【勝田班:6212】




《勝田報告》

発癌実験についてだけ本日は報告する。

 データは上の通りで、これまでと似た成績となった。C-28の実験群の増殖細胞は、第16日に330万個宛、生後約1月のRat2匹に、脾臓内に接種し、目下観察中。なおラッテは今回はじめて接種前に、コバルト60γ600rとハイドロコーチゾン2.5mg/rat(隔日注射)の前処置を採用した。

 染色体数は、RLD-1の細胞では37〜41本が多く、正常の42本より左にずれている。DABを処理して出てくるPrimary cultureについてもしらべているが、これは細胞数が少なくて仲々かぞえられない。しかしどうもRLD-1と似た傾向があるように思われる。

 つまりDAB処理によって出てくる細胞は、生え出しの日数、形態、染色体数などから見てどうも一定の方向性を持っているような気がする。また正常肝とのParabiotic cultureをRLD-1でおこなうと、悪性は示されないが、それに一歩近付いているような感を与える。つまり、いわばPre-cancerousのstepに入っているのではあるまいか。

 正常levelからDAB刺激でPre-cancerous levelに入り、さらに第2段Malignant levelへの変化を起こさせるものは、別のFoctorである可能性が大きいと思われる。たとえば生体内の生理的物質(ホルモンその他を含め)とか、嫌気的状態とか、のようなものである。

佐々木研のDAB肝癌は染色体数に於ても実に各種のものができている。このような無方向性はMutationの特徴であり、癌の特徴でもあるが、いままでかいたようにcell levelでみるとDABの作用に方向性が感じられるところから、肝癌の多様性は、第2段の変化のときに現れるのではあるまいか。そしてそのときMalignantの方向にむかって変化した細胞が増殖を続け、腫瘍を形成するようになるのではあるまいか。

 第2段の変化をとげさせる要因として、私のところで目下手をつけているのは、Anaerobiosisである。流動パラフィンを滅菌して培地の上に浮べmildなanaerobic conditionを作る。もう一つは培地更新をおこなわずに放置することであるが、これにはpH変化もからんでくる。

 次に細胞の変化を見付ける手段(いわばMaker)であるが、第一段の変化では“増殖”というマーカーを利用してうまく行った。第二段目は形態上のAtypieで行きたいと思っている。つまりRLD-1にせよ、primaryに出てくる細胞にせよ、余りに形が揃っていて、きれいすぎる。核や細胞質の大小不同、異常分裂などがもっと見られてよいのではあるまいか。従って主にタンザク培養で、染色標本を作って検索しながら、第2次の変化を起させるFactorを探して行くつもりである。



:質疑応答:

[山田]Minimum tumorの考え方からすると、この前癌状態はどういうことになるのだろう。

[伊藤]たしかに復元接種だけでCheckして行くのは大変なことです。

[山田]Earleの報告では発癌剤で形が変っていますね。

[黒木]ABでの発癌はどうでしょう。

[勝田]横の展開はあとの話で、いまはとにかく一日も早く発癌させることです。いわばキリで穴をあけて行く、その先端の仕事をやっているのですから。それから大阪のシンポジウムで吉田教授がDABを4日以内の、もっと短い日数を作用させたらどうか、との発言がありましたが、佐藤班員にこの点の検討をおねがいしたい。

[山田]Ratのageの若いものほど早くDABで変化がこないでしょうか。それからGrowth hormoneは何故使ったのですか。Promotionですか。

[勝田]さっきも話したように、体内のホルモンなどが副次的に働いている可能性が大きいと考えたからです。



《佐藤報告》

1)発癌実験

 前号6211に引きつづいて再生肝+DABの系列について、生後2ケ月の呑竜ラットを使用して従来の方法のままで発癌実験を行って見ました。

 ◇C30は肝切除後7日、◇C31は肝切除後14日、◇C33は肝切除後21日に培養開始、対照群、DAB4日添加群、DAB8日添加群とも未だ増殖開始はありません。

 前回報告の◇C28◇C29実験と合せて再生肝+DABの条件では上皮様細胞の増殖は、対照、実験共に発生していない。但し肝切除後7日のものでは細長いfibroblast様細胞が、14〜21日では箒星状細胞の増殖が少〜中等度認められた。−幼若ラットの肝との比較−

