【勝田班月報:7711:肝臓の還流後の培養について】《許報告・勝田報告に代えて》純系ラッテ(JAR-2)の腺胃から、植片法ないし酵素消化法により上皮様細胞株を樹立した(表を呈示)。間葉系由来細胞の除去は、trypsinによるselective digestion、rubber policemanによる機械的除去、コロニーレベルでの分離の3つの方法を併用して行なった。それらの細胞は典型的な敷石状配列をとって増殖を続け、最長2年4ケ月、最短9ケ月培養内で維持されている。染色体数は、培養1年以内ではdiploidにモードを持つことが多いが、その後は次第にhypodiploidやhyperdiploidに移行してゆく。population doubling timeは20数時間から50時間まで様々で、培養期間と増殖速度には一定した関係がみられない。 培養の比較的初期、2〜3ケ月頃に上皮様細胞のmonolayerが集団的に死滅し、一方同一培養器内の他の部分の上皮様細胞や間葉系細胞は健全で増殖を続けるという現象がみられた。私達の部屋で長期間、多種類の細胞を培養してきた経験では、こうした特徴的な死にかたは上皮細胞にのみ見られるということである。東北大の橋本先生が膀胱癌上皮の培養中に記載した“contact death"も類似の現象だと思われる。いずれにしても上皮細胞のひとつの特性といえるかも知れない。 RGS-8細胞は、継代をしないで数週間培地交新のみを行なっているとhemicystを形成する。RGS-2、RGS-4A、RGS-5の各細胞も数は少なく、形成に長時間かかるが、やはりhemicyst形成能を持つ。顕微鏡映画で観察すると、hemicystは単層の上皮様細胞で被われ、形成されて数日で内容物を徐々に放出して退縮してゆくようであった。hemicyst形成には細胞層と培養器面との間に何らかの物質を分泌ないし輸送する能力を持ち、同時に内圧に抵抗するに充分な細胞間の密接な結合が必要で、それはそのまま上皮細胞の特徴と言えよう。文献的にもhemicyst形成は、上皮細胞か、その悪性化したものである癌種に由来する細胞に限ってみられるようである。RGS-8細胞のhemicyst形成に対するdibutyryl cyclic AMP(But2cAMP)とtheophillineの影響をみた(表を呈示)。結果は、細胞密度はcontrolと大差ないにもかかわらず、But2cAMPないしtheophillineによってhemicyst形成が著明に促進された。促進の機序は不明だが、細胞内で種々の機能の統御に重要な役割を果たしているcyclicAMPによってhemicyst形成が促進されるということは、hemicystが細胞の変性過程等でたまたま形成されるといったものではなく、積極的な機能の反映であることを示唆している。 以上に述べた事実から、私達のとった上皮様細胞株は、実際に腺胃の粘膜上皮に由来した可能性が強いと考える。 RGS-3、BRGS-6細胞では上皮様細胞の上に嗜銀性の線維形成がみられ、その線維はcollagenaseですみやかに消化される。これらの細胞はsingle cell cloningを行っていないので、上皮様細胞自身が線維を産生するのか、混入している間葉系細胞が可溶性の状態で培地中に放出しそれが上皮様細胞中で不溶化され線維としてみえるようになるのかは現在のところ不明である。single cell cloningにより9系のクローンをとって現在検討中である。 当初の目的に従って、これら腺胃由来の細胞を化学発癌剤で処理して経過を追っているが、現在のところ腫瘍性を獲得するに至らず、培養内の性質にも大きな変化はみられない。今後方法に改良を加えて、培養内での悪性化の指標の問題、培養内での細胞の性質と動物に移植した時の組織像との関連性等を追求してゆきたい。
:質疑応答:[乾 ]映画で観察すると判ると思うのですが、ヘミシストは同じ場所で膨れたり潰れたりするのでしょうか。[許 ]現在まだはっきりした証拠をつかんではいないのですが、同じ場所に出来るとは決まっていないようです。 [乾 ]ヘミシストを形成するのは特種な細胞ですか。 [許 ]特殊な細胞ではないようです。 [梅田]ヘミシストを形成している細胞の形態はいわゆる上皮性ですね。ヘミシストを作るから胃由来上皮という説明になりますか。 [許 ]今までの報告ではヘミシストを形成する細胞は上皮性の細胞だと言われています。しかし胃由来以外に腎由来、肝臓由来、乳腺由来でもヘミシストを作る細胞系があることが知られています。 [榊原]ヘミシストを形成する細胞が上皮細胞だという事の根拠をもっとはっきりさせた方が良いですね。 [山田]胃由来の細胞だという同定がもう少しあるといいですね。ムチンの産生はどうか、アルシアン・ブルーで染まりますか。 [許 ]今まで色々と調べて来ましたが、よい結果が得られていません。 [難波]ヘミシストの部分を電顕で観察したことがありますか。 [許 ]是非みたいのですが、まだです。 [難波]プラスチックシャーレならシャーレごと垂直に切ってみると、ヘミシストを形成している細胞の特性が判ると思います。 [許 ]そうですね。
