【勝田班月報:6007】




 この1年間にはずい分色々の仕事をしましたが、まずBilirubinの各種細胞の増殖に対する影響の比較からはじめます。

A.Bilirubinの影響:
 添加濃度は人の血清中での生理的濃度から中等度の病的濃度に至る範囲(0.01、0.5、1、3mg/dl)をえらび、細胞は鶏胚センイ芽細胞、L、L・P1、(血清蛋白+及び−)、サル腎臓細胞、ラッテ腹水肝癌AH-130、それよりの株JTC-1及び-2、HeLa、HeLa・P2(血清蛋白+及び−)。結果の概略をしめすと、L・P1では血清蛋白が無いと著明に阻害されるが、血清蛋白が存在すると(5%透析血清)阻害は全く消失する。サル腎臓細胞では反ってBilirubinで増殖が促進され、AH-130とJTC-2はきわめて似た結果で共に軽い阻害が起る。しかし同一起源のJTC-1では強い抑制が見られ、これらの両株の樹立機転として突然変異を考えたのが裏書された。HeLa・P2では無蛋白の場合でもL・P1とのときと異なり激しい阻害は見られず、むしろ促進する濃度すら見られた。L・P1の場合Bilirubinが攻撃する代謝経路に、HeLa・P2では副路があるのではないかと考えられる。またサル腎臓細胞がしらべた限りの濃度では反って促進したのが面白い。細胞の種類によって明らかに異なる各種の反応を示したのは、今後色々な面に応用できると思う。

B.多核細胞形成に対する各種血清の影響:
 無蛋白PVP培地で継代中のL・P1細胞は多核細胞が少ないが、これを牛血清蛋白含有培地に戻すと、数日の内に多核細胞の頻度がLのように多くなることは既報した。LはC3Hマウスの皮下のセンイ芽細胞であり、長年馬血清の培地で培養され、その後牛血清で数年、無蛋白にして数年である。各種血清によってその多核細胞形成頻度に相違があるか否か、若しあるとすれば、そのようなL・P1の培養歴と関連を持つかとうかをしらべた。結果はどの血清を加えても多核細胞は多くなり、種類によって頻度に相違はあるが、L・P1の培養歴とは相関関係は何もみられなかった。もう一つ面白いことは、LP・1細胞を馬血清含有培地に移すと細胞の凝集が起ることで、これはLには見られない。血清中の蛋白の仕業であるが、その本態はChokshi君にしらべさせようと思っている。

C.サル腎臓細胞の栄養要求:
 鶏胚その他胎児組織のセンイ芽細胞や肝細胞の増殖には、鶏胚浸出液は必須であるが、正常の成体組織細胞であるサル腎臓細胞について栄養要求をしらべると、この細胞は鶏胚浸出液を必要とせず、高分子としては血清蛋白だけで活発に増殖する。そして鶏胚浸出液はむしろ抑制的に働くのである。ところが鶏胚浸出液を蒸留水で透析すると、抑制成分は低分子で外液に出てしまい、内液はむしろ促進的に働くのである。従って問題はこの内液がうまく吉田肉腫や肝癌を抑えてくれるかどうかに在る。近日中にその検索をはじめる予定である。

D.非悪性化細胞株樹立の企て:
 初代培養から無蛋白PVP培地を用いて悪性化さない細胞株を作ろうとする企ては、サル腎臓細胞をつかって何系列もおこなっている。Lの無蛋白培地内継代4亜株間の染色体の比較、奥村君の仕事ではPVPを用いたL・P1だけがもとのL細胞と同じ染色体構成を保っている。つまりただ無蛋白の培地を用いただけでは駄目で、PVPのような代用高分子の存在が必要なのである。これにつづく悪性化の実験ではサルは用いにくいので、ラッテの腎臓で同じ実験を試みているが、これはまだ長期継代には至っていない。

