【勝田班月報:7712:試験管内化学発癌実験まとめ】

《勝田報告》

 §試験管内化学発癌実験のまとめ−ラッテ肝細胞について−

 勝田班の歴史は、1959年、申請メンバーの中の3人だけが放射線班に拾われた時から始まる。1960年には釜洞班を折半して一年を過ごし、1961年はじめて独立した勝田班として発足した。爾来、16年間活動を続けてきたことになる。

 (表を呈示)大まかな実験経過をまとめてみたが、1960年には生後2〜4カ月の成ラッテの肝を摘出し、廻転培養法、又は廻転培養法→同型培養法を用いて2週間以上、良好な培養状態を保つことができた。この細胞系は増殖しない。

 次いでこの系にDABを添加することによって増殖の誘導に成功した。DAB添加で増殖を誘導された細胞は何れも上皮様形態で染色体数は2倍体であった。又その増殖性は維持されて17系が株化した。しかし同系のラッテへの復元はすべてネガティブであった。

 そこで更に第二次の刺戟を加えた。DAB処理の反復、サリドマイドの添加などでは形態的変化、染色体変異などが認められたが、ラッテを腫瘍死させ得る細胞系は得られなかった。

 1964年には偶然に“なぎさ”現象を発見した。この場合は発癌剤も添加せず特別な処理もしない。平型試験管をやや傾斜させ静置培養する。1カ月以上の間、培地は更新するが継代はしないで培養を続けると、培地のなぎさ部位に細胞の異型性、異常分裂が数多く出現する。やがて正常な上皮細胞の細胞シートの上に接触阻害を失った増殖の速い細胞集団が現れ、急速に増殖を続けて培養内の正常な形態をもつ細胞集団を完全に駆逐してしまう。こういう経過をたどって5系のなぎさ変異細胞株が樹立された。これらの系は相互の間には染色体数の違い、イノシトール要求性の違い、形態的な違いなどあるが、染色体は2倍体から大きく変異すること、形態的には所謂病理学的にみて悪性細胞の様相をしめすこと、培地から血清を除いても増殖は維持され合成培地継代株となること、など共通した特徴をもっている。これらの細胞もラッテに腫瘍を作らなかった。

 そこで、なぎさ培養にDABを添加して長期間培養を継続した結果、DABに耐性をもち、又DABの代謝能力に差のある変異株30種が得られた。しかしラッテに腫瘍を作る細胞は得られなかった。

 1965年からは、4NQOによる悪性化の実験にとりかかった。この実験にはラッテ正常肝由来、上皮形態、染色体正2倍体の株細胞を用いた(RLC-10)。結果は4NQO 3.3x10-6乗M 30分 1回の処理で細胞が悪性化することがわかった。今度こそ同系のラッテ腹腔内で増殖して宿主を腫瘍死させ得る細胞へと変異したのである。そこで悪性化の過程における細胞電気泳動度の変動、染色体数、染色体核型の分析、4NQOに対する耐性など、悪性化の機構解析につとめた。しかし、やがて何の処理も加えていない対照群の細胞もラッテに腫瘍を作るようになった。

 それからの数年間は、試験管内における悪性化の指標について検討をつづけた。従来、悪性化の指標として調べられている事項を表で呈示する(Morphology: Growth Rate: Interaction with Normal Cells: Resistance to the Carcinogen: Adhesiveness betwee Cells: Concanavalin A: Cytoelectrophoretic Mobility: Growth in Soft Agar Medium: Backtransplantability)。これらの指標は一部の細胞系については、その細胞の腫瘍性と平行するが、なぎさ変異株のように、これら殆どの指標について悪性細胞の様相を示しながら、宿主のラッテに腫瘍を作らない細胞がある。復元実験にも問題がある。宿主のラッテには腫瘍を作らないが、異種のハムスター・チークポーチに腫瘤を作る細胞系がある。

 1974年には、培養開始から3週間後にDENを添加した。濃度は50μg/ml、100μg/mlで1週間処理した。この系では継代約半年後に実験群の染色体に変異が認められ、1年後には同系ラッテの皮下に腫瘤を形成した。対照群の細胞は腫瘤を作らなかった。しかし、培養2年近くから染色体数が乱れ始め、何れは対照群も自然悪性化の道を辿るであろう。この研究を始めて17年、依然として自然悪性化の問題は解決されていないのである。



