【勝田班月報:6211】




《勝田報告》

A)発癌実験:

 これまでの発癌実験の成績をDAB-Liverに関するものだけ揃えてみますと、上の表の通りです。C-6の実験群の方は今日、株と認めてよいと思いますので仮にRLD-1と呼んでいます。この場合のDはDABのDで、DenkenのDではありません。こうしてみますと、やはり、若干の例外はあっても、Ratのageが少ないとExp.Cont.両方生え易く、1月を越すと両方とも生えにくいことが良くわかります。Ratの系統によって多少の差はあるでしょうが、この目的には15〜25日位のがいちばん適しているのではないでしょうか。とにかくこうして、第一段の変化を細胞に起さすことができた訳で、次のステップを越えて本当のMalignancyを持たせるには、1)弱濃度DABを長期継続して与えてみるか、1μg/mlのまま10日、20日、30日に1回宛与えてみる方法と、2)それよりもさらに可能性があると思うのはホルモンなどのような、生体内に生理的に存在しているものが第二段を越えるのを手伝っているのではないかということです。それで成長ホルモンをC-24で使いはじめてみましたが、この結果はまだ判りません。この次にはテストステロンを使ってみたいと思っています。 それから復元法ですが、いよいよ今年度も残り少くなって参りましたので、無処置でなくX線やコルチゾン処理で叩いておいたRatへの復元もはじめたいと思います。それで若しつけば、数代動物継代の後は、無処理で動物継代ができるかも知れませんから。

 細胞の染色体数についても若干しらべてみましたが、C-6のRLD-1では38〜40本位のが多いようです。まだ約30ケ位の計測ですが、無選択に全部かぞえていますから信用おけると思います。DABをかけて最初に出てくるのも矢張りその辺が多そうです。染色体の上でも変化がある訳です。



:質疑応答:

[山田]さっきの培地の表ですが、これまで色々な人が色々なかき方をして統一がありませんね。0.5%lactalbumine hydrolyzate with 20%calf serumという具合に、実際のテクニックに合せてかいている人もありますし・・。何か統一した方がよいでしょうね。

[勝田]それは勿論です。私はやはり化学関係でやっているようにFinal concentrationでかくべきだと思います。その方が科学的で一目で他のと比較出来ます。

[山田]Tween20の影響を私はみていますが、少くするとDABがとけにくくて困りますね。それからさっきの顕微鏡写真ですが、やっぱり実質細胞と同じように二核の細胞が多いですね。Giemsaで染めると、in vivoの細胞に比べて、培養のはどうも細胞質の染まり方が悪い。RNAが少いんじゃないか、なんて釜洞さんが云ってましたね。

[佐藤]C24とC25は血清は同じですか。ageの多い方が反ってControlも出ていますね。ラッテを殺すときエーテルを使っていますか。エーテルは肝で代謝されますね。

[高岡]同じ血清です。エーテルを使わないとどうもHerz Punktionがやれなくて。肝をとるときも勿体ないから、はじめに血清をとっていますので。

[勝田]しかしたしかにエーテルの影響は考慮に入れなくてはいけないね。

[佐藤]Controlの生え方がageと相関関係のない場合もあるようですが、個体差や性差も考える必要がないでしょうか。

[杉]性差については雄の方がDABで雌より早く発癌するように癌学会で報告していました。

[勝田]癌研の馬場君ですね。同じようなことが最近号のJ.Nat.Inst.に出ています。これはDAB以外のアゾ色素ですが。また同君が云ってましたが、DABをといて保存すると、保存中にかなりこわれて効力が低下する可能性があるそうです。今後注意する必要がありますね。



B)Parabiotic cultureによる細胞レベルでの癌化検定:

 さきに腹水肝癌AH-130と正常肝、或は心センイ芽細胞と吉田肉腫をparaで培養したとき、Tumoreの方は増殖を促進され、正常の方は阻害されましたが、この方法を応用して細胞レベルで、細胞が悪性化したかどうかを判定できないか、ということを考えた訳です。しかしこれには細胞数がかなり必要ですので、株化した例のC-6のRLD-1を使い、ラッテ正常肝とparabiotic cultureしてみました。すると、次頁の図のように、RLD-1の方はparacultureすることにより明らかに増殖が促進されるが、正常肝の方は一向に平気なのです。阻害もなければ促進もない。このような一方通行的相互作用がどうして起るか、ということは別として、肝がやられて、その上でRLD-1が促進されるのでないと、どうも悪性化していないとしか考えられない。この点でも復元接種の成績と、何か一致した結果を示すような気がします。正常肝と正常肝のparaではどちらもno effectですから、正常肝とは変って一歩肝癌の方に近い性質にはなったが・・・というニュアンスを示していると思います。

