【勝田班月報:6001】





研究班の発足にあたって

 今日の癌研究陣の最高権力者の顔ぶれ及びその研究方向をみると、我々は勇気の奮い立つのを感じる。つまりこれでは決して癌の問題は片附かないのであって、いわば第2線を余儀なくされている我々が、前線に立たざるを得ない日が必らず近い将来にくるのである。そのときまでに我々は何をなしとげておくべきか。

 まず一世を風びしている抗癌物質の追求であるが、これは一言にしていえば闇夜の鉄砲であり、また仮に一発くらいあたったところで、癌細胞の多様性を考えれば、決してそれが広く適用され得るとは考えられない。スクリーニングにしても癌細胞だけについてしらべているのでは正常細胞に毒性が少いものを拾えない。これはやりたい者にまかせておくのがよいであろう。そして我々としてはやはり組織培養の利点を最高度に発揮し、正常細胞と腫瘍細胞との、きわめて広い意味での各種の性質の相違を追求し、基礎的にしっかりデータをつかんでから攻撃点を決めるべきであろう。

 次にこれと平行して、我々がなすべき仕事は“組織培養内での細胞の腫瘍化”の問題であろう。今日まで腹水腫瘍が研究陣にひろくはびこっているが、腫瘍というのは身体のなかの正常細胞が何かの原因で悪性化してできるのであって、腫瘍細胞は他人からもらってそれが増えるという可能性はきわめて低い。腹水腫瘍は従って本当の意味の癌とはかなりかけはなれた、一種の“感染”である。また我々がよく承知しているように、組織培養の株細胞はもとの母体にあったときとはその特性が相当変化していまっている。腹水腫瘍も動物の腹を何代も継代している内に自然に淘汰や変異がおこり、もとの腫瘍細胞とはおそらくかなり異なった性質になっているにちがいない。従ってこれを用いてその特性をしらべ、或は治療剤を見付けても果して、もとの癌にそれがあてはまるかどうか。ここに大きな問題があろう。そこで正常の細胞を培養しておき、これに発癌剤その他の悪性化の原因となり得る刺激をあたえて、培養内で細胞の悪性化をおこさせることができれば、組織培養は腹水腫瘍に代って次の10年間での研究陣を風びすることができるであろう。そのためには、1)まず正常の細胞を相当長期間培養できること(増殖でも維持でも)、2)それに刺激をあたえて一定期間後に必ず悪性化するようなコースを見付けること(動物に復元して腫瘍死すること)。この二つを先決しなくてはならぬのである。これができれば、悪性化する経過を色々な面から詳細に研究することが可能になり、癌研究陣全部に対して、組織培養グループが大きな貢献をすることができるのである。

 ここに我々のなすべき二つの命題をかかげたが、今年度の研究題目として我々は前者の方をあげている。これは一つの作戦で、後者をなしとげるためにはあと何年かを要するが、成果が上らないのでは研究費もあとがつづかないおそれがある。前者ならば何とかつづけさせられる位のデータを各人が出せるであろうと考えたのであって、本当の第一の命題はむしろ後者にあることを考えて頂きたい。そしてこの両者に於ける各班員の相互扶助的なアドバイスをこの月報にどんどん寄稿していただきたいのである。 

(勝田)


《各班員が現在おこなっている、あるいは計画し、考えている研究プラン》

§ 東京大学伝染病研究所 §

勝田 甫

(A)“組織培養内悪性化”のための研究

     このためにはまず正常の細胞株を作ることができれば最ものぞましく、あとの仕事もきわめて楽になる。その上、正常細胞株(非腫瘍性細胞株)ができればウィルスワクチンを作るのにも絶好である。そこで当室ではサルの腎臓細胞とラッテの各種細胞(肝、腎、心など)を狙った。前者は、その非腫瘍性を証明するのに金がかかる欠点があるが、ポリオウィルスワクチンを作るのに有用であるし、しかも現在モンキーセンターの猿にB−ウィルスが流行している。これに人がかかると100%致死であるので、ポリオワクチンが一にサル腎臓細胞のprimary cultureに依存している現在では、このため非常な支障をきたしている。従ってサル腎臓細胞の正常(非腫瘍性)の細胞を作れば一石二鳥の効果をあげることができるのである。

