【勝田班月報:6208】




《勝田報告》

 発癌実験だけについて報告します。
 表1はこれまでの月報でも報告したものですが、血清の変わったC#8〜#10あたりでは増殖が見られなかった他は、一般にDABを用いた実験群の方が増殖を起す培養の数が対照より明らかに多くなっています。C#1のDABを12日使ったのは、やはりDABの使いすぎによって増殖が抑えられたのだと思います。C#6は9日ラッテ肝で、対照もふえてしまい、これは今日まで実験群と共につづいていますので、C#17の細胞ととも、各2匹宛の4日ラッテに脳内接種しました。7月27日に、10万個入れました。従ってラッテは計6匹使った訳です。(その後、8日後までは未だ変化を肉眼的に認めず)とにかくC#6の対照は、対照としては珍しく培養の続いている例で、そのまま株化するかも知れませんので貴重な例です。

 第2表は、その後の成績で、やはり対照より実験群の方が増殖をはじめる培養が多く、C#17では対照は0/5となっています。この前の連絡会のとき、DABをまず溶くときの血清の種類の検討が必要かも知れない、とお話ししましたので、C#13ではラッテの血清にとき、あとの培養にも20%ラッテ血清を用いてみました。しかし結果は反って悪く、1本も増殖が起りませんでした。次のC#14ではこのとき作ったDAB-RSを使い、それに培養用としては仔牛の血清(CS)を用いました。その他にはじめから仔牛血清にといたDABも作って、同時に実験をはじめたのですが、結果はラッテ血清を使うことは全く意味がないことが判りました。その他、仔牛血清で判ったことは、成牛血清に比べCSの方がむらが少いということです。BSでも良いのは良いんですが、たまに悪いのがあるので困る。CSだとそれが少いという訳です。C#16→#18では同腹の仔ラッテを次々と使って、日齢のeffectも同時にしらべました。すると18日ラッテがいちばん良さそうなことが判りました。つまりControlは0で、実験群の率もMaxの訳です。第2表の実験ではどれも11日にふえ出しているのが面白く、大体DAB-Liver系の発癌実験も基礎コースが終った感です。C#18では、第15日になると増殖本数がふえました。今後は復元実験に主力をおきたいと思っていますが、ラッテの出産に左右されるので困ったものです。(このあとスライドでDABにより増えてくる細胞の位相差像を展示)TD-15瓶なのでピントが鮮明でないが、明らかに実質細胞系と思われる細胞の集団から成っている。このような細胞が活発に増えてきたときだけ(+)としている。(箒星様の細胞はこのように相互に石垣状に密接しないし、増殖しているかどうかも判らない。運動力が大きくて、explantからmigrateするだけかも知れない。たとえ少しあらわれても継代すると姿を消す。
 Ratの日齢と増え方の関係ですが、これはいままでのデータを全部あつめてみると、それ以上に他のfactorが働いているような気がします。C#7などは1.5月でもうまく行っているのですから。



 :質疑応答:

[山田]継代はトリプシンを使うのですか。

[佐藤]トリプシンを使うと、Exp.とControlの差がなくなるように感じますが・・・。

[高岡]初代→第2代のときはトリプシンを使わず、ラバークリーナーで落しています。その方が良いようです。以後の継代では、細胞が硝子面に一杯になったとき、トリプシンをうすくして使っています。大体他の場合の1/2位の濃度です。

[山田]継代したあとの成長の悪い場合、それはinoculum sizeの大小によるのか、それとも細胞自体のgrowth rateの差なのか・・・。

[勝田]初代から第2代に移すときはexplantsをかき落して入れるからinoculum sizeの問題ではないと思います。

[伊藤]スライドの中に見られたAtypicalの細胞は実質細胞ではないのですか。

[勝田]大部分は実質細胞と思いますが、他のものも若干混っているかも知れません。

[佐藤]細胞の形態は自分のところで生えてくるのと同一の気がします。うちでは最初の4日間位迄はExp.とCont.は差がありません。

[山田]いま見せてもらったデータの限りでは、Exp.群とControl群との間に差のあることは明白だと思います。その意味付けを考える必要があるでしょう。



《佐藤報告》

1.発癌実験

 前報に引続いて行った実験を記載し、後に本日迄の結果を纏めます。

◇C24(1962-7-6=0日)ラッテ生後28日
 対照、メチールDAB4日投与、メチールDAB8日投与の3群を行った。
 第20日の結果は、Cont.0/6、メチルDAB 1/6(4日)、メチルDAB 2/6(8日)
但し陽性のものも、DAB投与の場合現われる円形乃至菱形の細胞のSheetと異り、箒星状細胞に近い偏平な突起を有する細胞が連なって増殖することが特徴である。