C)相互作用の酵素レベルでの研究:

 生体内で正常組織と腫瘍組織との間にどんな相互作用がおこなわれているか。Toxohormoneのような毒素をtumor cellが出してそれで正常細胞がやられるという説と、さらに積極的に、ある物質をだして、それで正常細胞内の栄養源、たとえばfreeのアミノ酸プールのようなものを吐出させ、それを自分の蛋白合成などに利用する・・という栄養掠奪説とがあります。その後者の可能性があるような感じをparabiotic cultureの結果は示しましたので、何とかしてそれを実証したいと考えていますが、未だうまいアイデイアが掴まりません。要するにtumor cellの構成成分を放射性同位元素でラベルしておき、parabiotic cultureのあとで、正常細胞の方に何かしらtumorのmessengerが入りこんでいるかどうかをまずしらべ、次に正常細胞の成分をラベルして、それがpara-cultureのあとでtumor cellの構成成分の中にとり込まれているか否か、をしらべれば良いのですが、蛋白系及びRNA系にはturn overというものがあり、単にturn overの結果を見るだけになってしまう可能性があるので、目下悩んでいるところです。そこで良い考が浮ぶまで一先ずCatalaseやlactic dehydrogenaseのような酵素の活性がpara-cultureすることによって、normal及tumor cellとも変化をきたしはしないかということを目下しらべていますが、catalaseについては少しデータが出初めましたので担当している関口君から、その報告をしてもらいましょう。



《関口報告》

I:培養細胞のカタラーゼ活性の測定:

 A)材料及び方法

細胞:

 a)正常ラッテ肝細胞:生後1〜1.5月のJAR系ラッテ肝をメスで粥状に細切80及び150メッシュを通し、そのまま細胞浮遊液を作る。
 b)腹水肝癌AH-130細胞:6〜7日腹水のtumor cellsをSalineDで洗滌し、静置沈殿法により、血球及び細小な細胞を除いた後、使用した。

培養法:
TWIN-D1管16本をparabiotic cultureに用い、培養4日後の細胞核数算定とカタラーゼ活性測定にあてた。対照は両細胞を各単独に単管に培養。

培地:
牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4(NBC)+塩類溶液(D)。管当り2ml宛、2日培養後全量を交新。pH≒7.6。

カタラーゼ活性測定法:
Euler-Josephson原法のBnnichsen等の変法(いわゆるRapid method)で測定。
 すなわち、反応フラスコに1/15M燐酸Buffer(pH=6.8)50mlをとり、0.1MH2O2・2mlを加え、水に冷した後、その2mlを10%H2SO4・2mlを含むビーカーにとる。次いで酵素液1mlを反応フラスコに吹き込み、30秒、60秒、90秒、120秒後に反応液2mlを夫々別のビーカーにとる。ビーカー中の残存するH2O2量を1/3,000M・KMnO4で滴定し、次式より各測定時間に於ける酵素の反応速度Kを算出する。
 K=1/t・ln・xo/xt但しxoは0-timeに於けるKMnO4滴定値。xtは各時間に於けるKMnO4滴定値。tは時間(秒単位)。
各々のK値を時間に対してplotして得られた直後を0時間に内挿して得た値をKoとする。

結果:

  1. )正常ラッテ肝細胞の単独培養中におけるカタラーゼ活性の変化:同一材料について、培養前、1日、2日、4日培養後と4種について測定したが、培養に伴い、かなり急速に活性の低下することが示された。しかし4日でもかなり活性は残っている。これよりparabiotic cultureは4日間おこなうことにした。
  2. )正常肝と肝癌AH-130のParabiotic culture中におけるカタラーゼ活性の変化:2回実験をおこなった。実験1では、対照の正常肝が僅かな活性の変化(低下)を示すのに対し、para-cultureした肝では活性は全く消失した。この場合、AH-130は、0日には活性は全く認められないが、4日間単独培養群においてのみきわめて弱いが活性が認められた。実験2では、parabiotic cultureした正常肝の活性は、対照の1/2に低下している。_

