【勝田班月報:6112】(後半)




《伊藤報告》

 台風の影響で細胞もやられたりしましたので、新しいデータはほとんど出ていません。細胞は最近はL・P1を使って腫瘍のS2分劃の仕事をやっています。L・P1ですとcontrolに比べ、S2分劃を加えた群では7日間にcontrolの2〜3倍増殖が促進されています。S2分劃をトリプシン処理して各種resinを通しますと、IRC50とIR400の非吸着部分は前者は酸性のpeptides、後者は塩基性と若干中性peptidsですが、前者は2倍の増殖促進効果があり、後者は抑制効果があらわれます。IR400を通したとき、非吸着部分を2分劃に分け、吸着部分をHClでeluteして4分劃に分けますと、後者の第1分劃が2倍の増殖促進効果を示します。大体ペプチドの形にしますと、2μg/ml位が促進効果のoptimalです。これらの分劃は夫々5倍稀釋で25倍までしらべました。normalのspleenやmucleにはありませんが、4ケ月位のrat liverには認められます。再生肝では60時間後位が最高でした。Resinをもう少し適当なものを探す必要があると思います。



:質疑応答:

[勝田]2倍の促進というのは、たとえばconytolが7日間に10倍ふえるところを20倍ということですか。

[伊藤]そうです。

[勝田]normal liverでは何倍位ですか。

[伊藤]やはり2倍位です(S2の段階では)。非吸着部分の比がtumorと正常ではちがっているような感じがあります。

[勝田]有効分劃をさらにpaperchromtographyにかけましたか。二次元の。

[伊藤]Arg、Aspargine、Gly、をcontrolに入れて比較すると有効成分はglycineの処に合致します。

[関口]IR400の分のUV-spectrumの像はいかがですか。peptidesだけで核酸のcontaminationはありませんか。

[伊藤]Ninhydrin発色させて吸収の山をかくと、山の肩の辺に活性があります。

[勝田]大量生産する必要がありますね。色々な細胞でやってみるといいけど。私たちとしては分劃して行くのも面白いけど、他の細胞にもeffectiveかどうかをまず知りたいね。

[奥村]Morphologicalな変化は?

[伊藤]特に変らないような気がします。それから牛血清のS2分劃は無効でした。

[勝田]Lからの無蛋白培地継代4株に5%に牛血清を加えるとL・P1とL・P2では増殖を抑え、L・P3とL・P4では促進します。

[堀川]そのままずっと続けたらどうなりますか。

[勝田]それはまだやってみません。血清の中には促進する因子も抑制する因子も入っているからprotein-freeの培地で加えてみて、促進なら促進の効果が、血清蛋白と関係のあるものを加えたため、或は蛋白的なものを加えたためでないことを証明しなければなりません。

[伊藤]濃度は2μgN/mlが至適でした。

[勝田]正常の細胞、特にadultの細胞の培養に利用できると非常に有用ですね。他の臓器からも抽出してみましたか。また正常肝をしらべたときのラッテの大きさは?

