【勝田班月報:6206】




《勝田報告》

発癌実験の研究状況:

 DABによる発癌実験は9回までおこないましたが、結果は次頁の表に一括して示します。ここで気が付きますことは、C#4〜7とC#8〜12とはDABをといた液をさらにうすめるとき用いた牛血清が別のlotになっているということです。そして前者の群の方がどうも成績が良いことです。つまりDABが蛋白に結合して作用するとすると、その結合する蛋白によってどうも結果が大分左右されるのではないか、ということが想像されますので、Homo或はAutoの血清をこれに使ってみることを現在試みて居ります。次に実際に細胞の増殖の起る時期(第12日位がきわめて多いのですが)にもRatの血清を使う必要があるのではないか、という気もします。つまりそこで培地によるselectionが行われるわけですから、復元試験したときRatの血清の中でどんどん増えるような細胞をselectしなければならないからです。またこれらの結果を通覧しますと、どうも若すぎるratはControlまで増え、年老りすぎたratではExp群が仲々増えず、結局、生後20〜25日頃のratがいちばん良いのではないか、という感じを受けました。次に復元方法であるが、昨日の組織培養学会の安村君の話では脳内接種>腹腔内>皮下の順に成績が良いとのことなので、我々としても今後はぜひ脳内接種を試みたいと思います。ただし(ちのみ)でないと駄目だとのことでしたが。(復元試験は1962-3-15に約10万個の細胞を48日のラッテ腹腔に接種したが、何れも.次第に消失し、陰性結果となった)



 :質疑応答:

[山田]復元ですが、Ehrlichの場合は、10万個腹腔と100個脳内とでは後者の方が良結果です。またRatのageにより成績が異なるというのは、他の動物にも見られる一般的傾向ですね。

[勝田]DABと細胞増殖との間にはまだ未知のfactorがいつくかあるし、Ratの日齢と増殖との間の関係も一定の基準を早く決められるようにしてあとの実験を進めたいと思います。

[佐藤]血清とDABと混ぜて保存(冷蔵庫)していると沈殿が出ます。ラクトアルブミン水解物を含む液にとかしたときもやはり沈殿が出て、それが溶けない。Salineで保存すると出ない。そんなところがC#4,8,9,10あたりのNoneと関係が無いでしょうか。また血清を保存しておくと次第に増殖促進能力が低下しますが、それもあとの方の成績の良くない一因ではないでしょうか。

[堀川]使った容器の処理は?

[高岡]はじめに溶くときやDAB処理の培地をはじめに培養に入れるとき使ったピペットは全部棄てますが、roller tubeはずい分うすめられている訳ですから、高圧をかけてDABをこわし、また使います。

[山田]肝細胞に貪食能がありますか。例えばTB菌をPhagocyteがとるように、異種血清による貪食促進でDABがとり入れられる、ということがあるかも知れない。

[堀川]貪食についてはmacromolecular levelで充分取込まれるということがScientific Americanに出ていました。

[佐藤]ラクトアルブミン水解物とDABとの間のinteractionについてはどうでしょうか。

[関口]あるとすればPolypeptidesとのinteractionがあるだろうと思いますが、詳しいことは判りません。

[佐藤]沈殿は結晶様で肉眼で見えるということ、特に血清とラクトアルブミン水解物の混ぜてある液にDABをといたとき鮮やかに出るということは、留意すべき問題と思います。

[勝田]Ratの年齢、血清の種類、それとのDABの結合、この三つを当面の問題点として検討して行きましょう。

[山田]脳内接種には、特にそれ用に使う針を売っています。ウィルスを入れるときと同じに考えればよい訳です。注入量はマウスで1匹あたり0.03〜0.02mlですが、若いマウスの方が損傷が少ない。これは脳圧に関係している訳です。

[佐藤]小脳、中脳を避けて針を刺すことが大切です。

[山田]こまかい実際的なテクニックはvirus系の人にきくとよいです。

[勝田]Ratは純系を使うに越したことありませんが、それより大事なことは、自分の研究室で交配出産させて、はっきりageの判っているratを使うことが現在の段階では大切と思います。



《山田報告》

ddY系マウス肝組織の初代培養に対するDABの作用:

 6月9日現在まで、5回実験を行っています。DABの使用法、培養法はNo.6203記載の高岡さんの報告通りです。培養液としてはTC199+20%仔牛血清を用いました。

