《勝田報告》A)発癌実験:うちでBreedingしているJAR系ratがようやくまた仔を生みはじめましたので、今度は発癌剤としてDABを使って実験をはじめました。これまで2回スタートして居りますが、第1回は12月20日にはじめたもので、生後1日のラッテ肝を回転培養し、1週間後からDABを1μg/ml、15日間与えました。しかし今日までのところでは、対照と同様にごく僅かのmigrationが見られるだけです。第2回はこの1月11に、生後9日ラッテの肝を培養し、こんどは第1日からDABを同濃度に4日間加えて居りますが、今日までのところでは特記すべき増殖は得られて居りません。どうもDABは発癌がおそいので、また4ニトロキノリンに戻ろうかと考えています。
[遠藤]東大理学部生化の寺山研ではDABのいろいろな誘導体の発癌作用をしらべて居ますが、メチル化したDABだと2週間で動物が発癌するそうです。 [山田]病理組織学の方になりますが、2、3年前のBrit.J.Cancerに出ていたHydrocarbon を使っての発癌の仕事、mouseを使った実験ですが、センイ芽細胞の方が増殖が悪く、上皮様細胞の方が良い・・・というのは、この班のような発癌実験が全部陰性だった場合に備えて、何かしらのデータが積極的に出る訳ですから、誰か手をつけておくと良いと思います。 [勝田]山田君は病理だから頂度良いでしょう。お宅でやってくれませんか。 なお発癌の手技として癌ウィルスを使う手もありますが、これはむしろ釜洞班の本命の一つでもあるわけですから、うちの班ではやらない方が良いと思います。Antimetaboliteなどを使う手も我々の試みるべき一つの途ではないかと思います。 [山田]腫瘍化を測定する方法はどうするのですか。例えば特別な点で細胞増殖があるかとか・・・。 [勝田]それは他の班員にはもう何回も話してあることですが、私のこの実験の場合には、ラッテの肝細胞は生命を維持しているだけで、増殖はしないのです。だから発癌して増殖をはじめると、すぐ見付けられるわけです。但し、癌化した細胞が果してその培地で増殖できるかどうかは判らないので、1系の実験でも培地は何種類も使った方がのぞましい訳です。また使う材料もできるだけきれいな純系の動物を使うと、あとの復元接種試験がうまく行くことになります。 B)Parabiotic Cell Culture: ラッテの正常細胞と腹水腫瘍との間の相互作用を先般までしらべましたが、その後それを補足する意味の実験を若干やりました。まずAH-130とラッテ心センイ芽細胞との間では、正常センイ芽細胞は殆ど影響を受けないのに対し、AH-130は4日以後に軽い抑制を受けました。これはもう数回くり返してみる予定で居ります。 次にAH-130と正常肝との間の相互作用ですが、生体の内で癌が出来はじめた頃のことを考えると、AH-130の細胞数に対し正常肝の細胞数が少なすぎるので、後者をもっとふやして見たらどうか、という抗議が以前に出ましたので、こんどは正常肝を192,000/tube、AH-130をぐっとへらして4,000/tubeに入れてみました。TWIN-D3で回転培養したのですが、これが失敗でミリポアフィルターのところに肝細胞がつまってしまって、AH-130側の液が肝側に移ったきり戻らず、AH-130の増殖が抑えられてしまいました。今後はTWIN-D1で静置培養してみたいと思います。 C)無蛋白培地継代亜株: 1961-2-13よりHeLa・P2(PVP+LYDで継代の亜株)を0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液だけの培地に移しましたが、これがずっと今日まで継代され、33代になりました。1週間に3〜4倍の増殖率です。
[山田]L・P1の増殖率と比べてどうですか。 [高岡]L・P1の方はずっと良くて1週間に20倍位の増殖をしています。 [山田]Lの各無蛋白培地亜株についてちょっと説明して下さい。 [勝田]L・P1はPVP+LYD培地、L・P2はLYD培地、L・P3は合成培地DM-120、L・P4はLD単独で夫夫継代しています。L・P3は良いときは10倍位になっても悪いときは3〜4倍で、どうもむらがあります。今後いちばん有望なのはL・P4で、これはかってのL・P1のように、殆ど全部が単核のきれいに揃った細胞ですし、栄養要求も簡単ですし、合成培地DM-120でよく生えますので、今後色々な実験に大いに使って行く予定で居ります。無蛋白培地は緩衝力が弱いので継代が中々難しいです。 [山田]virusをかけるとき良いと云われるTris-Bufferを使ってみたらどうですか。 [奥村]Galactoseを入れるともっと良いという報告もあります。MK系の細胞で0.004% Galactose+0.02%Glucoseです。 [勝田]Glucoseの代りにGalactoseを利用できる細胞と、そうでないとで相違があるでしょうね。
