【勝田班月報:7703:ラッテ肝上皮細胞株の動態】《勝田報告》§ラッテ肝由来上皮細胞株の動態1962年から1976年までの14年間に、我々の樹立したラッテ肝由来の上皮細胞株は、原株だけで29株に達した。これらの細胞株については殊にその機能について多くの問題が残されているが、今日は最近樹立した数株の動態を紹介する。(顕微鏡映画を供覧) 使用した細胞はRLC-15(4カ月)、-16(1年2ケ月)、-18(2年1カ月)、-19(6カ月)、-20(1年)、-23(1カ月)、()内はそれぞれ映画撮影時の培養日数である。顕微鏡倍率は10x10、撮影速度は1コマ2分(RLC-19のみは10x20、2コマ1分)。 映画で観察すると、同じ上皮様形態の細胞であっても、異なった特徴や動態をもっていることが判る。例えばRLC-16は核の周りに密集した顆粒をもっている。又細胞間の結合はやや弱い。RLC-18は多極分裂が多い。
:質疑応答:[吉田]株化の定義は・・・。又どの時点から株化したか判りますか。[高岡]誰が培養しても、安定して永久に試験管内で継代が続けられる細胞系が株細胞だと思っています。ラッテ肝由来の株については株化の時期ははっきりしません。培養1ケ月位の頃、上皮細胞の増殖がみられる系の殆どは株化するようです。 [山田]RLC-16は電顕的にみても、細胞間の結合が弱いですね。 [吉田]RLC-18は異常分裂が多いが、異常分裂した細胞が生存してゆくとは考えられませんね。ステム細胞があるのでしょう。 [梅田]映画では2核細胞は次の分裂をしませんでしたね。それから、分裂前に核が廻るものと廻らないものとがありました。 [遠藤]分裂前に核が廻るのは何故ですか。 [勝田]私のもっている仮説として、分裂前に核は細胞質との縁を切るために廻るのではないかと考えています。それで核膜は2重になっているのではないかと・・・。 [梅田]核の内容物を放出しているという説もありますね。 [遠藤]しかし、あれだけぐるぐる廻るには相当のエネルギーが要るでしょうね。そして細胞としては、それだけのエネルギー放出しても核が廻らねばならない必要性があるということになりますね。
《難波報告》41:RLC-18(ラット肝細胞)のグリコーゲン合成
:質疑応答:[吉田]ヒト由来の正常細胞で株化したものは、本当にありますか。[難波]無いはずです。今までに株化したと報告された系の殆どは、HeLaのコンタミネーションという事のようです。 [榊原]今呈示されたヒト細胞復元組織像は、線維肉腫と断定できないでしょうね。 [吉田]ヒトの細胞だけが株化しないのは何故でしょうか。 [難波]何故でしょうね。私も動物細胞しか扱っていなかった頃は、ヒト細胞の老化現象など半信半疑でしたが、自分でヒト細胞を培養してみると矢張り株化できないのです。 [高木]ラッテの細胞では、4NQOの摂り込み量や毒性は処理時の細胞数に影響されるようですが、ヒトの細胞でも同じですか。 [難波]ヒトでも同じです。 [松村]化学発癌に使う細胞は、クローンを使うように出来ませんか。 [難波]クローンを使いたいのは山々ですが、1匹拾ってもそれが実験に使えるまでに増やそうとすると、人細胞ではもう老化現象が起きてしまします。 [松村]寿命がつきかかった細胞の変異については、ウィルスによる変異の場合も分裂能力を残している時期でなければ起こらないようです。
《梅田報告》
:質疑応答:[吉田]この場合の対照群はどういうものですか。[梅田]DMNを添加していないものです。 [難波]染色体レベルの変化で癌化へと進むものは何でしょうか。 [吉田]Exchangeでしょうね。 [難波]Exchangeはヒトの細胞ではなかなか見られませんね。 [吉田]分裂を2度繰り返すと出てきますよ。 [難波]すると24時間培養して染色体標本にするのは短かすぎますね。 [松村]梅田さんの実験では同じヒトからの細胞を使っていますか。 [梅田]今のところ、意識して二人のヒトのを使っています。もう少しはっきりしたら、もっと多くの人の細胞で調べたいと思っています。 [難波]本当にヒトは個体差が大きいですね。 [山田]細胞電気泳動度からみても個体差が大きいです。ヒトの材料での基礎実験は難しいですね。
《山田報告》今回はCytochalasinBをin vitroで作用させた(1.0μg/ml、0.5μg/ml)後、1日目及び6日目に細胞(JTC-16)を採取し、二回洗滌後各濃度のConAを接触させた後の変化を検索しました。2日目(多核細胞の出現し始める状態)にConAを加へると、ConA 1μg/ml濃度によって、その荷電密度が上昇し、6日目(多核細胞が多数出現した状態)では2μg/ml濃度での著明な荷電密度の上昇がみられました(図を呈示)。この成績より、in vitroでCBを加えることにより細胞(JTC-16)の平均荷電密度が下降しますが、その状態でConAに対する反応性が昂進すると理解しました。しかし完全に多核化した大型細胞よりも、多核が生ずる前段階でその様な変化が起ると考えられます。何故ならば、ConAによって荷電密度が増加する現象は、各サンプルの比較的小型の細胞により著明に認められるからです。