 マウス日齢の若いものでは実験群、対照群ともに上皮性細胞が増殖してきます。今さらに日齢をあげて実験を計画中です。下の表で増殖とあるのは申し合わせの通り、上皮性の細胞増殖のことですが、その他皆さんの話にあった箒星様の細胞の他“喰細胞”のような細胞もでてきます。どくに長期間培養したものでは“喰細胞”の大きなコロニーが出現して、1ケ月近くなってもなおactiveで分裂像もみられるようです。上皮性細胞はExplantをとってしまうと現状維持といった形で分裂像は多くみられません。一本の試験管に多数の組織片をうえた場合には(#1&4)はじめの4日間にpHがさがりすぎて、そのためが細胞の増殖が悪いようでした。



 :質疑応答:

[山田]肝組織のexplantをroller tubeに植えつけるとき、per tubeの数は?

[高岡]あまりexplantの数を多くしすぎますと反って結果の悪いことがあります。

[山田]つけてから乾かす時間は?

[高岡]乾かすといってもexplantをつけたらすぐ培地を直接管底にピペットで入れ、ゴム栓をして立てておくのです。全部のが終るまでですから20分位と思います。大切なのはSalineで組織片を洗わぬことで、こまかく粥状にしたらそのままpipetteでつけるのです。組織液などが糊の代わりをするのでしょう。

[山田]初めの実験ではageが大きすぎましたので、今後は4〜5日の若いところからはじめて見たいと思って居ります。またTween-20を使う理由は何ですか。Tween-40や-80よりも毒性が強いという話がありますが、この辺のところも増殖に作用しているのではないかと思って、私はTween-20だけのもやってみていますが。

[高木]DABを溶くにはTween-20がいちばん良く溶けるからです。



《佐藤報告》

1)発癌実験

 前報No.6205にDAB→呑竜ラッテ肝、実験◇C1より◇C7まで記載した。ラッテの生後日数は36日から79日に到るまでのものであるが、細胞の積極的(継代できる程度)の増殖は認められない。◇C7の対照群のみ後でDABを与えて見るために残して他は破棄しました。◇C8位後の実験は自家繁殖させたラッテの実験です。

 上述の実験はもう少し実験の穴がありますが、

  1. )対照がどの程度の生後日数まで増殖能があるのか? 
  2. )DAB→呑竜ラッテ肝4日作用で対照、DAB作用群の差、云わば発癌係数の最も高い点はいつか?
  3. )DAB→4日で増殖のおこらない生後日数の限界点? 
  4. )継代できる細胞の対照DAB両群の腫瘍性の差?

以上4項目を発見する積りで同腹のもので比較する様計画しました。現在の所次回の実験計画、DABの種類、DABの作用期間、作用方式等について最も大切と思われる20〜30日の発癌成績が完了していないので未だ詳報はできない。此の実験群は北海道の病理学会出席迄には完了できる予定です。

2)組織培養株細胞による抗腫瘍性の増強について

 JTC-11細胞でCb系マウスを免疫すると、originalの動物株エールリッヒ腹水癌のCbマウスでの腫瘍発育を阻止する。この免疫は蒸留水添加の死細胞では減弱する。HeLa細胞ではこの抗腫瘍性は増加しない。L細胞免疫ではJTC-11細胞のCb系マウスへの発癌を抑制するがoriginalの動物株エールリッヒ腹水癌のCb系への抗腫瘍性には強い変化が現れない。

3)現在PVP+YLE及びYLEの継代に成功しています。PVP+LE及びLEは困難を極めています。

4)吉田肉腫細胞株の栄養要求は病理学会に提出していますが、遅れており目下追跡中です。間に合うかどうか心配しています。



 :質疑応答:

[勝田]Ratのageを若いのから順に上げて行くようにしたら良いと思います。

[佐藤]細片のことですが、どうも血液成分が入ってきたなくなりますね。

[高岡]回転培養している内に培地で洗われてきれいになる筈ですが。

[佐藤]あのきらっと光る細胞はたしかに実質細胞だろうと思いますが、どうも増えなくて・・・。

[高岡]硝子面に一杯にふえないと継代はむずかしいですよ。migrationはどんな場合にも出てきます。

[奥村]トリプシン消化した初代培養でglucoseを4倍にしたら偶然によくついて増えました。これはvirusをうえるときの方法ですが試してみては如何ですか。Kidneyのprimary cultureは血清濃度を下げないとEpithelはふえません。2%位にしても良いです。