E.L・P1細胞のアミノ酸要求:
 L・P1のアミノ酸要求については各アミノ酸について逐一その至適最少要求度をしらべたが、結局アミノ酸13種を含め全組成31種から成る合成培地DM-114を得た。この培地でL・P1、L・P2、L・P3、LP・4の各亜系を培養してみると、それらの間にはっきりアミノ酸要求の相違が見られ、何れもDM-12(アミノ酸19種)の培地ではよく増殖するにも拘らず、DM-114ではL・P3は4日以後増殖がつづかず、L・P4では細胞がこわれて細胞数が減少してしまう。 DM-114ではDM-12になかったFolic acidが入っているので、それにつれてGlycineの要求が出てくるという考え方もあるので、Glycineを添加した実験も近日中にこころみる予定である。

F.HeLa細胞の無蛋白培地内培養:
現在、無蛋白培地内で継代できる亜株を3種もっている。HeLa・P1、HeLa・P2、HeLa・P3であるが、3番目のHeLa・P3は合成培地M・858で継代している系である。大体1年位たたないとやはり増殖率は良くなり安定してこないものであるが、前2者は、殊にHeLa・P2は最近その意味で安定してきたらしい。

:質疑応答:

[高木]Bilirubinは一体どんな動機ではじめたのですか。

[勝田]いちばん最初の考は体内の細胞はBilirubinに対する抵抗性が異なるだろう。殊に肝実質細胞を培養しようとするとき内被細胞やその他の細胞が混在して増えて困るが、何とかこれをBilirubinのようなものを用いて適当に分けられないかと考えた訳です。

[高木]培養に使う人血清にも当然入っている訳ですね。

[勝田]Bilirubinだけでなく、他の体内の生理的な色々の物質をしらべてみるのは面白いと思います。

[遠藤]Bilirubin-freeの血清を得られると良いのだが・・・

[勝田]ラクトアルブミン水解物の各種lotを比較試験していたとき、lotにより牛血清の色の還元され方に相違のあることを見付けたが、これはBilirubinと関係があるかも知れないので、やってみましょう。

Protein-freeの培地では、PVPがあってもL・P1、HeLa・P2共にBilirubinの生理的濃度(0.1mg/dl)で既に抑制が見られている。蛋白が相当物を云っていることが判ります。



《奥村報告》

A.L細胞の4亜株の染色体の比較:
 L・P1、L・P2、L・P3、L・P4の4種について染色体数及び核型について比較してみると、核型でもL・P4が一寸変っている。L・P2とL・P3は似ている。L・P1の主軸は68染色体であるのに対し、L・P2〜L・P4は66本にずれている。但しばらつきの幅は60〜70に入ってせばまっている。L・P4はHyperploidの頻度が高い。L・P1は最近少し傾向が変ってきて、80本近くのが増えてきたのと、66本のも増えてきた。L・P2はやはり60〜70本の間におさまり、HyperploidもL・P1と余り変らず11%ある。中心は66本で26%もあり、純化されてきた感じである。

L・P3はL・P2と似て居り、中心の66本は25%、Hyperploidはやや少くて、9%である。L・P4はHyperploidが多くて15%もあり、Lに近い頻度である。66本は21%もあるが、L・P4の特徴の一つとして、染色体数は同じでも核型のいろいろ違うのがある。ばらつきが60〜70%の辺にせばめられるのは無蛋白培地に特徴的のように見受けられる。また継代につれて狭くなって行く。

 核型としてはL及びL・P1の中心の68本染色体のものでは、V型11本、J型4〜5本(5本が大部分)が特徴で、他の亜株ではL・P2では66本染色体のものは、V型11本、J型5本でrod型がL・P1より2本少ないだけで、V及びJは非常に似ている。L・P3の66本のV型J型はL・P2と酷似しているが、中にはVが12本とJが3本の型も存在している。L・P4の66本は、V型11本J型3〜5本で、この型の他に大きなVが1〜3本増加した型も見られる。但しL・P4の66本には色々の核型が混在しているのが特徴である。以上66本に共通なのは、V型11本、J型4〜5本あることである。68本を比較してまとめてみると、V及びJは大体すべて傾向が共通して居り、2本多い少ないのは、rodの数できまっているようである。


:質疑応答:

[勝田]Lの亜株を血清培地に戻した場合に再びばらつきが拡がるかどうかという点を一度検討しておく必要があると思います。それから染色体数が多い少ないといっても、細胞1ケ当りのDNA量が実際に増えたり減ったりしているのか、その辺も問題だと思います。

[奥村]rodがくっついて66本になる可能性もあるが、しかしそれならばV、J、が増えていなければならないが、実際はそうでない。

 HeLaの亜株HeLa・P1、HeLa・P2を比較してみると、血清培地継代のHeLaでは中心は76本でHeLa・P1もHeLa・P2も中心は74本になっている。この場合も核型がrodで減少している。

[勝田]やはりDNA含量の件が気になります。引伸写真を作って紙を切抜き、その目方を比較するとか、cloneを作ってしらべるとか、何とかこの点をつきとめたいものです。

[伊藤]cloneを作ると核型が変りませんか。

[奥村]変り易いですね。

[勝田]microspectrophotometerを使う手もあります。

[高木]あいつは非常にむずかしくて測り難いですね。

[奥村]阪大堀川君の耐性株をしらべると、1回だけのsamplingですが、62本が増え68本が減っています。

[勝田]堀川君はDNAをBiochemicalに定量しています。そしてL・P1の方がかなり多いように報告していますが、これはLの方が多核細胞が多く、多核では核の小さいのが多いので、従って核数でDNAを割るとLの方が含量が少なくなってしまうという結果になるのではないかと想像するのですが・・・

[奥村]高岡さんの生物学的観察と似ているのは本当に面白いと思います。

[勝田]継代の時期による比較をよくやると面白いと思いますが。

[奥村]各代で傾向を見たいのですが、数を多くしなければならないので時間が大変です。[勝田]しかし必要なことだと思います。

[伊藤]Normalでの変異はどうですか。Normalでもばらつきが現れますか。

[奥村]肝は大分あるらしいですが、すぐにsamplingできず、何らかの処置をするので、この影響があると思いますので困ります。

[勝田]初代から無蛋白PVP培地でやってみれば見当がつくでしょう。

[奥村]Genom分析をやりたいと思っています。HeLaではやってみていますが、普通のHeLaでは76本染色体が一番多い訳ですが、手廻し遠沈器でゆっくりまわして、中間層をとって培養してみると、染色体が一番少ないので26本なんてのが見られます。しかしこれは増殖してつづいてくれないので困っていますが。

[勝田]比重を使って分ける手もあります。たとえばSucroseのような液で沈むのと沈まぬのと分けるとか。その他Colonial cloneを使うとか、何を条件を変えて、とにかく染色体数の少ないものをえらんで増殖させて行く方法の方が良いかも知れませんね。



《遠藤報告》

A.HeLa株細胞のLeucine aminopeptidase活性について:
 Hormone(性ホルモン)の影響をみた訳ですが、1〜2日目のばらつきが実に多いのです。後半ではtestosteroneを加えた群が活性が高くなっています。母培養によって活性の差ができるらしく、実験のstartのときの活性度に既に差が見られます。培地に使う血清の牛の雄雌によっても当然相違の生まれることも考慮に入れなくてはならぬと思います。20%位の活性の増加では他の分野の人は有意の差とは云わないようです。しかし組織培養の場合には、これはやはり有意と考えたいと思います。

 今度はβ-gluconidaseをやってみたいと思います。これはin vivoで変化のあるのが充分判っているし、活性もはっきり差があるからです。

 testosteroneがこのようにleucine aminopeptidaseの活性を上げたということは、蛋白代謝と関係づけて考えるべきか、或は性ホルモン的作用と考えて良いのか。最近protein anabolicの作用だけの物質ができているので、これを使ってしらべる手もあります。前は増殖だけを考えていましたが、今後はこのprotein anabolicの立場から考えてみたいと思います。

B.Zn65の取込みについて:
 前からZnには目をつけていたのですが、今度の癌学会ではZn-Histidine Chelateが一番良く腫瘍細胞に入ったという報告がありました。千葉大の薬学などで、前立腺にZn-His-chelateが多く含まれているという報告をやっていました。ZnとInsulinとの関係を来年度はぜひやりたいと思っています。