この細胞から何系も培養していますが、最初に発表するのはMK-D1株と仮称しています。目下このpolio virus感受性をしらべていますが、強毒株にはI、II、III型ともかかります。問題は弱毒株で、米国のMK株は弱毒ウィルスは駄目なのです。まずI型弱毒からしらべかけていますが、予備試験では罹ることが確められました。この株はウィルス用なので、1週間培地交新しないで基礎的データをとり初めています。継代培地は5%牛血清+0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液です。至適血清濃度は培養日数と共に上がり、7日後には10%になります。こんな点と、中々PVPなどを使った無蛋白培地では増えないことから、どうも蛋白を栄養源として使っているのではないか、という気がしてなりません。サル腎臓細胞の初代培養ではPVP+LYDの無蛋白培地でかなり良く増殖するのに、この株では細胞の生命の維持もできないということは不思議で、初代で無蛋白で増える細胞とは別の細胞がこの株になったのか、或は長期継代中に、微量に必要な物質の細胞内プールが切れてしまったのか、色々なことを考えさせられます。しかしとにかくウィルスに使うためには無蛋白培地で少くとも維持だけはできぬといけないので、目下各種の方法を試みていますが、無蛋白培地に移すと数日の間に細胞質がやせてしまって、栄養不良の形態を示します。 Skimmilk、Bovine albumin(FractionV)、Yeastlateなども使ってみましたが、良い結果は得られませんでした。virus vaccineを作るのに、株細胞ではmalignant transformationを起している可能性があるというので、virus屋さんは毎回猿を殺してpraimary cultureでやっていますが、これでは、経費が高くなり雑ウィルス混入の可能性も強いし、第一、その内にサルが居なくなってしまう可能性がありますので、我々としてはぜひ腫瘍化していない株を作る必要があります。この辺のところが逆にin vitroの腫瘍化の問題ともひっかかってくる訳です。
[山田]猿1匹の腎臓から細胞はどの位とれますか。 [奥村]腎臓は約10グラムで、30万個/mlの浮遊液だと2リットルとれます。 [奥村]無蛋白培地でやせてくるのは何日目からですか。 [高岡]移して次の日に見るともうやせはじめ、それがどんどん進行して右図のようになってしまいますが、そのまま無蛋白培地をつづけますと、1〜2ケ月でまた細胞質がふくらんでくるようです。目下観察中ですが・・・。 [山田]やせる前のこの細胞はセンイ芽細胞様ですか。チェッコの人のデータですが、初代培養は細胞の形が3種あって、数の上では上皮様が多く、株になってから、alkaline phosphatase活性の有無で同定しているようです。このaseの強い方が壁につき易いというのです。 [佐藤]私の処でEhrlichの培養の血清濃度を下げて行って5〜2%位にしますと、2日後に細胞がやせてきて、頂度ウィルスをかけたときのCPみたいに、右図に似た形になってしまいます。
大まかに云って、
《高木報告》A)発癌実験:大きく分けて三つやりかけています。 1)JTC-4株にDABを与える実験はこれまで3回Wister Kingのラッテに復元接種してみましたが、何れも失敗に終りました。もっともHeLaで復元の練習をしてみましたが、これも失敗しましたので、technical failureかも知れませんが。 2)シリアン・ハムスターを予研から頂いて、これをbreedingしています。沢山にふえたらkidneyを培養してstilbesterolを使って見たいと思っていますが、生まれた仔をたべてしまうハムスターもいたりして困っています。JTC-4にDABをずっと与えたのは11月から増殖が悪くなったので通常の培地に戻して継代しています。今後は復元法をもっと研究すると共に、 3)4ニトロキノリンの実験を癌研の遠藤先生と協力してやる予定です。つまりこれを使うと封入体ができて細胞が死にますが、封入体ができずに生残った細胞について追究するつもりです。 B)免疫学的研究: HeLa、FL、JTC-4、JTC-6を使っています。CP、蛍光抗体、凝集反応、赤血球凝集などで追うわけですが、抗JTC-4兎血清を作ってこれらに使うと、JTC-4、-6だけは蛍光陽性で、speciesの特異性だけは出ます。organ specificityまで行くにはどうしてもAntigenの精製をやらなくてはならぬと思います。