II:培養細胞の乳酸脱水素酵素(Lactic dehydrogenase=LDH)活性の測定:

 まだPara-cultureした細胞の測定に入る前の予備実験の段階である。

  • 細胞:
    JTC-2(Rat ascites hepatoma AH-130)、JTC-9(Horse embryo liver)、JTC-10(Horse embryo liver、腹水肝癌AH-130(5日、7日、8日の腹水よりの細胞について直ちに測定)

  • LDH測定法:
    1. )酵素液:1,500rpm5分の遠沈で集めた細胞を、0.25M蔗糖液2.5mlに浮遊し、glass homogenizer(氷冷)で3分 間homogenize後、3,000rpm10分遠沈、その上清を酵素液とした。
    2. )LDH活性はKornberg法を一部改変して用いた。:すなわち0.002M・DPNH 0.2ml、酵素液 0.1ml、0.1M・燐酸 Buffer(pH7.4) 2.8ml、以上を紫外部測定用キュベットに入れておき、0.01M・焦性ブドー酸(Na塩) 0.1mlをピペットで そこに吹込み、その直後より4分間の、340mμにおける吸光度の変化を、27℃で記録する。記録には日立の Automatic recording spectrophotometerを使用した。

       LDH単位は、酵素液1mlが1分間に340mμにおける吸光度の0.001の変化をきたす活性を1単位とした。これを100万個細胞当りに換算比較した。

  • 結果(数値は100万個当たりのu値):
    JTC-2 193u、JTC-9 1,120u、JTC-10 570u、AH-1305日腹水・細胞 1,470u/100万個、腹水 1,170u/ml、7日腹水・細胞 596u/100万個、腹水 1,100/ml、8日腹水・細胞 517u/100万個、腹水 16,300u/ml。但しこの細胞は同一個体の肝癌を逐日的に追ったのではなく、別々のラッテの腹水。



    :質疑応答:

    [山田]ToxohormonとLDHの問題は、生体の担癌動物の血清だけではなく、肝自体も変わってくるのですか。

    [関口]主に血清だけですが、それが癌の部分から流れ込んできてそうなるのかどうかも判っていない訳です。ですから細胞レベルで双子でしらべてみようという訳です。

    [高岡]この実験には正常肝は母培養せずに、メスで肝組織を細かく切り、80と150メッシュを通し、一度1,500rpm5分位の遠沈をかけました。すると血球と肝細胞が一緒に沈殿します。それを培地に再浮遊させ(roller tube)、管を直立静置(10〜30分)しますと、下に肝細胞だけが白く沈んできます。。それを上清をすてて、培養に使うのです。塗抹標本でしらべるとほとんど肝細胞ばかり見えます。また母培養と同じ日数、培養してから夫々の細胞の塗抹標本を比較しても見分けがつきません。従って、この方法の方が操作が簡単なので、今後の研究に使えると思います。

    [関口]LDHはlactic dehydrogenaseといっても、これは可逆的反応で、むしろ逆の方向の方が強いのでpyruvateを分解させて測定しました。Lact.+DPN→←pyruvate+DPNH。

    [山田]かって血清の中のLDH活性を測って、癌の診断に使おうとする試みがありましたが、結局negativeでしたね。実験に入る場合、Ratによるgeneticのfactorやageなどの問題もあると思いますので、in vitroに入れる迄充分注意する必要があると思います。同一の腹から何回かとり出して使ったら・・・。

    [伊藤]Normal liverの場合、growthによる変化はcell単位のものですか。

    [山田]Liebermanのデータではin vitro systemだと細胞の種類に関係なく、同一になる傾向がある。株細胞でも、originに関係なく、同一の傾向があるようです(文献あり)。[伊藤]正常肝細胞の培養で、細胞数がconstantなのは、生き死にする細胞の比が一定(同一)なのか、それとも生きている細胞がmaintainされているのか、どちらですか。

    [勝田]いろいろな根拠から、後者であると思います。

    [山田]mitosisもないですね。

    [勝田]正確なところはColchicineでも使ってしらべてみないと・・・。発癌実験のControlでも生えてくる奴もコルヒチンで染色体をしらべる必要がありますね。