    1. )サル腎臓細胞の栄養要求の研究

       予研多ケ谷研究室より材料の分与をうけ、primary cultureについて、その各種栄養要求をしらべはじめたところである。

    2. )同細胞の無蛋白培地内継代、非腫瘍性細胞株の樹立の研究

      PVPを用いた無蛋白培地でコルベンで培養にかかったが、この細胞はHeLaと異なり硝子面によく密着し、増殖をつづけている。無蛋白培地継代株はおそらくできると思われるが、問題は腫瘍性をおびないかどうかで、現在継代中の系の結果をみて、或いは酸素の Bubblingを併用することを考えなくてはならないかも知れない。

      当研究室のこれまでの研究結果及び奥村君との共同研究の結果からみて、何れにせよ、培地中の血清(ことに蛋白)がin vitroの悪性化の大きな原因となっていると思われる。さらに通常の培養法は嫌気的傾向のの淘汰をおこなっている可能性も大きいので、変異した悪性細胞を優位に育ててしまう可能性がある。これらの理由から当研究室でははじめから無蛋白の培地で培養することを方針とし、あとは好気的環境を考慮するのである。

      1)の方は秋までには一応の整理をすませ、2)の方は秋まで続けば復元移植を試みるのと同時に、奥村君に染色体分析をたのむ予定である。ラッテの細胞は近々にはじめる予定であるが未だ着手していない。狙いはサルと同じ。この方が復元に金がかからない利点がある。

(B)当研究室で無蛋白培地継代中の細胞株

     HeLaが2種とLが4種、静置継代されている。HeLaはHeLa・P1と・P2、前者は浮遊状態で増殖し、7日間に6〜7倍増殖。後者は硝子壁に附着し7日間に5〜6倍増殖している。L株は、L・P1、L・P2、L・P3、L・P4で、L・P1はPVP+LYDの培地で継代し、7日間に約20倍増殖。L・P2はLYDの培地で約20倍。L・P3は合成培地DM-12で継代しているが7日間に6〜7倍の増殖。L・P4はLDのみの培地で、約10倍の増殖率を示している。これら各系の染色体分布比較は現在奥村君が研究中である。L・P4はL・P1よりも栄養要求が低いのではないかと想像されるが、こうして次第に要求度の低い細胞を選んで行くと、動物細胞の合成能がどこまで到達できるものか、その極限も知り得るのではないかと思われる。

(C)ホルモン作用の研究

     これまで殊に性ホルモンを中心として基礎的データをあつめてきたが、若しサル腎臓細胞の非腫瘍性株ができたら、これに4−ニトロキノリンを添加するのと別に、女性ホルモン殊にエストラジオールを与えて悪性化させてみたいと計画している。この意味で次の文献は興味がある。Kirkman,H.:Estrogen-induced tumors of the kidney in the syrian hamster.National Cancer Institute.Monograph,No.1,Dec.1959.

     そのほか、これまでHeLa・P1、・P2を用いた実験結果で、ホルモンの作用にはどうも蛋白の存在がかなり重要らしいので、この点をもう少し追究しているところである。

(D)Collagen形成

     血清培地で継代していると、LはCollagenをもはや作らない。しかし少しこの細胞にとって好ましくない環境におくと、作る。たとえば無蛋白培地で3000rphで浮遊状培養すると、細胞塊のなかに作る。Hydroxyprolineの合成能は潜在的にいまだに持っているのであるが、ふだんはかくれているのである。この原因は何か。さきのHeLaが未だに、他の細胞と異なり、女性ホルモンに感受性をもっている点(増殖を促進される)と共に考えると、培養株は大抵皆同じような性質になってしまっていると云いながら、なお夫々何かしら、もとの細胞の特性をかくし持っていることがうかがわれる。非常に面白い。

     九大の高木株、予研の高野山田株、これと他のprimary cultureの細胞とをならべて、目下Collagen形成能を比較しているが、夫々相違がみられるのも興味深い。(九大、予研、伝研の共同研究)

(E)Silica(珪素)の影響

    Silicaの影響をしらべているが、たしかにセンイ芽細胞(primary culrureのみ)の増殖が促進される。しかしCollagen形成は促進されない。本当であろうか。少し重要なことなので、心及肺のセンイ芽細胞を用い何回もくりかえしてやっているが、何しろ1実験やるのに1月かかるので仲々能率があがらない。