[山田]Kidneyのときは判定が困難で、fibroblasticといってもそうと判定できないから、この点充分に留意して下さい。

[佐藤]右図のような細胞は私がラッテの腹腔内をトリプシナイズしてとったSerosaの細胞によく似ています。肝被膜由来ではないでしょうか。



《堀川報告》

 これまでDABのtestも2度やりましたが不成功に終っているままです。一方pinocytosisを応用して正常細胞の癌化も先日報告しました様にやって来ましたが総て途中で休止状態です。

 然し私の実験室も一応不完全ながらととのい、実験再開可能な状態にこぎつけました。若さとfightで遅ればせながら、これから追い込みをかけます。したがって7月号からは少なくとも少しはまとまった実験結果を報告できる様な段階にいたします。



 :質疑応答:

[山田]PinocytosisとPhagocytosisの区別如何ですが、Amoebaの場合にはPhagocytosisの方は偽足で積極的に物を取入れることを呼んでいます。

佐藤]Ehrlichの核をLはとるが、Lの核をEhrlichはとらないという具合に、核の貪食能をCytoplasmのcapacityだけに限って解釈するのは一方的と思います。Phagocytosisの能力がないのは癌細胞の属性です。

[勝田]この仕事はまずL細胞の核貪食の機構に重点をおいて進めると良いと思います。例えばその状況を顕微鏡映画にとってみるのも必要です。

[関口]核の取込みから細胞のmutationを論ずる場合はClear cutなCriterionのある細胞をえらぶ必要があります。

[堀川]その点に関しては私はCancerということをCriterionにしているのであって、そのためにEhrlichの細胞株をえらんだのです。

[勝田]ラベルした核が細胞の中でどのような動きをしめすか、特に2〜3回分裂したあとどうか、その辺の機構も興味があります。またX線をかけることによってfeeder layerになっている可能性があるのではありませんか。plating efficiencyについて・・・。

[佐藤]MN細胞でやると良いでしょう。

[勝田]ネズミの腹に死菌を入れてみると、赤血球を中性白血球が食い、それらをさらに組織球が食っているのを見ることがあります。

[関口]X線や紫外線をかけると貪食能が促進されるということは、細胞膜の傷害に関係があるかも知れません。

[堀川]免疫に関係あるかも知れませんね。それからBarskiの仕事についてですが、二つの核が溶合して両方を合せた染色体数の細胞が出てきたと云っていますが、核同志の溶合は果してあるのでしょうか。50本と60本のとがfuseして110本になるというような・・・。

[勝田]細胞間でのfusionはよく見られますが、核のfusionの問題はまだはっきりされていないと思います。



《奥村報告》(期間しめきりまで原稿提出がなく、簡単なメモによる要旨のみ)

A)細胞の凍結保存:

  1. )人羊膜細胞(第2代)
  2. )骨格筋(初代)

を凍結して染色体数をしらべる予定です。株よりも初代或はそれに近いものの方がしらべやすいです。1)はvariationが少く、分裂もまた少い。対照は凍結せずにしらべています。すると5代目位に46本が90%以上出てきます。角瓶1本1000万個位で8個位の分裂像が見られます。

B)ウィルス耐性HeLa:

Hyperploidについて



 :質疑応答:

[勝田]細胞質の吻合の可能性がありますね。

[堀川]Spindle fibreが分裂時に何か傷害を受け或はContact actionで異常となり、染色体数が増える可能性があるのではないでしょうか。

[山田]核型でみてどうでしょう。棒状のに変化は?