    [山田]話はちがいますが、Changのliver cellの株をglycogen染色すると染まりますね。HeLaなんかも染まるけれど、染まり方、つまりglycogenのたまり方がちがってます。



    《佐藤報告》

    1)発癌実験

     従来のデータを整理してみます。御批判下さい。(表5枚呈示)

     急速にControlの増殖が落ちるのは20日前後である事が明瞭である。継代による増殖は15日前後ではないかと思われる。

     勝田班長の実験ではDAB投与日数は4日が最適となっている。私の実験では8日が最適となっている。動物の種類、DABの調整、更に判定法?に差があるかも知れない。まづDAB調整法に問題をおいて、勝田保存液IIと従来の使用前血清添加とを比較した。

     ◇C26・ラット生後29日でCont.、勝田保存法の4日及び8日投与、及び従前の方法で4日及び8日投与を比較したが何れも増殖せず。

     ◇C27・ラット生後20日で同様な実験を行った。結果は、血清を予め添加しておいた方(勝田保存法)が有利の様である。この実験から見ると、班長の実験成績に近づいたと思われる。
     3'-methylDABはE型(上皮)よりS型(繊維芽細胞)の増殖をおこす様に見えるが、継代はむつかしい。実験をつづけるときは、もう少し若いラットで、血清を予め添加して行う方法がのぞましい。

     ◇C28は生後8.5ケ月ラット再生肝(術後6日目)をつかって、非手術部と手術部(再生部)にDAB添加、現在第9日目で0/5。

     ◇C29は同様に術後13日目の再生肝にDAB添加、観察中。



    :質疑応答:

    [佐藤]C3Hマウス乳癌(spontaneous tumor)は生体からとった侭だと動物継代が利くのですが、培養したもの(継代)はどうも復元してもつきが悪いんですが・・・。

    [山田]Earle一門の仕事では、同一のcell originからの色々なclonesの内でもgrowth rateによって動物への移植性に差のあることを証明しています。
    FL株に血液型のBを証明する仕事があります。同一動物の血清を使う場合、このようなことも考慮する必要がありそうです。

    [佐藤]14〜15日のラッテの自家血清を使ってDAB発癌をやってみるつもりです。

    [伊藤]マウスのmesoteriomaも、培養したあと復元できないという、似たデータがあります。

    [勝田]マウス乳癌の場合、色々なpopulationの差が考えられるので、沢山のマウスについて培養例を多くしてみる必要があるでしょう。これは動物継代でselectしてやるのと同様に重要でしょう。

    [伊藤]培養で、腫瘍化するという報告と、腫瘍性が落ちるという報告と二つがからみ合っていますね。

    [佐藤]腫瘍化するというのは本当ですかね。

    [勝田]L,clone 929の名の示すようにcloningして色々のがあることを証明しています。

    [佐藤]継代が確実に行くという証拠までも含めて証明しないと、2〜3代継代だけで癌と云えるのでしょうかね。

    [勝田]CarcinogenesisとTransplantabilityとはFactorは別だから区別して考える必要があります。

    [佐藤]復元してtumorを作らないから、といってin vitroの細胞がmalignantでないとは云えないでしょう。移植の問題以上に困難なfactorがあるのではないでしょうか。だから細胞を大量に動物に入れさえすればKnotenを作るでしょう。それをTCに移しまた大量に動物に戻す、という具合にin vivoとin vitroをずっとくりかえしたら、と考えるのですが。勿論、実験のCriterionが不鮮明になりますが、復元の問題だけを考えると一方法ではないでしょうか。

    [山田]結節を作っても、ほっとくと2週位でregressionしてなくなってしまいますね。ここにはregressionはheteroのimmunityの問題があります。吉田肉腫をマウスに入れると5日位で消えてしまう。

    [佐藤]Rat→Ratだとisoだから・・・。(註:homoの場合もあり。)