:質疑応答:

[奥村]性ホルモンのHeLaに対する影響としては、たとえばTestosteroneが増殖率の多いものだけをおさえる、ということも考えられないだろうか。例えば染色体76本の方が全部抑えられればhyperploidの方が残るが、残ったものの増え方がおそければ、全体として抑えられたことになるわけです。

[遠藤]無蛋白培地のHeLaでやったらどうですか。

[勝田]Protein freeのHeLaは性ホルモンで促進されないから駄目ですね。

[遠藤]他の細胞にやってみると、例えば増殖には影響なくても酵素活性の方に変化があるかも知れません。サル腎臓細胞に期待しているのですが・・・。

[奥村]子宮癌は他の臓器に比べて、mitosisが多い傾向ですが、この点で、mitosisの多いのは、それだけ遺伝的にVariationが多いことになりますから、ホルモンがあるものだけに作用することもあり得ますし、またそういう報告もあります。

[遠藤]デュラポリンのようなものですね。



《伊藤報告》

 Oncotrephinの仕事を主にやってきたのですが、まずそのいわれから話しますと、久留教授は以前に非常に大きな乳癌の患者の潰瘍から出るリンパ液で洗われている皮膚に、krebs自身とは考えられないような増殖性変化のあることを見附け、また別の例で、magenkrebsの患者で開腹してみるとtumorが大きくてmetaもあり、radikalの手術ができず、Haupttumorだけを取ったが、比較的にその後永生きし、死後解剖してみるとmetastasisの縮小を認めた例があります。

また別の例として、magenkrebsの手術のとき肝をとって組織検査すると、胃潰瘍の患者に比べてmitosisが多いことに気が附かれました。これらの臨床的観察が根拠になって、腫瘍からは何か他の細胞の発育を刺激する物質が出てくるのではないか、と考えたわけです。

これについて比較的はっきりしたdataが出はじめたのはBulloghの方法を用い初めてからで、mouseの耳の小片をとり、Warburgで1時間振盪し、更にコルヒチンと混ぜ4時間振盪後、上皮細胞のmitosis%をしらべたところ、陽性の結果を得た。そしてin vitroでもう少し長く観察できるものとして、組織培養を用い始めた。腫瘍の生食extractをアルコールで分劃沈殿させますが、L株細胞の培地に各分劃を加えてしらべると、アルコール30〜70%沈殿(S2分劃)のものが活性があるらしく、以後の実験にはS2のN量を測り、濃度を既正しています。

S2分劃の特性は

  1. 耐熱性(100℃30分)
  2. 透析されない
  3. 硫安分劃では50〜70%飽和で不溶の分劃に活性
  4. starchのzone electrophoresisではFolinでpeakが二つでき、その中間に近いところ(分劃)に活性がある。
  5. paper electrophresisではβ-globulinに近い動きを示す。
S2よりももっと細かく、30〜50%アルコールで沈殿するのをS2’、50〜70%をS2''と分けた。活性はこの内主にS2'にある。S2'分劃の特性はHClによる加水分解で活性が落ち、pronaseでも落ちる。



:質疑応答: [勝田]pronase dijestionしたあと透析して外液をしらべる方が良い。

[伊藤]外液は増えるので、凍結乾燥で濃縮するのが大変です。trypsin dijestionでは活性が残ります。trypsiningしたものを透析し、内液と外液を夫々しらべると、その都度で結果が若干ずれるので決定的なことは云えないが、外液に活性物質が出ることは確かに思われます。またこれらの因子をとりだす元の組織によって若干の相違があり、たとえばAH-130からのは耐熱性であるが、人肝癌では易熱性のものもあります。滅菌は全部使用前にmembrane filterで行いますが、N量で多いときは10%位減少します。