[伊藤]spleenとmuscleだけは見ましたが陰性でした。ラッテは4ケ月、200gのものです。[堀川]S2分劃の作り方はどうでしたっけ。

[伊藤]HomogenateをNaClで抽出、アルコール分劃法で30〜70沈殿の分劃です。

[関口]核酸が入っていますか。

[伊藤]Starch electrophoresisで分けて有効の分劃は、264mμの吸収は陰性でした。核酸抽出法の分劃では無効です。

[勝田]有効な最後の分劃についてUVspectrumをとってみれば訳ないでしょう。

[伊藤]目下やっています。

[堀川]牛の肝臓などで大量にとったらどうですか。

[伊藤]牛肝は阻害作用の報告がありますね。

[勝田]うちでもやりましたし、古くは癌研の中原さんがやって居ます。



《遠藤報告》

 発癌の実験はまだやって居りません。HormoneのHeLaに対する影響をしらべて居ります。これまで骨の培養にはSalineはGeyのを使っていたのですが、これには他の処方に比べCaもGlucoseも2倍入っているのを使っていましたので、Hanksの処方に変えたところ、HeLaの増殖が非常によくなって、反ってホルモンの効果がはっきりしなくなりました。牛血清5%でも20%でも全然Progesteroneの促進効果が消えてしまったのです。今後は増殖率何倍のとき何%の促進といったような表現をする必要があるかも知れません。どうも増殖率によって成長促進効果が規定されるようだからです。Fig.1とFig.2はProgesteroneの各種濃度のeffectをGeyとHanksのSalineで比較した結果です。Fig.3は、これは一寸変な実験ですが、培養初期に細胞を分注したまま2日間室温において、それから37℃にincubeteしたのですが、2日間は細胞数が減り、以後Controlは回復しないのですが、Progesteroneを入れた群は再び増殖をおこしています。殊に0.64μg/mlの群は最も回復率が高くなっています。このようにConditionが悪いときにむしろ差が出易いわけで、どういう条件のときに影響が明確にでるかを今後検討してみたいと思います。

 次にドイツのあまり大きくない製薬会社で“Regeneresen”という薬(?)を市販しています。fetalとyoungとありますが、主体は各種臓器から抽出したRNAで、organ-specificに臓器の代謝を促進すると云っています。例えば用途に応じ、Osteoblasten、Knorpel、Placenta、Lever用と色々あります。Clinical dataで効くと云っているのですが、Osteoblasten用のを手に入れてテストしてみますと、まずRNAは2.0mg/dl位で、これは Chick embryo extract中の含量に略等しくなっています。Chick embryo tibialの培養に0、20、50倍に稀釋して入れてみますと、骨長を基準にしますと、50x稀釋の群が、初めはControlより成長が悪いのですが、直線的に成長が続き、後期にはControlより良くなりました。他の濃度では抑制です。蛋白量は2mg/dl位あります。UV-spectrumをとってみますと、peakが二つあらわれ、純粋のRNAではありません。



 :質疑応答:

[関口]Ethanolを加えて落ちますか。水溶液では不安定と思われますが。

[勝田]核酸だとすると不安定ですね。

[遠藤]proteinは2mg/dlです。

[堀川]Kutskyも同じことをやっていたのではないですか。

[勝田]我々と同じ方向に進んでいた訳ですが、その後RN蛋白をRNAと蛋白とに分け、蛋白の方に活性があると云っていました。

[高木]増殖の悪いときにeffectがよく出るというのは本当ですね。Orotic Acidでも血清5%のときの方がはっきり出ました。

[伊藤]うちでも全く同じことを経験しました。しかし悪い状態のときに効くものを見ていて、本当にそれが意味があるか、という疑問を抱きますね。

[勝田]たしかにsalineの差による影響は大きいと思います。しかも細胞の種類によってその好みがちがうと思います。うちの“D”処方のはAH-130の培養のとき見付けたもので、Tyrodeよりも増殖がよかったので、以後はこれに変えたのです。

[奥村]Glucoseの量が関係しませんか。

[遠藤]Glucoseの量を1/10に下げると、posphorylaseの量が1〜2桁下がるという報告があります。

[奥村]Alkaline phosphataseは?

[遠藤]変っていないようでした。Phosphorylaseの活性が下がるとglycogenの合成は落ちる−ということはあるかも知れませんが、このdataは逆ですね。

[勝田]室温放置の実験、これはまぁその目的でなくやったんでしょうが、そのつもりでもう少し長くやったらどうですか。

[遠藤]勝田氏の処でprotein-freeの培地でHeLaに女性ホルモンをやったら効果が無かったというのは、今考えてみるとHormoneは体内でalbuminにくっついて循環しているということと関係があるのではないでしょうか。



《奥村報告》

  1. )Praimary culture:

       
    1. )Monkey:猿はRhesusとCynomolgusですが、Adultではkidney、Embryoではkidney、 heart、liver、brain(cerebral cortex)を試みました。Brainは2月位で変性をおこしました。

       

    2. )Rabbit kidney:混在virusの検出などの目的でやっています。

       

