【勝田班月報:6004】




《勝田報告》

 本日は、1)これまでの研究の中間報告.2)今後の研究予定.3)癌学会への申込演題の決定.の三つの問題が主になりますので、この順序で話して頂きたいと思います。

まず私共の方の報告から始めますと、主な成果としては、サル腎臓細胞の培養があります。一般にどんな細胞でも長期間継代培養しておりますと、腫瘍細胞化してしまうものが多いようです。そこで私共は腫瘍化さない細胞株を作ろうともくろんでいるわけですが、その根拠としてラッテ腹水肝癌AH-130を長期継代して作った2種の株、これは何れもラッテに復元するとラッテが腫瘍死しますが、この株を3,000rphで高速回転培養すると腫瘍性が低下してしまうことを昨年の癌学会で報告しました。

低下した細胞の染色体数は主軸が40本前後になってしまったのですが、これはまだ伏せてあって報告してないのですが、実は高速回転しなくても、大きなコルベンで静置培養しただけでもやはり細胞の主軸が40本前後になってしまうのです。これは液のaerobic conditionの問題に大いに関係があると思います。またL細胞の染色体数のばらつきが、無蛋白培地に移すとぐっと狭くなり、しかも主軸が変らない。L・P1を血清培地に移すと多核細胞が急激にふえる。このような意味から何かしら細胞の変化に一つの主役を演じているらしい血清蛋白を培地から除き、protein-free mediumで、しかもコルベンのようなもので培養すると、腫瘍性を帯びない細胞株ができるのではないか、と考えついた次第です。これは勿論あとでin-vitroで発癌させるための細胞を作るのが目的であるが同時にそれだけではなく、他の用途にも大いに役立つものを考えてのことで、この場合はPolio virus Vaccineを作るために活用され得ることを計算に入れているのである。無蛋白培地内継代によるサル腎臓細胞の培養についてはNO.6003の小生の報告中、B項に詳述してあります。

7月4日に初代からPVP培地に入れた培養が今日もなお増殖をつづけて居ります。但し継代の植継法がコツを要し、EDTAもtrypsinも共に悪影響があり、ピペットの先で剥しpipettingでバラバラにするだけの法が一番よいようです。またA項に記したように、サル腎臓細胞はL株などと栄養要求が似て居り、Chick embryo extractが不要です。不要なのみか反って有害でもあるのですが、こうしてみると、embryoの組織とadultの組織とは栄養要求が全く異なるらしいことが示唆され、今迄は正常細胞の代表としてembryoの細胞だけ用いてきましたが、今後はadultの細胞の栄養要求をよくしらべてみなくてはならぬことを痛感します。これまでの正常細胞の培養には大抵CEEを入れていましたが、こうしてみると、だからこそadult細胞の培養が困難だったのではないかという気が致します。このようにadult cellsのprimary cultureが簡単にできるのですから、今後は抗癌物質検定の対照にはこれを用いたら良いのではないかと思います。同様のadultの培養を今後はラッテでやって行きたいと思っております。

 :質疑応答:

[高野]PVP培地で3代つづいている由ですが、PVPにさらにserumを入れた方が増殖は良いですか。

[勝田]それは明らかに良いです。

[高野]大谷君のところで血清培地で継代していると、サル腎臓細胞は3代目でいつも止まってしまい、どうしてもそれ以上は増えないのです。但し期間から云えば、とても2月などとは行きません。

[勝田]こちらのは2ケ月といっても増殖率はそんなに高くないのですから、増殖率を計算に入れるとそろそろそういう時期に入っているかも知れませんね。4代目まで持ちこせれば安心かも知れませんが。もとから保有している栄養物のeffectを考えるには増殖率からdilution effectを計算しなくてはならぬと思います。

[奥村]私はこの継代中の染色体をしらべていますが、材料がまだ少なくて、はっきり染色体数を云々できるのは3例だけです。その内2ケが49本で、1ケが50本?でした。サルの染色体数はspermatocytesでしらべられ、50本説(牧野)と48本説(Painter)とあります。しかしどちらも古い報告であり、しかもこの例では体細胞ですので、私としては大変興味を持って居り、しかもこの仕事は有望だと考えて居ります。