◇C25(1962-7-11)ラッテ生後33日
 5群に分けて実験し、第16日の結果は、対照 0/6、DAB8日 1/6、メチルDAB4日 0/6、8日 0/6、12日 1/6
DAB8日のものは類円形のものであるが尚Sheetは小さい。メチルDABのものは◇24に現れる細胞と同型でいわばRetothel Sarcomaに相当する細胞である。

 前記二つの実験は対照の結節発生率を0%として実験群の陽性率を高める積りでラッテの生後日数をのばしたが、対照は予定通り0%となったが、実験群も陽性率が低下した。従って現在私が行っている作用方式では呑竜ラッテで23〜27日間が差が最も現われ易い。

 メチルDABに関して前報◇C21及び◇C22の観察をつづけた。ラッテは同腹生後25及び 26日である。

◇21は其の後、第23日で対照 2/6、DAB4日 2/6、メチルDAB 4/6となった。

◇22は其の後、第24日で対照 1/5、DAB4日 2/5、メチルDAB4日 3/5、8日 2/5、12日 2/5となった。但、◇21と◇22例はどういうものか細長、云わばfibroblastic cellの発育が旺盛であった。◇21と◇22のメチルDABの一部は継代されたが、細胞はDAB型と異り突起の多い箒星形に近い細胞が増殖している。現在の結果ではDABとメチルDABの間には増殖する細胞形態にかなりの差があるが、細胞増殖の差は著しくない。

◇7’此は廻転培養を長期つづけた所謂静止型の肝細胞がDAB投与で変化するかを見たものです。1962-4-12=0日、生後79日±1日を廻転培養し、第59日目にDABを4日間投与したが、其の後33日の観察に変化は認められなかった。

ラッテへの復元

  1. )◇8 3代(開始より66日目)Exp.Cont.共、同腹ラッテ脳内へ接種、1962-7-28日
    現在12日目変化なし
  2. )◇10 3代(開始より61日目)Exp.Cont.共、同腹ラッテ脳内に接種、1962-7-28日
    現在12日目変化なし

 上記2群は、ラッテが2ケ月を経過して大きくなりすぎでないかと思われるので今後は幼若なものに脳内接種を行う予定

継代の現状

 現在◇8、◇9、◇10、◇17、◇20、◇23で続行中



 :質疑応答:

[山田]メチルDABがin vivoではCholangiomaを作ること、これとDABとの差がin vitroで出ているのかも知れぬということ。これはDABの濃度などを、たとえば、上げたりするとあのような箒星形の細胞が出てくるかも知れない。この箒星形の細胞は生体染色が可能でMacrophageではないか、という気がします。

[佐藤]DABのとかし方には問題があるように思います。CH3DABは今後はやめてEpithel cellを作るDABだけで追いたいと思います。それから肝臓内接種はどうでしょうね。

[勝田]それは私も考えたことはあるのですが、うまく刺したところにとどまってくれているかどうか、ということと、抗体の問題がありますね。

[伊藤]AH-130だとPortaderに入れるとHepatomaを作ります。

[佐藤]静止形肝細胞(59日ラッテ)にDABを4日与えましたがnegativeに終りました。うちのデータが、勝田さんのところほど、対照との差がはっきり出ないのは、Ratのせいでしょうか。techniqueのせいでしょうか。それからDABを長く入れると悪いというのは・・・。

[山田]やはりtoxic effectに働く可能性があるのでしょう。

[佐藤]DABの破壊物が作用している場合(in vitro)とDABがintactで働いている場合 (in vivoのexp.)とでは相違があるのではないでしょうか。