 

:質疑応答:

[乾 ]復元の問題ですが、前処置をして復元してみたことがありますか。

[高岡]コーチゾン投与とか肝切除とかやってみました。皆takeされませんでした。

[乾 ]亜株の性質はそれぞれ異なりますか。或いは同じですか。

[佐藤]動物にDABを食わせた場合に、一匹のラッテの肝にも形態的に異なる幾つかの腫瘤ができる事があります。培養内の亜株も、色々違ったものが出来て当たり前でしょう。それから、DABの耐性で、DABを代謝するものと代謝しないものとの、どちらが本当の耐性でしょうか。

[遠藤]どちらも耐性と言えるでしょう。代謝する方は酵素の問題でしょうが、長期間たつと消失することが多いので、今でもまだ代謝能があるかどうか調べてみると面白いですね。代謝しない方は薬剤を取り込まない方向へ膜が変わったと言えるでしょうか。

[吉田]膜だけの変化でも遺伝的変化と言えます。

[堀川]薬剤の処理は1回でよいのか、数回処理が必要か、どうでしょう。

[高岡]薬剤の作用の仕方とか、安定性の問題とか、使う細胞系とかで、それぞれ異なりますから多くの予備実験をして決めています。

[乾 ]耐性と染色体の関係の結論はどうなったのですか。

[吉田]系によって異なります。耐性を獲得することと平行する染色体変異もあります。

[堀川]試験管内の変異は、遺伝的に安定しているものと不安定なものとありますね。

[勝田]今まで培養細胞を使ってきて、今思うことは、もっと発生学を勉強する必要があることです。1コの細胞が分化して個体を作るのは面白いことですね。

[堀川]細胞生物学はそこへ立ち戻るべきですね。



《梅田報告》

     
  1. ハムスター胎児細胞が発癌物質処理により悪性転換しやすいとすると、今迄の方法はmixed cell populationで実験しているので、何処かに特に悪性転換しやすい細胞があると考えて良い。この考え方を証明するために胎児の各臓器を別々に培養して次の実験を行ってみた。(MCA=20-methylcholanthrene)

     

  2. 胎生13〜14日のSyrian hamster carcassの4lotについて先ずMCA処理によるPienta法のアッセイを行った(表を呈示)。コロニー数でみる限り、MCAの濃度に依存して毒性が現われている。しかし悪性形態コロニーの出現はコントロールにも出たりしてはっきりとしたデータにはならなかった。

     (表を呈示)胎生14日のハムスターの臓器由来細胞で調べた結果、Brainおよびsubcutisでは毒性はembryo carcassをつかったものと殆同じであった。しかしbung、liver、kidney由来の細胞は極端にMCAの感受性が高く、PEは0.5μg/mlMCA処理でコントロールの10%以下であった。Brain、lungの細胞は小型で、コロニーも辺縁部が円形をとらない不整形の小型のものであった。Subcutisでは細胞が一面に増生し、nearly confluentになっていた。これら全体に悪性形態コロニーは認められなかった。

     

  3. 乾先生の所でPienta法でなく、feederを使わないでtarget cellを5,000ケまくと同じようなコロニーアッセイが出来ると報告している。その追試を行ってみた。

     Embryo carcassを使ったものはPienta法よりPEは良くなっているが、悪性形態コロニーはここでも出たり出なかったりして一様なデータは得られなかった(表を呈示)。

     各臓器由来の細胞もBrain、epidermis、subcutis由来のものはPienta法よりコロニー数が多くなっている他、liver、kidney由来の細胞はホーキ星状になってコロニーとしては数えてあるが、コロニーらしくないものであった(表を呈示)。

     

  4. Benzo(a)pyreneが細胞により水溶性に変る反応を調べてみた。一部はまだ実験がすんでいないが、liver、lung、一部のcarcass細胞が代謝能が高く、次いで他のcarcass cell、kidney、Subcutisの細胞であった。Brain、epidermisの細胞の代謝能は低かった。

     

