細胞は、ヒトの体から採取されます。治療としておこなわれる『手術』や診断を目的におこなわれる『生体組織検査』などのために取り出された組織から培養細胞を作ることができます。生体組織検査では培養することによって診断が下される場合もあります。また、研究者自身が自分の腕などの皮膚をメスで切り取ったり、採血したりし、これを研究材料として培養することもあります
取り出された組織片は、はさみやメスなどによって細かく切断され、培地の入ったシャーレの中に入れられ、そのまま37度Cの恒温器(インキュベータ)の中に置かれます。これを数日間観察していると、組織片の周辺部分から細胞が生え出してきます。これは100%成功するということはありません。
培養がうまく行くかどうかということに加えて雑菌の混入が防止できたかどうかなど、多くの障害がありますので、それらをうまく乗り越えることが出来た場合に培養は成功します。
生えてきた細胞は、増えたところで取り出して新しい培地の入ったシャーレに移し、さらに培養を続けます。これを何度も繰り返します。
手術によって除去される組織は、疾患部位とその周辺の正常部分から成ります、疾患部分の細胞、正常部分の細胞の両者共に培養することがあります。正常と異常を比較することは病気の本質を研究するうえで重要な課題です。
培養開始後、細胞は何回か分裂を繰り返すと、急に分裂しなくなります。その後細胞は死滅してしまうのが普通です。これは人間の寿命にたとえられていますが、ここまでの細胞を『初代培養』あるいは『プライマリカルチャー』と呼びます。
しかし、その後死滅したかと思われた中から再び分裂を開始し、細胞が増殖してくることがあります(ヒトではまだ成功した例は無い)。こうした細胞は染色体の構成が正常の場合と大きく変わりますが、以後は死滅することなく何年にもわたって分裂を繰り返すことになります(不死化)。こうなった細胞を『株』化細胞と呼びます。英語では Cell Line と呼ばれます。日本語では『細胞株』と呼ばれています。
=> 細胞の樹立
そして、癌細胞と正常の細胞を比較しながら研究は進められ、1980年代の終わりごろ、特定の遺伝子に変化が起こることによってそうした現象が起こるのだということが確定してきました。これが癌遺伝子です。さらに、癌遺伝子を調べてゆくと、遺伝子そのものは細胞にとって必要な遺伝子であって、それが正常に機能していることによって細胞の分裂や分裂の寿命は正常に維持されているということが分かってきました。そして、それに突然変異が生じて機能が抑えられた結果、本来分裂してはならない細胞が分裂を始めて止まらなくなってしまうのだということがわかってきたのです。