[伊藤]復元接種する場合、沢山の細胞を得るのに時間がかかって、そのため細胞の alterationの可能性がありますね。

[勝田]だからintracranialの接種をしようという次第です。細胞がばかに少くて良いというので・・・。

[山田]Ehrlichだと100ケでheterotransplantationが効きます。

[堀川]一気に大量を入れた方が良いと思います。Selective mediaとして生体を使うのが良いでしょう。

[勝田]脳内接種でそこにtumorができた場合、継代はどうしますかね。

[山田]Carcinomaならば継代は可能です。TumorができたかどうかはHirnの場合はすぐ判ります。切ると色がちがうし、細胞が多いですから。ホースターのdataでは、シリアンハムスターの復元接種で1万個がcriterionになっています。

[勝田]それから目下のところでは肝組織を切出して、explantで培養していますが、explantの中にDABが仲々入りにくいかも知れぬということを考えると、これは余りefficiencyの良いやり方ではないから、将来は細胞をばらして培養することも考えなくてはならぬでしょう。

[山田]細胞によるConditioningの問題があって、増えるtubeは増え、駄目なのは駄目のような気がしますが。

[堀川]動物の方のConditioning、たとえばX線やCortisoneによる前処置などを考えては・・・?

[高岡]Ehrlichを100ケ入れて何日位で増えてくるのですか。

[山田]多分1週間位でしょう。

[堀川]LにDAB処理して100万個、Ehrlichの株JTC-11を10万個と夫々マウスにIPで入れたのですが、Ehrlichの方だけ20日〜30日で死にました。

[山田]脳内接種というのは色々な意味で良い接種部位だという話です。

[佐藤]Ehrlichは1ケではつかんのですよ。

[山田]一般にLeukemia系統はうまく行きますね。

[堀川]制癌剤として働き、また発癌剤として働くならDNAなどに働くのでしょうか。

[山田]DABは蛋白とくっついて働くと云われていますが、大部分はそうであってもDNAの方にも働くかも知れませんね。

[堀川]Lか何かを使って、DABの作用機構をしらべるべきだと思います。

[勝田]それも勿論良いことだし、やらなくてはならないことですが、今の段階では何といっても完全に癌化させ、復元も陽性にさせて、それからゆっくり色々の解析に入れば良いと思うんです。とにかく癌化させることが第1でしょう。



《高木報告》

1)発癌実験

 前報に報告した通りですが、これを括めると次の如くなります。
Exp.5、10、11は生後21、21、7日のW-K-ratの肝臓にDABを処理したが、増殖細胞は得られず。Exp.6、7、8、9は生後8〜15日のG-hamsterから夫々腎臓と肝臓をとりStilb.を処理した。実験によっては増殖系細胞が得られる。

考案:
以下細胞種略名・A細胞は石垣状に増殖を示す本命と思われる細胞、B細胞は箒星状、Eはepithelioid cells、Fはfibroblast cells

A.Golden hamster肝実験群

  1. )有意差を生じせしめるためには薬剤(stilb)の作用期間は4日より7〜8日の方がよいのかも知れない。或いは動物の日齢が関係しているとも思われる。
  2. )DABを作用せしめた時、18日以後目立って細胞の発育が不良になったのは偶然か、または発癌剤のちがったことによるものか・・・? 大体において20〜25日以後は細胞増殖が止まる。
  3. )A細胞の生え始めは大体10〜15日の間、日齢の若い方が生え始めも早いか?
  4. )hamster肝の場合はF細胞の増殖殆どなし、大抵は生えて来るのはA細胞であるが、時としてはB細胞がpseudo-sheet?を作ることあり。
  5. )pipettによる継代は残念ながらすべて不成功・・・時期の問題がある。


B.Wistar-King ratの肝実験群

  1. )ratの日齢如何をとわず、これまで行った処ではhamster肝に比してA細胞の増殖がおこりにくい様である。これはDABを使用直前2mg/mlの原液から培地でうすめるためかも知れない。


C.Golden hamster腎実験群

Exp.は2、4、6、7、8、9で、動物の日齢は生後8〜24日、Stilb.4〜9日の処理である。培地は2〜20%血清を添加したLT、結果は継代後6実験中4実験が有意であった。