    3. )Human amnion:人は固体差が大きくて成績が一定しませんので、何か確実な方法を作りたいと思い、目下培地の検討(M・199、血清濃度)、Enzymeなどをしらべています。人羊膜の培養の培地は仔牛血清10%とM・199です。

     
  2. )細胞及び組織の凍結保存:組織のまま保存できないかと考えたのですが、

       
    1. )Monkey kidney:3回やって3回とも失敗。

       

    2. )Rabbit kidney:2回やって2回とも成功しました。2種類、1立方cmに切るのと、3立方cmに切るのとやってみました。Glycerol濃度は5%、10%、20%の内10%がoptimalでした。あと2%CS+Lact,hyd.+Earle'ssalineです。2週後にtrypsin消化して培養したら増えました。但しinoculumは非常に多くなければ駄目です。例えば生のままですと、20万/mlに入れるのと同結果が40万/mlで得られました。株細胞はまだやっていません。

       

    3. )primary culture:monkey kidneyの細胞を2ケ月間凍結してうまく行きました。しかしこれも固体差が大きいようです。

       なお凍結後のvirus感受性、染色体の変化を目下検討しはじめています。LやHeLaは凍結の直後、第1代では染色体像は変化していません。

     
  3. )培地と染色体変異との間の関係:

     HeLaのcloneS3からさらにcloneを作ってみました。S3は7日間に仔牛血清10%+LYEの培地で8〜10倍ふえますが、作ったcloneのAは14〜15倍、Cは12〜14倍増殖します。染色体はまだ見てありません。仔牛血清濃度を2%に落すと、増殖は7日に8〜10倍になってきました。virusに対する感受性をplaqueでしらべるとあまり差はありません。今後はPVPやfractionVを使ってみたいと思います。

     

  4. )放射線及ウィルス耐性細胞の染色体分析:

    1. )ウィルス耐性細胞:1959年中野氏が分離したECHOウィルス耐性のHeLa亜系は、そのままでは染色体数のばらつきが大きいのでcloneを作ってみました。染色体数分布はpeakは次の通りです。E2(70本と90本にpeak)、E5(70近く)、E6(少し少ない方にpeak)、E9(E6と同じ)。耐性系ではCPは殆ど出ません。つまり耐性が維持されています。またE2は染色体像が元に戻りつつあるような感じがしました。またvirus耐性のものとCO60-耐性のものと染色体像が似ています。virus耐性細胞系にCO60の照射を行いますと、1,000レントゲンでは細胞の照射後のviable countは、HeLa(39)、E9(48):500rではHeLa(52.4)、E2(71.7)、E5(72.0)でした。一回だけの実験なので今後くりかえしてみたいと思います。こうして照射した後は中々増えません。latent infectionを考え、上清をHeLaに入れてみましたが、CPは出ませんでした。

       

    2. )CO60耐性細胞:78本を中心にして広範に分布しています。3,500〜4,000rをかけると 70本近、4,000rでは90本近くにpeakがあります。70〜80本にpeakが行き、4倍体がふえています。6,000rから10,000rになるとpeakは70本附近ですが倍数体がふえてきます。倍数性のはっきりしているものは物理的要因に対して抵抗性が強いのではないかと思われます。現在ウィルス耐性の過程を追って染色体をみて行く予定です。Karyotypeを目下しらべて居ります。Lで耐性のものにはdicentricのものがありますが、HeLaでもあるかどうかしらべています。



 :質疑応答:

[堀川]ECHO耐性、CO60耐性の染色体peakにふらつきがあるようですが、もともとあるものですか。もっと観察数を多くしなければならないような気がしますが。

[奥村]peakというよりもdistributionのmassとしての特徴ととらえて行かなければならないと思います。

[掘川]大変ですね。Lなんかはまだふらつきが少ないんですね。

[奥村]S3はふらつきが少ない点で使っています。

[堀川]Karyotypeに共通性がありますか。

[奥村]あります。HeLaは人由来という点が魅力です。

[土井田]ふらつきのある二つの亜株間の比較は難しいですね。共通点があるというのも難しいですね。

[奥村]統計学的な方法で解決できるだろうと思いますが・・・。

[土井田]僕の方は、Lで63本を集団の代表値としてとって、その中で比較しているのですが・・・。

[奥村]peakがはっきりしている場合はそれで良いでしょう。

[土井田]さっき云い落したのですが、63本に対してそのtriploid、tetraploidとして数がぴったり合う細胞が現われるのです。その意味からも私たちのLの63本という算定は正確なのではないかと思います。