次にFLでゲル内沈降反応をやってみました。1億個の細胞をテフロンのホモゲナイザーでこわして、凍結融解せずに(すればよかったのですが)soluble antigenだけを45,000gにかけ、上清からは11mg(乾重)、沈渣は6回凍結融解して12,6mgとれました。CPx80のFLの免疫血清をシャーレの中央におき、まわりにはAntigenを5倍稀釋で10mg/mlから順次に入れましたが、1週間たっても沈降線が現れませんでした。穴の大きさは径18mmです。そこで次に同材料を50mg/mlから5倍稀釋でやりましたが、これも駄目でした。抗原と抗体とにはやはり至適の量比があるので、まずそれを決める必要があります。
[山田]ColterのNucleoprotein、WeilerのMicrosome fractionなどでやってみたら如何です。 [高木]とにかく、とれる収量が少くて、角瓶10本で23mgですから、今度は角瓶50本でやって見ようと思っています。 [山田]ルー瓶を使うと良いですよ。3本使えば1億のオーダーになります。培地は20〜 50ml。但し底面の平らなのをえらばないと駄目です。 [佐藤]細胞とAntigenを一緒に入れて培養するとどうなりますか。 [高木]それがCP法で、細胞はこわれます。Complementを加えぬとこのCPは可逆的ですが、補体を入れると不可逆的になります。細胞は若いのを使うのがよろしいです。頂度シートのできる時位。 [佐藤]私の処では最初から抗体を入れると、細胞は塊を作りますが、細胞数はじりじり増えて行きます。Ehrlichの1%牛血清にならしたsublineです。 [山田]このCP反応を染色標本で見ると、原形質の青味がぬけ、核の凝縮が見られます。[佐藤]DABを加えると細胞の形態はどうなりますか。 [高木]Atrophyを示します。うちも愈々Zeissの蛍光光源を買ってもらえることになりましたので、来年度からは蛍光抗体法を沢山やれることになります。 [勝田]京大の岡田氏のところではOrgan-specificityが馬鹿に良く出ているような話ですが、5月に京都へ行ったときぜひのぞいて見ると良いと思います。 [奥村]ハムスターの仔を食うくせのついたのは、もういつまで経っても癒りませんから交換した方がいいですね。
L株はPVP・0.05%+Lh・0.4%の培地に簡単に馴れましたが、増殖性というか、細胞シートの安定性がどうも不安定で困っています。tubeを立てて培養するか、コルベンだと良いのですが、横にねかしたり角瓶にしたりすると、シートが剥れ易いのです。増殖率は週に5〜6倍というところです。JTC-4は血清を2%位までは減らせても、どうしてもPVP培地では永くつづきません。 [高岡]管を立てて培養すると良いという点はL・P4と良く似ていますね。
米国では培養細胞に特に効果を与えず、核酸へのとり込みも見られないと報告されていますが、私は小野製薬で作った水溶性のdemethylamideの型のものを使ってみました。細胞はL(LT+50%BS)、FL(LYT+10%BS)、Chang's Liver(LT+20%BS)、JTC-4(LYT+BS20%と5%の2種)、HeLa(LYT+5%BS)の6種です。濃度は0、10、50、100、1,000μg/mlに加えました。結果はFLとHeLaには影響は見られませんでしたが、JTC-4でBSを5%にしたもので少し促進効果が認められました。10、50μgのところです。Chang's LiverではBSを5〜1%に下げると50μgを中心にしてやはり促進効果が見られました。遠藤班員の云われる栄養値の低い培地の方が促進効果が出やすいという説によく一致しました。(註:このことは1959、伝研の研究生・斎藤重二の骨の培養の論文の中ですでに指摘している)。細胞の形態学的観察はいたしませんでした。
[佐藤]Orotic acidは担癌動物の延命効果があると云いますね。 [奥村]ChangのLiverは動物につきますか。 [山田]ハムスターとラッテにはつきます。この細胞はJTC-6に比べて染色でglycogenが多く出ます。勿論生体の肝に比べれば遥かに少いですが。どうも実質細胞ではないかと、また云われはじめました。 [高木]Changの処ではLiver株を新しくとっているそうですね。 [山田]染色体数は・・・。 [奥村]前にしらべたのは60本位で、多くなっています。