[奥村]J−型には異常なくVと棒状ので変化が出ます。このことは非耐性株の染色体数のちがいについてもあてはまります。ECHO-virusの1,2,5,6,9でしらべた場合、染色体数の変化は一致しています。

[堀川]細胞膜での異常も考えて良いでしょう。(Cell Contactとの関係) なぜならばDrosophilaで♂ばかり出る場合、スピロヘータが寄生していたという事実があります。

[奥村]継代していてもnormal modal valueに戻ってこないという事実があり、また耐性株はCPが出てきません。

[勝田]Latent infectionは考えなくても良いのですか。

[奥村]形態も変っていません。Vogt-DulbeccoのデータではKaryotypeの変化なしにウィルス感受性(対ポリオ)が変っています。



《高木報告》

1)発癌実験

これまでのdataをまとめてみます。

培養法:plasma clotを用いない廻転培養法
培地:80%LT培地+20%牛血清
発癌剤と培養細胞:DAB1μg/ml→Wistar King rat肝、Stilboestro1μg/ml→Golden hamster肝及び腎
結果:詳細は表に示す。
 rat肝臓←DABについては、ratの日齢、薬剤投与期間及び培養技術などもっとさらに検討しなければならないと思う。fibroblastが主に増殖し、epithelial cellsの増殖が悪かったのはratの生後の日齢が関係しているのかも知れない。生後11日目のratを用いながらepithelial cellsの増殖が悪いのは薬剤投与期間の長すぎたためとも思われる。

 hamster腎←Stilb.の実験2、4では、始めはepithelial cellsが増殖しているが、5〜7日目からfibroblast-like cellsが優勢になり、遂にはepithelial cellsと入れ代ってしまう。しかし実験4によれば、このfibroblast-like cellsは10日目、14日目で共に2代目に継代出来そうである。

 hamster肝←stilb.の実験2'、4'では薬剤作用群に生えて来る細胞はepithelial cellsであるが、実験2'方が4'より実験群と対照群の差がはっきりしている。これはhamsterの生後の日齢の違いが主な原因ではないかと思う。なお実験3までで増殖した細胞の顕微鏡写真を供覧する。

2)移植実験

 FL、Chang'Liver、JTC-4及びHeLa細胞をtreated hamsterの頬袋に移植したが、前2者については100万個levelの細胞で腫瘤を作ることが分った。後2者については、移植したhamsterが大きすぎたためとも思われるが、はっきりした腫瘤は作らなかったので更に検討中である。次の段階として、細胞数によるtumor-producing capacityをしらべてみたいと思う。

3)免疫学的研究

 数種の株細胞につき血球凝集反応を中心に種特異性などにつき検討すべく準備をすすめている。目下JTC-6株を免疫の予定である。なおFL細胞の各成分についてもgel内沈降反応を行うべく準備をすすめている。



《伊藤報告》

1)発癌

 先日の報告会でお話を聞いて当方での判定が誤っていることが分りました(註・班会議後の提出原稿なので今回討論で指摘された実験を指している)し、一方今後この方法で実験を続けて行く為の自信が少し出来て来ました。従来の実験での結果は別に考えて今後の結果を判断してゆき度いと考えて居ます。又ratは当分Donryuの生後15〜25日位のを使用し、tecniqueが確かになれば、復元と共に、主としてDABの作用期間についての検討をやってみる積りです。Donryuの自家繁殖を始めましたが、未だ適当な日数に達しませんので、それ迄は雑系でtechniqueの習得中です。

2)増殖促進物質

 今迄にも御報告しました様に、L株の場合と異って、L・P1株の場合では、正常肝よりのS2分劃にも相当の促進活性が認められて、其点問題がありましたが、最近の実験でAH-130よりのS2分劃との間に耐熱性で差異がありさうな結果を得ましたので、一寸楽しくなって居るところです。



 :質疑応答:

[勝田]あなたの“増殖”と認めている細胞の形はどうも変ですね。

[伊藤]さっきスライドで見たのと同様の解釈で見ているのですが・・・。いまのところDAB処理したexplantに特有の増殖があるというデータは出ません。また出たとしても復元実験がうまく行かなければ物が云えないと思います。

[佐藤]DABそれ自体にも製品によりcarcinogenesisに差がありそうですね。

[勝田]出てくる細胞には、石垣状に出るのと、ホーキ星のような形のと2種ありますが、前者のは見られなかったのですか。

[伊藤]ホーキ星状のは見ていますが・・・。

[山田]In vitroでホーキ星状をしている細胞のin vivoとの関係が判らないと、捨てることは無理がある。

[佐藤]私の処と全く同じ方向をつっついているようだが、何か実験の方法を変えてみましょうか。伊藤氏の使用予定Ratは?