  5. Subcutisの代謝能はそれ程低くないのに、transformationの方であまり反応していなかったことは説明がつかない。Lung、liverでMCAでの毒性が強かったのは、BP代謝能が高いのと一致する。CarcassのLotDの細胞でBP代謝能が高いにもかかわらず特に悪性転換率が増加していないの気になる。(表を呈示)



 

:質疑応答:

[難波]シャーレ当たりの細胞数はどの実験でも同じですか。

[梅田]大体同じ位にしています。

[堀川]各臓器を除いた残りの胎児でも実験結果を出して欲しいですね。それはcell mediateの結果が出るのではないでしょうか。

[梅田]今日報告したようなピエンタの系では細胞数を少なくスパースな状態でないと結果がきれいに出ませんし、cell mediateをみる時は密にセルシートを作っている状態が要求されますから、同時に実験するのは無理です。

[難波]メチルコラントレンの処理法を教えて下さい。

[梅田]フィーダーレーヤーの細胞をまいて1日後にメチルコラントレンで処理した細胞を少数まきます。

[堀川]発癌剤で処理する時、フィーダーレーヤーごと処理するのとコロニーを作らせる少数細胞だけ処理のとでは結果が違うでしょうね。



《乾報告》

 In vivo-in vitro combination assayのX-ray effectへの応用:

 現在迄、妊娠ハムスターに種々の化学物質を投与して、Mutation、Transformationを観察してきた。これら化学物質の生物活性を標準化する目的で、X-ray equivarent doseに換算するための実験を化学物質と同様の手法で行なった。Micronucleus formationの結果は、照射量に比例して、小核をもった細胞の出現は急激に増加した(表を呈示)。

 染色体切断を含む異常も投与線量に比例し、特に高線量照射群ではExchange型の異常が多く出現した(表を呈示)。

 コロニータイプのTransformationは、62.5〜250Rの間で明らかに比例し500Rではやや低下した(図表を呈示)。

 MutationもTransformation同様62.5〜500Rの間で明らかな増加がみられた。但し、62.5R以下の線量では、現在Dataにふれが多いが、これらの生物的反応は8Rで現われる(図表を呈示)。



 

:質疑応答:

[吉田]放射線をかけてから、どの位の時間をおいて胎児を採りましたか。

[乾 ]1日後です。

[堀川]G0バリューの出る所まで線量を幅ひろく調べておいた方がいいですね。照射後24時間で胎児を採るのなら、培養した胎児細胞に直接照射したものとの比較もみておくとよいですね。トランスフォーメションの方の頻度は良いようですが、ミューテーションは頻度が大きすぎますね。トランスフォーメション・コロニーの腫瘍性はどうですか。

[遠藤]胎児を取り出して培養したものに照射するより、胎児のまま照射する方が感受性が高いのですか。

[乾 ]培養してから照射するのと、あまり変わらないと思うのですが、経胎盤法による他のデータと比較できる形としてやってみました。



《高木報告》

(前班会議欠席のため2回分を報告)

11月分:ヒト細胞に対するEMSの効果

 本年2月9日に培養を開始したヒト線維芽細胞について、今日まで8カ月を経過した。この間ガラス器具の洗滌をクロム硫酸からエキストランに切換え、不慣れなための汚れが充分にとれない培養器もあったためか偶発的に死滅した培養もあり、data通りに受取る訳にはゆかないが、一応の経過を述べておく。

     
  1. 対照の無処理細胞は約7カ月で死滅してしまった。  
  2. 培養開始後14日目にEMS 10-3乗M1回作用させた培養は今月31代を経て増殖をつづけている。  
  3. 培養開始後4ケ月を経て3x10-3乗MのEMSを3回作用させた培養も同様に増殖をつづけている。  
  4. 培養開始後14日目より6カ月にわたり、3x10-3乗M〜10-3乗MのEMSを13回作用させた培養は、培養開始後6.5カ月で死滅してしまった。

 以上の通り(2)(3)の系では現在も増殖をつづけているが、増殖度は培養開始後1カ月から4カ月にわたる時期にくらべると可成り低下している。近日中に両実験の細胞をATS注射ハムスターに移植する予定である。