 ◇C32はラット血清+DABの効果を見ました。使ったラット日齢は17日、第16日に、対照群は2/5、牛血清+DAB 4日添加群は4/5(本例のE型細胞の増殖量は対照に比し、1本当りの量が極めて多かった)、ラット血清(非働化)+DAB 4日添加は0/5、ラット血清(生)+DAB 4日添加は0/5であった。

 本例のラット血清は生後半年以上たったものの血液を集めて2分し、非働化したものとしないものとに分けてLD中に20%になる様にして行った。但しDAB原液は、いづれも牛血清20%LDに10μg/ml含んでいたから正確には作用期間の血清は1%牛血清+19%ラット血清となります。

 牛血清とラット血清との間に著明な差が出ますので、この点は採血するラット日齢、及び実験に使用するラット日齢を少なくして再実験いたします。

 ラット肝の継代中のものは漸く株化したと思われるものが◇C8Controlと、◇C10対、◇C10実と出来ました。復元を先づ最初におこないました。C8Controlは生後22日のラット皮下へ3例(11月14日)、C10DABは29日のラット皮下へ2例220万個と270万個(11月29日)、◇C10Controlは36日ラット皮下へ1例280万個(12月4日)接種し、12月7日現在いづれも発癌していません。

 ◇C8controlが目下最も増加していますので、ラット血清等に関する予備実験として性状を少ししらべています。(1)この細胞はラバクリーナー駒込撹拌での継代には極めて弱い。Trypsin継代の方が容易である。従って復元実験の際ラバクリーナーを用いての復元では細胞が極めて傷害される可能性が強い。(2)2日毎の培地交換での増殖率は、6000個/mlでは6日で10倍、9万個/mlでは6日で4倍程度である。(3)牛血清濃度は10%と20%は殆んど変らない。



:質疑応答:

[勝田]再生肝の肝細胞をin vitroに移しても、うちでやった実験では肝細胞の増殖は見られませんでした。つまり佐藤班員は再生肝の細胞をin vitroに移して“増殖しつつある細胞に対してDABは・・・”と云われたが、増殖はin vitroに移すと同時に止まってしまうから、増殖しつつある細胞についてしらべたことになりません。

[山田]いつでも問題になるが、或日齢のラッテを用いたときだけしか出ないということは気になりますね。

[勝田]その通り。しかしこれもあとでの展開のときのテーマでしょう。

[山田]復元成績ですが、LやLiverなど復元接種後何百日も経って発癌した、というのもあるから、あまり短期であきらめてしまわない方が良いと思います。それから血清は動物種の差の上に個体差が大きいので、Rat血清もプールしないでしらべないとはっきりしたことは云えないでしょう。

[勝田]しかしラッテではプールしないととても量が足りないよ。Earleの処の実験は大抵C3Hを使っています。Milk agent-free(Heston株)やそうでないのも使っていますが、Hestonもたえずcheckしないとすぐagentをもつようになるらしいので、あそこの発癌の成績は何とも云えないと思います。それからこの発癌実験で株化した細胞は佐藤氏の処は何種ありますか。

[佐藤]DAB群が1種、Control群が2種、計3種です。

[勝田]その染色体の比較をぜひやってくれませんか。うちの所見と比べたいのです。

[佐藤]早速かかりましょう。勝田氏のところではDABでAtypieがふえますか。細胞形態で。

[勝田]きわめて少いのです。しいて見ればControlの方が少い位です。

[佐藤]LとかEhrlichでタンザクを入れてみると、lag-phaseのときlog-phaseよりずっとAtypieが多かったので、観察の時期がかなり問題と思います。