考案:

  1. 培地は20%LTより2〜5%LTを用いた方が、少くとも培養の初期にはE細胞がF細胞ににくらべてpredominantである。しかし後者の培地を用いても5〜8日目頃からボツボツF細胞がまざって来る。
  2. Stilb.10μg/ml加えた方が実験群における細胞の増殖がよい様に思われた。
  3. 大体において継代後、実験群の方が細胞の増殖がよい様である・・・有意!。
  4. 実験8において継代後は実験群、対照群共細胞の増殖が同様にみられるのは動物の日齢が若いためか?
  5. 継代に都合のよいのは10〜20日(12〜18日)目位と思われる。
 以上、今日までのdataをみて感ずいたことをそのまま書きました。勿論この考案の中に書いた或物は今後実験の発展に伴って考えなおされることと思います。なお勝田班長は仔牛の血清が成牛の血清より良い様に申しておられますが、私も同様に考えています。先日奥村班員の処からCalf searumをもらってきましたので、それを使ってみましたが、こちらで使っている成牛血清に比較して非常に細胞の発育はよい様に思われました。私の処では未だ発癌剤を意識的に血清加培地に混じておいて、細胞に作用させる方法をとっておりません。今後はそれをやってみたいと思っております。

2)免疫学的研究

A.血球凝集試験

(1)予備試験
 血清の稀釋液中のMg++の有無が凝集価に及ぼす影響をみた。血球はO型人血球、免疫血清は抗Chang Liver、JTC-4、FL細胞家兎血清を用いた。なおMg++(-)の群では血清は4倍稀釋から、Mg++(+)の群では20倍稀釋から行った。右図の如く、凝集価そのものは明らかにMg++(+)群において高くなったが、凝集価の上昇度(前、後血清で)はあまり変りなかった。しかしMg++を含む稀釋液(Dulbecco & Vogt処方)を用うれば、i)血清が少量ですむ、ii)判定が短時間で出来る、iii)判定が容易である、等の利点がある。以後はMg++を含む稀釋液を用いる予定である。

(2)予備実験
 細胞の免疫血清を得るのにモルモットを用い得れば安価であり、しかもBrandらの方法で免疫すれば細胞も少くてすみ簡単である。従ってこの方法を追試してみたが、彼らが免疫に用いた細胞の前処置に使用しているmagnetostrictorがないので、細胞を凍結融解し、更に乳鉢ですりつぶしたものの遠沈上清を注射してみた。しかしながら抗体の上昇をみることは出来ず、更に細胞の前処置につき検討中である。
 なおFL細胞の各分劃についてもゲル内沈降反応の準備をすすめている。

B.蛍光抗体法

免疫血清:抗HeLa、Chang liver、FL及びJTC-4家兎血清 細胞:HeLa、Chang liver、FL及びJTC-4細胞 方法:抗家兎γglobulin山羊血清(labeled)は使用前、径約1cm高さ10cm位のSephadexのカラムでpurifyし、次に先ず0.1g/mlserum、更に0.06g/mlserumのrat肝のaceton powderで吸収したものを用いた。 染色に際しては抗家兎γglobulin山羊血清(labeled)は6倍に、また免疫血清は3倍にPBSで稀釋して使用した。染色時間は1時間、洗滌は30分間行った。染色度はHeLa細胞に同抗血清をかけたものの前を(+)後を(+++)としてこれを基準にした。なお判定はこの染り方の差をとった。 結果:種属特異性があることが分った訳であるが、それと別にこのdataに関する限りHeLa細胞とFL細胞のつながりが比較的少いことが分る。なお広汎に実験を進める予定です。

:質疑応答:

[勝田]継代法、第2代は静置ですか。(腎のトリプシンとMagnetic stirrerのことを指す)

