【勝田班月報:7706:正常ヒト細胞の発癌の指標】《桧垣報告・勝田報告にかえて》正常骨芽細胞系の培養株の樹立骨細胞の培養は古くより行なわれてきたが、従来の仕事は、organ cultureが多く、single cellの培養の仕事は少い。 Binderman et al(1974)はRat calvariaを培養し、in vitroで石灰化を見ているが、4週間の培養で観察し、cell line迄は至っていない。 今回、JAR-2 Ratの頭蓋骨(New born)をDispaseで処理することにより、更にAL-P-ase陽性の細胞を拾う事により骨芽細胞形のcell line(RHB)を樹立した。 この細胞株は、染色体分析を行うと42にmodeを持ち正二倍体の核型を示す(図を呈示)。Doubling Timeは27.6時間であり(図を呈示)、AL-P-ase陽性で、その熱失活を見ると、骨腎臓型を呈し(図を呈示)、ムコ多糖産生では培地に酢酸を滴下してできたムチンを電気泳動することによりヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、Bを作っていた(図を呈示)。 しかしながら、ムコ多糖産生能、AL-P-ase陽性と骨芽細胞に類似した機能を持ちながらも、in vitroのmonolayerでは現在の所石灰化を見ていないが、diffusion chamberで腹腔に入れると、osteoid様物質を認めた。石灰化を見ない原因としては、培養条件下では生体に比しCalcium、Phosphate濃度が1/3位に低いこと、あるいは可溶性Collagenが培地中に流出していくのかも知れない。今後とも、この細胞の性質について検討していく予定である。
:質疑応答:[難波]Diffusion chamber内の塊にカルシウムの沈着はありませんか。[桧垣]カルシウム沈着は見られませんでした。 [難波]ホルモンとかDMSOとかを添加して分化させることは出来ませんか。 [桧垣]これからそういう実験を始めたいと思っています。 [関口]Diffusion chamberは細胞が永持ちしなくて困るのですが、他に骨形成を促す方法はありますか。 [桧垣]皮下へ直接入れると他の細胞まで骨形成を起こすことなどあって困ります。 [榊原]方法はchamber法でよいと思うのですが、骨だという確証が見られませんね。さっき呈示された写真では、死んだ細胞の成れの果てではないかとも思えます。 [乾 ]発生学をやっている人達の方法では、72時間位腹腔内へ入れておけば、あと試験管内へ戻しても骨形成が進行するということがあるようです。
《難波報告》44:放射線(Co60)による正常ヒト細胞(WI-38)の培養内発癌放射線による培養細胞の発癌実験は現在までのところ以下の2例報告があるにすぎない。Neoplastic transformation of cells by X-irradiation。(1)Borek and Sacks:Hamster cells(primary)、Nature 210;276;1966。(2)Terzaghi and Litter:Mouse cells(10T1/2)、Nature 253;548;1975。 我々は正常ヒト細胞の癌化をおこす可能性のあるものは正常ヒト細胞の染色体の異常を高率におこすものほど、その可能性が高いことを指摘し、多くの化学発癌物質を用い、染色体の変化を検討してきた。検討した化学発癌物質のうちでは、4NQOが最もヒトの染色体異常をおこすことを報告した。この研究の過程で、放射線が4NQOよりさらに高率の染色体異常をおこすことが判ったので(月報7606に一部報告)、WI-38をCo60で照射して発癌させることを試み、一応、発癌したと思われる細胞系を得たので報告する。 ヒト細胞を癌化させるSV40による染色体の変化を参考にした(表を呈示)。 発癌実験を行なうに当り、染色体に高度の異常をおこすとされている、また細胞増殖曲線(図を呈示)からも、300〜400γの照射を行うことにした。 1976.9月より実験を開始し、細胞が一杯に生えた時期でCo60照射を行い、4〜6時間後細胞を継代した。照射は4回行ない総線量は1400γであった。以後、細胞の継代を続け観察していたところ、1977.1月頃になって、細胞の形態が線維芽様→上皮様になってきたので、染色体を検索した。 