[山田]HeLaではNuclear bridgeがよく見られますが、メタノールのような強い固定や、トリプシン処理でpipettingすると、このBridgeが切れてしまいます。X線をかけると多くなります。

[勝田]Lだとメタノール固定でもよく見られますよ。糸のようなのが。

[黒木]佐藤春郎先生はAtypieはCancerのCharacteristic changeというよりむしろその環境によるchangeと考えておられますが・・・。

[伊藤]Atypieが出ないときが問題ですね。無いからといって第二段の変化を起していないとはいえないし・・・。

[勝田]しかし何かをマーカーにしなければ能率よく仕事をやって行けないから、この際仕方ないでしょう。勿論他にも何でもマーカーを見附てやってみて下さい。



《伊藤報告》

 小生のところでは以前に続いて、Rat liver細胞→Trypsin処理にて細胞を得て、比較的早期に復元し、復元性のみを指標として実験を続けて居る。

 今迄の結果を整理してみると、7回の実験のうちDAB処理6回Actinomycin処理1回、ラッテは雑系あるいは呑竜♂生後9〜15日、現在まで成功例は無い。

現在までの実験で感じて居る事および今後の予定:

  1. )此の方法で取れた細胞は、比較的増殖が良好で、早期に復元に必要な細胞数を得られるが、但し各種の細胞が混在している。この点は前回の報告会でも至適されていたので、其後cell suspensionを暫く試験官に入れて静置して後、3〜4層に分けてから培養する方法を試みて居り、此の方法でも望みはあるが、未だ満足すべき結果を得て居ない。本日お見せしたslideは、殆んど実質細胞と考えているが、此れは培養開始後3ケ月を経たもので、此の時期になると、此の様に比較的細胞の種類が揃って来る場合もある。

  2. )此の方法でやる場合、細胞の増殖では対照群と実験群との間に差を見出し得ない為、今のところ、復元性のみを指標として居るが、此れでは復元性を得る迄の各段階に於ける変化に関しては全く認めることが出来ない為、今後此の点を掴える方法を何か考えなくてはならない。

  3. )何かうまい方法で、比較的揃った細胞が得られれば、諸種発癌因子乃至環境をcombinierenして検討したい。


:質疑応答:

[勝田]トリプシナイズして得た細胞が、増えるといっても、その増殖度はどの位なのですか。Cell countingしてgrowth curveをとってあったら見せて欲しいのですが。

[伊藤]いや、まだとってありません。

[山田]トリプシン処理をするとよく裸核のが出てきますね。

[佐藤]培養のなかに混っている細胞の型を鑑別するのにうちでは墨汁貪喰を使います。[勝田]トリプシンを使わずに、細切してメッシュで濾したらどうでしょう。(実質様及び箒星状細胞の写真供覧)この箒星は、きっとまわりの屑みたいなのを貪喰していると思いますので、映画にとってみたいと思っています。

[佐藤]このような箒星をいま3代継代していますが仲々ふえてくれません。

[勝田]動物ではアクチノマイシンはどの位で発癌しますか。

[伊藤]知りません。しらべておきましょう。

[堀川]箒星状のは肝臓の被膜から由来するのとちがいますか。



《杉 報告》(高木班員代理)

1)発癌実験:

 高木さんが続けてきた発癌実験に関する培養は、既報の如く中検の廻転培養器の故障によりすべて中絶しましたので、新たに培養を始めました。

 培養方法は従来のやり方と同じでstilbestrol→hamsterのkidney、liverについて行いました。但し中検の廻転培養器は前の様なことがあるといけないので、静置培養にしました。

 Exp.1は生後28日のgolden hamster kidneyを使い、培養4日目に培地交換を行い、その実験群にstilbesttol(S)1μg/mlを入れ22日目にsubcultureするまでずっと同濃度を作用させた。22日目に試験管6本から2本に植つぎ(実験群にS.入れず)培養継続中。