    [山田]isoでも免疫の問題は残ります。

    [佐藤]復元の問題は別の次元として考えたらどうですか。

    [伊藤]復元の前にBovine serumをRat serumに変えるのは良いんぢゃないですか。

    [勝田]佐藤君がさっき云われたけれど、私は癌化は可逆的変化とは考えられません。右の図に書いたように、いま我々がDABを使って肝細胞を変えたのは頂度Dormant level(sleeping)へもって行ったのだと思います。もう一度変えればTumor levelに入るでしょうが、TumorとDormantとの間は決して可逆的とは考えられない。その可能性は疑問だと思います。癌化した一つのpopulationが腫瘍性が落ちた、といっても、それは腫瘍性の低い細胞がはじめから混っていたという可能性があるのです。

    例えばAH-130の染色体の主軸は43本ですが、それから作ったJTC-1、JTC-2は夫々51本と58本です。ところが両株を動物に復元しますと第2位として両株とも38〜40本のが出てきます。これと同じideogram(核型)のしかも38〜40本というのが、両株を3,000rphの高速回転に移すと主軸のなってきて、復元接種してみると、腫瘍性が遥かに低下している。何回くりかえしても似た結果になるところから考えると、この38〜40本の腫瘍性の低い(或は無い)細胞は、はじめからこの細胞集団の中に混っていたものと思われます。つまり51本あるいは58本の細胞が腫瘍性を失うように変ったのではない、と考えられます。

    [佐藤]生体内でtumor cellを抑えるfactorが考えられるので、その抑制を破るものが必要と思います。

    [勝田]佐藤君の使おうとしているRat serum添加のExp.も、serumは少量から段々増やす様にして、ならして行った方が良いと思います。

    [佐藤]勝田班長のC-13のRat serum20%も問題があると思うので、くりかえしてやって見たいと思っています。

    [伊藤]Ratの組織をRatの血清で飼えないというのは変のように思われます。

    [山田]Homoでは細胞がふえないというデータは大分あります。

    [勝田]しかしRat serumでselectする、ということは良い方法と思います。

    [山田]私の処では継代にRubber cleanerでやっていて、うまく行かなかったけれど、トリプシンを使ってやっと良く増えるようになったので、その細胞をどんどん復元してみたいと思います。

    [勝田]第二段階に移らせられる可能性の大きい刺戟剤はホルモンだと思ってます。

    [関口]冲中先生の、脳下垂体を除っておくと、DAB肝癌ができないという話からも、ホルモンの影響が考えられます。今年の発表は内蔵神経の切断でしたが・・・。



    《伊藤報告》

     私の方では、出来れば一度に多量の細胞を得て比較的早期に復元する事を目標として、ラッテ肝のTrypsin処理によって細胞を得て、これを培養する方法で、DAB及びActinomycinを働かせてみる事にして居ます。

    〔実験法及び材料〕

    1. )ラッテ:雑系or呑竜 1ケ月前後♂ 
    2. )培地:標準20%B.S+80%L.E 
    3. )細胞のとり方:細切したラッテ肝にP.B.S.(-)を加えて20分stirring→上清排棄→Trypsin液中で20分stirring→上清排棄→Trypsin液中で20分(第一回使用細胞)→Trypsin液中で20分(第二回使用細胞)。第一、二回夫々15〜20万個/mlの細胞数でTD-15にて培養開始(第一、二回は細胞採取上の名で、培養瓶に入れてからは区別なし)
    〔実験結果〕

    1. )9月5日 開始群(雑系、♂、生後27日)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。9月8日よりDAB(1μg/ml)添加培地→9月18日より標準培地に戻す。9月30日両群共復元(i.p.100万個)。現在まで変化なし。
    2. )9月18日 開始群(雑系、生後32日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。9月21日よりDAB添加→(実験群3本雑菌contamination)9月30日より標準培地に戻し現在継続中。
    3. )9月30日 開始群(呑竜、生後23日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。10月3日よりDAB添加→10月13日・・標準培地に戻す。現在尚培養中。
    4. )10月13日 開始群(呑竜、生後25日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。10月16日よりActinomycin添加。現在継続中。
    此の方法では、勝田先生のところでの場合と異って、細胞の増殖をmarkerとする事は出来ないが、復元に必要なだけの細胞数を比較的早く得られるので、専ら復元性をmarkerとして今後は種々発癌要因の組合せ、作用期間等を変えて検討を続けたい。



    :質疑応答:

    [勝田]トリプシン消化してcell suspensionを作ったあと、遠沈などで細胞の種類を分けて培養していますか。

    [伊藤]やっていません。

    [勝田]昨日の黒木君の話の、アラビアゴムで撰別するのを参考にして我々もやってみましょう。どうも伊藤君の培養は生えてくる細胞の種類に問題があると思いますので、タンザクを入れて標本を作り、顕微鏡写真をとって月報に出して下さいませんか。Exp.とControlと両方。プリントは10枚宛やいて下されば結構です。



    《高木報告》

    免疫学的研究:

     前回報告した株細胞の家兎免疫血清による2、3の動物赤血球凝集反応について、前回問題になった点を中心に凝集反応を補足実施しましたので、未だ実験数が少く不備ではありますが、現在までの結果を前回報告の分も一緒に表にしてみました。

     凝集反応のやり方は前回と全く同様で、又表の数値も前回同様、免疫前と免疫後の家兎血清の赤血球凝集価の差を試験管の本数で表わしたものです。

     健康人(1)と肺癌患者並びに馬のところで数値が2つ並んでいるのは、同一個体からとった赤血球について2回繰り返し行った結果をそれぞれ示したもので、健康人(1)については少しずれた結果が出ていますが、これは血清を節約する意味で一度PBSに稀釋したものを凍結保存しておいて使ったためにおきたものと思われ、この点に留意して行った肺癌患者及び馬については同一の数値が得られました。

     前回の実験で、癌患者の血清が健康人のそれに比べて凝集価が高く出たので、これが偶然に出たものかどうかを知るため、健康人3名と癌患者4名(HeLa細胞がPortio由来なので子宮癌患者を選び)について比べてみましたが有意の差は出ませんでした。

     前回一番問題となったJTC-8細胞については、繰り返しの実験でその抗家兎血清はやはり人血球をかなり凝集し、しかも馬血球は凝集しないところから、赤血球凝集反応が株細胞の抗原的種属特異性を忠実に表わすものとすれば、少なくとも我々のところでJTC-8細胞として植ついでいるものは人由来の細胞ではないかという疑いが濃厚になってきました。この問題は回を重ね検討を要する問題だと思います。



    :質疑応答:

    [山田]gel-difusionでorgan-specificなantibodyを出していますね。Deoxycholateでcell destructionをおこなうところがミソですが。Coombs'testのようなやり方で細胞の同定ができるのではないでしょうかね。たとえば、Anti-mouse serumを作っておいて、これを培養細胞と合わせると、マウスの細胞ならば、そのまわりに抗体がくっつきます。そこへ赤血球を入れると、その抗体の作用で、さらに赤血球がmouse cellのまわりにくっつきます。他の細胞ならくっつかぬという調子にです。

    [勝田]抗血清の作り方は?

    [杉]週2回宛、計6回細胞を兎に注射し、それから1.5週後に採血します。血清内抗体価の上り具合については目下実験中です。



    《山田報告》

    DAB及びTween20のHeLa細胞に対する毒性について:

     DAB及びその溶剤であるTween20が培養細胞に対してどの程度の障害作用を与えるか、とくにこの班で使用しているDAB1μg/ml、Tween20 0.005%(v/v)の濃度がどのような作用を示すか、またDABの薄い濃度に増殖促進作用があるのではないか、このような事を検討するために、まづDABとTween20の各種濃度に対するHeLa-S3BBclone(S3から2回recloneしたもの)の生存曲線を描いてみました。勿論、初代細胞と株細胞、正常と癌、その他の問題があって直接に発癌実験の解釈には役立たないと思いますが、培養された哺乳動物細胞のDAB及びTween20感受性にある程度のメドを与えることが出来ると思います。現在まで予備的に5回実験を行い、結果を得たのでここに御報告しますが、いづれ本実験を行って報告するつもりです。

    実験方法:

    5mlの培養液(N16CF)と共に予めincubateしたシャーレに100個のS3BB細胞を播き(0.1ml)、直後に各種濃度のTween20及びDABを0.1ml添加して炭酸ガスincubator内で11〜16日間培養し、固定染色後、発生しているコロニー数を数え、対照のコロニー数と比較しました。