:質疑応答:[梅田]大きい細胞は重いはずですが、電気泳動度には影響しませんか。[山田]電気泳動度は荷電密度の問題なので、或る物理的条件下では重さの違いは殆ど問題になりません。 [遠藤]サイトカラシンB処理で染色体はポリプロイディになりませんか。 [山田]多核にはなっていますが、染色体のプロイディは判りません。
[吉田]それも考えています。トレランスにするとどうかなどと・・・。 [関口]着床の段階でも差が出ているのは何故でしょうか。 [吉田]判りません。
《乾報告》先月の月報で報告致しましたZupaia belangeisの細胞の性格について報告します。昨暮12月9日出生後死亡した新生児(2匹)の肺、肝、心、脾、皮膚の細胞をトリプシナイズ後培養にうつした。 前記動物は、Primateのうち一番下等で、体長20cm、成熟迄の期間は6ケ月で、実験動物として飼育しやすい最下等の猿(原猿類)である。しかも特色として、Isoemzyme pattern、Virus感染のSpectrumが極めて人間に近い。当班では難波先生が研究をつづけられているが、衆知の如くケッシ類の細胞に比して人間の細胞は極めて癌化しにくい。 我々は人間細胞の癌化を解析する手始めとしてZupaiaの細胞の培養にとりかかったが、現在、肺(10代)、心、腎(8代)、脾、皮フ(6〜7代)でFibroblasticな細胞が増殖している。これらFibroblasticな細胞のContact inhibitionはきはめてよくかかるが、培養後63日目いづれも増殖はいい。 腎細胞には現在、FibroblasticとEpithelial likeの二種の細胞をカップ法、高しんとう圧で分離した。 細胞の性質として肺起原細胞で現在わかっていることは、1)Colchicine感受性がハムスター(0.3μg/ml)に比してきわめて高い(0.02μg/ml)。2)8AZ耐性がハムスター、人間(20μg/ml)に比して極めて高い(100μg/ml以上、マウスと同等)。3)ウワバイン耐性は非常に低く人間と同じ(Zupaia、人間・1x10-6乗M、ケッシ類 3x10-6乗M)。4)肺起原細胞のDoubling timeは27時間である。 現在薬物代謝能力等を、人間、ハムスター、マウス起原細胞と比較している。 これらが、難波先生のしらべられた人間型であったなら、transformationの実験に入る計画である。
:質疑応答:[難波]ウワバインはヒトの線維芽細胞だと10-6乗Mで死にます。[乾 ]ツパイアは10-5乗M 3日で死にます。ハムスターだと1x10-3Mです。 [梅田]接触阻害はどうですか。 [乾 ]強くかかっている系です。
《高木報告》ヒト胎児細胞の変異に関する研究ヒト胎児細胞を用いた変異の実験をする場合、まずその実験系に適した細胞を用いねばならない。ヒト胎児の種々の組織を培養して、あきらかにcolonyを形成し、またplating efficiencyの比較的高い細胞を撰別する努力をしている。2〜3の細胞を供覧する。 一方先報の如くRFLC-5細胞のcloneであるRFLC-5/2を用いて、mutagenであるが未だ癌源性のみとめられていないEMS、最もつよいcarcinogenとして知られているがmutagenicityの低い4NQOおよび、つよいmutagenでありまたcarcinogenでもあるMNNGによる実験を試みている。 まずRFLC-5/2細胞に対するEMS、4NQO、MNNGのcytotoxicityをみるために細胞を100コ/60mm Petri dishに植込み、2時間後に上記薬剤の各種を培地にとかして作用させ、洗って後7日間培養してcolony数を算定した。37%survivalを示すmean lethal dose(Do)はEMSでは2時間の作用で1.1x10-2乗M、3日間で1.6x10-3乗M、7日間で6x10-6乗Mであった。またMNNGでは2時間で4x10-6乗Mであったが、4NQOは0.05μg/mlでも本実験条件ではcolonyの形成はみられず、さらにこれ以下の濃度で検討中である。 これらの薬剤を作用させ、6TG耐性株の出現をみるべく計画して実験をすすめている(実験計画図を呈示)。