[奥村]DK株というのが、やはり使っていますが、北大の獣医で作ったものだそうで・・・本当に犬からできたものかどうかに少し疑問があります。細胞のContaminationではないかと云われています。

[勝田]それはきっと鈴木君の作ったJTC-5でしょう。変なウィルスがかかるという話もありますね。

[高木]HeLaS3の腫瘍性は・・・?

[奥村]判りません。

[勝田]これからは株を作るときは何か特殊目的のあるときだけ作るようにしないと、維持して行くだけでも大変です。もっとも細胞の凍結保存ができれば楽ですが・・・。その意味からも、凍結保存したあと染色体が変らないかどうかという研究は必要且急を要する問題である。

[奥村]グリセロールを入れる目的は何ですか。細胞内に大きな結晶を作らない為ですか。[勝田]そう云われてますね。夏に学生がやったテストではProtein-freeの株はどういう訳か凍結保存が難しいので一層困っています。

[奥村]高野氏の説ではマウス由来の細胞はGlycerol 5%、ラッテ由来は10%、人のは20%がよいと云う話ですが・・・。

[勝田]あの位の数の細胞をみただけでは、そんなこと未だ云えないと思います。私はむしろ培地中の至適血清濃度と関係ありそうな気がしています。

[佐藤]さっきの人羊膜細胞の培養が中々うまく行かないという話ですが、岡山大小児科の喜多村氏が株(JTC-3)を作ったときは染色体の変化などしらべなかったので、その後何回か培養を試みたがうまく株化しないそうです。非公式の話ですが。

[奥村]私の処では8例中2例は増えていますが、あとは全部だめでした。培地はLhや 199、EarleのSalineなどで、この2例は10%仔牛血清+M・199です。外国でもFL以外に色々やって旨く行かないようです。

[勝田]凍結保存ですが、凍結後Nigrosinでviable countをしらべましたか。

[奥村]Monkey kidney cellsで凍結前、生存細胞が20〜24%なのが1ケ月凍結後は8〜14%になります。Rabbit kidneyでは28〜31%が1月後に11〜13%です。

[勝田]高野君のやったのはもっと落ちが多かったと覚えてますが・・・。

[奥村]高野氏のは悪い時が8〜10%、良いときは96%位と思います。最近-90℃の凍結装置を予研で買う予定です。

[高木]植えつぐ直前の時期の細胞を凍結するのですね。

[奥村]そうです。

[勝田]凍結の前後で増殖曲線を比較しなくてはいけませんね。あまりちがうと問題がある。

[奥村]Semiam virus(猿の雑ウィルス)は2週間になって出てくるので、それ迄に使わなければならず、従ってlayが余り長いと問題です。ミドリザルはSemiam virusが非常に少ないのですが、米国ではこれの株を作って、polioの感受性が非常に高いということです。

[勝田]Semiam、特にSV-40はミドリザルの培養でしかCPが出ないので、これ迄気付かれなかったわけですが、雑virusのcontamiはVaccineを作るのに非常に問題になるわけで、今後はその検出の容易な株細胞を作ることも大切ですし、株自身にもvirusのcontamiを起さぬように気をつける必要があります。Semiam virusのことを考えると、いつかはVaccineも、腫瘍性を持たない株細胞で安全に作られるようになると思います。

 問題が腫瘍から外れてしまいましたが、in vitroで腫瘍を作ることと、腫瘍にならないようにしながら長期継代することとは、一つの紙の裏表みたいなもので、やはり我々とは関係の深い問題であると思います。