観察:4日目fibroblastlike cell(F)少し、S.→、9日目epitheloid cell(E)も少し、11日目S.群とC.群で差なし、14日目S.群でE.が優勢のもの3/6、C.群はF.が多数、18日目特に変化なし、22日目subculture、その後5日目S.群2/2、C.群2/1。

 Exp.1'は生後28日のgolden hamster liverを使い、kidneyの場合と同様に培養4日目、培地交換と同時に実験群にS.1μg/mlを入れ現在も作用継続中(31日間)。

観察:22日目漸くS.群1/6本にE.少し、27日目S.群2/6本、C.群1/6本に何れもE.少し。

 Exp.2は生後36日golden hamster kidneyを使い、培養開始時よりS.1μg/mlを入れ作用継続中(22日間)。 観察:4日目F.多数、E.極めて少数、13日目F.大多数、18日目F.大多数、S.群とC.群で殆んど差なし、22日目S.群2/6本にE.中等度。

Stilbestrol→hamster kidneyが少し有望らしいとの従来までの結果に基づき、先ずこれから手がけたのですが何分まだ例数が少いのでまだはっきりしたことはいえません。

 実は先般の班会議から帰ったところ株細胞の調子が極めて不良で、一時はどうなることかと心配しましたが、どうやら次第にもち直しほっとしました。然し肝腎のJTC-4は打撃が大きく懸命の努力にも拘わらず、今以て維持出来るかどうか分らぬという心細い状態です。高木さんの渡米で人手が手薄になったところにこの様なことで発癌実験に手をつけるのが遅くなりまだ以上の結果しか得ておりません。

以後はDABについても行い復元実験も是非やらねばと考えています。

2)免疫学的研究

 既報の表に補足した実験は、HeLa、FL、Chang、JTC-8、JTC-4、L、MSに対する免疫血清のチンパンジー、人(肺癌?)、マウス(CF.)赤血球の凝集です。人血球については種属特異性がはっきり出ています。チンパンジー血球はMS細胞にやはり関係を有し、同時に人由来の細胞にも若干の関係が出ております。マウス血球に対する抗L血清は、凝集価が非常に低く出ていますが、これは週2回の注射を都合により中断したためで、書かなかった方がよかったかも知れません。抗MS血清については注射開始後14日、25日、35日と凝集価は同値を示しました。伝研、予研から戴いたJTC-6、JTC-8、JTC-9、JTC-10については現在準備中でまだdataは出ておりません。



:質疑応答:

[勝田]ずっと免疫学的研究を続けて行くのでしたら、その研究法自体も相当考えて、たえず進歩した方法をとり入れて行く必要があると思います。さもないとおくれてしまいます。

[山田]Agar diffusionでもきれいに出ているデータがありますね。

[勝田]ハムスターを殺して腎だけでは勿体ないので、肝も培養するのは良いですが、それにかける発癌剤は、肝までStilbestrolでよいかどうか一考を要します。動物実験でStilbestrolで肝癌が発生するのですか。発癌剤はかなり臓器特異性がありますから、動物での知見を参考にして夫々最も良さそうなのをえらび、使い分けする必要があります。

[杉 ]Subcultureにはトリプシン消化がよいでしょうか。ラバークリーナーがよいでしょうか。

[高岡]腎の細胞ですからトリプシン消化がよいと思います。それに継代してもやはり組織片がまた硝子面にくっついてシートが出てくるでしょうね。



《山田報告》

DABのHeLa細胞に対する毒性について(2)

 前回の報告でTween20の濃度が0.02%以下ではHeLa細胞のplating efficiencyに大きな影響を与えない事を調べましたので、DABを新たに溶かし直して、DAB最終濃度が1〜6μg/ml、Tween20がいづれの場合も0.01%となるようにし、DABのHeLa細胞のp.e.に及ぼす影響を検討しました。その結果はDAB0を100%として、1μg/mlは86%、2μg/mlは79%、3μg/mlは51%、4μg/mlは44%、6μg/mlは39%となりました。DABの同一濃度内でもシャーレ間にかなりColony数の違いがあり(特にDAB1及び2μg/ml)、あまりきれいな実験とは申せませんが、一応DABの濃度に従ってColony数が減少してくるカーブがとれました。そして縦軸にColony数の対数、横軸にDAB濃度をとると、直線の反応曲線が描けます。

