《遠藤報告》伊藤教授が内分泌と癌の班の班長になられたので、そちらの班と両方に同じ報告を出さなくてはならぬ破目になりました。またこの班の主目的である発癌の実験は手をつけて居りません。HeLa細胞の培養にステロイドホルモンを加えてその影響をみることを主体として、まずprogesteroneを入れてみました。これは伝研の仕事の追試になりますが、こちらではprogesteroneはアルコールに溶かして入れて、controlには等量のアルコールを加えました。牛血清20%の培地で6日間培養しますと、2日後、4日後、に0.16mg/lの濃度で増殖促進が見られます。殊に4日後のはcontrolに比べて44%の促進ですから有意と思います。しかし6日後には殆んど各濃度で影響があらわれなくなりました。伝研の仕事では0.3mgと3.0mg/lの濃度ではっきり促進が見られていたようですが、その場合にはホルモンをアルコールで溶かさず直接水にといていました。そのため実際の溶解度ではもっと低いところが効いたのではないかと考えられます。 次に我々の実験では血清濃度を20%でoptimalの濃度のために差がはっきりでないのか(伝研でも20%)ということも考え、5%BSでもしらべてみました。するとこの場合にも0.16mg/lの濃度で2日、4日、6日後と促進が見られ、殊に4日後ではcontrolに比べ89%の促進でした。確かにHeLaの増殖はprogesteroneで促進されることを確かめ得たわけです。 このあとはtestosterone、freeのestradiol、その他のestrogensについてしらべてみたいと思います。組織培養の条件如何によってresponseがmodifyされる可能性もしかし充分考えておかなくてはならぬと思います。北大産婦人科の小川教授は、癌をホルモンで抑えようと考え、HeLaやHuman lung(これはHeLaのcontrolとして)の株細胞を使って、各種ホルモンの影響をみています。丁度学会で北海道へ行きましたので逢ってきたのですが、実際にやったのは色々な研究生で、その学位論文に使ったものでした。ここでは面白いことにpregesteroneではHeLaは促進されぬと云って居ります。ホルモンの内では、estriolがいちばん促進しこれはhuman lungeも促進されます。ついでestron、estradiolの順になっています。hydrocortisonもμg/ 以下の微量でしらべると、これまでの研究と異なり促進するそうです。progesteroneについては久留米と九大でも同様の実験をおこなって北大と同じ結果を得ているそうです。これら結果の我々との相違をどう考えたらよいものでしょう。
[高野]濃度が関係するのか。しかし8日後はeffectがないことになるのだからおかしい。遠藤氏の結果は夫々のlogのところのgeneration timeで比較すれば良いと思います。直線のところで。 [高木]inoculum sizeの差があるのではないですか。 [遠藤]我々のところも伝研も北大も略同じ位です。北大2万、九大10万位です。 [勝田]一昨年の癌学会で私が物云いをつけた北大の仕事は、ホルモンの濃度がかなり高かったようですが。 [遠藤]私のいいたところでは、我々と同じ位で、それでは癌学会のあとでまたやり直したのですね。cell countのerrorもきいてみたら一応±5%に抑えているとは云っていましたが・・・。 [勝田]研究生のやった仕事というのは気をつけないといけないです。早く学位をもらいたい一心で教授がこのマウスは今日当り死にそうな筈だなんていうと、天井にぶっつけたりする人がある・・・なんて噂もありますからね。遠藤君のdataとうちとの相違はたしかにホルモンの溶解度も関係があると思います。次に6日後になると効果が出なくなるという点では、第1の可能性として、細胞の硝子面への付着に効果があること、第2に増殖期に促進する点からみて、分裂中あるいは分裂しやすい状態のときホルモンが効くのではないでしょうか。 [高木]九大のデータはinoculum saizeがちがっています。久留米は今はやっていません。 [勝田・補足]北大の牛血清はホルスタインのもので、東京のは和牛という相違だけでなく、使ったホルモンそのものは果して同一だったでしょうか。これが一番問題と思います。殊にnegativeのdataが出ている時には。例えば曾て三重大の病理でラッテの腹水肝癌AH-130の細胞間結合はEDTAでは切れないと発表しましたので、我々のところのEDTAを送ったところ、これではあっさり切れて、結果使ったEDTAが悪かったということが判りました。勿論血清の質、牛の♂♀、そのときの生理状態も相当関係するとは思いますが、こういう仕事ではまずホルモンそれ自体の純度とか有効度を検討することが一番必要と思います。