[高木]そうです。

[勝田]ハムスター腎とStilb.の組合せは有望のように思われますね。

[佐藤]培地に入れたDABを果して細胞がとり込んで使ったかどうか、培地中のDABを何かで発色させ、比色で測ってみる手はありませんか。

[遠藤]さあ、知りません。

[佐藤]復元が確実に行ってくれれば良いが、もし仲々行かんような場合のことを考えると、他の早道を探してみたら・・・。

[伊藤]復元以外に何か良い方法があるかどうか。

[堀川]やっぱりまず復元してみることが第1でしょうね。

[山田]メチルコラントレンは胃に入れると、数日後にもうその胃に変化があるが、その機構は判らないし、DABを喰わせて解糖その他をしらべても、それはただ量的意味で癌細胞をつかまえているだけのことで、質的には生化学的につかまえてはいないですね。

[佐藤]若いラッテの肝の培養にDABを加え、そうするとExp.もCont.も両方出てきますが、それを両方とも復元してみるのは意味があるんでしょうか。

[勝田]それもやってみる手はありますが、両方とも生えるのではDABによって細胞の性質が変ったということにはならないですね。たとえ変っていたとしても掴まえにくいし・・・。

[山田]今日色々話に出た内で、DABの溶かし方の問題がありますね。使うときにうすめるか、培地でうすめて保存しておくか。

[勝田]うちのたった1回の経験ですが、使うときにうすめたのは生え方が悪かった・・・。

[山田]それからRatのageのことで判ったのは、若いのを使うとExp.もCont.も両方とも生えてくるが、年とったのは両方生えない、ということですね。



《山田報告》

マウス肝組織初代培養に対するDABの作用

培養法:高岡さんの記載による。(月報No.6203)細切肝組織を5〜10個、角チューブ内面におき、付着後培養液を1mlづつ加える。 培養液:Exp.#1 0.5%Lactalbumin hydrolyzate in Hanks+20%Calf serum、Exp.#2 TC199+20%Calf serum、液替は週2回 DAB:100mg in 5ml of Tween20+45ml of dw(2mg/ml)を保存液とし、使用の都度、培養液で稀釋し、最終濃度を1μg/mlとした。 判定:Ep cellの層状のoutgrowthの出現をもって(+)とした。成績はすべて初代培養による。 結果:8実験の中、マウスの日齢が3〜14日の5例中3例はExp.Cont.両方が+で、19〜26日の3例は両方とも増殖しなかった。



 :質疑応答:

[勝田](増殖しないというところで)血清のlotを変えてやってみなかったの。

[山田]変えてみる予定です。

[高岡]牛血清にはよくむらがありますが、仔牛血清なら良い筈ですがねえ。

[勝田]血清の非働化は、一旦やっても、そのあと保存したときは使う直前にまたやらなくてはいけないと云いますね。

[山田]血清学的にはそうされていますが、私は全然非働化しないで使いました。

[佐藤]DABが果して本当にとけたかどうか、その化学的な基準か何か、可溶、不溶を決めるものはありませんか。

[遠藤]さあ、知りませんねえ。溶けるときはさっと溶けてしまうし・・・。肉眼的に見て決めるだけでしょう。 [佐藤]溶けているかどうか、ということは非常に問題になると思いますが、溶かし方をみなさんどうやって居られますか。

[山田]Tweenでといて、水を加えるともうそのとき結晶が出る・・・。

[勝田]水? そこは水ではなくてSalineを入れるように月報にかいた筈だが。

[高木・高岡]Salineを加えると、そこでは結晶は出ない筈です。

[勝田]うちでは前の月報にかいたように(血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+ SalinrD)の培地を加えて冷蔵庫で保存しています。

[佐藤・山田・高木]うちでは濃いまま保存し、使用の度にうすめています。

[勝田]さっき報告した内の1例のように、そんなところの差が成績にひびいているのかも知れませんね。



《伊藤報告》

§発癌

 前回の報告に書きました如く、RollerTubeによる発癌実験では細胞増殖の判定に自信がありませんでしたので、その方は今回上京した際に、もう一度高岡さんのやって居られる実物を見せて戴いてから、改めて開始する事にして、それ迄は前回にも一寸書いておきましたラッテ肝のtrypsinizeで得た細胞の静置培養法の方に手をつけて居ます。ただ、今迄にやったRollerTube法でやったものをsubcultureしたものに一部colonyの発現をみましたので、これは続けて居ます。

 静置培養の方は3度試みて、3度共相当数の細胞を得て居りますが、2回目と3回目のものとでは、いささか細胞の形態が異なりますので、発癌実験に使う一方、必要な細胞をconstantに得られる様な条件を設定し度いと考えて居ます。