[遠藤]それはfilterに吸着するためですか。

[勝田]濾過したfilterをさらに培地か何かでよく洗ってみると良いですね。

[遠藤]membrane filterに引掛るんでは大きいような気がします。大量にひいたとき減少量に変化はありませんか。

[伊藤]種々の量ではやってありません。濃度には関係ないようです。

[勝田]培養にいちばん広く使った濃度は。

[伊藤]S2’の分劃でN量0.1mg/ のを培地中に1/10〜1/50量です。濃度としてはこの上に2種、下にも2種やってみましたが、この辺が一番良いようです。細胞はL株で10%牛血清に0LYH(PR+)ですが、8日間に50倍位ふえます。inoculumは1.5万個〜2万個/tube。24時間培地を入れincubateしてから培地をすて、実験液にかえます。

[遠藤]癌学会ではCEEからとった実験には10μg/ml位にかいてあったが、その1/10〜1/50量となるとtumorよりCEEの方が強いということになりますか。

[伊藤]N量でいうとCEEの方が少しoptimalは低かったと思います。今後はresinで分劃する予定でおります。

[勝田]Sampleはどんなものについてしらべましたか。

[伊藤]やってみて効果を認めたのは、人の精上皮腫、肝癌(Nekrosisのないtumorの処のみ)grawitzと、実験癌としてはAH-130を接種後9〜10日目のもの。赤血球が混っているときは生食で数回洗いました。あとはCEEと再生肝です。正常肝は全く無効でした。

[勝田]ばらつきはどうですか。

[伊藤]Control 100万に対して130万以上を活性ありとしています。160万以上になることもあります。

[勝田]色々のtumorを比較してみると面白いと思います。殊に乳癌など。

[伊藤]乳癌はやったことはありません。

[勝田]AH-130は何匹位ratを使用しましたか。

[伊藤]30匹でdry weight 500mg位とれます。

[勝田]組織を保存するための凍結温度と可能な期間は。

[伊藤]-20℃のdeep freezerで2ケ月位おいたものでも活性がありました。

[梅田]解剖例でもやってみましたか。

[伊藤]死後6時間位のtumorでも活性は落ちていませんでした。腫瘍間の差としては例えば再生肝からの因子は60℃15分以上では活性が落ちるが、56℃15分では残っています。これに対してCEEからのは56℃15分でも落ちます。

[勝田]塩酸による加水分解の処置などはdelicateなところです。あとでよく飛ばす必要があるから、水にとかしてpHをcheckしなくてはなりません。またこれで全部アミノ酸のorderまでこわれるし、アミノ酸もものによってはこわされてしまう。それからtrypsin処理の方法も検討が必要で、加えて加温を24時間もやると、その間に活性がおちる可能性があるから。trypsinの加え方も一ぺんに初めに全量加えないで、時々加える必要があります。やり方によってもっときれいに外液に出てくるのではないかしら。

[伊藤]digestしたかどうかはninhydrinでみてあります。

[勝田]peptidesならアルコールでさらに分けられるのではないか。そしてあとはresinのクロマトで分ける他はない。さらにもっとpurifyしたところでspincoの分析用のでpeakがいくつあるかしらべ分けるか・・・。Biuret反応はどうですか。

[伊藤]やってありません。

[勝田]Biuret反応は一応peptideに或程度特異的とされているのだから、やった方が良いでしょう。またactivityの検定法を検討してみる必要もあると思います。

[伊藤]Ratの腹腔内に2mg/mlを1ml入れて、24時間後に殺し、400倍の視野100ケで約3万個の細胞についてmitosisをしらべると、実質細胞では4〜5ケ、sternzellenではもっと多い。controlには見られませんでした。

[梅田]S2分劃の中には核酸は入っていますか。

[勝田・遠藤]spectrumをとってみる方が良いですね。2580Åの辺にpeakが残っているか、それとも2800の方にあるか。

[伊藤]肝からとったS2分劃で肝のmitosisが多いというのはOrgan specificityを示しているようで面白いと思います。



《高木報告》

A.培養細胞に対するRNAの影響:
 さきに月報に報告しましたが培養細胞に対して腫瘍のRNAを加えると或は腫瘍化が起らないかという問題からやっていますが、形態的にはこれまで2回しらべましたが、顕著な差は見られませんでした。そこで今度は長期間RNAを与えてその変化をみた訳です。