《難波報告》52:Chinese hamsterの胎児肝より樹立された肝細胞に対するインシュリンの効果MEM+10%FCS+4.2x10-6乗M dexamethasonの培地中にインシュリン(Sigma)を0.01〜1U/ml加え、肝細胞のplating efficiencyに対する効果を検討した。 (表を呈示)Insulinは肝細胞のPEを高めなかった。Dexamethasonを含まぬ培地を使用してインシュリンの効果を調べれば、インシュリンはある程度の効果があるのかも知れないが、しかし、DexamethasoneのPEに対する効果をインシュリンが一層増強するようなことはなかった。
:質疑応答:[乾 ]ハムスター肝の初代培養はどういう方法を使いましたか。[難波]トリプシンで撹拌して組織を分散するという、ごく当たり前の方法です。 [梅田]発癌剤はBPとBMBAですね。 [乾 ]チャイニーズ・ハムスターで4倍体のクロンは初めてですね。 [難波]その点は面白いことだと思いますが、染色体分析が大変です。 [佐藤]クローニングをして、他のコロニーと比べてサイズの大きなものを拾うと4倍体だったということがありますね。 [難波]大きなコロニーの方が拾い易いので、つい大きなコロニーを拾いましたが、今度は小さいのを拾ってみます。 [加藤]肝由来だということと4倍体になったこととに関係がありますか。 [難波]それはまだ判りません。 [乾 ]チャイニーズ・ハムスターの細胞は染色体が変異すると元へ戻そうとする働きがあるので、マウスやラッテに比べるとかなり安定して2倍体を維持出来るのだという報告もありますね。 [佐藤]次はヒトの細胞の変異についてですが、化学発癌剤や放射線を使った場合の変異はSV40で変異させた場合のものと同じですか。 [難波]殆ど共通しています。染色体が変異すること、形態が上皮性になることなどです。異なる点はウィルスゲノムが入っているかいないかという事ですから、そこは調べてみるつもりです。 [佐藤]SV40で変異させると細胞の増殖率は上がりますか。 [松村]始めに増殖促進があり、しばらくして増殖が止まります。それから変異細胞が出て増え出すという経過です。 [乾 ]染色体が変異するということは同じでも、癌ウィルスによる染色体変化、化学物質による変化、放射線による変化、それぞれ染色体個々の変異の仕方が違うのではないでしょうか。 [難波]ウィルスとは比較していませんが、4NQOとコバルト照射では変異の度合いが違います。コバルト照射の方が激しいようです。ただ、それは一次的なものを調べていますから、それらの変異がどれだけあとに残るのかは判っていません。
《梅田報告》
:質疑応答:[乾 ]株化していない細胞系を使う時、継代6〜7代位で薬剤感受性ががらりと変わってしまう事があります。その辺のデータがはっきりしていると、スクリーニングに使うのに助かりますね。[梅田]クローニングをしたら感受性が、がたっと落ちてしまったというデータを出した事もあります。感受性のある細胞を拾いたくても指標がないので困ります。 [難波]材料は全胎児ですか。 [梅田]そうです。そこに問題があります。いずれは特定の臓器から系を作りたいと考えています。
《乾報告》亜硝酸ソーダ(NaNO2)のハムスター胎児細胞に対する経胎盤効果(総括)衆知の如く、NO2はバクテリヤ、カビ、ショウジョウバエ幼虫等に強い突然変異効果をもち、組織培養細胞に染色体異常、Malignant Transformationを誘起する。 しかし、動物に対する急性毒性がきわめて強く(2mg/マウスLD50)、動物実験によっての発癌性は証明されていないのみか、動物体に対するBiological effectの知識もきわめてとぼしい現況である。今本報は従来より報告しているIn vivo-in vitro combination Chemical Carcinogenesis(Mutagenesis)の系を使用し、Nucleus Test、Chromosome Aberratin、8AGr、Ouar-mutation、Morphological Transformationを観察したので報告する。 