染色体に非常に激しい変化をおこしており、正確な分析は、ほとんど不可能であるがだいたい結果は、圧倒的に<2nのものが多い。また、ほとんどの細胞にExc、Min、Ring、Trans、Dicなどが認められる。染色体検索時はまだ増殖は遅く、形態的変化もそれほどなかったが、その後、1カ月半頃より、急に増殖のよい上皮様の細胞が出現し、現在に至っている。老化傾向のWI-38と現在癌化したと思われるWI-38の写真を呈示する。 癌化実験は、その他1000γ照射のものを3回行なったが、この場合は細胞の増殖阻害が著しく、癌化に成功しなかった。 また、変異率を定量的に求める試みとしてウワバイン耐性コロニー出現率をみる実験および軟寒天内にコロニー形成する細胞をとる実験を続行中である。 文献としては、100γ5回分割照射で、ヒト細胞は癌化しないで老化が早まったという報告がある。したがって1回の照射が200〜400γぐらいが細胞の癌化に適当であるような感じがする。また、1回だけの照射で癌化するのか、あるいは数回の分割照射で総量を増やすことが癌化に必要なのかの問題点を現在検討中である。 45:正常ヒト細胞の発癌の指標 現在指標として上げられるものは、
その中で役立つものは、 1)形態的変化、4)軟寒天内コロニー形成能、5)細胞密度、6)増殖に対する血清依存性、7)Agingのないこと、8)染色体の変化などであろう。移植性については検討中。 1)形態変化:(前述)。2)増殖率:(図を呈示)正常細胞も癌化細胞もそれほど著しい差はない。3)PE:癌化した細胞も、PEは低い。SUSM-1、10%以内、正常ヒト細胞も多くは10%以内である。4)軟寒天内コロニー形成性:対照細胞は0、4NQO→癌化した細胞は約0.1%。6)血清要求性:(図を呈示)1%血清添加培地でも癌化した細胞はよく増殖する。9)CAMPによる増殖阻害はない。
:質疑応答:[乾 ]ウワバイン耐性をみる時のエックスプレッションタイムはどの位ですか。[難波]4日です。 [乾 ]短かすぎませんか。 [松村]放射線の線質をいろいろ変えて実験できると面白いですね。 [難波]次に色々やってみたいと思っています。殊に中性子をかけてみたいですね。 [榊原]形態と染色体が変化した訳ですね。何となく勝田先生のなぎさと似ています。 [難波]Wi-38ではなぎさ変異は起こらないようです。 [勝田]軟寒天で培養するのは細胞にとって可成り酷な条件だと思いますよ。処理後しばらく普通に培養してから軟寒天へ移した方がよいのではありませんか。 [梅田]対照群の細胞も軟寒天内でコロニーを作っているということですか。 [難波]正常と思われる細胞でも顕微鏡的に数えられる程の大きさのコロニーは作ります。しかし100コ以上には増殖しないので肉眼的に見える程に大きくはならないようです。 [松村]WI-38についての問題はクローニングしていないので、変異が起こったのか、セレクトによるものか、はっきりしない点ですね。 [難波]しかし、1匹拾って増やしても50回分裂するともう使えなくなるのですから、こういう実験に使うのは困難ですね。 [松村]何とかしてクローニングした新しい実験系がほしいですね。 [難波]そうですね。 [松村]ウィルスによる変異の場合、痕跡は残っていますか。 [難波]SV40の場合はT抗原を調べてあります。C粒子はみられません。 [乾 ]母体に放射線をかけての経胎盤法では、変異細胞が出てくるのは500r位です。 [難波]培養内の場合、線量が多すぎても死んでしまって変異を起こしませんし、少なすぎても老化現象を促進するだけで変異を起こさないというデータがあります。 [高木]スライドで示された像では、変異した部位には分裂像が多いように見られたのに、変異系と元の系との増殖率を比べると差がないのは何故でしょうか。 [難波]スライドでお見せした変異を起こした部位は、周辺の細胞が老化しているので変異細胞の分裂が目立っています。しかし、まだ老化現象を起こしていない若い細胞と比べると、変異細胞の分裂頻度も増殖率も殆ど同じだということです。
《高木報告》
:質疑応答:[難波]リペアを抑えて、変異率が上がる方法があるとよいのですが。カフェインなどはどうですか。[高木]カフェインは役に立ちません。 [難波]低温例えば30℃位にするのはどうですか。 [高木]それも考えられますね。 [難波]合成阻害剤を薄い濃度でかけてみるのはどうでしょうか。 [梅田]細胞によって変異の仕方も随分異なりますね。その細胞によく合った組み合わせを探さなくてはなりませんね。 [難波]動物の系によっても異なります。 [勝田]同系のラッテ肝由来でも細胞系によって変異し易い系、し難い系があります。