まず、MY肉腫からとったRNAをmouse skinmuscle tissueの培養に、AH-130をJTC-4に入れた訳です。そしてそのための予備実験として先ず培地内でのRNAのこわれ方をしらべました。PVP+LYTの培地に細胞を入れずRNAのみ50μg/mlに加えた訳です。定量はSchneiderの法でみました。細胞があると、急速に培地中のRNAが4日以内に激減して行くのですが、細胞がないと7日間培地更新しなくても殆んどその値は一定でした。



:質疑応答:

[遠藤]この方法では生物学的に非活性のものも定量にひっかってしまいますね。つまり細胞のない場合に、仮にhigh polymerのRNAがincubtionによってこわれて行っても、定量で見ているのはもっと下のレベルのところで見ているわけだから、変化が出ないのは当然かも知れません。そして細胞があれば、そのこわれたものを利用しているかも知れない。nucleotide位のところで。

[勝田]polymerizationの落ち方を見るならViscosityしかないでしょう。もっともPVPなんかが一緒に入っていると困るが。

[遠藤]そうですね。Viscosity位しかないでしょう。核酸のbaseの辺で測っているのでは意味がないでしょう。

[高木]結局これは長期RNA添加培養して、復元成績をみたいのです。Controlとして正常の肝(ラッテ)からのRNAもやっています。



B.免疫学的研究
 蛍光抗体を使って細胞の同定ができるか、悪性良性腫瘍の比較ができるかどうか見たいと思います。

liver,kidneyからacetonpowderを作っておき、細胞は2百万個生食に浮遊させ凍結融解後、静注、adjuvantと共に刺しています。抗体値は1〜2百万個cells/tubeで凝集反応を見ます。JTC-4の抗体では、40倍〜80倍のができました。抗原の種特異性を見るため、JTC-4とLの抗血清をJTC-4,L,HeLaなどに用いてみました。JTC-4抗血清では、JTC-4細胞は20倍で+++、L細胞が10倍で+++、HeLaが20倍で-となりました。抗L血清ではLは20倍で+++、JTC-4は20倍で++でした。蛍光抗体で見た結果は、間接法を用いたのですが、抗JTC-4と抗rat心の血清を用いると、JTC-4細胞の生きたままのでは、前者で核膜が染まり、後者では不染。JTC-4D(伝研でEDTAで継代のもの)は、前者では不染、後者では細胞質と核小体が染まりました。L細胞は両血清とも、染まってはいるがそんなに強くありません。JTC-6の生の標本では、CPが強く出ていましたが、前者で染まり、後者は不染、HeLaの生では前者血清で不染で、CPも見られませんでした。これで一応種特異性は出ていると思います。

C.Hydroxyprolineの産生:
 JTC-4とJTC-6のHypro産生量を比較した訳ですが、培養につれてJTC-4のは次第に増加しているのに対し、JTC-6はほとんど変らないのは、やはり原組織の特異性を保持しているのかも知れません。

D.JTC-4細胞の無蛋白培地培養:
 培地中の牛血清濃度を次第に下げ、その代りPVPを加えてありますが、0.1%まで下げましたが、やはり血清なしでPVPだけだと増殖してくれません。

E.クロモマイシン耐性細胞:
 クロモマイシンの耐性細胞を作ろうとしています。これはHeLaで0.001μg/ml、JTC-4で0.01μg/mlが増殖を抑える限界ですが、0.005〜0.01μgでHeLaに作用させています。

ナイトロミンはJTC-4で1〜10μg/mlで増殖を抑えますが、目下15μgまで濃度を上げられるようになりました。

F.RousのVirus:
 Chick embryo heartの余り生えない状態でRousのSarcoma virusを入れることを試みて居ります。



:質疑応答:

[勝田]高木氏の株をEDTAで継代している株、JTC-4Dが、今度の癌学会には出しませんでしたけれど、JTC-4とちがってcollagenをあまり作らなくなっています。細胞の形態ももちろん違いますし、EDTAにmutagenicのactionがあるという説によくあてはまると思いますし、そう思うと、JTC-1及び-2の特性がAH-130とちがっていることの一つの裏書にもなるし、これは今後さらに少しつっこんでみる必要があると思います。