[高野]Normalの細胞でもprimary cultureで染色体数にばらつきが出てくるでしょうか。正常の染色体数を知るのに必要と思いますが。

[奥村]肝などでは2代位ですでに巾が出てきます。Rat liverで、植えてから5日位でおかしいのが出ます。

[高野]生体ではどうですか。

[奥村]生体では見当たりません。mitosisの数が少ないし、しらべ方も困難です。このサルの腎臓の培養では、いままでみた3ケの染色体は、変わっていないと考えられます。それから、よく数の変化と共にみられる異常染色体も見られませんでした。

[勝田]そんな意味から初代を血清培地で培養した細胞の研究もどの位の巾が出るものか、controlとしても必要ではないかと思います。

[高野]血清はどうなんですか。うちでは非働化しないで使っていますが。

[勝田]うちでは全部非働化して使っています。何だか忘れましたが、以前にある細胞でしらべたら非働化しない血清だと増殖によくなかったように記憶しているにです。

[高岡]冷蔵庫に保存しておくだけでも補体の一部がこわれるから、非働化の影響がみられないのではありませんでしょうか。

[奥村]伝研のHeLaは予研から行った筈ですが、予研のHeLaの主軸は染色体78本で、伝研のは76本、しかもばらつきが多く、数の多いのもふえてきている。

[高野]非働化の他に血清の種類、培地のrenewalの間隔の相違などもひびいてくるんでしょう。

[勝田]うちでは原則として1日おきに更新しています。ところで、こうしてサル腎臓細胞の無蛋白培地継代系を加えると伝研では現在のところ、HeLa2系、L4系と加えて、無蛋白培地で継代している細胞の種類は7系になります。

L株系はアミノ酸要求の仕事をつづけていますが、継代はDM-12でL・P3をつづけています。DM-60にかえると永続しないので、まだアミノ酸の検討の不充分のものがあるとみて、今後しばらく研究をつづけます。次にCollagenの問題ですが、共同研究で高野、高木両先生の株のCollagen形成を定量していますが、L株そのものは、あのままで進展させていません。しかしこれは近い内にやりたいと思っています。

Hormonの研究は、これまで判った要点は、正常のChick embryo heartのfibroblasts、ラッテ腹水肝癌(AH-130)、HeLaの3種の細胞の内では、HeLaだけが特異的に女性ホルモンprogesterone、estradiolで増殖を促進され、またHeLaは男性ホルモンで抑制されるので、この両ホルモンを同時に各種濃度に組合わせ、両ホルモンの拮抗比を量的に出すことができました。しかしその作用機序がはっきりしないので、東大の遠藤先生と共同研究で、その点をいま突込み出したところです。

次にsilicaのeffectsをしらべた仕事ですが、これはあまりCancerとは直接関係はなさそうなので省略します。

最後に、最近まとめた仕事として、ラクトアルブミン水解物の製品むらの問題があります。結局 lot No.によってglutamineなどの含量が異なっていて、イオンクロマトで定量して、足りない分を補充してやったら、効力がかなり回復しました。しかし硝子面への附き方は完全には回復しないので、他のfactorもまた関与していると考えなくてはならぬと思います。NBCへも云ってやったのですが、季節による違いだらうなんて抜かしてきましたが、季節によってラクトアルブミンという蛋白のアミノ酸組成が変化するなんて考えられないことで、何か他に補充しているものがあって、それを入れ忘れたんじゃないかとも思っています。

HeLaの無蛋白継代系はどうしてもYeast extractが入用で、DM-12ではうまく増えません。Yeast extract中の核酸成分が必要なのではあるまいかと考え、adenine、guanineなどをDM-12に入れてしらべて居ります。


