。(顕微鏡写真を呈示)写真はDAB 10-3.5乗M 2回投与したcultureの2ケ月後のものであるが、期待して見守っているが、現在3ケ月を過ぎても細胞の旺盛な増殖を示さない。

       次の実験は9月6日に培養を開始し、9月9日にDAB投与を開始したが、これも現在迄徐々に細胞は増生しているが、subcultureは出来ない。但し10-4.0乗M2回投与のcultureで培養10日目の時、肝細胞索を思わせる細胞が見られた。

      これは次第に増殖し、現在では上皮様のpolygonalな細胞でしめられている。



     

    :質疑応答:

    [佐藤]多核細胞は胆管上皮ではないでしょうか。生後何日のratを使いましたか。

    [梅田]生後3日です。細胞の同定は今の所していません。

    [山田]核小体が大きくなるとか、小さくなるとかいうことは、薬剤の作用としてはっきり判っていることなのですか。

    [梅田]アフラトキシンを添加した場合、核小体が小さくなるということは、多くの人の実験からはっきり認められています。

    [佐藤]肝細胞の同定の一つの方法として、培地を交換してから72時間位おいて、増殖が少しとまった所で、グリコーゲンを染めてみると、グリコーゲンの蓄積が多くなっていることがあります。

    [勝田]しかし、グリコーゲンの蓄積は必ずしも肝細胞の同定にはなりませんよ。他の細胞でも陽性に出るものが多いですから。

    [山田]ヒトの場合、前癌状態の増殖の旺盛な細胞は、核小体がヘマトキシリンで染まらなくなる、好エオジン性になるということが言われていますが、梅田班員の実験で処理後、回復してきた細胞でもそういうことは認められませんか。

    [梅田]はっきり判りません。

    [勝田]スライドは薬剤添加何日の形態ですか。

    [梅田]3日間前培養して、薬剤を添加します。そして第2日と第4日に染色したものの形態です。



    《堀川報告》

     培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(8)

    これまでの実験で4-NQO処理による障害からの回復機構はUV障害回復機構やX線のそれでは説明出来ないことを3種の細胞株を使って証明し、逐次報告して来た。そして4-NQO取り込み能においてもマウスL細胞、ブタPS細胞、Ehrlich腹水腫瘍細胞はH3-4-NQOのTCAsolubleとInsoluble分劃への取り込み能で検討した範囲においてはまったく有意な差異のないことを述べて来た。

     今回はこれらの未解の問題を更に追求すべく行った2つの実験についてその結果を報告する。まず第一の実験は4-NQOに対して最も耐性のPS細胞と感受性株のL細胞を用いて、それぞれ10-6乗、10-5乗Mの4-NQOで30分間処理し、以後直ちに細胞を洗い、5μCi thymidine/mlを含くむmedium中で培養し、経時的に細胞を取り出して、TCAinsoluble分劃、つまりDNA内に取りこまれるH3-thymidineを定量した。(CPMを100cells当りで計算した図を呈示)4NQO無処理(ocntrol)群では両細胞株ともに培養時間と共にDNA中のH3-thymidineのactivityは増大する。一方、10-6乗、10-5乗Mと4-NQOの濃度が高くなるにつれて、処理後のDNA内へのH3-thymidineの取り込みは減少する。しかもその取り込み能の減少は4-NQOに感受性株のL細胞において顕著であることがわかる。

     このことはコロニー形成能でみた細胞株間の4-NQO感受性差がやはり4-NQOによるDNA合成の阻害の程度、つまり4-NQO処理による細胞株間のDNA障害度の差と関連性のあることを示している。

     一方これにつづいて4-NQOで障害を受けた細胞内DNAに修復能があるかどうかを3種の細胞を用いて以下の方法で検討した。まず3種の細胞を10-6乗、および10-5乗Mの4-NQOで30分間処理したのち、ただちにきれいに洗い、前回同様に5μci thymidine/mlを含くむmedium内で2時間培養し、その後再度細胞をきれいに洗ってオートラジオグラフィーを行った。(結果表を呈示)

     3種の細胞株ともに4-NQO無処理群では51.2%〜68.6%の細胞(DNA合成期にある細胞)のみがH3-thymidineでheavy labelされ、残りの細胞はほとんどがnon-labelで、僅かに一部の細胞がlight labelされることがわかる。