《梅田報告》
:質疑応答:[難波]培地にコーチゾンを添加していますか。[梅田]入れてありません。 [難波]角化現象をみる時は入れた方がよいと思います。皮膚科の人の意見ですが、モルモットの耳を使うと人の皮膚を使った場合に近い実験ができるそうです。 [梅田]動物による違いがあるようですね。ラッテでは成功しなかったのですが、ムンチャクではきれいな上皮が出てきました。 [難波]動物によって上皮細胞の層の厚いものと薄いものがあるでしょうから、培養材料として採取するときにも差がつくのでしょう。 [乾 ]フィーダーに使う細胞は凍結したものでよいのですね。 [梅田]そうです。充分です。 [榊原]表皮だけとるのですか。それとも真皮までですか。 [梅田]真皮まで採ります。 [乾 ]フィーダーに使う細胞を凍結しておけるのは、とても実用的でいいですね。
《乾報告》我々は過去2年余にわたり、経胎盤in vivo-in vitro chemical carcinogenesis、mutagenesisの仕事をやって来た。現在迄同系は、芳香族炭化水素、アミン、N-ニトロソ化合物、アゾ色素等広範な化学物質に適用が可能である。但しこれら物質に同法を適応する為AF-2を除いて20mg/kgの投与が必要である。同量はある物質(例えばたばこタール)投与に際し、動物に急性毒性死をもたらす欠点を有している。今回同系の感度をたかめる為AF-2を使用して実験を行なった。 妊娠11日目のハムスターにPhenobarbital(Phb)40mg/kg腹腔内注射、24時間後AF-2(20〜200mg/kg)を同じく投与した(Phbは野村らにより妊娠母体に投与した時奇型誘起率を上げることが知られており、又ハムスターはPhb、Bpを投与した時薬剤代謝酵素の一種であるAHHは12時間目より上昇し始め24時間で最大になり30時間では減少する。岡本ら)。AF-2投与後24時間に胎児を摘出Dulbecco'sMEM+20%FCSで培養、24時間以内に染色体標本を作製した。対照には無処理、AF-2単独投与の母体より得た胎児を使用した。 200中期細胞核中の異常染色体を含む核板の出現頻度をまとめた(図表を呈示)。 AF-2 50、100、200mg/kg投与群でPhenobarbital前処理群でAF-2単独投与群に比して、染色体異常をもった核板の出現が高かった。100核板当りの異常染色体の出現頻度では、明らかにPhb前処理群で異常染色体の出現が増加した。Exchange型のみの出現では、Phb前処理群でExchangeの出現は同様高く表われた。以上の結果、Phb処理で染色体異常は明らかに増加するが、その増加率は2倍には達しない。“Enhancement”効果をさらに明らかにするために、今後指標をMutation、Morphological transformation等を使用していくとともに、前処理物質の検討を行う予定である。
:質疑応答:[乾 ]フェノバルビタールを使ったのは、ハムスターではシングルショットで代謝酵素の活性の上昇がみられるという唯一のデータがあったからですが、薬剤による代謝酵素の活性の上昇は、特異的にあるものだけが上がるのでしょうか。複数の活性がみな上がるのでしょうか。[永井]それは、色々な場合があるでしょうね。
《榊原報告》§Human ovarian cancer cell lineの異種移植Embryonal carcinoma cell lineに続いてovarian cancer cell lineのHamsterへの異種移植について報告する。関口先生よりヒトovarian cancer由来培養細胞株“Chikaraishi"cellをお預りし、golden hamster 2頭の左右頬袋、ならびに1頭の右頬袋に500万個cells/ch.p.の割合で移植を行ない、ATS処理を施しつつ、24日を経たのち頬袋を切除し、tumorの組織像を調べた。腫瘍形成は4/5に認められ、最大径は0.8cm、小さいながら反応や壊死の殆どない、良いtumorであった(写真を呈示)。serous cyst adenocarcinomaを想わせる特徴的な腺癌で、処々にcysticなlumenを形成し、内部にeosinophilieな物質を分泌す性質があるようだ。初代培養後6ケ月目という若い細胞株である故であろうか、構造分化はもとより、機能の面でもoriginの性格を保有している可能性が考えられる。 なお異種移植の成績を左右する要因の1つに植え込み細胞数がある。人癌細胞に関する限り、takeされなかった場合にinoculum sizeを大きくして再度試みると、必らず良い結果を得ているので、最近は初回から出来る限り大量、即ち1,000万個程度を植えるよう心がけている。