《伊藤報告》これまで腫瘍組織の抽出液中の、L株細胞の増殖を促進する物質を10%BS培地でしらべてきましたが、どうも実験の都度異なる結果が出たりして困りました。目標は30〜50%増殖促進におきました。 そこで今度は伝研で作った無蛋白培地継代亜株のL・P1を使ってみました。L原株ではOptimalの増殖が出すぎて差が少ないからです。ところがL・P1でinoculumを3万位にしてみますと、腫瘍からのS2分劃で、Controlに比べ、200〜300%の増殖促進が見られるのです。これを蛋白を入れたためのeffectと区別するため、L・P1にBSを5%加えてみたところ、増殖を完全に抑制しました。 次にBSを各種の濃度に加えてみました。1/5〜1/10稀釋では少し促進が見られました。しかしS2ほど促進するものは血清の中には無いようです。BSからS2を作ってみても多いときで30%位の促進でした。血清の以下の稀釋は1/80迄しらべましたが他には効果はありません。正常組織のS2分劃は、Lではかなり幅が出てくるので(促進はある)、これをL・P1で今後しらべたいと思います。 組織のcontrolとして、再生肝には普通の肝、embryoに対してはadultの組織とえられますが、人の腫瘍のcontrolには全く困っています。その他、L・P1と同じ培地で我々のところでLから作ったcell lineがありますので、それも作ってみたいと思います。 S2分劃は、Lの場合には50〜10μg/ml加えると一番促進するのですが、L・P1はこれより低く2〜10μg/mlで一番促進します。またLの場合にはS2をさらに透析し、trypsinで消化しても促進するのですが、L・P1のときはどうか。これもぜひしらべてみたいと思っています。ここまでやれば蛋白ではなくなるわけですから。L・P1はしかし色々のことに非常にsensitiveなので使うとき注意を要します。
[高岡]L・P1はinoculum sizeによって後の増え方が全く違います。 [高野]S2の活性はtumorの種類によって差がありますか。 [伊藤]Grawingのtumor(kidney)からもとりましたが、hepatomaが一番よく再生肝も強くでます。 [勝田]用いる細胞の種類によって、例えばfibroblastにはsarcomaのS2というようなことはありません か。それから実質細胞の系でないtumor; myomaとか良性腫瘍のS2はどうか問題があると思いますね。 [高野]L・P1のinoculumによるeffectは炭酸ガスふらんきを使うと良いんではないですか。 [勝田]細胞のconditioningするfactorの中ではpHのadjustということは大きいと思いますから効果はあるでしょう。ところで炭酸ガスふらんきで細胞のふえ方がどの位本当によいものか、高野君ぜひcell countingでしらべてみてくれませんか。 [高野]やらなきやなりませんかね。 [高岡]伊藤さんのところはLやHeLaの増え方が凄く良いのは血清が神戸牛からとったものだからでしょうか。しかし堀川さんの教室(阪大・遺伝)でも同じ血清を使っていたわけですね。 [伊藤]早く仕事に細胞を使わなければならないのでlogarithmic phaseのを次々と継代して行くのでgeneration timeの短い細胞がselectされて行くのではないでしょうか。 [高野]それはたしかに有り得ますね。
《堀川報告》どうも着任以来、研究室の整備に追われて余りdataは出ていません。やった仕事は以前にひきつづいて“組織培養によるLの変異の遺伝生化学的研究”です。
その第1は