《高野報告》

私どもの研究室の報告を致します。まず凍結保存ですが、現在のところ手持の株のほとんどの細胞の凍結が終りました。基礎条件は大体従来の文献通りにやってみました。保存は-76℃ですが、これは別に理由はなく、ドライアイスの昇華点のわけです。これまでの報告では血清はどうしても必要とされていますが、PVPのような高分子を入れてみた人はありません。血清の有無のデータだけです。PVPで血清を置換して凍結する試みをやってみたいと思っています。方法は(ラクトアルブミン水解物0.5%、血清20%ハンクス)6容と、(50%グリセロール)4容、これに細胞を100万個位入れ、アンプレに封じ、すぐドライアイスで凍結、deep freezerに入れて-79℃で保存します。HeLa、Changのliver cellの株は1年半つづけています。とかす時は37℃の温湯でとかし、とけるや否や氷水中に戻し、これを洗ってまた1mlの液にsuspendして分注するわけです。2.5mlのアンプレに1mlの材料を入れましたが、LとJTC-6では上の組成で旨く行かなかったので、Lで glycerol 10%にしたところ1ケ月は少くとも保つようにになった。JTC-6は10%では駄目で、5%だと何とか残るが、入れた細胞の50%位しか生えません。3%その他及び血清をかえて、近々やってみたいと思っています。HeLaはP型O型ともっていますが、凍結後もその形質特性を保っているようです。どの細胞でも凍結1〜2ケ月にもどすと恢復率が悪く、6ケ月、1年後の方が反って良好です。この理由がよく判らないのですが、1ケ月間凍結させた後、一部は-20℃、他は-76℃に戻し、1ケ月後に両者の比較をやってみたいと思っています。つまり一旦凍結してしまえば、あとの温度はあまり影響がないかどうか、という問題です。

 次にJTC-6のCollagen形成の問題ですが、これは培養の全期間(2w)を通じてHyproの産生量はper cellにすると殆ど一定で、増減が認められません。この点JTC-4と少し性質が異なっているようです。

 免疫実験では、手持のHeLaのP型とO型、これは性質の全く異なる亜系ですが、家兎を免疫して、2種の細胞の免疫学的変移の有無をしらべてみましたが、2種は全く同じで、他の人間細胞とも殆ど同じ結果になりました。CPEでしらべたのです。HeLaというより、むしろhuman specificityのみ残っているだけのように思われました。このやり方では亜系間の差を見出すことは不可能だった訳です。JTC-6でCPEを顕微鏡(位相差)写真で隔時的に追ってみました。ここで細胞のこわされ方に何か差異があれば抗癌物質の作用効果などしらべるのに使えるのではないかと思っています。次にNo.6003に報告しましたが、in vitroの悪性化の一端として、Ehrlichの腹水癌をあつめてこわし、L細胞に喰わせて影響をみる実験をいまやっています。

:質疑応答:

[勝田]どうもその場合Lにtissue乃至cell extractを与えると、Lの増殖が抑えられるのではないかと思いますが。

[高野]濃度を薄くしてやるつもりです。その他に、癌研と一緒に前にやりかけた仕事ですが、培養細胞でtoxohormoneが出るかどうかという仕事もやりたいと思っています。

[遠藤]さきほどのhydroxprolineの定量ですが、定量法はどういう風にしてやっていますか。

[高野]5本1検体としてdataをとっています。

[遠藤]その場合blankが問題です。Hyproの定量法は感度が悪いので、この数値だと、見かけ上の値でTryやTyrのinterferenceがある可能性があります。全くhydroxyprolin産生のないcontrolをとれれば良いが、Blankを水で、Hypro=0としたcontrolだと、問題が残ると思います。

[勝田]高木株(JTC-4)だとhypro産生が非常に高いから比較できるのではないでしょうか。[遠藤]多いのは良いが、少いのは本当は作っていないのが他のアミノ酸のinterferenceで数値として出ているのかも知れないのです。少くとも5〜10μgならば安心できますが。[勝田]Standard curveをかくと5μgの辺にわずかjunctionがあり、上も下も夫々は直線的なので、またがらない様にやっているのですが。

[高野]このままでも数をふやせば、即ち実際の計測量をませば良いわけですね。 [遠藤]そうです。私たちは骨のcollagen formationに興味があるので、これとprogenaseとの関係をしらべていたのですが、若しJTC-4及-6のdataがはっきりことなった数値の collagen formationを示しているのなら、それとprogenaseとの関係も将来しらべたいと思います。