[遠藤]?がついている。

[勝田]DAB作用期間を変えてみる手があります。

[伊藤]濃度1μgの根拠は?

[勝田]高木君がはじめにしらべて細胞に余り害を与えない濃度という訳です。

[佐藤]実験#3について。細胞の違いがあるのではないでしょうか。

[高木]復元してしらべるのですから、対照が生えてきても一向構わないのではありませんか。

[伊藤]Exp.群とCont.群の差について、具体的に云えばどういう定義を考えて居られますか。私としては、両方生えてくるところで実験して、差が出れば良いと思うのですが。

[勝田]なんども話しているように、形態的には敷石状とホーキ星状の2種の細胞が出てきます。敷石状の方を私は増殖と見ています。事実ふえるし、継代できるからです。また使うRatの日齢については次のような関係が見られます。細胞増殖の有無からみて、若いRatはDAB作用群も対照群も+で、生後20日頃のRatはDAB作用群は+対照群は−、老ラッテはどちらも−です。

 それで、実際的には生後20日を使うのが、いちばん細胞の変ったことを発見するのに楽な訳です。増え出すときには培地にDABは入っていないのだからNutritionalに促進するという意味はきわめて薄いし、増えてきたのは細胞が“変った”明らかな証拠と考えられる。対照群で生えないのだから。だから変ったことをすぐに見付けられるわけです。いま一息という所まで来ていると思う次第です。

[関口]DABやthioacetamideはCholangiomaを作るというのをよんだことがありますが。

[勝田・佐藤]DABはHepatomaを作る筈です。日本のこれまでの報告では。

[佐藤]DABの量とか作用期間、さらには培養条件を夫夫に変化させてやってみたらどうかと思うのですが・・・。

[勝田]私としては、いま一歩、何かの因子の調節でうまく行くところまで来ていると感じます。お互いに手紙で、或は電話で連絡し合って、いろいろ条件を変え、他の人とぶつからぬように連絡をとり合いながら進めることが大いに好ましいと思っています。



《遠藤報告》

I.HeLa株細胞の増殖に対するステロイドホルモンの影響

  1. )Testosterone

     これまではProgesterneに固執し過ぎたので、こんどは予試験的に各種のステロイドホルモンについて巾広くまたそれぞれについて広い濃度範囲にわたって影響を調べる事にしました。対照1はTestosteroneの溶媒として使ったエタノールヲ同量加えたもの、対照2は全くエタノールを加えなかったもので、今回は2日及び4日後ではエタノールは促進的に働いています。これでエタノールは、無影響、抑制的、促進的、各1回ずつということになりましたが、まだcell cultureの腕が悪いからでしょうか、今後は再現性あるデータが出せるよう修練に努めます。testosteroneの影響は、以前の勝田さんの所のデータとほぼ一致しています。

  2. )Methylandrostenediol

    上記の実験のように、Testosteroneは1mg/lで若干抑制的に、10mg/lでは明らかに抑制的に働きますが、これらの影響がTestosteroneの生物学的活性に由来するのか、或いは単にsteroidの高濃度という物理化学的要因によるのかを調べるために、Testosterone同種体に属するためかなりのandrogene activityはあるが一応protein anaboric actionの強められたMethylandrostenediolについて検討しました。(上述のTestosteroneの作用がそのhormon activityによることは、勝田さんの所ではホルモン間の拮抗作用で見事に証明しているのですが、別のやり方をしてみたわけです)。

     この実験は、お恥ずかしい限りですが、6日後のデータが雑ったためにとれませんでした。この実験では、Testosterone 1.0mg/lは4日後には抑制的に働いておりますが、この時Methylandrosteronediolは0.01〜10mg/lの全濃度範囲にわたって促進的に働いております。この促進傾向は2日後でも同様に認められます。(この増殖促進がprotein anabolic actionによるとすると、これは興味ある問題なので、この追試及び他のAnabolic steridについても実験を行っております。次回に御報告します。ここで10mg/lでも促進を示していることは、Teststerone 10mg/lの抑制が単に物理学的要因によるものではないことを表すものと考えられますが、別の実験でこのMethylandrostenediolも100mg/lでは著しい抑制を示す所から、100mg/l程度の抑制になると物理化学的なものと考えてよいかと思います。*このMethylandrosternediolによるHeLa増殖促進は、ひどくヘモった劣悪BSを使ったため6日間に5倍位にしか増えなかった実験では、4日後に著明でありました。臨床的にも、実験的にも、anabolic steroidの効果はsubnormalの時によく現れることを考慮すると、またProgesteroneの効果をみるためBS濃度を漸次下げていったのと同様の発想が出てきますが、この点はまだ手をつけていません。