まず第1の問題についてお話しします。例えば培養にmitomycinを加えますと、加えた群では分裂は殆んど止まり、その代り細胞のsizeがどんどん大きくなって、細胞1ケ当りのRNA、DNA、蛋白の量が増加します。この大きくなったものが果してnormal duplicationかabnormal duplicationかという問題がありますが、こうしたことをくりかえして、現在4種類の亜株をもって居ります。即ちLMit、LUV、L8.Az、Lγです。この内前2者の間にはCross resistancyが認められています。Lγは2000γのorderでかけていますが、これはγ耐性細胞とUV耐性細胞との間には類似性があるという人もあります。現在chromosome distributionもしらべて居ります。次にLMC細胞についてP32の細胞内DNA、RNAへの取り込みをしらべますと、LMCも普通のLもほとんどその度合に相違はありません(24時間)。 次に酸可溶性分劃をイオンクロマトで分けますと、CMP、AMP、GMP、ADP、GDP・・・という順に出てきますが、MCで処理しますと、CMP、AMPが減ってきます。次にATPが減ります。ADP、AMPはなくなります。従ってマイトマイシンを使いますと、細胞のATP、ADP、AMPがまずやられる、と考えられます。またこれらの分劃をペーパークロマトであげ、それを使ってradioautographを作りますと、DNAもRNAもbase ratisでは全く変りが認められません。またP32のとり込みは0、2、4、7日と見てもLMCでも殆んど同じです。 染色体数について奥村氏によるとLの原株では68本だそうですが、我々のところでは63〜64本にpeakがあり、8.Az耐性株では68本にあります。第2の問題、耐性細胞の出現がmutationによるものか、selectionによるものか、という問題ですが、これをしらべるため、Lの原cultureをAとBと2seriesに大別し、Aの方はshort test tube 10本に分けました。Bはその10本と同じ細胞数を角瓶1ケに入れました。これを一定期間培養後、A群では短試験管1本か角瓶各1ケへBseriesでは角瓶1本だったのを10本に、夫々subcultureしたのですが、その時mitomycinCで1μg/ml、24時間処理しました。そして、各400万細胞/bottle入れた内、できた細胞colonyの数をしらべたところ、Aseriesの方では実にそのばらつきが多く、Bseriesの方ではそれより遥かに少なく出ました。不変分散にしてAは104.4、Bは4.01でした。 この結果の示すところは、すでに母集団の中にMCに対して耐性のあるのが混っていたことを示していると考えられると思います。 この実験ではAとBと第2代の容器がちがっていますので、次にどちらも短試でやってみました。即ち、A群は前実験と同じ、B群の第2代は角瓶1本の代りに短試1本としました。すると、このときのばらつきの差はもっと著しく出まして、不変分散にしてA系は1705.4、B系では0.54となりました。愈々上の推論が裏書きされてくるわけです。そこで次に角瓶の底に裏から格子をかき、MCで処理した培養を入れて倒立ケンビ鏡で見ながら各視野のケンビ鏡写真を隔時的にとりました。するとMCに耐性の細胞は培養につれて大きくなるので、それが集落を作って行くことが判る筈なのですが、実際には狙った細胞がどれも増えてくれず、うまく行きませんでした。本当はMCをかける前から追いたいのですが、確率から云ってそれは不可能に近いので、MCをかけてから追ったのです。
[勝田]大変な労力の仕事ですが、よくそれでも耐性の写真にとれましたね。高野君の仕事がこの仕事と似ていますので、つづけて話して頂いて、あとで討議をまとめてやりましょう。