《遠藤報告》

私どもはいまAminopeptidaseの問題をしらべていますが、伝研で見付けたProgesteroneがHeLa細胞の増殖を促進するという現象は、生体内のこのhormonの作用と同じなので大変興味をもっているのです。プリントを用意して参りましたから御らん下さい。私どもが Aminopeptidaseに着目した経過が大体お判りになると思います。Aminopeptidaseは蛋白のpeptide結合を着る作用をもっています。切れるほどcarboxyl基がふえて酸性が強くなるのですが、これを利用した定量法は感度があまり良くありません。

β-naphthylamineをむすびつけて、aseの働きでpeptide結合が切れてくれれば呈色反応できるわけで、これで組織学的にもしらべられてきた。プリントにあるように、leucine aminopeptidaseがどんな細胞にあるかということはこれまで大分各種の意見があらわれて論争の的となってきた。Burstoneはstromaにあると云い、Braun-Falcoはtumorの特徴と考え、Seligman等は逆に fibroblastic cellがもっていて癌細胞には無いと唱えた。また生体内の胃腸粘膜などのように分泌機能をもつところには分布しているという説もある。

我々はHeLaのhormoneに対する特性が面白いので子宮では一体この酵素はどうであろうかと考えた。Fuhrmanや Nachlas等によると、むしろ子宮のfibroblasticの細胞に活性があって、Shleimの中にも相当出てくる。しかも高活性です。そこで上皮性のものにもあるのではないか、また従ってHeLaも持っているのではないかと考えたわけです。Nachlas等はendometriumに活性が強くmyometriumには低いというので、epithelが持っている可能性が高い訳です。実験としては先ずHeLa細胞にleucine aminopeptidaseがあるかどうか、また細胞をとりだすとき用いるEDTAで活性度の変動があるかないか、が問題になりました。

Ratの腎臓にEDTAを加えてしらべてみると酵素活性は88%に下りました。この位の数値ですから、しかも実際にはEDTAをすぐ洗ってしまうので、実際問題としては殆んど影響がないと思われます。予備実験としてHeLaを次表のように1500万個でしらべてみると、活性が強く出ました。次にホルモン2種を加えて4日間培養(ホルモンの促進効果が7日後より反って大きくあらわれると考えて)した場合にはどうか、というと、細胞数ではホルモン添加群の方が無添加の Controlより125%多い。酵素活性は培養当りで163%、即ち細胞1ケ当りにすると約30%多い(129.1%)。Controlのみ比較すると、予試験2は1の場合より約2.3倍活性が強いが、これは培養日数によるもの、glass homogenizerの操作による相違(homogenizer、時間、泡・・・変性)などが考えられている。後者も今後検討してから本実験に入ります。

:質疑応答:

[勝田]それは当然培養日数が大きく影響するので、培養のいろいろな日数をとって比較できるといちばん望ましい。この次はそれをやってみましょう。

[遠藤]最近teststerone誘導体の合成黄体ホルモン剤が発売されてきました。流産予防のために大量に投与すると、生れた子供に半陰陽が屡々あらわれます。即ちteststerone 効果が出るわけです。それで、伝研の諒解を得ましたので、我々の方では合成黄体ホルモンのeffectも今後しらべて行きたいと思って居ります。次にprolinaseですが、この酵素はCOとNHの間を切ります。Chick embryoの頭のdismalにできる、軟骨を伴わない、うすい骨がありますが、この骨はprolinaseの活性が強いのです。long boneでも活性は強いのですが、prolineが一旦peptide bondにとりこまれて、それがoxidationによりhyproができるのではないかと考えていますが・・・。Hyproとprolinaseの関係をしらべたいと思って居ります。またJTC-4及-6でここをどう異るか、などの点についてもしらべたいと思います。

[勝田]Silicaのfibroblasts増殖及びcollagen formationに対するeffectにはprolinaseが一役買っているかも知れませんね。たとえばsilicaを添加するとprolinaseのactivity が上るのではないでしょうか。