 そこで今後、1μg/ml以下のDABのHeLa細胞増殖に直接及ぼす影響、及びDAB添加後生残した細胞の増殖曲線の変化を追求してゆくつもりです。



:質疑応答:

[山田]Freund virusを手がけはじめていますが、これによる癌が本当の癌かどうか問題で、たとえばこれを入れたところへ偶然乳癌ができて、それがウィルスと共に増殖して行くという可能性を中原氏などは考えて居られます。 [勝田]それは、発癌させる細胞の材料と、癌化した細胞を復元接種する動物との性を変えておけば、Sex chromatinの%をマーカーに使えます。Giemsa染色でもよく見えますし、チオニン染色もよいと云われます。

[山田]Freund virusはそのtitrationと、どこで増えるかが問題です。電顕でMegakaryocyteのCytoplasmic canalsの中に一杯virus粒子のつまっているのを見せた報告はありますが。

[堀川]Spleenの内部の細胞は培養で果して硝子面につきますか。

[山田]色々あるから、つくものもつかぬものもあります。Titrationはこのvirusの場合、10-4乗でも出てこないのです。他のは10-8乗、10-9乗でも出ますが。

[堀川]Spleenを切って、なかの細胞を押出し、ピペットでばらばらにして培養瓶に入れておきますと、Fibroblastのシートの上に大型のPlasma cellが、浮いています。浮いているだけでつかないのです。それだけとってきて、6月7日から10月17日まで継代できました。

[勝田]Spleenは細胞の同定がむずかしいですね。



《堀川報告》

培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み(II)

  1. )前回はL細胞に入って行くSpleen細胞のDNAをH3-thymidineでラベルしておいて、これらのH3-DNAのL細胞内でのtransferについて述べましたが、今回は蛋白をラベルする意味で持ち合せのC14-Leucineを使って同様のことをやっております。詳細な結果は次回の月報で報告します。

  2. )L細胞とEhrlich ascites tumor cellにおける共通抗原について、Rabbitを用いてEhrlich細胞に対して作った抗血清を図の様にQuchterlong法のAgarの周辺部Eに置き、中央部にL細胞およびEhrlich細胞のHomogenateをAnti-genとして置く(E)(L)。Eと(E)では4本の沈降線が生じるが、(L)とEでも2本の沈降線が出来る。この内、外側の2本はEhrlichとLで共通であることが分る。従ってEhrlichの抗血清を大量のL細胞で前処置してLに共通な部分を吸収してしまうと(E)と《E》の間にみられるようなEhrlich細胞Specificな沈降線が2本得られる。現在CytosisによってL細胞内へ喰い込ませたEhrlichの核のきめ手にはこの系を使用せねばならないので、この所を明確なものにしなくてはならず、労多くして益の少い実験をくり返している。

  3. )同様のことはSpleen cellに対してもみられ、今回の研究連絡会でも報告したようにSpleenから核を除いた残渣を抗原として使用した時の方が余分の沈降線が出現し、然もWhole Spleen cellとして使用した時よりも少量の細胞数でclearな沈降線が出るあたり、抗原性としての核の意義を再検討せねばならぬ状態にある。むしろ今の段階では核内のDNAが抗原抗体反応(沈降線)のじゃまをしているようにもみうけられる。いずれにしても私共の現在の仕事はこの系をしっかりしてしまわない事にはCytosisによる形質転換のきめてが弱くなるのでがっちり取り組まねばならない。



§参考文献§

 M.B.Sahasrabudhe et.al.:Partial deletion of aspartic acid from DNA-proteins during butter yellow carcinogenesis. Biochem.Biophys.Res.Communications 7 (3):173-178(1962)