 現在8月に培養開始したヒト線維芽細胞と5月から培養を開始したラット胸腺由来細胞についてもEMSによる実験を行っているが、ヒトの材料については培養前にPPLOの汚染を除くべく抗生物質で充分に洗って使用している。

 細胞を発癌剤処理する際の培地条件の検討

     
  1. 月報7710で植込み前の細胞の状態が培地条件によるsurvivalに影響することをのべ、原則としてexponential growthの細胞を用いることとし、この際植込み6時間後に所定の培地に交換してからのDNA合成を経時的に図示した。今回はこれと比較の意味で、confluentな状態の細胞を植込みに用いた時のDNA合成patternを示す(図を呈示)。この際controlのMEMもDNA合成の上昇はおそい。conditioned mediumではやはりDNA合成は一番低く、6時間にわずかの上昇があるだけである。またADMについてもexponential growthを示す細胞を用いた場合にみられた2時間後の上昇はみられず、以後もcontrolよりわずかに低くゆっくりと上昇する。このような培地交換後早期のDNA合成patternのちがいは発癌剤などを作用させた際の細胞のsurvivalにも多分に影響を及ぼす訳で、例えば月報7710に示したEMS、MNNGによるsurvivalについても、confluentな細胞を用いた場合にはMEMとADMとの違いがみられなくなる。

  2. これまで4NQO、EMS、MNNGについて培地条件によるsurvivalの相違を報告したが、4NQOと似通ったrepairを示すUVについては(図を呈示)、4NQOと同様のpatternを示す。すなわちいずれの培地でも低いdoseでshoulderをもったcurveをえがき、これはsublethal doseではrepairがおこっていることを表わすと思われる。conditiond mediumではsurvivalは著明に増加し、shoulderが大きくなりdoseの増加とともにcontrolと平行な直線となる。

 12月分:ヒト細胞に対するEMSの効果

 本年2月9日に培養を開始したヒト線維芽細胞に対するEMSの効果につきその経過を先に報告した。

 EMSを3回作用させ今日まで培養のつづいている群では、形態的にややcriss-crossが多いが著明な変化は認められず、11月中旬までは1:4で継代をつづけている。10月20日にATS注射hamster cheek pouchに300万個移植を試みたが、腫瘤の形成が認められ7〜10日でregressした。7日目に作製した腫瘤の組織像では差程の異型性はみられなかった。これらの経過につきslideで供覧する。

 その後も2つの系について実験をくりかえしており、現在2〜3カ月を経過したところである。その中EMSを3回作用させ3カ月を経過した細胞を300万個hamster cheek pouchに移植したがこの際生じた腫瘤は小さくregressするのも早かった。2月に培養開始した細胞とは可移植性に差がみられるようである。

 なおEMSはmutagenとして広く知られているが、carcinogenとして腹腔内に注射して腎腫を生じた報告があったので飲水にまぜて3カ月投与をつづけてみた。その中一頭に腎腫を生じた。さらにsystemicに実験をくり返している。

 細胞を発癌剤処理する際の培地条件の検討

 これまでの実験で大体基礎的条件はきまったように思われる。すなわちexponential growthを示すV79細胞を用い10万個cells per plate植込み、6時間後にMEMで諸薬剤を作用させ、その後18時間MEMあるいはconditioned mediumでincubateする。conditioned mediumを用いた系は細胞のDNA合成がその間抑制される訳であり、以後MEMにもどして適当なexpression timeをおき、mutantの出現は6TG 5μg/ml耐性細胞の出現でcheckすると云う条件である。4NQO、MNNG、EMS、UVいずれについても処理後conditioned mediumを用いた方がMEMを用うるよりもsurvivalは増加することが分ったが、これまでのdataより以下のことが推測される。