《高野報告》Cell unitでのenergy hitに対する耐性があるか否かをしらべるため、HeLaにCO60γをかけてみました。癌の治療に放射線をかけたとき、まわりの正常組織が崩れ、さらに再生してきて放射線に耐性をもつということもあり得るが、若しあるとすればこれらの遺伝学的差までしらべられるのではないかと考えられます。 現在としては個々の細胞の耐性は取扱うことができず、一つのpopulationとして扱って居ります。まず細胞に500〜2000γかけますと、その照射量に比例して増殖が抑えられます。しかし頻回照射すると耐性細胞がでてきて、tailingが得られます。照射法として2000γ5回(計10000γ)かけたときと、初めに2000γかけ、そのあと500γを10回かけたとき(計7〜8000γ)とはあまり差か認められません。これは、γをかけて、やられた細胞の中からまた新しいcolonyのできてくるのを待ち、それにかけるということをくりかえすのですから、実に時間がかかります。第2回照射までは、確かにcurveは寝て、抵抗性の上昇を示しますが、以後いくら照射してもほとんど平行です。 この二つの知見から、耐性細胞集団の出現はmutationよりもむしろselectionによるものと思います。500γ10回群では目下観察中ですが、2000γ耐性群に比し、耐性度が低いように思われます。この点、総線量がfactorとなる可能性もあります。さらに2000γ5回耐過後、通常通り継代して、時間の経った群について耐性をしらべ、そのstabilityを検討しつつあります。耐性群をγ線とcortisonで処理したハムスターのポーチに100万個及び10万個の接種量で入れますと、無処置HeLaは100万個100%、10万個80%つくったのに対し、耐性群は共に100%となり、一見移植性が高まったかの如くに見えましたが、第2代のハムスターに移しますと、無処置の50%余に対し、耐性群は移植率0%であった。なおハムスターポーチの腫瘍はhistologicalにしらべ、granuloma、白血球、センイなどのときは陰性と認めています。Bacillomaも同様。 この知見に対し、適確な説明はつけられませんが、chromosomal distributionが狭くなる傾向と関連があるかも知れない。つまりselectionによってploidyが揃ってくるため、条件の悪い環境では一挙にやられてしまう可能性も考えられるのである。
《奥村報告》
1)耐性細胞の研究
Monkey kidney cells(5代目)、Rabbit kidney cells(3代目)を継代している。あまり増殖は良くないが、その内にStilbestrolを添加してみたいと考えている。両系とも培地は4種を用いている。YLE10、YLE5、YLE2(以上の数字はBS%)、M-199+2%BSである。YLE2は初めの内はよく増殖したが、現在は一番悪くほとんど増殖せず。
[堀川]CO60でselectionをくりかえして行くと細胞が弱くなって容器の壁にあまり着かなくなるとか、そういうことはありませんか。 [高野]増殖率は低下しますがよく増えています。形態の上では、大小不同、不規則な形態で、堀川氏のLMCのようなはっきりした特徴はありません。 [堀川]私のLMCはL・P1のようなきれいな形態をもっていて、壁につき方は弱いです。色々な細胞が混じっているのをpurifyして行くと、互に償って行くことができなくなり、不安定になるということも考えられます。また生き残った細胞がどうなって行くか。例えば5fluorouridineでtransformationの起るのを見ていますが、こういう細胞がどうなって行くのでしょうね。 [高野]cloneを作って行きたいですね。 [堀川]single cellをとりだして4ケ位の時から種々のgroupを作って育て、chromosomeがどうなって行くか見たら面白いでしょうね。 [勝田]染色体数のpeakは相当sharpになりますか。 [高野]まだはっきり数えてありません。 [勝田]君の表で、染色体数のpeakの幅が、2回照射で急に狭くなるが、以後はそのまま余り変化がないようですね。ですから同じ実験を何度もくりかえしてみて、いつも割に早く、しかも同じ所にpeakが行くとすれば、これはmutationでなく、selectionである一つの証明になるのではありませんか。 [堀川]放射線のdosisの与え方ですが、大量を短期にやるのと、少量を何回もかけるのとは・・・。 [高野]4000γかけると回復不能でした。100γx5回と500γx1回と差があるかどうか、これは臨床的にも大きな問題です。特に耐性細胞の出現にどんな差があるかですね。 [堀川]8azguanineを一度に大量与えると、一ぺんに細胞が死んでしまうが、少量与えると殆んど死なず、その量を少し宛上げて行くと、致死的な大量にも耐えられるようになります。