(F)その他

    NBC社のラクトアルブミン水解物がLot番号によりかなりその栄養価及硝子面への細胞の附着効果に差のあることを今春の組織培養学会で報告したが、さらにこの点を血清培地についても比較し、増殖促進力の低い瓶の水解物をアミノ酸分析(イオン交換樹脂)して比較してみたが、いわゆる必須アミノ酸の組成はほとんどちがわない点からみても、ビタミン組成が問題ではないかと想像されるので、ビタミン添加実験を近々に行う予定である。



§ 国立予防衛生研究所病理 §

高野 宏一

(A)培養細胞の凍結保存

    保存液:ラクトアルブミン水解物培養液+Glycerol(最終濃度20%)。
    凍結方法:細胞100万個/mlを1アンプルに入れる。

  1. 急速法:細胞浮遊液をアセトン・ドライアイス槽内で急速に凍結した後、ドライアイスボックスに入れ保存。

  2. 緩徐法:細胞浮遊液をアンプルに分注後、そのままドライアイスボックスに入れて保存。凍結までに30分以上かかる。ドライアイスボックスをさらにdeep freezer内に保存。温度−79℃(ドライアイス昇華点)

  3. 浮遊液をそのままdeep freezer内に保存。温度−20前後。

    融解方法:アンプレを37℃温水槽に移す。2〜3分で融解。その後氷水中に保存。遠心操作で洗浄2回。Glycerolを除く。

    細胞株:HeLa、L1(Changの肝臓)、A(HeLa亜株)、Pb(HeLa亜株)、AMFL(人羊膜)、KB,D6(Detoroit6)、CO(人結膜)、FL、IN(小腸)、L,BM(骨髄)、Ba(HeLa亜株)、HEp、WL(JTC-6・ラッテ肝)。

    保存成績:HeLa及びL1では1年後、他では5月後に、40〜60%の生存細胞を示し、継代可能。 L及びWL(JTC-6)では保存未完成。Glycerol濃度を検討中。 急速緩徐両方間に大差なし(1年後)

    −20℃では保存不可能。

    凍結−79℃→保存−20℃を検討中。

    1年後の増殖率に変化なし。融解後の培養初代では細胞の細長化が強いが、次代以後正常(もと)の形態をとる。

(B)RAT LIVER由来細胞の増殖に伴うHydroxyproline産生

    短試静置培養によって細胞増殖に伴うHydroxyproline量の変動を測定した。本株は新生Wistar RatのLiverより分離したもので(JTC-6)。同系ratの心より分離された高木氏株(JTC-4)との異同を検討するのが目的である。

    結果は、今回の実験では細胞数の増加が予期したより低く、さらに第2回を計画中。 Hydroxyproline量はJTC-6では終始ほぼ一定域にあり、JTC-4が細胞増殖に伴い増加の傾向を示したのとは異なるようである。

(C)免疫血清による細胞障害作用の特異性

    HeLaのBa亜系(Ep-line)、Pb亜系(Fb-line)の細胞浮遊液で家兎を免疫(1回100万個細胞、皮下及腹腔内、週3回5週間)して得た抗血清で上記2系、人系数株、L,WL (JTC-6)に対するCytopathogenic effectsを検討。

    1. 血清反応:Ba、Pb両細胞に対する凝集素値は両種血清とも、1:320、Soluble antigenによる補体結合反応の終末値は、1:4。

    2. C.P.E.:1:10稀釋で両血清とも使用。人系株すべてにCPE陽性。Ba、Pb相互間及び他系間に差異なし。

    L(mouse origin)、WL(JTC-6;rat origin)では陰性で、species specificityのみ発現。 L及び WL(JTC-6)を抗原として免疫を実施中。



§ 東大薬学部生理化学教室 §

遠藤 浩良

内分泌学的研究の研究目的

     ホルモン平衡という生理的に重要な生体内因子が、腫瘍の発生及び増殖の場合にも関与していることは、当然考えられるところである。子宮癌、乳癌あるいは前立腺癌のような性器癌はその典型であるが、その他の癌性変化の場合にもホルモン平衡性を含む生体内部環境の異常による細胞内代謝系の量的変化が、やがて癌化という細胞自体の質的変化に転化することは考え得ることで、この場合特定の組織乃至器官が発癌しやすく、これが異常増殖を継続することは、各種の正常細胞の間にもホルモンに対する感受性の差があると同時に、それぞれの癌細胞とその起源をなす正常細胞の間にもホルモンに対する反応性に差のあることを推測させる。