《伊藤報告》L・P1を使って、腫瘍のS2分劃の仕事をつづけています。S2分劃をトリプシン消化し、これをIRC50とIR45を通すのですが、前者を素通りするものをニンヒドンで発色させると右図の実線のような曲線になりました。280mμの吸収で点線のように左のピークに一寸肩がつき、右の方に小さなピークが現れます。そこで右図のように四種の分劃に分けて、夫々の促進活性をしらべたところ、III分劃に認められました。IRC50を通したままでは活性はS2に比べて100%残っているのですが、III分劃では60%に落ちてしまいました。 次に青木先生がやって居られるのですが、C3Hマウスの自然発生乳癌をトリプシンで消化してprimary cultureで培養ができるようになりましたので、将来はホルモンの影響などみて行きたいと思って居ります。長期継代も昨年秋からつづいています。 高井君の方は重症患者の担当になって、自分の株をついで行くのがやっとです。
[勝田]primary cultureだとcontrolをとるのがむずかしいね。うちでも乳腺細胞を培養しようと思って探してみても、経産ラッテでは乳腺が見付からないで困っています。妊娠ラッテでは勿体ないのでケチをして反ってやれないでいます。 [高木]C3Hのspontaneousの乳癌発生率は? [佐藤]経産の1〜2年で50%位です。株によって差はありますが。培地は何ですか。 [伊藤]BS5%〜10%+LD 0.4です。 [遠藤]大分昔ですが名大の増田先生がexplant cultureで発癌とホルモンの関係をしらべています。 [佐藤]私のところでは初代は培養できるのですが、あとがつづきません。 [高木]ddDマウスで3〜4代までは行くが、6〜7代で絶えてしまいます。培養するに従って段々悪くなります。 [伊藤]うちでは今、14〜15代になっています。なお久留先生の去られたあとは、私はそのまま阪大に残り、やって行くつもりです。発癌実験も、神前先生が何か独特の構想をもって居られるようなので相談しながらやる予定でおります。そのほか他の者ですがEhrlichも株になったようで週約4倍の増殖ですが継代しています。 [高岡]形はまるい形をしていますか。 [伊藤]まるくありません。揃ってきれいです。 [高木]PuckのN16HHFを使ったらどうですか。 [山田]Puckの処の染色体の変らないCell lineは、はじめはN16HHFEでしたが、その後EarleのNCTC109にvitamin、アミノ酸を加え、血清10〜15%で継代していますが、頬の皮膚をひっかいて、そこに再生するところをまたとって培養するのです。fibroblasticの形をしています。しかし時々切れて居ます。 [高木]血清を使ってcell variationに影響しないのでしょうかね。 [山田]染色体数が正常といっても、それがピークを作っているだけのことで、やはりある幅を持って居り、幅がひろがるとcloningをやってきれいなのに戻すわけです。
《遠藤報告》はじめに前号月報の謝を訂正しておきますが、瓶のまま室温で1日放置して、そのあと次の日短試に分注したら、lag phaseが大きく出たのです。分注してからおいたのではありません。 今回は細胞をあまり増殖させずに、maintainする目的で色々やってみました。細胞は全部前と同様HeLaです。BSを1%にして11,000/tubeの接種量で培養してみますと、やはり4日までは細胞数がぐっと下り、それから6日目にかけて立上りが見られました。 Progesteronを与えると、この立上りの曲線が大いに促進されます。しかし定性的には促進効果は判っても、定量的にはつかみにくくて困ります。そこで2%BSにしてみますと、データは一寸変っていますが、contamiがあってtube1本だけの点もありますので、この実験では一寸ものを云えません。BS3%にしますと2〜4日までmaintainされました。またprogesteroneの0.16mg/lあたりで6日目に促進がはっきり出ています。 次に細胞のinoculumをふやして56,000/tubeにしてみますと、BS3%で1週間に6〜7倍増えました。inoculumによってふえ方がまるでちがうので、今後はこのinoculumにもとずいて、また諸条件を検討しなくてはならないことになりました。 ホルモンをとかすのにエタノールをこれまで使っていましたが、実はその毒性が大したことないと思って、しらべてなかったのです。Final 0.2%に培地に加えてみましたところ、3%BSの培地で明らかに増殖抑制が現れました。昔の文献にもexplant cultureで0.2%でdetectable injuryありとかいてありますが、これではホルモンがアルコールの解毒作用をしていることになってしまいますので、別のsolventを探すことにします。 結論として、今日のデータでは定量的な形でデータが出ないので発表はできないと思います。