 此の方法では比較的簡単に早く多数の細胞が得られますので、早い時期に復元出来るのではないかと予想しています。但し、発癌の有無は、復元以前の瓶内の観察だけでは恐らく不可能ではないかと考えます。


§促進物質

 6月中旬頃よりL・P1の具合が悪くなり(これはどうもLactalbuminのせいだったようです。又、伝研から分けて戴き、それが殖えるのを待って居たりなどして、其後実験が進まず、癌学会の申込み原稿にも差支える程で困りましたが、やっと実験が始められる様になりました。CM-Celluloseによる分劃を検討しています。



:質疑応答:

[高岡]発癌に使っているのは何日位のratですか。

[伊藤]20日、28日位のratです。

[山田]トリプシンの濃度は?

[伊藤]0.25%です。初めの10分間に出るのは棄て、あと20分間位のをとります。血液成分は特に除く方法はとっていません。

[山田]肝実質はトリプシンに弱いですからね。

[勝田]うちでもexplantで発癌に成功したら、次はばらばらにしてやりたいと思っていますが、それははじめに目ざす細胞以外のものは除いてから使いたいと思っています。

[高岡]ばらばらにした細胞は増えるのですか。

[伊藤]どんどん増えます。ですから早くに復元してみたらどうでしょう。

[勝田]あまり早く復元するとDABが残っていたからと云われる難点があります。Ratの種類は?

[伊藤]呑竜ですが、あまりよく増えません。

[佐藤]うちのはよく増えます。やっぱり呑竜ですが。

[勝田]山田班員は培地にラクトアルブミン水解物は使ってみなかったのですか。

[山田]初めにやってみたのですが、これはratのageが大きすぎて、生えなかったのです。



《堀川報告》

1)発癌実験

Exp.3:前号のExp.3のその後の結果では(3)と(5)はX線doseが大きかったため、その後も分裂増殖は認められず。(おそらくこのものは駄目と思われる)
Control(1)と(2)(4)の間には培養開始後26日(その間Subculture3回)になる今日においても増殖において大した差は認められないで僅かにfibroblasticな細胞が増殖を続けている程度である。
復元実験は現在の段階では細胞数が少ないため行えない。

Exp.4:Exp.3で使用したX線doseをすべて150γに落し、その他は同じ系で実験を開始した。今回はX線doseは強くない様で細胞の死滅は認められない。5日目のSubcultureするまではControlに比べてExp.区がactiveに増える傾向にあったが、Subculture後この差はなくなり、7日目の現在に至る。痛切に感じるのは、この段階でどの区の細胞がactiveに増えているかと云う決め手の無い事で、同じ実験区の内にもvariationがあり、よろこばされたり、がっがりさせられる事が多い。とにかく復元実験で勝負するのが一番早いと云う結論が得られる。

2)培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み。

 最近新しい言葉として用いられる様になった細胞の喰食性(Cytosis)ト云う言葉は広い意味でpinocytosisとphagocytosisを含んだものであってpinocytosis(Drink)、phagocytosis(Eat)ともに古くから各種細胞で明らかに認められてきた現象である。この細胞の喰食性を利用して培養下の正常細胞を腫瘍化させようとするのがこの仕事の目的である。しかしこの種の正常細胞を腫瘍化させるにあたって、現在の段階では最後の決定的なものとなる決めてを探すのに苦しい。

  1. )正常細胞が癌細胞の核なりあるいは細胞質成分の一部を喰食する。
  2. )喰食したものがhostの細胞内の代謝系路にどの様に喰い込んで行くか。
  3. )うまく代謝系路に喰い込まれていった癌細胞の一部成分が細胞分裂によって子孫にどの様に伝えられていくか・・・を知らなければならない。
この様な目的から次の3つの系を使用した。

  1. )便宜上、正常細胞としてL細胞にEhrlich細胞核を喰い込ませる事によりL細胞を癌化させる。
  2. )2000γ照射されたL細胞へ正常L細胞核を喰い込ませる事によって巨大細胞化を防止する。
  3. )抗原性を有し、更に抗体産生能力を高度に持っているマウスSpleen cellを正常L細胞に喰食させることによりL細胞の形質を転換させる。
現在の段階までに得られた結果をまとめると、