DAB投与したラッテの肝臓からDNA-proteinを取り出し、そのアミノ酸組成を調べたもので、結果はアスパラギン酸含量がmgアミノ窒素あたりにして正常肝および新生児肝の約半分に減少しており、逆に13種のアミノ酸の内、バリンが倍増している。これはアスパラギン酸が核酸合成に用いられる結果と考え、さらにProtein中のアスパラギン酸がバリンに置換されたのではないかと推測している。同様の結果はDAB以外の他のCarcinogenでinduceしたCarcinogenesisについてもみられるのか追求してみる必要があると私自身思う。簡単すぎる実験でどうかと思うが御一読のほどを。



:質疑応答:

[伊藤]X線照射したLへ、よくLの裸核が入るというのはどういうことですか。

[堀川]おそらくPermeabilityが変るのだと思います。Lと他のものの核とは同時に入れますが、いくつもとり込みすぎると消化しきれません。X線処理したLに、新しい核が入ってどういう動きをするか、しらべたいのです。DNAのレベルにおとしてみてやれるか、又、映画にとればきっときれいにとれると思います。

[勝田]とりこまれた核がDNA合成をやれるかどうか、とりこましてからH3-thymidineを加えてみれば判りますね。

[堀川]Lから核を除き、そのあとデオキシコール酸で処理してLとオクタウロニーをおこなうと良く出ます。おそらくDNAがinhibitionをやっていたのかも知れぬと思います。

[勝田]核を取らないでやると・・・?。

[堀川]とても粘稠度が高くなって、agarの穴に入れるのにもうまく行きません。

[関口]凍結融解するとDNAが変りはしませんか。水素結合が外れるかどうか・・・。



《遠藤報告》

 抄録提出がないので、のせられないが、HeLaの増殖に対する性ホルモン及びその合成誘導体の影響についての、これまでの仕事の総括をおこなった。



:質疑応答:

[堀川]微生物にはホルモン的なものはないか。

[勝田]的なものは、別の名前で呼ばれているでしょう。

[遠藤]無いと思います。Organaizeされていない微生物には無いと云えます。

[山田]働きとして何らかの調節をするものはホルモンではありませんか。また血清中にはホルモン作用はないものと考えて良いですか。Changのliver cellで感じていますが、血清によってずい分生え方がちがいますね。

[堀川]HeLa-S3系を使ったデータはHeLa全体を代表しているといえるかどうか・・・。

[山田]厳密に云えるかどうかは判りませんが、他のものと比べて凡そ同じ位です。

[勝田]染色体数分布がAとBの裾が重なり合う二つのピークを持つ細胞集団で、bのところ(Bの中心でAの裾が重なっている)の細胞をcloningしたとき、Aの曲線が再現されるか、それともB中心の曲線に移るか、これだけは、山田君ひとつ奥村君と共同してはっきりさせてくれませんか。

[黒木]私のところでは吉田肉腫から5種のclonesを作りましたが、その内の1種が4倍体で、これはずっと続いています。

[勝田]いや、私の意味するのはploidyのようなちがい方でないものです。

[佐藤]うちでは血清濃度によって変りますね。血清を濃くすると増殖率が上り、染色体数もふえてきます。

[山田]2倍体を維持するには血清が影響するという文献があります。

[黒木]吉田の巨細胞は核が大きくて切れ込みがありますが、血球を入れて培養すると小さくなり、血球を入れずに培養すると、大きいまま増殖します。

[佐藤]吉田の復元法は?

[黒木]100〜200万位を大沢のHybridにうえると90%位つきます。2,000ケで3/4匹、20,000ケで2/4匹(呑竜)つきます。但しこのつかなかった2匹に2月後に200万うえたら死にました。

[佐藤]トリプシンをかけても充分ばらばらにならないときは、どうしたら良いでしょうか。

[山田]充分バラバラにならぬものをむりにpipettingを強くするより、トリプシンを充分にかけて軽くpipettingした方が細胞をいためないでしょう。