これはinduced enzymeとか、何かそういう類の関与を考えさせられます。また透過性の変化かも知れぬが、そうならばisotopeを使えば判ることですが。 [勝田]堀川氏と高野氏のdataをきくと、どうもselectionの方が主因らしい気がしますね。放射線障害にはSH基群が防御的に働くと云われますが、耐性細胞ではcysteine metabolismが変ってはいないでしょうか。つまり、大抵の細胞はcysteineを要求しますが、耐性細胞では自分でどんどん合成できるかも知れぬ可能性ですね。合成培地でcystein-freeのもので増えるかどうか見ればよい訳です。 [堀川]AETも放射線障害防御で有名ですが、日本製のAETを使ったら、それ自身が毒性があってどうも使いにくくて困りました。それから細胞の核を交換してみたらどうか、どいう問題があります。Drosophilaのsalivary gland cellでは成功しています。salivary glandの染色体は太くなったところ(puff)が上下に移動しながらDNAを合成して行きます。このようなglandの核を移植するわけで、変種間で成功していますね。HeLaでも出来るのではないでしょうか。Immunologicalの問題もありますね。米国のマキノダン氏の実験ではbone marrow cellに400γかけて免疫反応を除き,AETを使って核だけは生きているようにしておいて、核を入れかえるのです。AETはcysteineより良いそうです。 [堀川]染色体の問題ですが、耐性細胞株ではpeakの倍数の染色体をもつ倍数体もでてきますね。とにかく非常に染色体数の多いのを時々見かけます。 [勝田]たしかに普通の株でもありますよ。一般に押しつぶし標本を作ってかぞえるとき、どうも算え易いのばかり算えてしまう傾向と危険性がないでしょうか。数が多くなればどうしても染色体の重なる頻度も多くなる。それから構造上の関係でどうしてもpairが横に並びにくく、いつも重なってしまうようなのもあるかも知れないし、染色体の分析もこの辺でそろそろ方法論的に転換すべき時期が来ているような気がしますね。
《高木報告》in vitroでの悪性化の実験をやって居りますが、AH-130肝癌細胞のRNA分劃を抽出しまして、JTC-4株に入れているわけです。しかしここに二つの厄介なことがあります。第1はJTC-4細胞をそのときPVP無蛋白培地に入れて居るのですが、この培地だとどうも細胞が弱って行ってしまいます。第2は培地に入れたRNAのdegradationがひどいことです。細胞の入っている管に入れますとどんどんこわされて行きます。定量法はoligonucleotideまでかかる方法を用いました。なおRNAは凍結しておいて1月、冷蔵庫で1週位するとかなり落ちます。したがってRNAは頻回に細胞に作用させなくてはなりません。BSの入った培地を使うとBSのeffectが出ることをおそれているわけです。 次に同じくJTC-4株細胞にDABを作用させます。DABは100mgをTween20の5mlに徐々にとかし、100℃3回の間歇滅菌をします。120℃ではDABが分解するからです。これを45mlにtyrodeにとかし培地に入れます。このtyrode溶液は、冷蔵庫に保存しておくと沈殿が出ますが熱をかければ、またすぐに溶けます。DABは0.1〜1μg/mlに2種の培地に入れています。PVP培地とBS培地です。期間は3〜4週作用させます。(BS培地も作用させるときだけはPVP培地)。 そのほか、愈々細胞を復元接種してみたいときの練習に、ラッテの皮下に2〜400万個入れてみました。6匹です。ラッテはcortisone acetate 0.1〜0.3ml、X線を200γ隔日3回照射しました。JTC-4をDAB処理し、4代まで行ったのを入れてみましたが、tumorができません。細胞は初めはtrypsinizeしましたが、現在はrubber cleanerで剥したのを使っています。