  3. )Dhydroisoandrosterone

    以上の通り、化学構造の上からは極めて近縁でありながら生物学的作用の面からは若干異なるTestosteroneとMethylandrostenediolについて一応差が認められたので、次に、やはり化学構造は類似しているがin vivoではandrogenic activityもprotein anabolic actionもないといわれるDehydroisoandrosteroneについて調べてみました。左図のように、in vivoで何のホルモン作用も示さないDehydroisoandrosteroneが、増殖促進傾向を示しました。これが事実とすれば非常に面白いことでありますが、実験操作上一寸問題がありますので、追試の結果を次回に報告致します。以上の結果から、種々のステロイドホルモンについて巾広く検索する必要があることが明瞭となったので、今後は更に検体の種類を広範にとる積りです。

II.発癌実験

 大分前になりますが、DABよりMethylDABの方が肝癌の発生が遥かに早いという話を聞き込んでお話ししました所結局否定されたようでしたが、最近又寺山研究室(東大・理・生物化学)の人から、“前に2週間で発癌すると言ったとしたらそれは少しoverであったかもしれないが、DABより遥かに早いことは確かだ”ということをある席で聞きました。まだ文献も教えて貰っていないので、一寸気が早過ぎるきらいはありますが、先日の班会議で完全に同じ実験をしたのでは能率が悪いというような意見も出ておりましたので、こちらでは発癌剤としてはMethylDABを使う事にしました。動物は´呑竜`ratを使います。因に、DABとMethylDABの構造は次の通りです。

(構造式展示)(この前の会議の時は、皆さんがMethylDABをp-monomethylaminoazobenzeneと勘違いされていたような気もするのですが)

#C1(MethylDAB-1)

動物:呑竜rat(生後165日の完全なplateaued rat)
培養法:無血漿回転培養法(10rph)
培地:牛血清2容+0.5%Lactalbumin hydrolysate含有Hanks
発癌剤:MethyDABエタノールに溶かし、所定の濃度になるよう培地に加える。エタノール濃度は最終的には0.25%、対照にも同量のエタノールを加える。

  <実験>Control、Exptl(I)MethylDAB 2μg/ml、(II)MthylDAB 1μg/ml、(III)Methyl DAB 0.5μg/ml、各群5本づつ。まだ著変をみませんので、結果は次回に報告します。



 :質疑応答:

[堀川]ラベルしたホルモンでARによる検討をやったら如何ですか。

[勝田]色々なホルモンにあたってみて、その中から最も適当したホルモンをえらび、濃度を変えながらAntagonistとの関係をしらべるなど、本当のホルモン作用を確認した上で詳しい検索に入ってはどうですか。

[遠藤]自分の方向としては今、ホルモンの研究は肝中心という感がありまして、末梢ホルモンでのホルモン作用は誰も考えていないので、その辺のところをやりたいと思っています。

[佐藤]HeLaは子宮頚部から由来したもので、cervixはCorpus uteriと、腺その他形態学的にもホルモン作用の上でもちがうように思います。もちろんCervixとCorpusとのホルモン作用の差は今日のところでは判っていませんが・・・。この辺は考えてみなくて良いのですか。

[勝田]HeLaの初めのHistologyなど、Geyにくわしく問合せておきたいですね。

[山田]Original tumorはclinicalには“Unusual tumor"ということですね。

[勝田]またHeLaだけを相手にせずに、他の子宮由来の細胞株を作る必要がありますね。前にGyneと関係を作ったから、とか聞きましたが・・・。

[山田]Gyneのこの小林さんの処で培養室を作って、データが出ているようです。テーマはHypophyseよりのGonadotropin排出に関するものと記憶していますが。

[遠藤]子宮由来の株については必要を感じながらまだやっていません。

[堀川]ホルモン作用の場合、植物のAuxinや昆虫ホルモンなど、とんでもないホルモンに当ってみたらどうですか。

[山田]母培養と実験培養との血清は一致していることが、望ましいですね。