[遠藤]HeLaをglass homogenizerでhomogenizeするとき、白い強靭な組織が残りますが、これは何でしょうか。

[高野]案外、細胞膜が厚いのではないでしょうかね。

《高木報告》

RNA、DNAを細胞に作用させた仕事は、これまでの主なものとしてつぎのようなものがあります。

1)J.Biophy. & Biochem.Cytology,5(1) 25,1959;H.H.Benitz et al.
2)Brit.J.Cancer,10(3)553-559,1956;E.Weiler.
3)Brit.J.Cancer,10(3)560-563,1956;E.Weiler.
4)Zeitschrift fiu Natureforschung,Bd.116 31-38,1958;E.Weiler.
5)Canadian Cancer Conference,3,329-336,1959;Sergio de Carvalho.

 私どもはMY肉腫からRNA、DNAを抽出したわけですが、これは移植性腫瘍で、類白血病様の病変を起こします。このRNA、DNA、whole microsomeを抽出してembryonic mouse skinの primary cultureに入れてみました。既に報告したように培養5日後に入れた場合、細胞の増殖率は落ちず、また形態的に特に変化は見られませんでした。培養と同時に入れた場合(170μg、87μg)、何れの濃度でも2〜3wでfibrousな感が強くなったような感じがしましたが、やはり特に形態上の変化はきたしませんでした。これは3回redosingをおこない、1ケ月で標本を固定してみました。これを免疫学的に蛍光抗体でしらべてみたい。 次に免疫学的な問題ですが、JTC-4細胞とrat heartとの抗原性の関係をFluo,antibody でしらべてみたいと思っています。その他NO.6003の報告通りです。

[高野]Weilerの実験では吸収を何回もやっていますが、この吸収の問題が非常にむずかしいですね。

[高木]そうです。正常抗原を考える場合、特に吸収を厳重にしなくてはならないと思います。しかしその度にsampleが減って行きますから、できるだけ高い抗体価の免疫血清が必要です。またRNAの活性は低温でないと落ちますが、普通の培地(20%牛血清+LYT)に混じて培養細胞に作用させた場合どの位活性が維持されるものですか。

[勝田]あらかじめRNAをこわして、これを第2のControlにしてやってみるとよいのではありませんか。

[高野]人間、動物でRNA蛋白が腫瘍性の抗原に作用するという報告、即ちRNAが効いたという報告がありますね。EhrlichのRNAをrat(in vivo)にinjectionすると癌になり、 transplantableだというのですが・・・。

[高木]腹水肝癌からRNAを抽出して(フェノール法)、これを100μg/ml前後でJTC-4に入れてみましたが、細胞の増殖はかなり抑制されたようでした。

[勝田]株細胞ならprimary cultureより強く障害されることは当然考えられます。

[高木]MY肉腫から抽出したDNPをddNマウスに1疋あたり45μg前後、3〜4日連続注射したことは報告した通りですが、この場合塩溶液にとかすと絮状の沈殿を生じます。ですから濃度が不平等のまま注射される可能性がありますので、蒸留水にとかして注射してみましたが、lewkemoid reactionと思われるものは認められないようでした。

[勝田]さきほどのRNAですが、これにはproteinは入っていませんね。

[高木]入っていません。Phenol法でやればRNAがとれる筈で、しかも収量はきわめて多いのです。

[勝田・遠藤・高野](抽出法の表をしらべて)蛋白は除去されるようですね。

[高木]JTC-4のHypro産生能の問題ですが、これは昨日、定量のdataを見たばかりだものですからまだ何とも・・・。他にJTC-4をprotein-freeで継代する仕事も、またやり直して居ります。PVPを入れて血清量をへらしてますが、硝子面から剥れませんね。JTC-4の栄養要求の仕事はまだ2〜3実験をすまさないとpaperにはなりません。そのほかナイトロミンなどを使って制癌剤の耐性細胞ができるかどうかもやっています。