:質疑応答:[梅田]この方法で悪性度も判りますか。例えば増殖の早いものは悪性度も高いとか。[榊原]増殖率に違いはありますが、悪性度は組織像で判定しています。 [関口]ヌードマウスへの移植の場合でも、悪性度と増殖率には関係がないようです。 [高木]動物へ移植する時、細胞はよく洗うのですか。 [榊原]PBSなどに換える必要はありません。培地のままで濃縮して接種しています。
《久米川報告》マウス顎下腺の線状部には形態的、生化学的な性差が見られる。雄マウスでは思春期以後、線状部の細胞に電子密度の高い分泌顆粒が形成され、この顆粒内にはNGF、EGFといったものが含まれているようである。またマウスの顎下腺にはG-6-PDH活性にも性差がみられる。この顆粒の形成はandrogensの支配下にあることが、明らかにされているが、発生過程のマウスに5α-Dihydrotestosteroneを投与しても顆粒の形成は起らない。しかし、線条部はすでに生後4日頃形成されており、またandrogenのreceptorも線条部の形成と一致して存在している。5α-Dihydrotestosterone(DHT)の他に何かが関与しているのではないかと考え、生後20日前後血清中の濃度が上昇するホルモンThyroxine(Thy)、Insulin(In)、Hydrocortisone(Hy)をDHTとともに生後4日から投与した。(図を呈示)DHT投与群では線条部の径の拡大は起らないが、DHT+Thy+In+Hy投与群では径の拡大が早期にみられた。 次いでDHT以外のホルモンの内、何が顆粒の形成に関与しているか、色々組合せて投与した結果、Thyが関与していることが明らかとなった(表を呈示)。 顎下腺にはproteaseが産生されるが、この酵素にも性差がみられる。生後4月からDHT+Thy投与群では、正常雄マウスに比べ約10日早くprotease活性の上昇が起る。しかし、DHT又はThy単独投与群では活性の上昇はみられない。これらの結果から分泌顆粒の形成にはAndrogens以外にThyroxineが関与しているのではないかと考えられる。
:質疑応答:[難波]雄に誘導がかかるのですね。[久米川]そうです。サイロキシンを打つと出てきます。 [高木]インスリンは関係ないのですね。 [久米川]そうです。
《山田報告》前回に引続いてラット肝細胞のin vitroにおける細胞増殖とその表面荷電及びConcanavalinAに対する反応性を経日時にしらべてみました。今回はTumorigenicityのないRLC-21のclone株の一つであるRLC-21-C12株、Tumorigenicityは証明されるが、前回検索したRLC-18にくらべてTumorのbacktransplantabilityが低く、しかも腫瘤形成までの期間の長いRLC-19を検索しました。(RLC-19系における悪性細胞のpopulationはかなり少いと思われます) RLC-21-C12はその母細胞RLC-21と略々同様な変化を示し、その泳動度の高い状態はむしろ移植後1〜2日にあり、ConAに対する反応性も同一時期に昂進しました。しかしfull sheetになる6日目以後は急速にConAに対する反応性が低下しContact inhibitionの影響による表面の変化がこの系にも出現しているものと考えられました。 これに対しRLC-19はその増殖率もあまり高くならず、特にfull sheet後にはConAの反応性が急速に低下しむしろRLC-21と同様な変化を示しました。すなわちRLC-19は悪性細胞のpopulation densityが低いために反応性、非悪性の型を示したものと解釈しました。 移植初期の一過性の表面荷電の変化とfull sheetにまで増殖した後の表面の変化を分けて更に分析したいと考えています。(図を呈示) |