[高野]Cortisoneの量が多すぎることと、X線は1回に沢山、400〜600γ照射した方がよいと思います。ラッテは600γまで大丈夫です。 [勝田]動物はハムスターのポーチの方が良くないかしら・・・。 [高野]Sylian golden hamsterがよいのですが、これが中々繁殖しないでこまっています。[高木]ハムスターもぜひやってみたいと思っています。DABは10〜100μg/mlだと細胞がすぐやられてしまいますので、0.1〜1μg/mlの濃度を使いました。DABをかけた細胞は、形態学的には変化が見られません。次にcortisoneは細胞に対して抑制作用があると云われていますが、L細胞を使っていろいろの濃度でしらべてみました。これは細胞自体に対するcortisoneの作用、特にそのウィルス感受性についてしらべたのです。すると図のような結果になりました。これはJTC-4株細胞でも同じような結果が出ました。これから100μg/ml濃度でcortisoneを作用させた細胞のPolioII型Virusに対する感受性の変化(かかり易くなっていないか)をこれからしらべたいと思っています。その他hydrocortisone、DOCAはfibroblastの増殖を促進するといわれていますので、この影響もしらべたいと思っています。 次にJTC-4からcloneを作りたいと思い、TD-40を使って細胞が15ケ位入るように入れ夫夫colonyを作らせ、その一つを拾ってsuspendし、また次にうえ、数代つづけて居ります。 6月17日にJTC-4とLとを同時にPVP培地に入れました。LはPVP培地にすぐなれて、うまく継いでいますが、JTC-4はBSを2%までは楽に減らせるのですが、1%になるともう旨く行きません。ここでとまっています。次に培地の相違によるDNA、RNAへのP32の取込みのちがいをしらべたいと思いその一部をはじめました。RNAはphenol法でしらべました。 またOrotic acidをJTC-4に作用させてみると、4日迄のdataですが少し促進の傾向があります。これはDNAのprecursorで、小野製薬ではアミドの形で水に易溶性のを作っています。500μg/mlで促進しています。この使用効果についてはFederation Proceeding(Vol. 20,No.1,p155,1961)にもSavshuck & Lockhartが報告しています。 [勝田]P32をそのまま使うと、DNAやRNAを分劃しても、無機Pの形のままのP32が contaminateしていることが良くありますから、それらを除くことに注意して下さい。 [高野]ハムスターへの移植法ですが、ハムスターをエーテルで麻酔して、ピンセットで口の頬の内部からpauchを手袋をうら返すように引張り出します。そしてそこをヨーチンアルコールで消毒して、1/5以下の針をつけた0.5mlの注射器で、皮内注射の要領でpauchの2重膜の間に接種するのです。 またEDTAを使ったheterotransplantationがうまく出来る方法があります。EDTAで細胞を処理し、ゼラチンカプセルに入れてラッテの腹腔に入れるのです。dd mouseのtumorをやってみました。これでしらべると、どうもHeLaよりchangのliver cellの方が悪性度が高いようですね。1億個入れてみました。Lはconditioned mouse(ddY)に100万個入れると或程度増えます。EhrlichはddNは駄目でddYがよいようです。 [勝田]高野君は異種移植の方をよく研究しておいて下さい。我々が早速応用させてもらいたいので。それから君もtumoreのextractを培養に入れて発癌実験をやっていたようですが、あれはどうなりましたか。 [高野]私のはL細胞の培養にEhrlichのextract(1:0)を添加するもので、普通は0.5%入れても細胞がこわれますが、ならすと1〜5%位入れても平気になります。この細胞は細長いスマートな細胞で、増殖カーブはLに似ています。この系とL原系をconditioningしたマウスに入れてみているところです。 それからcolony法ですが、5cmmシャーレに4〜5ml液を入れ、シャーレ当り細胞100ケの割でまいて、炭酸ガスふらんきに入れますと、率がいたって悪いのですが、100ケあたり40ケ位colonyができます。 [高木]私は角瓶に5ml入れ、細胞100ケ位でcolonyを作らせ、いらないcolonyはエーゼで焼いて、欲しいのがふえてきたところでtrypsin消化しています。