     
  1. DNA損傷後の早期DNA合成とsurvivalとは逆相関を示す。この際conditioned mediumの方がarginine depleted mediumよりきれいにDNA合成を抑制するのでこれを用いることにした。  
  2. 4NQOとUVとはそのsurvival curveのpatternが酷似しており同じrepair systemで修復されていると考えられる。  
  3. 4NQOとUVのrepair systemはある程度で飽和に達する。これはある一定以上のdamageが加わるとsurvivalの上昇がMEMとdonditioned mediumで一定となることから推測される。  
  4. EMSとMNNGはsurvival curveが似ており、4NQO、UVのそれとは異っている。この両者は同じrepair systemにより修復されているのではないかと考えられる。  
  5. MNNGおよびEMSのDNAdamageのrepairは4NQOとUVにくらべて比較的早期におこり早目に終ってしまうと考えられる。現在これら培地条件のmutant出現頻度に及ぼす影響について観察しているが、これまでの6TG耐性の出現でみたpreliminaryなdataでは、薬剤作用後conditioned mediumを用いてDNA合成を抑制した方がmutantの出現はおちるようである。ただ実験により6TG耐性colonyの出現頻度にバラツキがみられるので一定のdataがえられるようさらに検討中である。



 

:質疑応答:

[難波]ハブリッドの細胞の増殖度はどの位ですか。

[高木]大変おそくしか増えません。

[堀川]照射量はエルグで表すべきですね。処理後のサバイバルカーブの差は何を意味しているのでしょうか。



《難波報告》

 53:ヒト正常2倍体細胞の培地の検討

 ヒト2倍体細胞を利用して、コロニーレベルの仕事を行う上で最もむつかしい点はコロニー形成率が低いことである。

 種々の培地を検討した結果、目下成績はダルベッコ変法MEM+20%FCS+10-6乗M Dexamethasone+10μg/mlインシュリン+1mM Pyruvateが最適のようである(表を呈示)。

 コロニーサイズはダルベッコのものが一番大きく、数え易い。そこでダルベッコMEM+20〜30%FCSの培地に種々の添加物を加えPEを検討した(表を呈示)。その結果よりDexamethasone、インシュリン、Pyruvate添加培地を採用した。



 

:質疑応答:

[乾 ]培地の血清量20%と30%とでは違いがありますか。

[難波]30%添加した方ががっちりしたコロニーができます。しかし経済的にみて20%を主に使っています。

[高木]In vitroで何代継代できましたか。

[難波]5、6代です。やってみて判ったのですがデキサメサゾン添加は実に有効です。

[桧垣]デキサメサゾンを添加した場合、増殖が落ちるという事はありませんか。

[難波]全く変わりません。対照群と同じ増殖度です。

[山田]インシュリンの濃度はかなり濃いと思いますが生理的濃度からみてどうですか。

[高木]生理的濃度からみると大いに濃いです。

[難波]但しインシュリンは培地内ではガラス壁に附着しますので、細胞に接して居る正確な濃度は判りません。

[堀川]エイジングはどうですか。 [難波]これからやります。



《山田報告》

 今月から蛍光標識したConA(FITC-ConA)を用いて、従来われわれの観察したConAによる表面荷電の変動と、報告された細胞膜上のConAのpatch formation and Cap formationとの相互の関係を検索し始めました。

 (表を呈示)方法は4℃においてFITC-ConAと細胞(今回はすべてJTC-16)を混合し、40分保存した後に37℃に温度をあげて、反応を進行させ、その後アセトンで固定した後に観察しました。

 結果:まだ基礎段階ですので、はっきりとした成績が出ていませんが、少くとも次の点のみは明らかになりました(写真を呈示)。

     
  1. ConAによりその表面荷電密度が高くなる時期は、ConAによりCap formationが起る以前である。  
  2. シートを作る細胞塊の中心部にある細胞では、細胞の遊離面の中心に集まり辺縁部の細胞におけるCap formationとは異る。

 (写真説明:FITC-ConA 20μg/ml 8分後、遊離細胞、蛍光は一方に集り所謂Cap formationを示している。培養5日目、FITC-ConA 20μg/ml 10分後、細胞集団の周辺の細胞はCap-formationが細胞の辺縁に起っている。FITC-ConA 50μg/ml 細胞集団の中心部、蛍光は細胞の中心に集まって居る、従来のCap-formationにはみられなかった集合像。)



 

:質疑応答:

[堀川]こういう光り方をどう解釈されますか。

[山田]まだ何とも言えませんね。ただ始めは光らなくて、時間と共に光り始めます。



《榊原報告》

 §培養肝細胞に於るγ-GTPの組織化学

γ-gulutamyltranspeptidase(γ-GTP)はglutathion分解のinitial reactionを触媒する酵素で、ラット肝実質細胞では胎生期ならびにneoplastic changeを遂げた際、その活性が組織化学的に陽性となることが知られている。一方、胆管、腸管、腎尿細管、膵外分泌部等の上皮細胞では、normal adultで常に陽性とされている。これらγ-GTP陽性細胞が凡てepithelial cellである点は注目に値しよう。生体組織についてのγ-GTPの組織化学はかなり綿密にしらべられているが、培養細胞についての結果は、知る限り報告がない。そこで丁度手許にあった2系統のラット肝由来上皮細胞クローンについて、生体組織に対し用いられている手法をそのまま適用してみた。細胞は岡大で樹立されたRLN-38及びRLNB2のクローンでタンザク上に播いて3週間培養したものである。両株ともcollagen fiber形成は鍍銀、Azan染色及び蛍光抗体法のいづれでも陽性である。細胞はacetonで1時間固定、N-γ-L-glutamyl-α-naphthylamide、Fast garnetGBC saltから成る基質溶液に1時間浸漬ののち、CuSO4液に2分、hematoxylin液に10分入れ、水洗、アルコールによる脱水は行なわず、グリセリンで封入、検鏡した。その結果RLN38株はγ-GTP活性negativeであったが、RLNB2株では陽性細胞が多くはcolonyを成して培養のあらゆるareaに散在していた。γ-GTP陽性細胞は大型で、複数個のbizarreな核を有し、胞体全体が赤褐色に染まり、とくにcell membraneが際立った染着を示す傾向がみられた。両株ともラット及びハムスターに可移植性がありながら、in vitroでのγ-GTP活性に相違がみられるのは何故であろうか。今後更に多くの細胞株について、in vitroとin vivoでの染色性の異同や分布を調べたいと思っている。なおこの染色はアセトンで脱水しパラフィン包埋した組織切片でも可能である。monolayer cultureを染める場合は、アセトン固定も3日行なうと活性が低下することも判った。



 

:質疑応答:

[高木]γ-GTPは酒飲みの人が高いですね。

[榊原]動物によって違います。兎では肝細胞も染まりますが、ラッテでは正常な肝細胞は染まりません。



 ☆☆☆次に吉田班友からのお話しがありました。

 染色体数の違うクマネズミをかけ合わせると性染色体に異常のあるF1ができる。現在判っているだけでもクマネズミには染色体数42本のアジア型、40本のセイロン型、38本の欧州型がある。それらの中、アジア型は他の2種とかけ合わせるとF1が出来るがfertileではない。しかし、40本と38本のかけ合わせはfertileである。そして、そのF2の中にX染色体の欠除しているものとXXYのものとがあった。これは減数分裂の時の不平等な分裂の結果かと思われるが、現在いろいろとかけ合わせてみて検討中である。


 ☆☆☆翠川班友からも“ちっとも悪性変異を起こさないマウス組織球の長期培養について”お話しがありましたが、原稿提出はありませんでしたので、討論のみ記載します。

[難波]墨汁の貪喰は何時間位添加したのですか。

[翠川]6時間です。

[遠藤]発癌剤で処理しても全く変わらないのですか。

[翠川]変わらないか、死ぬかです。

[高木]染色体は正2倍体ですか。

[翠川]染色体は変わっています。

[難波]倍加するのに120時間かかるとすると普通の細胞の5倍ですから、10年培養しても分裂回数ではまだ2年分位、とするとそろそろ自然悪性化の起こる時期ということになりませんか。

[高木]悪性化しないのは何故だと考えられますか。

[翠川]分化度の高いせいかと考えています。

[堀川]同じような細胞系の出来る再現性はどうですか。

[翠川]100例くらい試みてみましたが、600日位生存したものはありましたが、株化したのはこの1例だけです。

[吉田]癌化しやすい細胞とのハイブリッドを作ると面白いですね。

[高木]培地は何を使っておられますか。

[翠川]血清+MEMというあたり前の培地です。

[桧垣]巨細胞との関係はどうですか。

[翠川]判っていません。組織球が線維芽細胞になるという説の真偽を確かめたいと思っています。

[難波]腫瘍性については、ヌードマウスの脳内にしかtakeされないという系もありますからもう少し検討して下さい。