EMS 10-2乗M、MNNG 6.8x10-6乗Mについて行った実験では目下selection mediumに入れ8日目であるが、明らかなcolonyの形成はみられていない。 ヒトinsulinomaの培養 3x2cm大のinsulinomaの培養を試みた。組織を細切しcollagenase 20mg/10ml CMF液で15分間magnetic stirrerを用いて処理し、2回目以後はtrypsilin(持田)200HUM液で15分ずつ数回処理して細胞を集めた。集めた細胞は35mm Petri dish 4枚にF-12とD-MEM培地に20%FCSを加えた培養液で植込んだ。F-12培地を用いた場合、細胞はsheetを形成したが約4週間で器壁から脱落しはじめた。D-MEMでは細胞は塊まってなかばsheetを形成したような状態で培養されたが、53日目にDispase処理してCarrel瓶1本に継代、現在sheetにならず集塊のままで培養がつづけられている。 培養液中に4日間に分泌されたinsulin量は、培養3週目までは15mu/mlであった。
:質疑応答:[乾 ]経験の少ない細胞の場合は、薬剤の処理濃度と細胞のまき込み数についてもう少し検討した方がよいと思います。[難波]株化した古い細胞で実験にselection mediumを使う時は、細胞にマイコプラスマが感染していて結果が違ってくることがあります。
《榊原報告》BCcell cultureから抽出される酸性ムコ多糖について、酵素消化試験を行った結果、これまでHeparansulfateと考えていたものは、実はHyaluronic acidらしいことが判った。Heparan sulfate(HS)と推定した根拠は電気泳動所見である(図を呈示)。0.1M酢酸バリュームを用いた場合のものである。ところが、0.2M酢酸カルシュームで泳動させてみると、泳動度の遅いbandはHyaluronic acid(HA)と同じ位置にあり、HSとは明らかに異る。若しHAであればこのbandはchondroitinaseABC、testicular hyaluronidase、streptomyces hyaluronidaseのいづれによっても消化される筈であり、HSであればいづれの酵素によっても消化されてはならない。そこで先づchondroitinaseABCでsampleを消化した上泳動させてみたところ(図を呈示)、bandは2本とも全く消失した。このことは、2本のbandに相当する物質がHyaluronic acid、dermatan sulfate、chondroitin sulfate a or cのうちのいづれかであることを意味する。さらにtesticular hyaluronidaseで消化したところ、dermatan sulfateのbandは残ったがHSと考えたbandは消失した。このことは消えたbandがhyaluronic acidか、あるいはchondroitin sulfate a or cであることを物語るが、後者である可能性は電気泳動図からみてあり得ないであろう。streptmyces hyaluronidaseによる消化試験によって、この問題も解決する筈であり、目下準備を進めている。電気泳動図のdensitometryを行った結果、単位乾燥重量当りのムコ多糖の経時変化を半定量的に表わすことができた(図を呈示)。Hydroxyprolineの変化と極めてよく似たパターンを示している。
:質疑応答:[遠藤]カルシウム・アセテートで流した方の図では、同定されたバンド以外にもう1本あるようですね。[梅田]デルマタン硫酸の増え方は肝硬変と同じ位ですか。 [榊原]増え方というより、正常肝には殆どありません。 [遠藤]ブレオマイシンは肺のセンイ化の促進剤として知られていますから、in vitroでも添加してみると面白いでしょう。
[遠藤]それは考えなくてはならないと思っています。ですから試験管の中でも、物を食べたあとのpHが上昇した状態に似た条件も加えたという訳です。 [山田]母地になっている状態についても考える必要がありますね。胃癌については実際に出来てくる時の情況と実験的に作る時の情況にずれがあるように思います。 [遠藤]たしかに母地の問題は重要ですね。
《常盤・佐藤報告》DABが培養細胞内高分子と、どの程度、どの様に結合するかは興味ある所である。本報告は、タンパク質との結合に限定して、いわゆるprotein-bound dyeを種々の培養細胞について求めたものである。方法はアゾ色素を含む培地で2〜3日間培養した細胞を(TD40瓶数十本)、ホモゲナイズし、TCAで沈殿させ、エタノール・エーテルで沈殿を洗浄し、ついでこれを1〜2mlのギ酸に溶かし、可視部の吸収スペクトルを求め、タンパク結合色素量を測定した。
|