     従って発癌機構解明のための基礎研究の一端として、組織培養法を利用して、正常細胞及び腫瘍細胞の差異を内分泌学的観点から追求する。

現状報告

    従来私たちの研究室では、骨組織の培養という器官培養に終始し、全く細胞培養をおこなったことがなく、腫瘍細胞を扱うのも初めてであります。従ってまだ計画をねっている段階で、実験結果を報告するまでに至りませんので、次に大まかな実験の方針及び皆さんに御教示いただきたい点を述べるにとどめます。

実験の方針

    種々の起源の腫瘍細胞及び正常細胞について、インシュリン、脳下垂体生長ホルモン、甲状腺ホルモン或いは副腎皮質ホルモン等、糖代謝に関係するホルモンを単独あるいは同時に作用させたときの細胞増殖及び糖代謝の変化を定量的に追跡する。

御教示いただきたい点

    腫瘍細胞の腫瘍性は復元などで証明されるにしても、正常細胞の“正常性”はどのような基準から云ったらよいのでしょうか。胎児性の細胞はある意味では腫瘍細胞に近いとすると、正常細胞としてはどのような細胞をえらぶべきでしょうか。




§ 東邦大学医学部解剖学教室 §

奥村 秀夫

  1. 組織培養における血清蛋白と株細胞の遺伝的性質との関係

     昨年度はL株細胞の血清培地継代のものと、無蛋白培地継代のもの(血清培地継代細胞から駲化させた伝研L・P1)との間で精密に染色体構成の比較をおこなった結果、両種とも増殖の主力をなす細胞の染色体構成は同じであることが明らかとなった。この事実から培地の血清が細胞の遺伝的性質に一義的な役割をもっていないだろうと考えられた。

      a)本年度はこれを種々の株細胞についてしらべることを計画し、現在はHeLa株細胞について検討している。HeLa細胞では血清培地継代のものと無蛋白培地継代のものとでは僅かに差が見られ、後者の方が染色体数減少の傾向を見せている。しかし核型分析を詳細におこなってみなければ、前者で主軸をなしていた細胞が無蛋白培地に駲応したものか、新しい細胞が出現したのか判明しない。HeLa細胞は同数の染色体をもった細胞でも核型を異にする場合が多いために、核型分析は慎重を要する。一つ非常に興味深い結果は、L株細胞のときに見られたと同様に、無蛋白培地継代細胞群の方が、染色体数分布がかなり狭くなっていることである。L、HeLa両株にみられるこの現象は、たしかに血清の有無に密接な関係をもっていると云い得よう。血清が原因していると思われる染色体の数的変異の拡大に対し、血清中の如何なる成分が要因となっているかを今後は明らかにして行きたい。

      b)無蛋白培地継代のL株細胞(伝研L・P1)から合成培地DM-11及-12に駲化させた細胞(L・P3)の染色体数の分布は明らかに減少を示している。現在までの結果では、染色体数の主軸が78本から74〜76本に移行している。DM-11とDM-25との間には明瞭な分布の差が見られていない。今後は成分のことなった種々の合成培地による細胞の染色体構成を分析して、培地中の各成分と、細胞の遺伝的性質との関連性を見出したいと思う。

  2. 組織培養株JTC-1及-2(ラッテ腹水肝癌AH-130)から、伝研に於て数種のColonial clonesをつくっているが、各Cloneの染色体数を分析すると、現在までの結果では、比較的純度の高い近2倍性のものと、未だ純度の低い近3倍体性のものとの2系統が分離されたことが判った。今後はできるだけ純度の高い細胞系を樹立し、種々の実験による細胞の遺伝的性質の遷移を明確にし得るようにする。現在私の研究室でLとHeLaの各、単個培養を試みているが、未だ好成績を得ていない。