     ところが10-6乗M 4-NQOで30分間処理した群では、Ehrlichを除いては無処理群とほとんど変化は認められないが、10-5乗M 4NQOで30分間処理した群では3種の細胞株ともにHeavy labeled cellsに加えてlight labeled cellsの%が増加して来ることがわかる。これはDNA合成期つまりS期に該等する細胞以外のものでDNA合成のあったことを意味するもので、これをわかりやすく説明すると、次のように解釈することが出来る。つまり4-NQO処理で障害をうけたDNAの部分的な修復合成がS期以外の細胞においても行われていることを示すもので、従ってS期の細胞のようにH3-thymidineをheavyに取りこまず、障害をうけたDNAを修復する程度のlightの取りこみがみられた訳である。ここで興味あるのはどの細胞株も10%程度のものにDNA修復能のないものが混在しているということで、これらのものをどの様に説明するか現在検討中である。これが時期的な差異によるのか、それともこのようなvariantが本来各細胞株に混在するのか、さらにはこれらの細胞では修復を必要とする程DNAに障害をうけていないのか、など多くの問題が考えられる。いづれにしてもこうした結果はどの細胞株も4-NQOによるDNA障害に対してある程度の回復能をもつことを示している。

     しかし現時点においては、これら各細胞株のDNA障害回復能をもってしても3種の細胞株の4-NQOに対する感受性差をうまく説明出来ない。



     

    :質疑応答:

    [勝田]DNAの修復をみる場合、DNA合成の阻害物質を入れると修復はどうなりますか。DNA合成をおさえておいた方が、修復そのものの取り込みがはっきり出るのではないでしょうか。

    [堀川]そうですね。低温にしてみたりはしていますが。

    [安藤]X線で照射するとボンドが切れるだけですか。

    [堀川]ボンドが切れるだけでは解釈出来ない所があります。もっと大きくとばしているようです。unscheduleなDNA合成があるということなど、それを意味していると言われています。私達はDNAという調べやすいものを使ってdamageの修復をみているのですが、細胞というものはdamageに対して必ず修復する機構をもっているものだと思いますね。DNAだけでなく細胞膜にしても、その他の成分にしても・・・。

    [勝田]4NQOは細胞のどのステージをアタックしていると思いますか。

    [堀川]私の実験からは、はっきりわかりません。同調培養にしないとわからないことだと思います。しかし、三宅班員のデータからみると案外どのステージにもアタックしているようですね。



    《安村報告》

     ☆Soft Agar法(つづき)
    1. AH-7974TC細胞のクローン化

       前号の月報(No.6810)の2でのべられたpreliminaryの実験ではこのAH-7974TC細胞原株のplating efficiencyは10倍稀釋でおおまかにしらべたところで約18%(100個の細胞あたり)であった。そこで接種細胞数100/plateの5枚のplateのうち1枚から4つの細胞コロニー、もう1枚から4つの細胞コロニーがひろいあげられ、それぞれ別々に次代に移された。前者のplateからは4系が全部次代で増殖してきたので、それぞれC1、C2、C3、C4と名づけられた。後者のplateからは2系のみが増殖してきた。それらはC5、C6と名づけられた。

      1. C6系のクローン化:C6系を再び2倍稀釋系列によってSoft agarにplatingした。 (結果の表を呈示)plating efficiencyは原株より高く約30%にもあがっている。なお同時に液体培地に対照の意味でまかれたものの結果は、Soft agar法によるものよりはるかに劣っている。plateはFalconのプラスチックシャーレを使った。

         C6系細胞のSoft agar中のコロニー生成率をプロットしてみると、生成コロニー数と接種細胞数との間には直線関係がみられるので、生成コロニーはSingle cellから出発したといちおう考えてよろしい。

         そこで接種細胞数87個の分のplateよりコロニーを4個、毛細管ピペットでひろいあげ、それぞれ別々に、コロニーをpipettingによりばらばらにし、その細胞浮遊液を再びagar plateにまかれた。一部は同時に短試に接種して炭酸ガスフランキに格納された。現在Agar plateにコロニー生成がみられている。これらのコロニーが再びひろいあげられ、クローンとして今後の実験につかわれる予定である。