  1. )正常L細胞がEhrlich細胞核を喰食するのは、全L細胞の5%前後で、この喰食性はL細胞を2000γX線照射あるいは紫外線照射(15W、15cmの距離で30秒照射)することによって2倍まで高められる。
  2. )正常L細胞がmouse spleen cellを喰食するのは10%程度で、この喰食性はL細胞を2000γ照射することによって28%程度まで高める。更に2000γ照射後3日後においてL細胞の喰食性は最大になることが分った。
  3. )10000γ照射するとL細胞の喰食性は非常に低下する。
  4. )L細胞が、H3-thymidineでラベルしたEhrlich細胞核を喰食することを、Autoradiographyで確かめた。喰食されたこれらEhrlich細胞核が以後どの様にL細胞の内へdistributeして行くかは現在追跡中。
  5. )2000γ照射したL細胞へ正常L細胞核を喰い込ませることによって巨大細胞化を防止する能力はある様だ。
 以上、漠然とした事しか報告出来ないが、現在までに得られている主な結果である。発癌実験と同様に更に今後の実験に依らなければならない。然し異種細胞内へ入った核酸なり蛋白がその細胞内でどの様な行動をするのかに大きな興味をもっている。



:質疑応答:

[勝田]Mouse spleenに2,000rかけたものをLに入れた場合、Lが巨細胞になるそうですが、核の数は?

[堀川]1つです。

[勝田]Mouse spleenにレントゲンをかけたことにより、何か巨細胞にするようなものをSpleen cellが出すように変るという可能性もありますね。

[堀川]問題は、癌化の場合も5%位としても、それをどう旨くつかまえて復元するか、ということですね。Spleen cellsをratに入れて抗血清を作り、それをspleen cellにかけて抗原抗体反応をみることもやりたい、と思っています。

[山田]Spleen cellとLとが混合培養になるという危険は防げますか。若いのを使うと箒星のようなので継代可能なのが残りますが・・・。

[堀川]培地をかえるとき、よく洗ってやると数日でspleen cellはすっかり無くなります。

[山田]リンパ球系のはなくなっても、箒星のようなのは残ると思いますが・・・。

[勝田]その可能性はあり得るね。それから発癌で、DABをやっておいてあとからレントゲンを弱くかけるとどうだろう。

[堀川]よほど低いdoseでやらないと、primary cultureのものはすぐやられてしまいます。

[佐藤]増殖していない細胞だとレントゲン耐性があるのだから、細胞を冷やしておいて、レントゲンを弱くかけたらどうだろう。

[堀川]やっぱり駄目です。

[佐藤]レントゲン耐性の細胞を復元すると、つくでしょうか。

[堀川]Lの場合にはつきません。レントゲン以外の耐性のものもつきません。

[山田]うちで作ったレントゲン耐性のHeLaは継代しているうちに耐性がなくなってしまいました。

[堀川]果して本当にγ耐性を獲得したのかどうか。

[山田]九大癌研にいる遠藤のところで、4ニトロキノリンを入れると核内に封入体ができる、それが癌化とどういう関係にあるかは判っていないが、そのようなことが判っていると、培養で割に簡単にキャッチできるのではないでしょうか。生体との関係についても意味付けて行けると良いと思います。

[堀川]NatureにPiggy back systemというのが出ていました。マロン酸は生体では呼吸阻害をするが、細胞内へは入らない。in vitroでポリスチレンその他を入れてやるとpinocytosisでポリスチレンが入り、あとにつづいてぞろぞろとマロン酸が入るというのです。高濃度では入るが低濃度では入らぬというのも、また、あるかも知れませんね。

[山田]ハムスターのpauchに入れると、1万個で癌ならつくが、正常ではつかぬと云われていますね。(Foley)。

[勝田]この段階で癌学会に出して良いかどうか考えて下さい。

[山田]勝田氏のところのデータは、現象的にははっきり差が出ているから、出して良いと思います。これは株ではなく、初代でやった、というところにまた意義があると思います。