[山田]序列の推計学を使ってみたらどうでしょう。例えばどの濃度が一番良かった、2番、3番・・・として、1番がいくつあるという具合に。 [遠藤]Factorがいくつもあるのでむずかしいと思います。例えばinoculum sizeのちがいに依ってもデータが変ってきます。要するにcontrolが一定にならないのが困るのですね。[山田]促進物質についてですが、この場合のカーブを分析すると、一部の細胞は死に、一部のはふえている。その合計があのカーブに出ているのではないですか。特に培養初期にカーブが落ちるあたり。 [勝田]ニグロシンで生死計測をやってみたらどうですか。 [山田]もっと別の培養法を使ってみる手もあります。たとえばMarcusのWindow techniqueを紹介しますと。シャーレに細胞をまいて、その裏に小孔を沢山あけたアルミニュウム板をはりつけ、倒立ケンビ鏡で各孔の中の細胞数をcountします。見えにくい時は緑色のフィルターを通すと見えよくなります。この方法でやると、colony formationよりplating efficiencyが高い数値になります。 [佐藤]シャーレに線をかいても良いわけですね。 [奥村]対照群も数日してから急にふえていましたが、Synchronizeされているのと違いますか。 [勝田]あそこでSynchronizedの増殖をやったのならまず数が2倍近くの増え方でしょう。 [佐藤]無蛋白培地でやった方がホルモンの作用がはっきりするのではないですか。 [遠藤]それは勝田さんのところでやって、Progesteroneの効果が出ないとされています。 [勝田]それは成績にむらがあって深く追究していなのですがね。 [佐藤]Yeast extractが入っている細胞の場合、Yeを抜くと細胞数が一時減りますが、また何日かしてYeを入れてやると猛烈にふえるようになります。培地組成をminimumに抑えると細胞のAdaptationが敏感になるのではないでしょうか。だから最低の栄養にならして、そこから出発したら如何でしょう。また20%BSで継代していて、急に少ない培地へ入れるからデータが揃わないのではないですか。つまり最低栄養要求の株をとって長期にならしてからやるのが良いと思います。 [伊藤]しかし一面、in vivoの条件にできるだけ近いところでしらべないと、biological significanceが少ないという問題も出ます。 [遠藤]私もそう思います。
[勝田]北大のデータはProgesteroneは促進効果がないということになっていましたが、(月報No,6108)これは技術的な問題もからんでいるのではないでしょうか。
これらのことの影響があるのではないでしょうか。 [佐藤]血清とホルモンのinteractionはどうですか。 [遠藤]あることは判っているのです。血清をとった牛が♂か♀かでもデータは変るわけです。いままでホルモンは反応のresponseをmodifyするだけと考えられていましたが、自分のデータからしてももっと根本的な代謝に関係するのではないかとも考えられます。 [佐藤]血清がないときホルモンが効かず、あるとき効くのならもっと血清濃度を上げたらどうですか。 [勝田]この両者は一定比で結合するのだろうから、蛋白ばかりふやしても意味がないでしょう。 [山田]判定法ですが、増殖曲線の傾斜角度で比較したらどうですか。それから血清中にどの位ホルモンが混っていると考えられますか。 [遠藤]人間の場合平均して女性でProgesterone 1μg/ml位です。 [高岡]実験に使う前の代の条件を揃えてありますか。いつも細胞が同じような条件にあるものを使わないと対照群が揃わないと思います。 [山田]そうStandarizationをやり直す必要がある。 [遠藤]2月から後輩が一人入ってくることになりましたので、この方にはHeLaにテストステロンの影響をしらべさせたいと思っています。 [勝田]ホルモンも、拮抗ホルモンのAntagonismまで持って行かないと、本当にホルモン作用しているのか、栄養源的効果なのか判らないですね。 [遠藤]きれいな条件を作ってから拮抗を考えます。そして子宮の癌としてのHeLaというものをはっきりさせられるように進みたいと思います。 [勝田]私は1種類の株細胞だけをいじっているのは疑問だと思います。対照となる細胞lineも揃え、比較検討して行く必要があると思います。 [遠藤]最近Gyneの小林教授と関係があるので、子宮から材料をとって株を作りたいと思っています。 [高木]私の経験ではパラパラとしか生えませんね。初代はうまく行きますが。 [奥村]PackのN16の培地を使ったら・・・。 [勝田]合成培地というものは栄養的に完全なものではないから、やはりはじめはnatural mediumでスクリーニングしてひっかけ、それから次第に合成培地にもっ行く方がよい。 [関口]HeLaのmitochondriaや細胞成分について生化学的に検討したら如何ですか。 [遠藤]ATPoxidationは阪大・奥貫研でやっています。但し7日間に6倍しかふえぬ株で細胞条件が一寸無理のような感じです。in vivoの実験ですが、EstradiolはDPN-DPNH2、TPN-TPNH2系にCO-enzymeとして関係するという報告はあります。Progesteroneのin vivoの実験はありません。 [勝田]いきなり酵素レベルに持って行くのは、うまく当らない危険性があります。やはり沢山のEnzymesの綜合responseである“増殖”を尺度にしてOptimalの条件をきめてから入って行かぬと無駄骨になることがあります。
《奥村報告》この前の連絡会で4種の研究を予定にあげましたが、環境上やはり中心になるのは、
A)初代培養: かにくい猿では、腎臓の他に、肝、心、大脳皮質などやっています。最後のはEmbryoの材料でまだつづいてはいますが、一月に継代したら、その後あまり良くありません。 みどり猿(1匹8万円位)は、雑ウィルスとくにSV40が少ないのですが、腎は11代目になって居り、各代増殖率をしらべる群は2代目に入っています。睾丸は2代目、その他小腸、肝、心もやっています。 人羊膜はこのごろ大分うまく行くようになりました。0.25%トリプシンで消化し、20%仔牛血清+M・199でよく生えますが、固体差が大きく、駄目な人のときは全然駄目です。 人胎盤はホルモンと関係があるから面白いのですが、70%はシートをつくりますが、色々の細胞が混っているのと、血球を除くための前処理が大変という難点があります。 マウスの脾臓をN-19とM・199に夫々牛血清20%加えて培養しますと、前者では非常に良く生えます。
B)凍結保存:
HeLaS3を使ってみましたら、凍結35日後にまた培養すると、mitosisの数が少ないのですが76本と80本の染色体が見られました。62日後には76本のが8ケ中3ケありました。全部で50ケのmetaphaseの内です。S3の原株は69〜80本の幅があり、HeLaの原株は60〜88本の幅がありました。Puckのところのようにきれいではありません。結局、76本のがpredominantで残るとは思われますが、もっと計測数をふやさなくては仕様がないところです。 [遠藤]ポラロイドのフィルムは非常に感光度が早いので、露出overにとってしまうことが多いから注意が要ります。 [奥村]ECHOウィルス耐性の株は、凍結保存したあと継代3代目にきれてしまって、耐性をテストできませんでした。簡単なcloneのとり方として、2mm角位に濾紙を切り、0.25%トリプシン液を含ませ、狙うcolonyの上に3分間のせておき、それをとり出して次のシャーレにまく方法をやってみました。3回中2回成功しました。 [山田]Puckのところの新しいClone formationのやり方として、細胞をまいて24時間後に、細胞が1ケだけあるところを顕微鏡でしらべてマークし、そこへ硝子の細いシリンダーを立てトリプシン消化します。シリンダーの下端はシリコングリースを塗っておきます。 [奥村]牛血清を1年間同じものを使えるように100l集めています。夏の血清は駄目なので、冬あつめているのですが、冬の仔牛は少く、雌雄の別はできません。
《山田報告》私は発癌実験はマウスでやろうと思っています。放射線を使うと白血病ということになり、奥村君と共同してやるつもりで居ります。X線もHeLa以外の細胞でどんな影響があるか見たいし、耐性も培養でやってみると細胞レベルで耐性のあることが判ります。 X線照射で生き残った細胞にさらに照射をくりかえすと図のIカーブになり、スロープのなめらかな部分をclone formationでとると図のIIIのようなカーブになります。そこで30%survivalになるDose(D1)を照射して、細胞のradio-resistancyをしらべて見たが、うまく行きませんでした。今後はX線照射における耐性の問題を一つの課題として仕事をすすめたいと思っています。 発癌はマウスのspleenの細胞を使いたいと思います。それからS3も東京でplating efficiencyが100%になるかどうか見てみたいと準備しています。
[高岡]10-6乗で封入体を作ると云われていますので、うちでは10-8乗で使っています。とかすときは10-4乗にアルコールでとかし(よくとけます)。それを水でうすめて10-8乗にもって行きます。この方法だと沈殿が出ません。これは冷蔵庫に保存しても1月で駄目になりますし、熱処理すれば発癌性を失います(九大・遠藤氏の話)。ですから使った器具は熱処理しています。 [山田]4ニトロキノリンの耐性も検討したいと思います。 |