         いまのところ、このAH-7974TC細胞のクローン化はSoft agar法によるのが最適であろう。液体培地中のplating efficiencyはわるく、しかもこの細胞が浮遊して増殖する傾向が強いので、液体培地によるクローン化は困難である。現在このC6系以外の系(複数)についてのクローン化も進行中であり、クローン化後はそれらのtumorigenicityの強弱が調べられよう。これらのモデル実験と平行して、勝田Lab.で作られたCQ42の系からSoft agar法によってMalignant cellをひろいあげる可能性の検討がなされつつある。うまく成功するかどうかは次回以後にもちこし。



     

    :質疑応答:

    [勝田]胎児の培養からコロニーを拾う時、バクトペプトンとかTPBとかをあとから添加してやるとよいのではないでしょうか。

    [安村]それも実験してみましょう。それから堀川班員の話をきいて、考えたのですが、マウスの胸腺の細胞がそんなに早く悪性化するのでしたら、胸腺を材料にして寒天法でコロニーを拾ってみようと思います。そういう材料だと初めから変なヤツが混じっている可能性があるでしょうから。

    [勝田]堀川班員の胸腺の培養は全くすごいですね。ウィルスが関与しているのではありませんか。

    [堀川]まだわかりません。とにかく増殖はすごく早いです。

    [安村]培養していないものもtakeされるのではないでしょうか。

    [勝田]生体では胸腺の悪性腫瘍は少ないのではありませんか。

    [三宅]少ないですね。

    [佐藤]寒天内でコロニーを作るものは必ず悪性だと言えるでしょうか。

    [安村]そう云われていますが、このAH-7974の場合はこれから復元をして調べてみようという所です。寒天内でコロニーを作らないから悪性ではないとは言えないでしょうね。寒天内でのコロニーの形成能と悪性度が平行しているわけではありませんから。



    《藤井報告》

     毎月、月報を書くということは大変なことと思っています。このところ移植と補体、マウスの補体、抗マクロファージ抗体の実験に追われて、癌細胞、変異細胞の抗原についての仕事がストップしてしまい、申し訳なく思っています。この班で聞き、習ったことが、いろいろ役立ちました。

     主題から外れますが、抗マクロファージ抗体の実験で少し面白い成績が出ました。従来、抗マクロファージ抗体は主に腹腔浸出細胞が、免疫原として使用され、抗血清の特異性なども厳密でなかったのですが、腹腔細胞を培養して、ガラス面につよく附着した細胞だけを免疫原として抗血清をつくりますと(兎抗マウスマクロファージ抗血清、RAMS)かなりマクロファージに特異性のある抗体が得られました。このようにしてつくった抗体でも、赤血球やリンパ球とも交叉反応しますし、今後はガラス面に附着する細胞−マクロファージとモノサイトの分離や、吸収の工夫が必要です。細胞免疫にしろ、抗体産生系細胞にしろ、何れの細胞が関与しているかは、まだはっきりしない点も多いのですが、先づ細胞の選別と、それらに対する特異性の高い抗血清を得ることが先決で、これからの重要な課題と考えます。

     RAMSはマウスの抗体産生で、一次反応も、二次反応もよく抑制しました。特に二次反応が、RAMS投与の末梢白血球数等に対する影響がとれた時期においても抑制されたことは、マクロファージでの免疫過程のブロックが考えられます。一次反応でも2次反応でも19S抗体反応のみで、7Sは出ていません。ということは第2次の抗原刺戟ででも一次反応様の反応を示していることがわかります。RAMSは皮膚同種移植には殆んど影響がありませんでした。未だ全般的な結論は出来ませんが、同種移植反応にマクロファージはあまり関与しないのかもしれません。

     ラットの抗体について:ラットにBSAをComplete Freund's adjuvantと混ぜて免疫した抗血清について、免疫電気泳動をやったところ、沈降線は、19Sと7Sに出ました。7S抗体の沈降線が短かく、泳動が不充分だったようで、再検してみます。

     先日アレルギー学会で、金沢の石田教授が、ラットのIgG、IgM、IgAのきれいな線を出しておられました。ラットの抗体グロブリンも、先ずこういうことであろうというのが、勝田先生からの宿題の一つのお答えです。