【勝田班月報:6209】




発癌機構の考察:勝田甫

 肝細胞にDABをかけると、それまで増殖しなかった細胞が突然増殖をはじめる。明らかに何らかの変化が細胞内に起った証拠である。しかしその細胞を動物に復元接種してみると腫瘍を作らずに消えてしまう。何度くりかえしてみても同じことになる。

 ここら辺りで一度、細胞の発癌機構についてじっくり考えてみる必要があるのではなかろうか。発癌は明らかに細胞の不可逆的変化に基づく。そしてその変化は細胞のおかれた環境により淘汰される。悪性化がうまく行かないのは、細胞の変化が不十分(或は不適)なのか、折角悪性化したのが淘汰されてしまうのか、そのどちらかであろう。

細胞の変化について考えると、発癌にいたるのに、細胞は50位のステップを経るという説も最近云われている。動物実験でDABを用いて発癌させるのに何ケ月もかかるところからしらべられたのであろう。動物では、我々の実験とことなり、長い間DABを食わせる。これはどういう意味があるのだろうか。培養のように、あとから余り与えると、折角変った細胞に反って害になる、ということが無いのだろうか。第1段の変化から更に先に進ませるのに、同一物質で充分なのだろうか。しかしその変化に方向性のあることは推察できる。

前に報告したが、DABを作用させて出てきた培養細胞に、胆管系の細胞の増殖を促進するような薬剤で追打ちしたところ、新生していた実質細胞がほとんど消え、箒星状のが残った、という事実からである。従って第1撃を加え、以後追討ちをかけるときは、同一方向の物を使う必要があろう。たとえば上に記したような物質はメチルDABのあとに使った方が向いていると考えられる。具体的方策として、とにかく我々はいま一歩のところにきているのであるから、追討ち剤についてよく考え、よく撰んで、色々やってみる必要があると思う。

次に淘汰の問題について考えると、いま使っている培地はたしかに良い培地で、色々な細胞の培養に使える。しかしそれ故にこそ反って、ラッテ体内では生きられぬような細胞まで増殖させてしまっているかも知れない。また、これは逆の話であるが、同じくDABを使ってラッテに作った肝癌の一つ、AH-13、これはきわめて悪性で、腹腔内で腫瘍細胞があまり増えない内に、4〜5日でラッテが死んでしまうが、この細胞はいま使っている培地ではよく増えてくれない。この辺ももう一回よく考え直してみる必要がありそうである。