[高岡]JTC-4のprotein-free medium内継代はうちでも預かった細胞で試みています。



《奥村報告》

いままでやった主な仕事としては、無蛋白培地で継代しているLの4亜株、及びその血清との関係、HeLaの無蛋白培地継代2亜株、猿の無蛋白培地内継代腎臓細胞などの細胞遺伝学的研究ですが、まずL株についてお話しますと、LとL・P1の染色体の比較は1959秋の癌学会で発表した通り、L・P1(PVP+LYD)の染色体はLと同じく68本が主軸で、ばらつきが L・P1の方が明らかに少ない。L・P2(LYD培地継代)は66本が主軸ですが、これはまだ調べた細胞数が少ないので決定的なことは云えません。L・P3は(DM-12の合成培地継代)3主軸があって64、66、68本です。ばらつきは60〜72本で、それ以外の数の細胞は殆んど見当りません。

LP・4(LD培地継代)は66本が主軸で、高倍性80〜100本がかなりあります。但しばらつきは狭い。そのほかDM-25で長期継代した細胞も2回samplingしてしらべましたが、DM-12継代のものと殆んど同じで、64本がやや多い位でした。しかしこの細胞系は現在は切れているそうです。核型分析ではL・P1〜L・P4の間にほとんど相違をみとめません。数の相違はrod(棒状)の染色体の数がちがうだけです。次にHeLaですが、これは血清培地継代系では76本が主軸で、90本以上の高倍体もかなり見られます。HeLa・P1はまだ4ケしかmitosisの良いのが見付けてありませんが、これは染色体が2本少なくて74本です。高倍体は少ないようです。HeLa・P2は44ケ位しらべましたが、やはり74本が主軸で、高倍率は1ケだけでした。そしてL→L・P1のときと同じよう、HeLa・P1及・P2では染色体数の分布の範囲が HeLaより狭くなって居ります。そのせばまり方はLのときよりも極端で大変面白い所見だと思います。HeLaの核型は分析がきわめて難しく、核型を判定しにくいのです。というのは同じ染色体数でも2〜3種の核型があるからです。もちろん分裂異常とは判別できます。なおここで各研究室で継代しているHeLaの染色体を比較してみますと、次のように相違があらわれて居り、HeLaというのは不安定な株だという感を受けます。また第2の頻度の数がたえず(samplingの度に)変ります。だからCloneを作って実験に用いた方がよいと思います。HeLa・P1及・P2はこの傾向が少ないので、1種のCloneのようにも扱えると思いますが。HeLa細胞の主軸は、予研78本、伝研76本、川崎・明治製菓75本、東邦大・解剖76、78、81(81が最大)。90本以上の染色体の多いのは東邦大継代のHeLaが最高でした。

以上のように核型分析をいろいろやっていますが、何とかして共通核型を見付け出し、増殖あるいは生命維持に必要な最少単位の染色体を知りたいものと考えて居ります。HeLaでは特別に染色体数の少ないものが出てきたりします。20本位ですが、これを2〜3日おくと、また数が増えてきます。少いのが見出せれば細胞の遺伝的支配の最少単位のものが見出せるのではないかと思っています。

  :質疑応答:
[高野]染色体20本のHeLaは増殖できないのではないですか。

[奥村]Duplicationが起って、細胞分裂はしないが核分裂をしてしまうのだと思います。そして40本になってしまうわけです。20本といま話しましたが、最低は23本でした。

[高野]Haploidのわけですね。

[奥村]HeLaは将来triploidに集まってしまう傾向があるのではないかと思います。PVPを用いてもLの場合はL・P1になって不変でしたが、HeLaはPVP培地で2本減り、L・P2〜・P4もL、L・P1に比べて2本減っているのは面白い現象と思います。この問題をどうお考えになりますか。

[勝田]HeLaの場合はPVPでふえる奴をselectしたわけですからね。変っても良いと思います。

[奥村]HeLaはどうもcloningしないでそのままやると遺伝子的には何も云えないような気がします。

[勝田]HeLaに女性ホルモンを与えてselectし、ホルモンにsensitivityの高い奴だけ selectionしたら面白いでしょうね。

[奥村]サルの腎臓細胞はさきにお話したように、まだ3ケしか見ていませんが、仲々面白い結果になりそうです。それにサルの仕事は新しい仕事がありませんから、大いにやりたいと思っています。