     この実験でわかった事は、0.05%のTween20(この班のDABのとかし方では10μg/mlのDAB溶液に含まれるTween20)には著しい毒性がある事です。

    そこでTween20の各種濃度のHeLa-S3BBに対する毒性作用を一覧してみますとTween20%(v/v)0.005%は%Control 89、0.01%は86、102%、0.02%は71、96%、0.04%は8%、0.05%は0、0.2%と成ります。即ちTween20は、0.02%まではplating efficiencyに大きな影響はないが、それ以上の濃度ではかなりの影響があることが判りました。そこで1〜5μg/mlのDABの影響を、DAB溶液にふくまれる同濃度のTween20添加群を対照にして(但し0.02%以下)調べてみますと、DAB1μg、2μg、5μgでそれぞれ91%、102%、22%となります。即ちDAB2μg/mlまではS3BBに対して直接毒性を示さない事が判りました。従ってこれまでの成績では、この班で使用されているDAB1μg、Tween20 0.005%の濃度はHeLa細胞の生存にあまり強い毒性は示していない事が言えそうです。今後、一定濃度のTween20添加の下で、DABのHeLa細胞p.e.に及ぼす影響を調べてみます。

     尚、DAB1μg/mlはHeLa細胞の増殖度には抑制的に働く結果を得ました。1回の実験ですので、更に繰返して確かめます。又これより低い濃度のDABがHeLa細胞の増殖に促進的に働くかどうか検討する予定です。



    :質疑応答:

    [山田]100mg/5ml Tween20+45ml以上の濃度で溶けないものでしょうか。

    [佐藤]Plating efficiencyを使って、DAB処理のcell lineをしらべてもらうと良いですね。

    [伊藤]Window counting methodというのを教えて下さい。

    [山田]シャーレの裏底に、小穴(面積1/2000)を一杯あけた金属板をあてて固定し、その穴から倒立顕微鏡で覗きながらcolony数と各colonyの細胞数をかぞえます。例えばスタートのとき4coloniesあって細胞数が7ケとすると7/4=1.75ケ、それが48時間後に4coloniesで14ケとすると14/4=3.66となるわけです。動く細胞でも穴から出るのと入るのと相殺と考えます。

    [勝田]Polycarbonate樹脂は120℃の高圧滅菌ができ、しかも透明ですので、シャーレを型で作るととても安くできます。ガラスの硬質シャーレ以下です。そこでcellのplatingなどにも、底が平らで良いので、シャーレを高島商店に作らせようと思っています。形は円形でなく、四角にしたいと思います。また蓋は密閉できるようにするつもりです。希望があったら云って下さい。

    [山田]4x6cm位で、高さはできるだけ低くして下さい。できれば2cm以下。ただplasticだから有機溶媒に弱くて、染色に困りませんか。

    [註]このあと実際に円形シャーレで培養したところ、細胞は底面によくつき、ギムザ染色しても支障はなかったことを追記する。また寸法は並と小とにし、四角形にした。



    《遠藤報告》

     私のところでは目下まだ発癌の仕事はできていません。ですから他人の仕事を紹介します。

    1. )David Stone(Wooster Foundation):Endocrinology,71:233-237,1962. Desoxycorticosterone,Progesterone,TestosteroneはHeLaの増殖を抑制することを見出し、これらに対するResistant sublinesを作っています。
    2. )Stone,D. and Kang,Y.S.:ibid,71:238-243,1962. 上のResistant sublinesの染色体数をしらべています。 HeLa(strain HuE):68 chromosomes, Test.-resist.line:74、 DOC-resist.line:74。
    3. )Moon,H.D.,Jentoft,V.L. and Li,C.H.:Endocrinology,70:31-38,1962. MoonはScience 125:643,1957に牛の成長ホルモンがRatの細胞に対して促進作用のあることを報告しています。これまでGrowth hormoneは、人のは人かサルにしか効かない、spcies-specificityがある。しかも他ホルモンと異なり、定量的にもあるとされていましたが、本報では、人と牛のgrowth hormoneをChangのliver cell株に与え、cell countingとN定量で、牛ホルモンはあまり促進しないが、人ホルモンの方は促進することを報告しています。
    4. )これは私の考えですが、Dimethylglycineは肝内で代謝され、フォルムアルデヒドが出ます。同様にDABも出るわけで、これが発癌と何か関係あるのではないでしょうか。 またHeLaに対するEstriolの効果をみていますが、促進がありそうです。このホルモンはEstradiolの代謝産物で膣部に作用するといわれています。


    :質疑応答:

    [山田]Resistant lineについて、例えばDAB-resistant lineなどで何が異なるのでしょう。adaptationでしょうか、selectionでしょうか。それからNitrogen mustardでguanyl酸のpurine baseの7のdouble bondが切れると云われていますね。

    [関口]DABからフォルムアルデヒドが出てもそれは酸化されて蟻酸になり、これからどうも作用しているらしい、ということは15年位前から云われています。蟻酸はさらに酸化されれば炭酸ガスになってとんでしまいますから、Dimethlglycineにラベルしても炭酸ガスに出てしまうでしょう。DABの場合メチル基が二つありますが、蟻酸にならない方の、残ったメチル基が蛋白などにくっつく訳ですね。



    《堀川報告》

    §培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み(I)

    実験のSystemには次の3つを用いた。

    材料:

    1. )Mouse strain L cells←Ehrlich ascites tumor cellの核を喰い込ませる。
    2. )2000γ照射されたMouse strain L cells←normal mouse strain L cellsの核を喰い込ませる。
    3. )Mouse strain L cells←Mouse(CBAstrain)のSpleen cellを喰い込ませる。
    方法:Cytosisの証明と形質転換の判定
    1. )Survival((2)System 1:応用)
    2. )Chromosome number and karyotype analysis(1)、(3)
    3. )Immunological response(1)、(3)
    4. )Immunological competence(3)
    5. )Ability to induce tumor in mouse(1)
    結果:
    1. )L細胞の染色体数は63本、メタセントリックchromosomeは13本、Ehrlich細胞の染色体は69本、メタセントリックchromosomeは3本、このようないいmarkerをもっているので仕事はやりいい、所がL細胞内へEhrich ascites tumorの核は約5%の率でcytosisされるにもかかわらず、現在形質転換は全くみられない。とにかく興味あるSystemではあるが、形質転換させるためには今後もう少し種々とSystemを改良せねばならない。

    2. )2000γ照射されたL細胞はこれ迄の実験結果でも報告した様にほとんど死滅してしまう。これに正常なL細胞の核、正常なEhrlich ascites tumor cellの核、又はMouse(CBA系)のSpleen cellを喰い込ませることによってcell deathからのrecoveryをねらう。2000γ照射されたL細胞のrecoveryに役立つものは正常なL細胞の核のみで、他のHeterologousなcellでは役に立たないことがわかった。

      この場合正常なL細胞の核が2000γ照射されたL細胞の核にとってかわってfunctionをもち分裂をはじめるのか。それとも正常なL細胞の核が2000γ照射されたL細胞内で分解されてもう一度組み立てにあづかり照射されたL細胞核自体が分裂のfunctionをもつ様になるのか現在の所わかっていない。これらは今後の問題である。

    3. )正常なL細胞はMouse(CBA系)から取り出したSpleen cellを10%位い喰い込むが、このL細胞を2000γで照射した場合は30%位いのCytosis rateにあがる。

      一方Mouse Spleen cellを1μc 3H-thymidine/mlで2hrs cultureし、Spleen cellをlabelする。

      これを正常なL細胞をかったmediumに加えると、5時間後からL細胞中に入り始める(Autoradiographyで追求する) 培養2〜6日位いでL細胞核へSpleen cellのlabelされたDNAが移動する。

      この場合spleen cellはそのままの形でL細胞内に残っている所からみて、L細胞質内のDNaseによってSpleen cellのDNAが分解されL細胞核に吸収されるものと思われる。

      一方これらのSpleen cellを喰い込んだL細胞はAnti-Spleen cell serumに対してImmunologicalなresponseを示すことが分った。

    結論:

     この様にしてL細胞に喰い込まれたSpleen cellがどの様な形で形質転換に関与するか、又、喰い込んだL細胞がその後数十代分裂した後もSpleen cellの形質を保持するかどうかは今後の問題であるが、いづれにせよ従来のpinocytosisとちがってcell levelでのcytosisを使ってHomologous又はHeterologousなcell間のinteractionをみるには非常に興味ある。このSystemをうまく使用すれば発癌のmechanismもうまくつかみだすことが出来ると思う。

    *** この他に私共の所では従来やって来た耐性獲得の機構と、一方からは5-Bromodeoxyurideneなどによる細胞のSensitizationの面からあわせて生細胞におよぼすRadiationの作用機構を追求しております。