  3. 組織培養による発癌機構の研究に役立つため、正常細胞を正常のまま長期培養できるか否か、細胞遺伝学的立場より大いに協力をおしまない所存である。




 § 九州大学医学部第一内科 §

高木 良三郎

“IN vitroにおける発癌”に関する研究

正常細胞の悪性化をin vitroに於て追求する手段として、悪性腫瘍組織よりマイクロゾーム分劃及びリボ核蛋白、デオキシリボ核蛋白を抽出し、これを正常組織由来の培養細胞に作用させて、その変化を形態学的及び免疫学的に観察したいと思う。まだ実験に着手したばかりであるが、悪性腫瘍組織からの核蛋白の抽出は終ったのでこれを報告する。悪性腫瘍組織としては今回は移植性腫瘍でマウスに類白血病様反応をおこすMY肉腫を用いた。 MY肉腫よりのマイクロゾーム分劃及びリボ核白、デオキシリボ核蛋白の調整

  1. Whole microsomesの調整(Littlefield法の変法)

    1. 肉腫片(5.7g)を無菌的に切出し、直ちに-20℃に保存。

    2. これに0.25M蔗糖15mlを加えてワーリングブレンダーに約4分間。

    3. ポッターのガラスホモゲナイザーで1分。

    4. 冷凍遠沈器で13,000G:15分→核(ミトコンドリアも含む)部分と細胞質部分とを分離し、細胞質蔗糖液34mlを得た。

    5. この内10mlをさらに105,000G45分間高速遠沈してmicrosomal pelletを得た。

    6. このpelletに蒸留水10mlを加え、whole microsome suspensionとした。

    7. このsuspension 1mlに等量の10%トリクロール酢酸を加え、生じた沈殿をさらに5%トリクロール酢酸、アルコール及びエーテルで洗い、70℃の5%トリクロール酢酸を15分間作用させて、2回にわたりRNAを抽出し、オルミノール反応でこれを定量。

      結果:RNA-P:42.5μg/ml、RNA:425μg/ml。

  2. RNA(リボ核蛋白)の調整(Littlefield,Keller,Gross,Zamenickの方法)

    1. 上述の細胞質液34mlから3mlをとり、44,000Gで30分遠沈、microsomal pelletを得、これにデオキシコール酸60mgとグリシルグリシン緩衝駅5mlを加えて浮遊させた。

    2. さらに105,000Gで30分遠沈、得られたRNAの沈殿を蒸留水でよく洗い、蒸留水3.8mlを加えてRNP浮遊液を作った。

    3. この浮遊液1mlをとり、トリクロール酢酸を加えて生じた沈殿をアルコール・エーテルで洗った後、70℃の5%トリクロール酢酸で15分宛2回に渉りRNAを抽出し、これをオルミノール反応で定量した。 結果:RNA-P:30μg/ml、RNA:300μg/ml。

  3. DNP(デオキシリボ核蛋白)の調整(核単離はMirsky,Pollisterの法による)

    1. (1)-4)の法で得られた核部分(ミトコンドリアも含む)を集め、これに冷生理的食塩水を加えて洗い、

    2. 次に1M食塩水を加えて粗DNPを抽出し12,000rpm60分で沈殿物を除き、

    3. この上清に6容の水を加え、食塩濃度を0.15M程度に落して糸状のDNPを得た。

    4. これをさらに0.15M食塩水で洗い、遠心沈殿を20mlの蒸留水にとかしDNP水溶液を得た。5)この1mlをとり、ジフェニールアミン反応によりDNA量を定量。

      結果:DNA-P:23.3μg/ml、DNA:233μg/ml。

      以上の操作はすべて可及的無菌的に行い、また用いた試薬も滅菌可能なものはすべて滅菌して用いた。このようにして得られたWhole microsome、RNP、DNP浮遊液は塩類濃度の調整をおこなってから培養細胞に使用する予定である。




    § 大阪大学医学部第二外科(兼阪大癌研)§

    伊藤 英太郎

      1. 現在までの仕事

        例の“悪性腫瘍組織中に含まれるL株細胞の増殖促進物質について”をつづけて居ります。この詳細は“Gann”の1959-60に報告してあります。

      2. 今後の予定

        1. L・P1による同調培養において、各時期のRNA、Protein量の消長を検討して、細胞分裂の化学的機構を追究する。

        2. 同調培養の各時期に(1)の促進物質を働かせてその作用点を検するなどを考えて居ります。秋頃までは(1)を続けなくてはなりませんので、(2)はそれからになりますが、なるべく早く(2)にとりかかりたいと思って居ります。