方法は数回にわたって報告したので、省略するが、NaNO2(500、250、125mg/kg)、NaNO3(500mg/kg)、Nitrosomorpholine(N-Mo)、DMNを11、12日目に妊娠ハムスター母体に投与しえた胎児を使用した。 (表を呈示)胎児細胞における、染色体異常の出現はNaNO2の投与により染色体異常の著明な増加をみなかった。但し、N-Mo 200mg/kg投与群のみに、Isochromatied aberration を含む染色体異常がみられた。 (表を呈示)薬品投与後、少なくても1回の細胞分裂を終了した静止核細胞において、著明な小核が出現した。現在これらの小核は、染色体切断によってとりのこされた染色体小片が、分裂終期→静止期(G1)にいたる過程で、小核化するか、又は染色体或はDNA自身の障害には関係なく、紡錘絲に対する障害の結果のどちらかを反映している細胞障害と考えられている。 (図表を呈示)8AGr-mutationの出現頻度をまとめると、8AGrコロニーの出現は、NaNO2 125mg/kg投与では3.3倍、250mg/kg投与では4.3倍、500mg/kg投与では10.4倍と増加しているが、NaNO3投与では8AGrコロニーは増加しなかった。又正の対照に使用したN-Mo、DMN投与では明らかな8AGrコロニーの増加(3.9〜16,9倍)がみられた。(図を呈示)NaNO2投与群における8AGrコロニーは、NaNO2の投与濃度に依存して増加した。 (表を呈示)Ouabain r(Ouar)耐性の出現は8AGrコロニーと同様に投与濃度に依存して、著明な耐性コロニーの増加が観察された。(表を呈示)NaNO2投与母体より得た胎児細胞のMorphological transformationの結果は、NaNO2 500mg/kg投与群でtransformedコロニーの出現は約15倍増加した。N-Mo 100mg投与では約4.5倍、NoNO3投与ではtransformedコロニーの増加はみられなかった。 (表を呈示)NaNO2 500mg/kg投与におけるハムスター胃中に成生されたN-nitrosamineの成生量は、ハムスター1頭当りの全nitrosamineとして約0.5mgである。200mg/kgのDMN投与での一頭平均DMNは最大1.02mgである。 8AGrコロニーの出現はNaNO2 500mg/kgで約10倍、DMN投与のそれは16倍であった。故にNaNO2直接投与による8AGrコロニー、その他のBiological effectは、成生されるNitrosamineによる部分もあることは否定出来ないがNaNO2それ自身のそれによるところが多いと結論される。
:質疑応答:[山田]小核というのは脱核は起こらないで壊れた核が残っているということですか。[乾 ]そうです。 [難波]どんな風に見えますか。 [乾 ]エリスロサイトでは細胞質にフォイルゲン陽性に染まります。 [難波]フォイルゲン染色の場合、加水分解はどの位ですか。 [乾 ]1N塩酸で60℃、7分やっています。DNAに関係のある物質のチェックとしては敏感ですが、ひっかかった物が何かまでは明言できません。
《山田報告》昨年末培養ラット肝細胞の電顕的形態について検討して来ましたが、種々の細胞の変化のうちで、細胞質内グリコーゲン顆粒が培養細胞では、はっきり認められず、その理由がわかりませんでした。そこで新たに同一のラット肝細胞を用いて培養開始してから何時までグリコーゲン顆粒(特に星状凝集)が残っているかを検索しました(写真を呈示)。JAR-2ラットの肝臓の一部をそのままスライスしてまず電顕的に観察し、次にdispaseII 0.25% 15分x3処理して細胞間を分離した後に、それをF-12+10%FCSに入れて培養した後に経時的にその変化を電顕的に観察しました。ところが、dispaseで処理しただけでもグリコーゲン顆粒は一般に減少し、培養29日目には全くグリコーゲンの星状凝集が見られなくなりました。その他の変化は以下の通りです。 生体内ラット肝細胞は、細胞形は多角形、細胞結合は密であらゆる部分が滑らかに接し、核は円又は楕円形、Mit.は円または楕円形で数多く粒子をもち、グリコーゲンは豊富で細胞Matrixにaggregateし、Microbodyは細胞内に数個。 dispaseにより分離した肝細胞は、細胞形は円又は楕円形、細胞結合は疎で二〜三ケ所で接し、核は円又は楕円形、Mit.は円又は楕円形で粒子を持ち、グリコーゲンは数が減少し細胞Matrixにaggregateし、Microbodyは細胞内に数個でやや大きく、その他の所見として細胞内に空胞が出現。 29日間培養した肝細胞は、細胞形は不定形、細胞結合は疎でMvを隔てて接し、核は不定形、Mit.は細長く数は減少し粒子を持たず、グリコーゲンはaggregateが全く無し、MicrobodyはMit.と区別不能で、その他の所見は細胞内に空胞が多い。