《勝田報告》私どもは発癌実験を主にやっています。細胞は、我々はこれまで肝細胞を多く取扱ってきましたので、予定通りラッテの肝細胞をまず使っています。第二候補のラッテ乳腺細胞はまだ培養がうまく行っていません。というより材料の入手に困っています。さて、その肝細胞に用いる発癌剤としては4ニトロキノリンに第一に手をつけました。そのあとDABに入ろうと思っています。4ニトロキノリンの実験はこれまで2系やって居ります。 まず基礎実験からお話ししますと、成体のなかの肝細胞は、通常の状態ではほとんど増殖していませんので、それと同じような状態を再現する条件をしらべました。培養法はラッテの肝臓をまずメスで細切し、それを円形回転管につけて回転培養で数日間母培養します。このときの培地は20%BS+LDです。この間に組織についていた血球はほとんど落ちてrenewalのとき棄てられてしまいます。そこでrubber cleanerで細胞を全部かき落として、白金の80、150メッシュを通しcell suspensionを作りますと、これはほとんどが肝細胞から成っています。これをfibroblastと同じ様にピペットで短試に分注し、適当な培地を加えるわけです。第1回は5種、第2回は1種類の培地で培養して2週間観察しました。すると血清の入っていないLDだけの培地では次第に細胞がこわれてゆきますが、他の培地では何れもほとんどinoculumと同数の細胞が残りました。そこでこの中でいちばん組成の簡単なBS+LDの培地を以後の発癌実験に使うことにしました。ここで面白いのはchick embryo extractを加えても増殖が何ら促進されないことです。 さてこのdataに基いて、20%BS+LDの培地を使い、生後7日のJAR・ratの肝をメスで細切し、円形roller tubeの壁に附着させて回転培養します。組織片はなるべく小さいものをなるべく沢山つけた方がよいと思います。培地は週3回更新しますが、その内1回だけ、つまり2日間だけ4ニトロキノリンを10-8乗M加えた培地を用います。すべて発癌剤は、それが他の培養にcontaminateしないように、後始末をよく考えておかなくてはならないのですが、この4ニトリキノリンの場合には、熱を加えれば分解しますので、使ったピペットその他は煮沸すればよいわけです。2日間処理したあとはまたBS+LDに戻って、長い間培養をつづけました。すると23日目に実験群7本の内1本のなかの1つのexplantから細胞がmigrateしはじめているのが目につきました。単に遊出したというだけでなく、平たく硝子面に細胞質をのばし、かなり大きな細胞です。それがみるみる増えるのと平行して、次の日、次の日と色々なtubeで、計5ケ以上の新生細胞を出しているexplantが見付かったのです。 それに対しcontrol群の方では、このころになって7本の内の1本の1ケのexplantから少し新生がみとめられましたが、形は大分上のとはちがっていました。第2回の実験は5ケ月のラッテを使いました。容器はこんどは平型の回転管です。それ以外は上と全く同じ条件でやったのですが、3週一寸経った今日、まだどのtubeでも新生細胞が見られません。これは材料の年齢の差によるのかも知れません。一方円形tubeではケンビ鏡観察にむかないので、第2回の実験は何れも平型回転管を使いました。しかし平型管というのは、どうも液の流れ方が癖があって、平面をひろくぬらしてくれません。やはりその点では円形管の方が良好です。一考を要するところと思います。なお第1実験の方は、その後、実験群の各新生細胞が次第に変性し、controlの唯一のものと共に消えてしまいました。残ったのは実験群の唯1ケのexplantだけで、これはゆっくりですが、いまだに増殖をつづけています。 この方法を用いますと、変化を起こさない細胞はすべて増殖せずに、静止状態で居りますので、変化を起こした細胞を見付けるのが実に楽です。培養法も簡単ですし、皆さんにおすすめします。 発癌実験に必然的に伴う宿命ですが、突然変異というものは変化する方向の決まっていないものです。