:質疑応答:[難波]私の経験ですが、RLC-18株では培地を更新してから24時間以上おくとグリコーゲンが無くなってしまうようです。[山田]電顕像でみる星状のものが無くなるのですか。 [難波]定量値としてのグリコーゲンが無くなります。
《関口報告》人癌細胞の培養 4.卵巣癌由来CKS株の樹立卵巣癌由来株としては、国外に4株、国内に3株あり、本例は8番目に当る。(臨床経過の概略の表を呈示) 腹水中の細胞(写真を呈示)を集め、DM-160+20%FCS、又は20%ヒト臍帯血清を加え、45mmガラス・シャーレを用いて、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。FCS使用の培養では、Fibroblastのovergrowthによって上皮性コロニーは消失した。ヒト臍帯血清使用の培養では、ガラス面に付着増殖する上皮性コロニーがえられた(写真を呈示)。ハメ絵様、あるいは小型紡錘形の細胞の集合よりなる。 染色体数はhypodiploidで、44本にモードがある(図を呈示)。 ALS処置ハムスターノ頬袋内移植では腫瘤を形成し、その組織像は繊細な間質で囲まれた大小の小葉形成と、それに伴って一列に配列して増殖する腫瘍細胞で、一部は甲状腺濾胞様構造の分泌もみられる、serous cystadenocarcinomaである(写真を呈示)。
:質疑応答:[難波]川崎医大でも卵巣癌から2系、株化しています。[乾 ]牛胎児血清とヒト臍帯血清とはどう違うのですか。 [関口]ヒト臍帯血清を使うと線維芽細胞の増殖が少し抑えられます。染色体のバラツキは牛胎児血清で樹立した系の方が少ないようです。免疫実験に使うにはヒト血清を使いたいという訳です。 [榊原]培養初期の方が復元して出来る腫瘤の分化程度がよいようですね。
《榊原報告》§蛍光抗体法によるcollagenの同定(続):ラット酸可溶性コラーゲンに対する家兎R血清を前号で報告した方法に基いて作成し、蛍光抗体間接法にてラット肝由来培養細胞及びハムスターの各種臓器を染色すると鍍銀染色で陽性に染まる構造が凡て特異蛍光を発する。(写真を呈示)岡大で樹立された肝細胞株RLN36を染めると、蛍光陽性の線維状構造物が細胞を結節状にとり囲んでいる。(写真を呈示)ハムスター腎組織をホルマリン固定・鍍銀染色すると、黒染したコラーゲンが間質を埋めている。同一の腎組織を蛍光抗体で染めると(写真を呈示)、鍍銀染色と同様に間質が蛍光陽性を示している。糸球体メサンジウムも同様に光り、又肝ではグリッソン鞘、中心静脈周囲、及び肝細胞索にそって蛍光が認められた。この抗血清をヒトcollagen、ヒト肝アセトン粉末で吸収し再び蛍光抗体法を試みたところ、結果は吸収前と殆ど変わらなかった。
:質疑応答:[佐藤]ハムスターとラッテのコラーゲンは抗原性がクロスするということですね。[榊原]そうです。 [佐藤]そしてヒトとはクロスしないのですね。 [榊原]そうです。 [山田]材料に使う人由来の癌の培養株に線維芽細胞が混入していませんか。 [榊原]本実験に入る前にクローニングします。
《佐藤報告》肝臓の還流後の培養について
:質疑応答:[佐藤]培養前の細胞周辺にコラーゲンがあるようですね。興味深い事だと思います。[山田]コラゲネースを作用させて細胞をバラバラにした場合、一見細胞障害もなくきれいにバラバラになりますが、細胞は大変壊れ易くなっています。 [梅田]パパインなどは使えるでしょうか。 [佐藤]やってみていません。還流には流速、温度、pHに気をつけねばなりません。 [高岡]2年前に野瀬さんが報告した事からみて、方法としてはあまり進歩したことが無いのですね。還流法が一般化したのが進歩でしょうか。 [久米川]増殖する細胞と元の細胞と大きさは同じですか。 [佐藤]大きさも形も違います。 [野瀬]低速遠沈で分劃すると小型の方が増殖する細胞が多いです。 [乾 ]肝には単核でもDNA量からみて4倍体の細胞があって、それらは分裂しません。小さいのは2倍体、大きいのは4倍体細胞かも知れませんね。 |