たとえば栄養要求にしても実に各方面にむかっての変異が考えられますが、その内のごく小さい方向、つまり与えた培地に適した変異細胞だけがどんどん増殖できるわけで、その意味で発癌剤を与えたあとはなるべく各種類の培地でcultureすることがのぞましいと思います。 上述の実験に用いた培地は腹水肝癌AH-130のoptimalの培地です。ですからAH-130をつくったDABを発癌剤に使った方が或いは良いかも知れません。 [伊藤]静置培養で4ニトロキノリンを入れたのではうまく行きませんか。 [勝田]私はやらなかったのですが、いま九大癌研へ行った遠藤君は株細胞を使い、もっと高濃度でやっています。しかしこの場合は発癌実験ではなく、細胞に封入体のできることなどを論じているだけです。この実験も4ニトロキノリンをもう少し長く作用させることもやってみたいと思います。 次に御報告することとしては、馬の肝臓から3種の株細胞を作り、6月の伝研集談会に発表しましたが、これは発癌と関係がありませんので省略します。 Parabiotic cell cultureについて、その後やっている実験をお話ししましょう。まずchick embryo heartのfibroblastsとchick embryo liver cellsを組ましてみますと、fibroblastの増殖は7日後になって初めて少し抑えられますが、liverの方は7日間ほとんどeffectを受けません。次にfibroblastsとliver cellsと夫々同じものを組にして培養しますと、次のような結果が得られました。どうもfibroblastではお互いに少し抑える傾向、liver cellは促進する傾向が見られるのです。 これから秋にかけてのparabiotic cultureの研究の主体はRat liverと、それ由来の肝癌AH-130及び少し系は異なりますが吉田肉腫、この二つの組合せを主体にしてやって行くつもりです。現在その第一歩をはじめています。この実験では肝は成ラッテの肝で、さきほどの発癌実験と同様、増殖しない状態において培養しています。この方が腫瘍の正常細胞に対するeffectをみるのに良いと思います。培地は従って20%BS+LDです。吉田肉腫は本当はHSの方が良いのですが、今回はこれを使ったところ、controlで細胞が2日後ふえているのがまたこわれて行ってしまいました。それに対してliver cellとのparacultureでは少し宛ですが増えつづけています。面白い結果と思います。AH-130はliverとのparacultureでごく少し促進されています。一方、正常肝の方はきわめて微妙ですが、他のtumorとparacultureした方が少し宛抑えられるようです。秋の癌学会までにはもっと沢山データを出すつもりで居ります。 次に馬組織を北大から輸送した経験によると、培地に入れて5℃〜0℃の低温にさえ保てば、8日間位おいた材料からでも株が生まれました。サル腎臓tissueの輸送にも応用できるのではないかと思います。人癌組織などの輸送や保存にも参考になります。 L株より作った4亜株について多核細胞の出現率を見ますと、L・P1(PVPが培地に入っている)がやはり一番少なく、培地が無蛋白ではあるが代用高分子を含まぬ他の3系では、これより何れも多くなっています。この研究は目下継続中です。 先月の集談会で高岡君が演説した仕事ですが、trypsinで継代しているJTC-4株をうちでEDTAで継代しはじめたところ、数代の内に上皮様の形に変りました。これは元に戻りませんので、この系をJTC-4Dとよんでいますが、これのtissue culture内でのCollagenの作り方をhydroxyproline定量でしらべたところ、細胞1ケ当りの量がJTC-4よりはるかに少なく、しかも培養後期になっても増えません。銀染色するとJTC-4は微細な銀センイを沢山形成していますが、JTC-4Dは作っていません。次にEDTAで継代しているHeLaをrubbercleanerだけで継代はじめたところ、細胞の形がfibroblasticになってしまいました。 EDTAは細胞の形態をepithelialにかえる副作用と、細胞の変異を促進するような力を(変異を直接惹起するのでなくても)持っているのかも知れません。培養のときはEDTAを使うには慎重にせねばならぬと思います。 |